都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13

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408 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/11(火) 00:19:25.23 ID:4SPQHCDFo
おつおつ
痴女ルックFOX仮面魔法少女ええやん!
マジカルヒップアタックになら当たってもいいかな!
409 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:32:46.66 ID:XcJZUenvo

この年末年始に投下された皆様、お疲れ様でした
個人的に心に来たのは腕のいいマッサージ師の単発でした……自分も受けたい……業やしがらみを全部抜き取られたい……!!

ご無沙汰しております、「次世代ーズ」でございます
以前は2週間前に投下すると言っておきながら3年経ってやって来る有様で
特に花子さんとかの人、鳥居の人、アクマの人にはご迷惑をお掛けしました
クロスしてくださったやの人、ありがとうございます……!

今年から心身ともに余裕ができ……そうなので「次世代ーズ」の続きを投下していきます
具体的には【9月】【10月】のエピソードをガンガン書きつつ
最大の問題の【11月】に最早迷惑集団と化した「ピエロ」の勢いを削ぎつつ、顛末に決着をつけたいです(つける)



ひとまず今夜は次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」の続きをいきます
>>334-342
早渡がソレイユに`襲われそうになった騒動の、ソレイユ=日向視点です

410 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 1/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:33:29.78 ID:XcJZUenvo
 








 


「観念しなさい、この変態クマ」


 震えそうになる息を、抑える
 すくみそうになる両膝に、力を込める


 私が杖を突きつけた先にいるのは商業の制服を着た男子
 いかにも呆気に取られましたといった体でこっちを凝視している
 ふざけた格好にふざけた表情のふざけきったチャラい存在だ、吐き気がする


 変態クマ
 東区の公園で変態的な暴挙に及んだ絶対悪
 あの屈辱を受けた日から、私はその正体を突き止めようと躍起になっていた

 そして、目の前にいるこいつ
 こいつこそがその許されざる犯人だ


 こいつの蛮行はあの日の暴挙だけに留まらない
 近頃、学校町の東区や南区で度々目撃されているという露出魔は
 十中八九この変態クマ、正しくはクマのぬいぐるみを操って変質的な破廉恥を繰り広げてきた本体だろう

 私は情報収集で得た手掛かりから目星をつけて犯人の捜索を続けてきた
 そのなかで浮上してきたのが、目の前にいるこの男だ

 正直、犯人が年の近い男子なのは意外だった
 しかしだからと言って、それが容赦する理由には全然ならない




 自分の鼓動がいつもより大きく響いてくる
 こいつが何か言おうとしたので思わず“炎矢”を発射してしまった
 自分の喉から悲鳴を飛び出しそうになるのを、無理矢理こらえる




「言っとくけど、余計な真似したら消し炭にするわよ」




 声が震えないように、声が上ずらないように、頑張って抑えつけた
 そう、これは戦いだ、絶対に気取られてはいけない
 以前の繰り返しになっては、絶対に駄目だ


 落ち着け、落ち着いて自分、大丈夫
 こうして対峙することは前々から決めていたし
 これまでにやるべきことも、事前準備も、きちんとしてきた


 だから今日、此処でこいつを仕留めないと――!










 
411 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 2/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:34:11.54 ID:XcJZUenvo
     
 








「千十は今日バイト休みよね?」
「え? うん、そうだよ」


 時間は戻って、今日の放課後
 HRが終わった後、私は千十に念のためこの後の予定を確認していた


「これから予定ある? どこか寄ったりとか」
「今日は……うーん、そのまま帰ろうかなって」


 それがいいわ、私は大きく首肯する
 そもそも今日の千十は朝から具合が良くなさそうだった


「安全な大通りから早めに帰った方がいいわ。できれば陽のある内に」
「……ありすちゃん、何かあったの? 今日、ずっと、怖い顔してるよ?」


どこか遠慮がちにそんなことを訊く千十に、私は少し言葉を選んだ


「東区から南区にかけて露出魔が出没しているのは知ってるわよね?」
「うん、何度かホームルームでも先生が注意してたよね」
「その露出魔、契約者よ。間違いないわ。それもかなり悪質なやつ」
「え……」


 最近この町を徘徊する変質者は、なにも都市伝説だけじゃない
 なんでも新たに変態の露出魔が出没するようになったらしいのだ
 クラスでもその都度担任から注意するよう通知されている

 案の定、千十は表情を曇らせた
 別に怖がらせるつもりじゃないけど、でも伝えておく必要はある


「もしも二足歩行するクマのぬいぐるみを見かけたら、絶対に近づかないで
 全力で逃げて、余裕があったら私に連絡して」

「あの、ありすちゃん。これから何するつもりなの?」


 千十は私と同じく、契約者だ
 この子は普通の契約者みたいに能力が使えるわけじゃないらしいけど
 私と同じように都市伝説やら怪異やらの類を知覚することができる
 その所為でこれまでにも何度も怖い思いをしてきたらしく、都市伝説に対して恐怖を抱いている

 そして千十も知っている
 私が契約者であることも、有害な都市伝説をできる範囲で撃退していることも


「変質者の目星はついてるの
 犯人はどうも南区の商業生っぽくて、能力でぬいぐるみを操作して女性を襲ってるみたい
 そいつの行動範囲が問題の露出魔とほぼ一致してるのよ。これ以上あんなふざけた真似を見過ごすつもりは無いわ」

「ありすちゃん、また一人でやるつもりなの? 危ないよ! それなら私が」

 
412 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 3/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:34:58.01 ID:XcJZUenvo
 

 千十の目を見つめる
 彼女の言葉はもっともだし、心配してくれてるのはよくよく理解してる

 確かに一人でやるにはリスクが大きいかもしれない
 反りの合わないノクターンの助けを借りる手も考えた、けれど


「大丈夫、私だって無理はしないし」


 今回は勝算がある

 でもそれだけじゃない

 やっぱり、この手で直接叩かないことには、納得がいかない!





