112: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:28:31.36 ID:90KdAnqB0
それからは本当に順調な日々だった。
疲労の溜まっていた奏を三日間休ませた。すると休み明けのレッスンは劇的によくなった。
動画の評価は回を重ねるごとによくなり、最終的に上層部からお褒めの言葉を頂戴した。アクセス数は当初の予想を遥かに超えたらしい。
113: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:31:31.72 ID:90KdAnqB0
俺たちの事情など関係ないように、定例ライブは幕を上げた。
客席はケミカルライトによって燦然と輝き、アイドルの歌声やダンスによって波打つ。きっとステージから眺めれば光の海に見えるだろう。
ステージはさらに煌びやかだ。ライトによって照らされ、アイドルによって色づけられていく。
114: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:34:03.23 ID:90KdAnqB0
察しろとはあまりに身勝手で、また無責任であろう。他人は理解し合えないのだ。気持ちを知れたらどれだけ楽か。
安っぽくなっても、馬鹿馬鹿しく思えても、言葉にしなければなにも伝わらない。
「奏を信じてる。この場にいる、どのアイドルよりも輝けると信じてるんだ。そして期待もしてる。俺にとってはさ、奏が一番なんだよ」
115: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:35:39.02 ID:90KdAnqB0
彼女を見送ってから、俺は関係者席へと移動する。約束だ。ステージの隅々まで見える位置に陣取る。
この次のアイドルが終えれば奏の番だ。わかっていても緊張する。心配や不安はない。絶対に上手くいく。
会場は熱気と歓声に包まれる。眩しいくらいに客席とステージは輝き、やっぱり現実味が希薄に思えた。
116: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:42:10.59 ID:90KdAnqB0
「大丈夫そうか?」
「なにがですか?」
隣りにやってきた先輩は開口一番そう言った。質問の意図が掴めず、俺は首をかしげる。
117: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:43:54.98 ID:90KdAnqB0
滑らかに大胆で。
緻密さと繊細さをもって。
細部にまで目を奪われる。
118: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:47:10.93 ID:90KdAnqB0
ステージ袖に移動する最中、
「すげーな……お前、なにしたんだよ」
感嘆したようにため息を吐いた先輩は、神妙な面持ちでそう言った。
119: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:49:05.95 ID:90KdAnqB0
感情を持ち込めば、絶対にどこかで失敗する。見落とすし見誤る。だけど、その考えに固執することこそ感情的だったのかもしれない。
「たぶんさ、そう言うのってわかる奴にしかわからないんだろうな。少なくとも、私にはわからなかった。速水が上手くいかない理由も、あいつが苦しんでることも」
「俺だってわかりませんよ。傲慢だったのかもしれません。結局、俺ができたことなんて本当に些細なことですしね」
120: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:56:23.56 ID:90KdAnqB0
「奏さんのステージ、本当によかったです! ええと……、上手く言葉にできませんね、ふふ」
駆け寄ってきた新田さんは興奮気味にはにかんだ。数日経っても、テンションは冷めきっていないのかもしれない。
「ありがとう。新田さんもよかったよ。安定のなかにある迫力は奏にはまだない要素だ。勉強になった」
121: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:58:46.61 ID:90KdAnqB0
「じーっ」
ただ、冷静でいられるのは、びしびしと冷たい視線が頬に刺さるから。と言うか、圧力が半端ない。
奏は視線を声に出しながら、吐息を感じられる距離にまで急接近。
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