過去ログ - 輝子「三つ編みのこと」
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4: ◆S6NKsUHavA[saga]
2016/12/15(木) 21:56:30.46 ID:TASUOcfu0
 話が一段落したら、あの人はなんだか感心したみたいな顔で私に言ったんだ。

「お前、スゲーわ。売れんじゃね?」
「え、き、キノコを?」

以下略



5: ◆S6NKsUHavA[saga]
2016/12/15(木) 21:57:25.38 ID:TASUOcfu0
「ヒカゲシビレタケ?」
「これは、あんまり大きな声で言えないけど……マジック・マッシュルームの一種なんだ。いわゆる、毒キノコ……」
「法に触れるヤツじゃん。そんなんが普通に生えんの?」
「キノコに境界は無いから、ね。胞子が飛ぶ範囲だったら、何処へでも行けるし、何処ででも生える。キノコに法律は無いからね、フヒ」
「そりゃそうだ。でもやべーんじゃねぇの? 間違って食ったら」
以下略



6: ◆S6NKsUHavA[saga]
2016/12/15(木) 21:58:50.69 ID:TASUOcfu0
 そんな感じで、その時に観察してたトモダチについて色々と訊かれたり、答えたり。そう言えば、一度「ぬか漬けに出来るキノコ」について聞かれたこともあった、な。そっちはあんまり詳しくなかったから、たいして答えられなかったら、ちょっと残念そうな顔をしてたけど。
 そうやって一ヶ月くらい経った頃かな。いつもみたいにやってきたあの人が、いつもとちょっと違う雰囲気で私に訊いたんだ。

「お前、もうちょっと自分を売り込もうと思わねぇの?」
「え?」
以下略



7: ◆S6NKsUHavA[saga]
2016/12/15(木) 21:59:21.78 ID:TASUOcfu0
「ぷ、プロデューサーさんに出会う前に、スカウトされてたんだ……」
「スカウトって言うか、なんて言うか……新しいビジネスになる、って言ってたな。未だに私もどういうことか、よく分からないんだけど……」

 小梅の言葉に、輝子は苦笑しながら答えた。当時の輝子も、彼女の言葉を全然理解出来ていなかったし、結局戸惑うだけでまともな返事は出来なかった。
 ただ、彼女の言葉が、輝子の意識をほんの少しだけ変えたのは事実。
以下略



8: ◆S6NKsUHavA[saga]
2016/12/15(木) 22:00:15.58 ID:TASUOcfu0
「……かわいく、って、どうすれば良いんだ……」

 あの人には、「売り込むかどうかは別にして、お前の外見はなってない」って言われた。「外見は内面の一番外側だから、そこがショボいと中身もショボく見られる」とか、「人を見た目で判断するカスに不当に値踏みされる」とか、結構酷いことを言われたような気がする。言ってることは、何となくは分かるんだけど、ね。
 素材を生かせとも言われたけど、私には何をすれば良いのか全然分からなかったんだ。別に見た目が良いわけでもないし、当時は今より背も低かったし。服装のセンスも無いから、いつも同じような服を着てたしね。
 そこで、あの人の髪型のことを思い出したんだ。あの人は、ウェービーヘアの一房だけ編み込んでリボンを付けてた。私も、髪はあの人と同じくらい長さがあるし、あんなにキレイなウェーブは付いてないけど、銀色の髪は珍しくて褒められたこともある。だから、ちょっと真似してみようなって。
以下略



9: ◆S6NKsUHavA[saga]
2016/12/15(木) 22:02:16.19 ID:TASUOcfu0
 その日は……確か、ちょっと曇ってた。そろそろまた別のトモダチが何処かに姿を現すかも知れないと思って、そわそわしながらドームの中でシイタケの原木に霧吹きしてたんだけど。
 しばらくして、何処からか言い争うような声が聞こえてきたんだ。

「しつこい。お前んとことは取引しないって言ったろ?」
「まぁまぁ社長、そう仰らずに」
以下略



10: ◆S6NKsUHavA[saga]
2016/12/15(木) 22:03:22.83 ID:TASUOcfu0
 ドームの中で息を潜めながら、私は会話を聞いていた。

「お時間は取らせませんよ、社長。頷いて契約書にサインさえしていただければ、すぐに解放して差し上げます」
「……お前、自分が何してんのか分かってんのか」
「えぇ、勿論。社長に死ぬ気で考えて頂くために、選択肢をご用意させて頂きました」
以下略



11: ◆S6NKsUHavA[saga]
2016/12/15(木) 22:06:33.85 ID:TASUOcfu0
*****


「ヒィィィィヤッハァァァァッッッッ!!!!」

以下略



12: ◆S6NKsUHavA[saga]
2016/12/15(木) 22:08:13.60 ID:TASUOcfu0
「フ……フヒ……はぁぁぁぁ……」
「お、おい、お前! 大丈夫か!」

 荒い息を吐きながら、私はぼんやりとした頭で声のする方を向いた。目の前には、心配そうな表情をするあの人の顔。そのまま周りを見渡したけど、男の人はもういなくなってて、私はすっかり安心した。
 どうやら、上手くいったみたいだね。そう言って気が抜けたみたいに笑うと、あの人はちょっと怒ったような顔で私に言ったんだ。
以下略



13: ◆S6NKsUHavA[saga]
2016/12/15(木) 22:10:48.58 ID:TASUOcfu0
 話してる間にも、三つ編みはどんどん進んで、毛先まで辿り着いた。私がやったときよりもずっと綺麗で、鏡で見たときに感動したな。おおって思わず声が出ちゃった。
 それから、あの人はカバンの中をゴソゴソと探って、小さな袋を取り出した。

「アタシんとこのサンプルで悪ぃけど……お前の髪には合うんじゃないか」

以下略



14: ◆S6NKsUHavA[saga]
2016/12/15(木) 22:12:07.56 ID:TASUOcfu0
「それから、一度も会えてないんだね……」
「うん……あの後も、ずっと同じ公園にいたんだけど、結局それからは一度も見てない……」

 その時のことを思い出して、輝子は少しうなだれた。あれ以来彼女が公園を通ることは無く、あの男も一度ちらりと見かけた以外は二度と来ることは無かった。
 小梅は輝子の三つ編みに付いているリボンに視線を向ける。少しくすんで端が僅かにほつれた、ピンクのリボン。
以下略



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