          ●





「これでよし、と。ざっとこんなもんかしらね」


 高校を後にして問題の場所に到着する
 一応制服の下から水着だけは着てきたとはいえ
 まだマジカル☆ソレイユの衣装へと完全に着替えたわけではない

 街中でまだ日も暮れてないうちからこの格好で出歩くことになるのには躊躇したし
 作戦的に路上で着替えることになるのにも大いに躊躇した、したけれど
 今回はそうも言ってられない、状況が状況だ

 此処は東区、昼間も夕方も他の場所よりも一際閑静な住宅街の路地だ
 あいつは東区の住宅街だろうと、此処より人が居るような場所だろうと、そんな時間帯だろうと
 場所や時間に構わず、変態行為に及んでいることは調べがついている
 ましてや人気のないこの場所は、あいつにとっては格好の狩場ってとこだろう

 路面には目立ちにくい暗色系のビニールテープを貼り付けた、無数の目印
 仕掛けのために昨夕用意したものだ

 これまでの傾向から判断するに、あいつはこの時間帯、間違いなくこの道を通る
 言うまでもなくあいつの動線は把握済み、目印はそのためのものだ

 此処に隠しておいた使い古しの抱き枕を引っ張り出す
 これは囮のためのもの


「アアヴ・エ・ファイ、ヴァスヴォーシュ・アント……      (炎の鎖、私の戦意)」


 抱き枕へ杖を向けて“熱鎖”の呪文を掛ける
 元々は敵を拘束するために考え出した呪文だけど、今回の目的は違う
 抱き枕に私の気配を編み込むため、プランAが失敗したときの代替策だ

 ここまでは問題ない
 あとはシミュレーション通りに動くだけだ
 この日のために事前のリサーチと準備は怠らなかったんだし、だから大丈夫

 抱き枕を所定の位置へ隠すように置く
 今になってまさかこんなに緊張してくるとは思わなかった
 でも、頭の中では今日の計画を幾度も練ってきた、だから、大丈夫

 プランAは「あいつの先を歩いて、襲い掛かってきたところをいい感じで返り討ちにする」
 プランBは「万が一あいつが別の道へ逸れたり、襲ってこなかった場合は、どうにかして此処に誘い出す」
 作戦と呼ぶには我ながらアバウトすぎるけど、何が起こるか分からない以上臨機応変に立ち回るしかない
 だからこれはあくまで行動方針的なものだ


「そろそろ時間ね――」


 時刻を確認して私自身の待機位置へ歩を進める
 推定通りならそろそろこの道をあいつが通る頃合だ


 大丈夫! 私ならやれる!!
 
413 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 4/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:35:38.62 ID:XcJZUenvo
 









 そして、今

 私の想定は概ね間違ってはいなかった

 あいつは確かにこの辺りに近づいてきたし、私はうまいことあいつの前方を位置取ることに成功した
 ただ、あいつは直ぐには襲ってこなかったし、よりによって今日は別の道へ逸れようとしたので
 思わず声を出して注意を引かなきゃいけなかった

 電柱の影に飛び込んで大慌てで制服を脱いでソレイユの格好に着替える羽目になったし
 結局プランBに切り替えるような形になった
 それでも、とうとう私はあいつを此処へ追い込むことに成功した





          ●





「覚悟なさい、あんたが今までやってきたことを後悔させてやるわ」


 声が震えそうになるのを抑える
 こいつに向かって、もう既に“炎矢”を放ってしまった
 絶対に逃げるわけにはいかない、此処で確実に仕留める必要がある

 大丈夫落ち着いて自分
 この日のために何度もイメトレを重ねてきた
 敵が私とほぼ同じ年齢の男子だというのは早い段階で分かっていたし
 敵が何を言ってどう動いたら、こっちはどう出るべきなのかも検討してきた


 そういえば年の近い契約者と交戦するのって初めてだっけ
 そもそも都市伝説ではなくて、契約者相手に戦ったのって、どれくらい前だっけ


 イメトレのときには思い浮かびもしなかったようなことが、今になって私の頭のなかを渦巻きだした


 落ち着いてありす、大丈夫だから
 自分にそう言い聞かせないと
 大丈夫、今なら能力の使用にはまだまだ余裕がある
 今日は私の方が有利なんだから


「ごめん、あの、身に覚えがないんだけど」



 は?

 目の前の犯人の言葉に、一瞬、頭のなかが真っ白になりかけた



 
414 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 5/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:36:22.56 ID:XcJZUenvo
 

「覚えがない? へえ、そんなこと言うの? 一言目がよりによってそれ? ふざけてるの?」


 頭のなかが真っ白のまま、ほぼ無意識で怒りが言葉になって私の口から出てくる
 こいつの表情は、なに? 動揺? もしてかして恐怖? そんな顔で私を見返している


 なんでそんな顔ができるのよ

 なんでそんなすっとぼけてられるのよ


「知らないとでも言うの? いい加減になさいよこの変態!」


 犯人が何か言い訳がましいことを口にした。何を言ってるのかなんて耳に入らなかった
 私は怒りのままに何かをまくし立てた。自分が何を言い返したかなんて覚えてられるわけなかった

 いやもうそもそも、この男の存在そのものが、論外だった

 こいつが私に何をしたきたか
 私だけじゃない、こいつがこの町のあちこちで何をしでかしてきたか
 それを思い出すだけで、マグマのような怒りが私の内側を焼き尽くしていた



「ヌルヌルのベチョベチョにするって言い放って、エロ……くっ……
 あっ、や、やらしいことしようと迫ってきたことも、とぼける気ね!?」



 不意に我に返る
 公園で受けた屈辱を口にして、そのことを思い出して、一瞬言葉が詰まってしまった



「待って本当に身に覚えがないんだけど!?」



 対してこいつが切羽詰まったような声色で即座に言い返してきた答えが、これだ



 身に覚えが、ない



 あらそう
 ふざけないで!! この期に及んでまだシラを切り通すつもり!?
 あんなやらしい犯罪行為をしでかしておきながら!?

 犯人の目を、睨みつけた


(ソレイユちゃん、メリーの勘だけどあの人は犯人じゃないと思うのー)


 何故だかこのタイミングで、いつだったかのメリーの言葉を思い出してしまう
 いつ言われたことだっけ? そのとき私はなんて応じたっけ?


 ほんの一瞬、自分のなかの怒りがフッと冷めた気がした
 こいつの返答って、全部私を騙すための演技なんだろうか? 知らないフリを続けるために?
 少なくともウソを吐いてるようには見えない。私のなかで徐々に混乱が渦巻き始めた

 
415 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 6/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:37:01.60 ID:XcJZUenvo
 

 もしも


 目の前のこいつが、変態クマの正体じゃないとしたら?
 こいつが犯人というのが、全部私の勘違いだとしたら?


