2:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:22:43.99 ID:snFV7Fpq0
レッスンのお休みを待って、私はひとりでスタジオにこもることにしました。
私にとって最も馴染み深い方法を試してみることにしたのです。
両手の指で挟んだ、心地良い銀の重み。
3:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:23:24.10 ID:snFV7Fpq0
胸まで満たす、ふくよかな木管の響き。
自らの吐息が空間を音楽に染め上げていく感覚。
4:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:23:58.35 ID:snFV7Fpq0
心地のよい空白――
準備は整いました。試したいのは、ここから。
ひとつ呼吸を置いて、私は始めました。
5:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:24:32.12 ID:snFV7Fpq0
息、舌、指。
私の体が紡ぎ出す、二百年以上も昔に記されたメロディ。
6:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:25:05.65 ID:snFV7Fpq0
短い楽章を吹き終え、私は肩を震わせました。
しんと静まった部屋の気圧が奇妙に胸を掻き乱し、寒気を覚えるほどでした。
不安に息が詰まりそうでした。
7:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:25:39.08 ID:snFV7Fpq0
「邪魔してごめん、いま、大丈夫?」
私は瞬きして、静かに彼を見つめました。
8:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:26:13.61 ID:snFV7Fpq0
「……どっ」
「え?」
9:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:26:47.36 ID:snFV7Fpq0
1
チューバが歌うような品のある長い低音が私のおへその下の辺りをくすぐっていました。
10:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:27:26.48 ID:snFV7Fpq0
人の多いこの街。あふれるような、この街――
窓の向こうを流れていくその姿を眺め、私は目を細めました。
夜を裂くきらめきは、スモーク張りを通しても眩しいのです。
11:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:28:00.02 ID:snFV7Fpq0
ため息を吐くと、出て行った空気の分だけ体が沈みました。
クッションの効いたシート。何となく撫でていたくなる、手触りのいい生地。
この上で体を丸めて、猫のように眠りに就けたら気持ちがいいでしょうね。
12:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:28:33.46 ID:snFV7Fpq0
「疲れたよね、お疲れさま」
私は少し頬を熱くしました。
見透かされたように思ったのです。
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