過去ログ - 古風な愛 【原著:星新一 ・ ごちうさ訳】
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6: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:36:50.07 ID:MgkQzc3L0
こうして、チノちゃんの周りにはいつしか人が増え始めていた。
わたしに友達ができれば、積極的にチノちゃんに紹介した。
また、わたしは一人のときには本を読んだ。
ふさわしい話題の種を補充しておかねばならないのだ。
また、物置で手品の道具を見つければ、早速説明書を読んで披露したりもした。
以下略



7: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:37:23.90 ID:MgkQzc3L0
それから私が高校三年になった春のある日、いつもの公園を散歩しているとき、チノちゃんは何度もためらったあげく、わたしにささやいた。


「愛しています」

以下略



8: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:37:49.42 ID:MgkQzc3L0
「なにか困ったことでもあるんですか?」

「問題と言えるかどうかはわからないけど、故郷にいるわたしの両親のことなんだ。
理解はあるし、だからこそ実家を離れることもみとめてくれたんだけど、やっぱり芯は古風なんだと思う。
ひとつだけ約束をさせられてしまったの。
以下略



9: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:38:16.61 ID:MgkQzc3L0
わたしの説明の途中から、チノちゃんははればれとした表情になった。

「おかしくありません。
そんなことなら古風な方がいいじゃないですか。
私、もっと難問題なのかと思ってしまいました。
以下略



10: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:38:43.93 ID:MgkQzc3L0
それからしばらくすると、彼女の顔はやつれ、見違えるように変わっていった。
わたしが聞くと、彼女はため息とともに言った。

「父に何度か話したんですけど、いけないと……」

以下略



11: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:39:11.24 ID:MgkQzc3L0
チノちゃんのお父さんは、わたしが話し始めると、気難しく顔をしかめて言った。

「言い分はわかっている。そのことについて話し合うことはない」

とりつくしまがない口調だった。
以下略



12: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:39:38.58 ID:MgkQzc3L0
チノちゃんは父とわたしの板挟みになって、ますます悲しそうに、苦しそうになっていった。
やけを起こすような性質ではなく、まじめに考え、何とか方法を見つけようとしていた。
しかし、方法は無かった。


13: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:40:14.65 ID:MgkQzc3L0
父親にたのみ、そのたびに拒絶されているせいか、チノちゃんは痛々しいまでに弱ってきた。
悩みつづけ、気力も弱ってきたようだった。


「私、死にたいです」
以下略



14: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:40:43.77 ID:MgkQzc3L0
それからは、二人で話すときは死の話ばかりをした。
わたしといっしょに死ぬことを考えると、彼女は楽しくなるらしく、動作もいきいきとしてきた。
それがいかにすばらしく、美しく、幸福なことかを、くりかえして口にするのだった。


以下略



15: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:41:15.32 ID:MgkQzc3L0
景色のいいホテルだった。
部屋の窓からは、湖だの、森だの、遠い雲だの、すがすがしいものばかり見えた。


わたしは一日のばそうかと言ったが、チノちゃんはすぐのほうがいいと言った。
以下略



16: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:41:41.09 ID:MgkQzc3L0
チノちゃんはビンから錠剤を出し、手のひらにのせた。また、わたしの手のひらにも半分をのせてくれた。
彼女はためらうことなく薬を口にいれ、目をつぶってコップの水を飲んだ。


そのあいだに、わたしは薬をポケットに移し、水だけを飲んだ。
以下略



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