「そう、しらばっくれる気ね。いいわ、いいわよ。そっちがその気なら――」


 混乱した思考とは裏腹に、勝手に言葉が口から出てくる


 ど、どうしよう
 卑劣な変質者なら人を騙すことなんて何とも思わないかもしれない
 だからこいつが本当に犯人で、こいつの答えが、態度が、表情が、全部演技の可能性だって十分にある

 でも、もしもこいつが変態クマの犯人じゃ、なかったとしたら?

 どうしよう
 こういうときは一度痛い目に遭わせて、それから様子を見るべき?


「あくまでシラを切り続けるつもりなら、本当のことを話したくなるまで、体の端から灰にしていってやるわよ!?」


 考えなしに我ながら物騒な台詞が口から滑り出た
 私はそれを、止めることができなくなっていた

 でも――そうだ、それがいい、今のはいい案だわ
 大丈夫、端っこからちょっとだけ焼いていく、それだけだから
 それで己の罪状を自白し始めるかもしれない。そうだ、拷問に掛ければいんだ


「言っとくけど、前の私と同じだなんて思ってたら、死ぬほど後悔させてやるわよ」


 目の前の男子は見開いた両目で私のことを凝視している
 もし、もしも
 この男子が、本当に変態クマの正体じゃ無かったとしたら?

 無実の人を、拷問に掛けるつもり?

 どうしよう


「アアヴ・エ・ファイ、ヴァスヴォーシュ・アント          (炎の鎖、私の戦意)
 アルヴィル・ノッド・アルヴィル――          (強く、より強く――)」


 ほとんど麻痺したような私の頭は
 半ば無意識のうちに、“熱鎖”の呪文を唱え始めた

 この呪文で拘束されると、温度を上げて相手の身体を熱することも、焼くこともできる
 威力を上げれば火だるまにすることだって可能だ――勿論、人を[ピーーー]ことだってできるかもしれない


 どうしよう


 男子に向ける杖が、大きく震えた










 
416 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 7/12 ◆John//PW6. [sage !red_res]:2022/01/11(火) 20:37:49.55 ID:XcJZUenvo
 










 すべての音が消えた、少なくともそう感じた

 それは一瞬だった

 男子の両目が、私を捉えている



 こいつの目には、恐怖の感情が渦巻いていた

 恐怖、私に対する恐怖

 ようやく実感した、こいつが私に抱いている恐怖を



 どうしよう、私はこいつが変態クマの正体であることを前提に準備を進めてきた

 でも、思い返せば

 メリーはずっと、何度も口にしていたんじゃないか

 目の前の男子が、本当に変態クマの正体なのかと、疑念をことあるごとに口にしていたんじゃないか

 そしてそれを、私は軽く受け取るか、無視してきたんじゃないか





      くすくす      くすくすくす      くすくす





 不意に、女の人の笑い声が聞こえた

 幽かな、囁くような、嘲笑うような、そんな嗤い声が



 憑かれたように、男子を見る

 何故そうしたのかは、自分でも分からなかった





                  くすくすくすくす      くすくす         くすくすくす





 その声は当然私のものでも、男子のものでもなかった



 笑い声は、私の直ぐ耳元で、聞こえた











 
417 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 8/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:38:35.63 ID:XcJZUenvo
 








「――待って!! ありすちゃん!! 駄目!!」


 麻痺していた頭が、一気に現実に引き戻される

 聞き慣れた声だ


「あり、あっ……ソレイユちゃん! 駄目! 待って!!」


 数秒遅れて知覚に思考が追いついた


「千十ぉ!!??」


 あの後、学校で別れて先に帰宅した筈の千十が、目の前にいる
 千十が、問題の男子と私の間に割って入っていた
 まるで、男子を庇うように

 ちょっっ、えっっ!? な、なんで千十がここにいるの!!??
 先に帰ったんじゃなかったの!!??
 なんでそいつのこと庇ってるの!? なんで!!??


「千十!! な、何やってるのよ、こっちに来て!!」

「待ってあり、……ソレイユちゃん! 脩寿くんと何かあったの!?」

「千十!! そいつから離れて!! そいつが変態クマよ!! 早くこっち来て!!」

「変態クマって……」


 はっきり言う、千十は男子が苦手だ
 それも男子から急に話し掛けられると飛び上がってしまうレベルで
 だから、目の間にいるこの犯罪者を、千十が庇った理由が私には理解できなかった


「違うよ、脩寿くんじゃないよ! そんなことをするような人じゃないよ!!」


 なんてこと言い出すのよ!?
 なに!? 知り合いなわけ!? そんなのと!?!?


「脩寿くんじゃないよ! だから……ソレイユちゃん、お願い。杖を下ろして」

 
418 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 9/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:39:04.01 ID:XcJZUenvo
 

 どうしよう
 さっきまでの私はちょっとパニックになってた
 でもでも、この男子が変態クマの正体では無いと確定したわけでもない

 一瞬、迷った
 私をみつめる千十の表情は普段よりも固い――とりあえず、杖を下げるしかなかった


「千十、とにかくこっちに来て! 早く!!」


 無論、この男子のことが信用できるわけじゃない
 千十が騙されてる可能性だって十分にあるわけで

 最悪なのは、この男子が千十を盾に本性を現すパターン
 この場に私が居ながらそんな事態になるのは、絶対に許されない

 もうこうなった以上、一旦撤退するしかない


「メリー!」


 千十の腕を掴んだまま、携帯でメリーを呼ぶ
 最初の計画には無かった緊急時の最終手段だ
 無論、男子からは目を離さない


 そいつは困惑したような表情で、最後までこちらを凝視していた

















 
419 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 10/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:39:45.85 ID:XcJZUenvo
 













「ありすちゃん、一体何があったの!?」


 そして
 私達は学校町内のドーナツ屋にいた

 メリーの能力で転移した後、近場の公園トイレで早着替えを済ませてある
 さすがにソレイユの格好でお店に入るわけにはいかないし

 どこから説明しよう
 私の対面席で千十がいつになく怖い表情をしている
 言葉にもなんというかこちらを責めるような圧がこもっていた

 そんな彼女を前に、切り出す言葉を選ぶ
 思えば、こんな顔する千十は初めて見るかもしれない


「せとちゃん、ありすちゃんはねー、テディベアを操る変質者を追ってたのー」


 私に代わりに答えたのはメリーだった
 メリーはぱっと見、もこもこした羊のぬいぐるみ
 だから声を出しているのを他人に気づかれなければ割かし安全だ
 メリーはテーブルに置いた私の腕のなかで震えるように身動ぎしている


「そう、その……そうよ
 それで、色々調べて回ってたんだけど
 そのうち、あの男子が犯人の可能性が強くなってきたんだけど」

「でもでもー、あの男子ーが変質者だっていう決定的証拠は無いなのー
 今のところは、あくまでありすちゃんの推測なのー!」


 メリーは私の説明に横槍を入れると
 私の腕から抜け出して、テーブルをちょこちょこ駆けて千十の胸元へ飛び込んだ
 彼女はメリーを抱きしめて、今度は不安そうな面持ちでこっちを見てくる



 
420 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 11/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:40:19.14 ID:XcJZUenvo
 

「それよりも千十! あなたアレと知り合いだったわけ!?」

「知り合いというか、お……幼馴染だよ! あの、小学校の頃に一緒の施設にいたの
 ありすちゃんにも前、紹介したい友達がいるって言ったでしょ? それがさっきの、脩寿くんのことなんだけど」

「あいつが」

「脩寿くんは人を傷つけるような真似をするような人じゃ、……ないんだけど
 だから、あの、変質者じゃないと思うんだけど、何かの間違いじゃないかな……?」


 大きく息を吸い込む
 落ち着こう、こういうときは一旦整理しないと

 さっきあいつを追い詰めてたとき、私は確かに熱くなってた
 思い込みで判断していたところも多いかもしれない
 でも――でも、だ


「確かにあいつが犯人だって直接的な証拠は無いわ、今のところ全部状況からの判断よ
 でも、あいつの行動範囲は変質者、クラスでも話題に挙がってた露出魔が目撃された箇所とほぼ一致するし
 それにあいつが夜の東区を徘徊しているのは、私もメリーもこの目でしっかり確認してるのよ」

「うー、それはそうなのー。あの男子ーは、あちこち徘徊してたのー。東中とかー」

「ああ、まあそうね、別に東中だけじゃなく東区の広い範囲を……、東中! そうよ!!」


 思い出した。証拠、あった!
 東中であの男子が都市伝説の少女を襲ってたことを話さないと

 一瞬、千十を怖がらせるんじゃないかとも思った
 この子は東中の出身で、そもそも学校の怪談全般を怖がってた筈

 でも状況が状況だ


「千十、あいつはね、夜の東中で都市伝説の……そう、『学校の怪談』の女子に襲い掛かってたのよ」
「へ!?」
「あう、それも本当に襲ってたのか、ちょっと微妙なところなのー」
「いやでもあれは襲ってたと見てほぼ間違いないでしょ!」
「……」


 千十は自分の携帯を握りしめたまま固まっている


「千十、あなたの幼馴染かもしれないけど、あいつは……千十!?」

「あおお、あおお……!!」


 彼女は変な声を上げだした
 千十の目が、激しく泳いでいる


 
421 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 12/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:40:55.86 ID:XcJZUenvo
 

「しゅっ、脩寿くんはっ! 昔、せッ、セクハラ大魔王って呼ばれた時期もあったけど!
 あ、あれは単に、寂しがり屋な、やんちゃさん、だっただけだからっ! ほんとは優しい子だったから!」

「せ、千十? いま、なんて?」

「い、今もへっ、へへ、変態さんかもしれないけど、けどっ
 でも、でもっ、そんなっ、人を傷つけるようなこと、するような人じゃないからっっ!」

「千十、ちょっと、どうしたのよ!?」


 どうしよう
 こんな様子のおかしい千十、初めて見た……

 でも今、あいつのこと変態呼ばわりしてなかった?
 ちょっと千十、どういうことなの!?


「わ、私っ、脩寿くんを、ココに呼ぶねっ!」

「は!? あいつを!? ここに!? 呼ぶ!? なんで!!??」


 思わず大声を出してしまった
 途端にお店のなかが静まり返った
 店員さん含め、皆がこっちを見ている


「あ、す、すいません――!」


 立ち上がって店内にいる人たちに頭を下げた
 我を忘れて大声出しちゃうなんて、何やってるの私

 千十は脇目も振らずに凄い勢いで携帯をフリック操作している


「あばばばば……! 私が、誤解を、解かなくっちゃ……!!」

「ちょ、ちょっと千十! あいつを呼ぶって、どういうつもりよ!?」

「こっ、こういうときは、やっぱり両方の話を聞くのが大事だと思うし!
 それに私は脩寿くんが、へ、変質者じゃないって、信じてるから!」


 私は身を乗り出し、押し殺した声で千十に尋ねると
 彼女は顔を上げてそんなことを言う


「それがいいと思うのー! 本人に話を聞くのが一番と思うのー!
 疑うのはそれからでも遅くないと思うのー!」

「メリーまで!?」


 メリーも千十に同調した


 ちょ、ちょっと待って!? 本気でアイツここに呼ぶの!?



 マジで!?









 




□■□
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/11(火) 23:26:47.92 ID:OSLwwoaB0
乙でした
こちらこそ年単位で続き書けてなくてごめんな……さ……
423 :疑問に答えようと思ったらなんか話になったタイプの単発 [sage]:2022/01/15(土) 22:07:43.07 ID:CQjuKjKM0
 歌番組の収録が終わり、お疲れ様ー、とみんなで労いながら楽屋へと戻る。
 着替える前に、鏡に自分の姿を映して……むぅ、と一人考え込む。
 「おたねさん」の契約者として、契約で得た変身能力でもって「魔法少女お狐仮面」に変身して戦う彼女。変身した際の装束が痴女ルックギリギリなのが悩みの種だ。正直、「FOXGIRLS」の一員としてのアイドル衣装の方がまだ布面積が多い。こちらは露出よりも、かわいらしさ優先だからそのせいもあるのだろうけれど。
(あぁ……「おたねさん」。どうして……どうして、変身した時の姿があんな痴女ルックなの……)
(聞こえますか……私の大切な契約者…………この「おたねさん」、瀕死の状態であなたと契約したが故、実体化できませんがあなたの心に直接語りかけて答えましょう…………変身姿が露出狂一歩手前なのは……想像力です…………あなたの想像力がより豊かになれば…………きちんと布面積の多い姿に変身できましょう……)
 自分だけに聞こえる「おたねさん」の声はいつでも優しい。優しいけれど、時々ちょっぴり容赦ない。
 なるほど想像力。すでにあの痴女みたいな変身姿が脳裏にこびりついてしまい、変身する際にその姿を思い浮かべてしまうのがいけないのか。もっと……布面積の多い姿を、想像しろと言う事か……。
「どうしたの?ぼーっとして?」
「え?……あ、ごめん。なんでもないよ。ちょっと疲れちゃったみたい」
「つっかれたよね〜。もう、クイズ難しすぎ〜」
「うむ。実に難敵であったな。頭脳戦もまた戦い。実に素晴らしい」
 わいわいとみんなでお喋りしながら、アイドル衣装から私服に着替えていくことにする。
 その最中、むぅ……と、リーダーは鏡に自分の姿を映し、呻く。
「……やはり。我には、このような愛らしい衣装は似合わぬのでは……?」
「え?なんで。リーダー似合ってますよ」
「そうですよぉ。マネージャーちゃんだって、似合ってるってべた褒めだったじゃないですかぁ」
「む、むむ……っし、しかしだな。主らならともかく。我のような背丈もあり、筋肉もついている女が。こ、このようなフリフリひらひらとした衣装はだな……」
「ちゃんと、二の腕とかカバーしてくれるデザインだから大丈夫だって。ぼく、リーダーとおそろいの衣装で嬉しいよ」
 わいわい、きゃいきゃい。
 みんなの会話を聞いて、ほっとする。「おたねさん」と契約して、非日常に触れるようになって。こうしたアイドルとしての活動もまた、一般の人から見れば非日常に近いのかもしれないけれど……自分にとっては、これが日常。護るべき大切な日常だ。
 この日常を守る為にも、もっと「おたねさん」の変身能力を使いこなせるようになって。もっともっと、強くならなければいけない。
 そう、強く噛み締めた。


 その男は、監視カメラの映像をじっと見つめていた。
 テレビ局の警備員。それは表の顔。裏の顔は、業界の人間の裏を探り弱みを握り、恐喝し、懐と欲を満たす俗物。テレビ局のお偉いさんと言う立場を利用して、やりたい放題だ。
(これも、都市伝説って奴との契約のおかげだな)
 手元で、くるくると赤いクレヨンを弄ぶ。肉欲を満たす際は、これを使うに限る。ターゲットを閉じ込め、そうしてじっくり嬲る。その様子を撮影してしまえば、もうこっちのものだ。映像は、この警備員室の監視カメラの映像ログに紛れ込ませて隠している。
 都市伝説なんて誰も信じない。そんなものを人に語ったところで頭の具合を疑われるだけ。通報もできない。
 実に人間の屑かつ下衆の嗜好をしながら、男は監視カメラで今宵のターゲットを選別する。
(こいつらのうち、どれかにしようか)
 カメラに映る。今、売り出し中の新人アイドルグループ。狐をモチーフにした装束を纏い、狐をテーマにした歌を歌う彼女らは、ロリ体型ロリボイスから高身長ナイスバディまで、色とりどりの美少女美女が五人も集まっている。どれもこれも素晴らしい。
 男の好みとしては、あの高身長のリーダー。常に強気であり、トーク番組等ではいっそ雄々しさすら見せるそんな女が、無様に泣き叫び許しを請う姿を撮影出来たらどれだけ素晴らしいだろうか。
(よし、今夜はこいつ……に……?)
 ふと。
 メンバーの一人と。映像越しに、目が、あった。



「……?なんだろ。騒がしい」
 着替えも終えて、マネージャーがタクシーを呼んでくれると言うのでそれに甘えて(リーダーはバイクがあるからと辞退したが)みんなでテレビ局の出口付近に集まっていたのだが。
 何やら、上が騒がしい。悲鳴のような、雄たけびのような……そんな声が、聞こえてきた。
「なんか、こわぁい」
 一番年下のメンバーが、ややぶりっ子口調ながらも怯えたように縮こまった。
 そんな様子に、す、とリーダーはこの出口までの直線通路を塞ぐように立つ。
「安心しろ。何かあれば、我が主らを守ってやる」
「リーダーが……頼もしい……」
「雄々しさすら感じてしまって申し訳ないし、リーダーに何かあったらぼくらが悲しいから、無理しないでね?」
 そうだ、確かにリーダーは頼もしい。バラエティの腕相撲企画でうっかり元メダリストのレスリング選手相手に腕相撲で勝ってしまった程度には頼もしい。
 けれど、何かしら物騒な事件が起きて、それでリーダーが怪我をしてしまったら。自分達は悲しいのだ。
 だから、自分も一歩、前に出る。
「リーダー、いつでも逃げれるようにしようね?」
「任せよ。主らは必ず逃がす」
 違う、そうじゃない。そうツッコミを入れようとしたところで、慌てたようにマネージャーが走ってきた。
 こちらが全員揃っている様子に、ほっとしている。
「マネージャーちゃん、なんか物騒な声聞こえてきてるけど、何かあったの?」
「その……警備員室の方でトラブルがあったらしくて…………皆さんには、関係ない事です。騒動に巻き込まれる前に、帰りましょう」
 タクシーもそろそろ来ているはずですから、とマネージャーはぐいぐいと自分達五人をテレビ局から出そうとしている。
 警備員室でトラブル……何だろう。怪我人とか出ていないといいんだけれど。
「…………」
「?どうしたの、監視カメラになんかあった?」
「……いや。なんでもないよ」
 いつもボーイッシュな雰囲気をただ寄せているメンバーが、監視カメラを睨んでいた気がしたのだけれど。
 気のせい、だったのだろうか。

 この日、警備員室にいた警備員が、突然叫び出して警備員室の監視カメラの映像機材、過去の映像記録も破壊し暴れまわり、泡を吹いて倒れたと知ったのはそれからしばらくしての事だった



424 :疑問に答えようと思ったらなんか話になったタイプの単発 [sage !red_res]:2022/01/15(土) 22:09:10.56 ID:CQjuKjKM0

 信じようと、信じまいと――

 とある病院警備スタッフが自殺した。
 同僚の話によると、監視カメラの映像を見ている際に、突然叫びながら記録用のビデオテープを破壊し、逃げるように出て行ったという。
 この事件は精神的ノイローゼによる自殺として処理されたが、結局彼が何を見たのかはわからない。

 信じようと、信じまいと――




425 :単発ではないが連載とも言い切れない:ターゲットはお間違いなく [sage]:2022/01/16(日) 22:29:31.60 ID:mgtZU5V20

 これは、都市伝説と多分戦う為に都市伝説と契約した能力者達が巻き込まれた事件である。
 ついでに、前回このお決まりの一文忘れてましたね。


『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
 突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
 二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
 つまりは、そういう部屋なのだろう。この部屋を作り出したと思わしき契約者の姿は見えない。見えないが、声は聞こえる。一方的に部屋の中の様子を見たり聞いたりできて、なおかつ声を届けることができるのだろう。
『くははははは!我が都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」は、問答無用に二人を閉じ込め、なんかかしらエッチな事をしないと決して出られない部屋を作り出す程度の能力!』
 どうやらその通りらしく、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声が響いた。問答無用、と言うのが本当かどうかはさておき、二人が閉じ込められたのは事実であり、宣言通りにエッチな事をしないと出られない事は確かなのだろう。
 ある種、実に厄介で悪趣味な能力だ。悪用されてはとんでもない。できれば、契約者は押さえておきたいところだが……果たして、契約者本人はどこにいるのか。
『さて、こうして閉じ込めたところで我は言うべき事がある!!』
 得意げな声。
 …………は、直後、実に素に戻ったかのような冷静な声になって告げる。
『なんで、男二人でこの部屋来ちゃったの???』

 そう言われてもなぁ、と言わんばかりの顔になる、「バロメッツ」の契約者と「舐めたら治る」の契約者。閉じ込められた身としては、そんな事を言われても困るのである。
「閉じ込めたのはそっちでしょう」
『いやいやいや。我は女子とそっちのちょっと線が細い感じの男子で閉じ込めようとしたんだよ?気の強そうな女子と線の細い男子の組み合わせヒャッハーって思っただけだよ?なんで、体鍛えられてる系男子と線細い系男子になってんの?なんで???』
「怪しい視線が二人に注いでたから、とりあえず彼女だけでも逃がそうと突き飛ばした結果かな」
 「エッチな事をしないと出られない部屋」の言葉に、なるほどと納得する「舐めたら治る」の契約者。怪しい視線に、とっさに「カマキリ男爵」の契約者を突き飛ばして正解だったようだ。女子がこのような被害にあうのは可哀想だから。
(突き飛ばして、こいつと並んだ状態になってここに閉じ込められたと思われるから……別々の場所にいる二人を閉じ込める、はできない。ある程度物理的に近い距離じゃないとダメなんだな。まぁ、閉じ込める条件がわかったとしても、今役には立たないが……)
 部屋中を観察しながら、「舐めたら治る」の契約者は思案する。閉じ込められた直後、とりあえず壁を破壊しようとしてみたが傷一つついていない。物理的な破壊は不可能なのかもしれない。
 「バロメッツ」の契約者が「バロメッツ」を呼び出そうとしたが、それもダメだった。二人を閉じ込める部屋であるが故、それ以上をこの部屋に出現させられないのか。
「どうしようか」
「そうだな、どうするか……」
『いや本当、貴様らどうするの?一回閉じ込めたら、我が意思で出してやるのも無理なんだけど??』
 なんて使い勝手が悪くて無責任な能力だろうか。他人と他人がエッチな事をしている現場を見たいがために手に入れたかの能力のようだが、使いこなしが難しいのだろう。一生使いこなさないでほしいし、使わないでほしい。
「この手の、条件を満たさないといけない能力は。本当に満たさないと解除できないからな」
「そうですね……」
 二人の契約者は、静かに考え込む。
 先だって、まず考えるべき、結論を出すべき事は。
「どのラインからが「エッチな事」に含まれるかだな」
『え、まず気にするのそこ??』
 ツッコミの声が聞こえた気がするがスルーする。
 何せ、子の部屋から脱出するためには、抑えておくべき大切な事なのだ。
「そうですね。世の中、手をつないだだけでエッチだ!と言う人もいますし」
『いやいやいやいやいやいやいや、流石にそこまで童貞くさい思考はしてない。手をつないだだけで出られるなら簡単すぎるからね??』
「あぁ。そして、単純にエッチな事をするといっても、どこまでやれば出られるか、も問題だ」
 「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の言葉など無視して、二人は話し合う。
 何せ男同士、出来ることは限られている。「セッ●スしないと出られない部屋」ではない為、そこまでしなくとも出られるとは思いたいが。果たしてどのラインから、どのラインまでエッチな事をすれば出られるのか。
『いや待って?と言うか君ら男同士だよね?そっちの線細い系男子は男子に間違いないよね喉仏もあるし。男同士でエッチな事するの?ためらいってもんはないの?』
「あと、片方が片方にやればそれで充分なのか、互いにやる必要あるのか、の問題もあるな」
『ねぇ無視?無視なの?話聞いて?こっちが発動している能力なんだよ?わからないならこっちに聞いて?君ら解放しないと新たなターゲット閉じ込められなくてこっちも困るの。お願い。聞いて?』
「まぁ、そこは互いに互いにエッチな事をすれば解決なので問題ないかと。片方だけで良くても、お互いにエッチな事をしあえば条件クリアですし」
『止めて?ねぇ止めて??男同士のエッチな事には興味ないんですお止めくださいお願いします!!!』
 いっそ必死な悲痛さすら溢れる「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声。
 しかして、「バロメッツ」の契約者と「舐めたら治る」の契約者は、仕方ないとでもいうような顔になり。
「……抜き合えば、まぁ条件クリアか」
「そうですね。それで充分でしょう」
『やめてぇええええええええ!!!!!お願いやめてっ!!!!ちょっと!!!ちょっとこの男子達の保護者!!保護者早く来て!!!!!!この子達止めてお願い!!!!!!!』
 悲鳴を丸っと無視したまま、二人はすとん、と、ためらいも躊躇もなく、キングサイズのベッドに腰かけて。
 ただただ、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の悲鳴が、盛大に響き渡り続けていた。


 翌日。
 「バロメッツ」の契約者も「舐めたら治る」の契約者も、何の問題もなく学校に登校してきていた訳だが。
 結局どうなったのかは、関係者のみが知る。



426 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/16(日) 23:33:18.95 ID:RfAQ+48wo
次世代ーズと単発の人乙でした
早渡も3年ぶりお久です。今後はイチャコラ展開大目で頼むぜ!!
FOXGIRLSの衣装は普通なんか。実はメンバー全員契約者だったりしない?
そして「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者よ、違うそうじゃない
あと行間で何かあったらしいからまさかと思って避難所の投下できないスレのレス数が増えてないか確認して特に何もなかったようなので安心したぜ!
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/17(月) 00:10:17.47 ID:gdn0kJNG0
承認して増やしてきた
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/17(月) 00:19:54.27 ID:xpzYGLRfo
いつの間にかレスが増えてる……誰がそこまでやれと言った!
さては投下できないスレのネタがメインディッシュだろ!
429 :安心したとの発言を見て急いで書いて増やしておいた年末年始単発マン [sage]:2022/01/17(月) 00:23:53.90 ID:gdn0kJNG0
>FOXGIRLSの衣装は普通なんか。
二の腕と腹筋は隠れるが太ももは隠しきれなかったふりふりひらひらアイドル衣装 〜狐耳と尻尾を添えて〜 を脳内に浮かべてやってください。
430 :女子を書いてバランスとりたい単発:友情は突然に [sage]:2022/01/17(月) 01:15:23.80 ID:gdn0kJNG0

 これは、都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者ではなく、都市伝説が契約はしないものの都市伝説契約者と出会った物語である。


 真夜中の高速道路。星空の下、もはや走る車などほとんどない時間帯。
 ごぉうっ、と鼓膜を揺さぶる。否。一歩間違えれば鼓膜を破壊しかねない轟音と共に、彼女は飛び回っていた。
「く…………っ、速い…………っ」
 「ミサイルにまたがる女子高生」は、かなりの速度を出して飛び回っているつもりだった。しかし、それは振り払われる事なく彼女を追いかけまわしてくる。
 バイクに乗った、首無しの男。「首無しライダー」である。どうやら契約者がいないようであり。そして、同時に語られる内容に忠実に振舞うタイプの個体のようだ。人間だけではなく、都市伝説に対してまで襲い掛かってくるのを見ると、かなり凶悪な個体と言えよう。
 そんな者に追いかけられ、「ミサイルにまたがる女子高生」は必死に考えていた。ミサイルと言う、あからさまに攻撃向きと思われる物体にまたがっている彼女ではあるが。戦闘行為は苦手だった。このミサイルは速度を出すために、飛び回る為にまたがっているだけであり、攻撃に使うという事まで思考が回らない。
 もっと高い位置まで飛んで振り払ってしまえばいいのかもしれないが……そうも、いかなかった。彼女は、「高速併走型怪奇現象」に分類される都市伝説。そうであるが故、道路から離れすぎた高い位置まで飛ぶことはできないのだ。そのせいで、「首無しライダー」を振り切る事ができない。
 何度かフェイントをかけてみたものの、見切られてしまって追いかけられる。
「っきゃ……!?」
 ごぅんっ!!と、飛ばされてきた道路標識をギリギリのところで避けた。あの「首無しライダー」は、道路標識で首を失った話で生まれてきたらしい。故にか、先ほどから無から道路標識を生み出し飛ばし、首を切り落とそうとしてくる。
「もう!私は戦いたくないの!スピードを極めたいの!!戦いたいならどっか行ってよーーー!!」
 半ば涙声で叫ぶのだが、「首無しライダー」は聞いてくれない。そもそも、首がない以上耳がないので聞こえないのかもしれない。
 長く続く追いかけっこ。どこまで続くかわからぬそれに終止符を打つ合図は。

 パパパー!パパパー!パパパパパー!!!

 高らかと鳴り響いた、トランペットの音。
 え、と「ミサイルにまたがる女子高生」が音の発生源を確かめようとすると、それは彼女と「首無しライダー」に負けないスピードで二人の真横を走り抜けた。
 パッパカパッパッパッパッパー!
 バイクを走らせる男。その後ろに、ちょんっ、とトランペットを吹き鳴らす少年が座っている。決してバランスを崩すことなく、クラシックで聞き覚えがある気がする曲をトランペットで演奏していた。
 パッパー!パッパー!パッパー!パパパー!!
 トランペットの音が不快だったのか、それとも、抜き去られたのが不快だったか。「首無しライダー」はターゲットを切り替えた。
 次々と道路標識を生み出し、射出を開始する。
「……っ駄目!危ないから、逃げて!!」
 見も知らずの相手ではあるが。目の前で犠牲になりそうとなると流石に心配になる。
 が、「ミサイルにまたがる女子高生」の心配とは裏腹に、トランペットを吹き鳴らす少年が乗ったバイクの運転手は射出される道路標識に首を切り落とされる事なく走り抜けていく。
 向かう先は高速道路のインターチェンジ付近。ぎゃりぎゃりと嫌な音を立てながらも、それに負けないトランペットの音が辺りに響く。
 バイクはそのまま、料金所を走り抜けていって。「首無しライダー」のバイクも、それを追いかけて。
「あ…………」
 「ミサイルにまたがる女子高生」には、見えた。料金所へと「首無しライダー」が飛び込んだ瞬間。「首無しライダー:が燃え上がったのを。
 待ち構えていたのであろう女性が、決死の表情で「首無しライダー」を睨みつけていたのを。
 首がないが故、悲鳴は上がらない。「首無しライダー」は倒れ込み、のたうち回って火を消そうとする。が、消えない。消えてくれない。発火したのは、発火の元となったのは「首無しライダー」自身。だから、いくら苦しんでも消えない。
 炎は「首無しライダー」を完全に包み込み、燃え盛り。そして、「首無しライダー」ごと、消えた。


「……今度こそ死ぬかと思った」
 パラッパー。
「すみません。私じゃ、「首無しライダー」を追いかける手段がなくて……」
「まぁ、こっちの運転するバイクにあんたを乗せる余裕はなかったしなぁ」
 ぐったりしている「トランペット小僧」の契約者に、「人体発火現象」の契約者が申し訳なさげに声をかける。
 「下水道の白いワニ」の契約者と違い、申し訳なさそうにしてきたので「トランペット小僧」の契約者は彼女を許した。実にちょろい。
 そうしてから、見上げた。「ミサイルにまたがる女子高生」を。
「追いかけられてたようだけど、怪我は?」
「私は大丈夫。そちらこそ、道路標識がかすったりしてない?」
「かすってたら多分死ぬんだよなぁ。俺だと」
 パッパッパー。
 契約者の言葉に、「トランペット小僧」は同意するようにトランペットを鳴らす。「トランペット小僧」はいつだってトランペットで己の意見を伝えるのだ。契約者の青年ですら、一度も「トランペット小僧」の声を聞いたことがない。
「えぇっと……あなたは、どういう都市伝説の契約者なんですか?」
「あ、私は都市伝説そのもの。「ミサイルにまたがる女子高生」よ」
 「ミサイルにまたがる女子高生」の言葉に、「人体発火現象」の契約者がほんの少し、体をこわばらせた。
 そんな様子を、「トランペット小僧」の契約者が制する。
「こうして会話が成立してるし、「首無しライダー」から逃げ回ってた。インパクトはともかく、人を襲う様子はなさそうだ」
「うんうん。襲わないよ。私はただ、みんなと一緒にスピードを極めたいだけ」
「あ、スピード狂だこれ」
 スピード狂と言う言葉はむしろ誉め言葉なのか、「ミサイルにまたがる女子高生」は喜びに満ちた笑みを浮かべた。
 そして、「トランペット小僧」の契約者を、キラキラと見つめる。
「運転技術とか、高速並走型怪奇現象系とかの都市伝説と契約している訳でもないのに「首無しライダー」相手に追いつかれないなんて!すごいすごい!!ね、ね、私と競争しない?」
「疲れてるんで勘弁してほしい」
 パパパパー。
「それじゃあ明日!明日競争しましょう!なんだったら友達も呼ぶから!」
「勘弁してほしい」
 パカパッパッパー。
 心底ぐったりした様子の「トランペット小僧」の契約者と、競争心に火が付いた「ミサイルにまたがる女子高生」。
 二人の様子になんだかおもしろくない物を、「人体発火現象」の契約者は感じていた。



431 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/17(月) 13:01:42.41 ID:YHWbgZNmo
FOXGIRLS、これ、全員契約してる奴やん

エッチなことをしないと出られない部屋……すばらしい
しかし、そうじゃない。そうじゃないんだ……なんで閉じ込めたのが野郎二人……
ミサイルにまたがる女子高生ちゃんを背後から眺めて癒されるしかないな
432 :単発と連載の間:野郎しか入ってくれなくて泣いてるエッチな以下略契約者がいるんですよ! [sage]:2022/01/17(月) 17:51:49.41 ID:gdn0kJNG0

 これは、都市伝説と戦う為ではないが都市伝説と契約し悪事を働き、目論見通りにならずともめげずに頑張る者が起こした物語である。


『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
 突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
 二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
 コピペで手抜きをするのはここまでとしよう。「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者は、今度こそ男女を閉じ込めてエッチな事をする様子を観察しようとしたに違いない。しかし。
『どうしてまたどっちも男子なんだよォオオオ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!』
「叫ばれてもこちらが困る」
 声がどこから響いているのかわからない為、どこを睨みつければいいものかなどと思いつつ。「無限廊下」の契約者は表情を険しくする。
 生徒から、このような都市伝説の使い手が悪さをしているようだという話は聞いていた。聞いてはいた。
 不審な視線を感じた際、とっさに傍に居た教え子……「お風呂坊主」の契約者と距離をとった。そこまでは正解だったはずだ。
 しかし、だ。
「なるほど、君が教えてくれようとしていた都市伝説とは、これか」
 のほほん、と危機感など欠片も感じていない様子の友人へと剣呑な視線を向ける。確かに、彼もまた都市伝説の契約者。
 都市伝説の契約者は、どうしても都市伝説と関わりやすいし巻き込まれやすい。だから、この不埒な都市伝説に関しても伝えるつもりだったのだ。
 メールですませるべきだった。そんな後悔は手遅れである。
『どうして…………教師と教え子な雰囲気だったから、禁断の教え子×教師的なエッチな光景を見たかっただけなのに……どうして……』
「生徒とそんな事になってたまるか」
『謝れ!!!世界中の教師と教え子で成立した夫婦に謝れ!!!!!!!』
 泣きが入っている「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。だがもとはと言えば、狙いを外した「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者が悪い。期待してくれた読者にも大変と失礼だ。
 だがこれが現実である。悲しいが現実の状況がこれなのでどうにかするしかない。
 「エッチな事をしないと出られない部屋」は、問答無用でターゲットを閉じ込めてしまう代わりに、条件を満たさなければ決して部屋から出ることができない。そして、部屋にいる二人がどうにかならないと新たなターゲットを引き込めないのだ。
 それが何を意味するか。今現在、この部屋に閉じ込められた成人男子二人がエッチな事をしないとどうにもならないという事実。現実はいつだって無情で非情だ。「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者は泣いていい。自業自得だが。
(とにかく。脱出手段を考えねば)
 何せ、自分達はどちらも戦闘向きの都市伝説ではない。「無限廊下」は異空間制御系に分類されるものであろうが、その名称の通り廊下でなければ発動できない。部屋である仔の場所では発動不可能だ。
 友人の契約都市伝説も、転移系や異空間制御系ではない。どちらの契約都市伝説の力をもってしても、この場所の脱出には有効に使用する事はできない。と、なると。残された手段は。
「条件を満たせば出られるんだね?」
「あぁ、教え子からはそう聞いて……っ!?」
 とんっ、と。軽く押されて、「無限廊下」の契約者はベッドの上に倒れ込んだ。
433 :単発と連載の間:野郎しか入ってくれなくて泣いてるエッチな以下略契約者がいるんですよ! [sage]:2022/01/17(月) 17:53:31.58 ID:gdn0kJNG0
 ベッドがきしむ音がする。友人はいつも仕事場で浮かべているのであろう笑みを浮かべてのしかかってきた。
「……おい?」
「はい、うつぶせになってくださいねー」
 逃げ出そうとするより早く、体勢を変えさせられた。うつぶせから起き上がろうとしても、背中に触れてくる手がそれを許さない。
『…………へい?穏やかそうなイケメンお兄さんの方?何なさろうとしてます?』
「最後までと言うか本格的にしないといけないと躊躇するけれど。「エッチな事」と曖昧であれば躊躇はいりませんね」
『いや、躊躇して??男同士だよ??お願い躊躇して???この間の男子高生二人と言いなんで躊躇0なの??』
「……この状況を作り出した犯人と意見が重なるのは至極屈辱だが。躊躇なく、こちらの了承も得ずに何をしようと…………っ!?」
 指先が、触れてくる。くすぐるような動きに漏れ出しそうになった声をすんでのところで抑え込んだ。
 動く、蠢く。布越しとはいえ、与えられる刺激は適格だ。仕事柄人体の弱い所を熟知しているだろう指は迷うことなく急所を見つけ出し、責め立ててくる。
「……ぅ、ぐ、んん……っ」
「はい力抜いてー。声我慢しないでー」
「ゃ、め…………っひ!?ば、か、止め、ひぐっ!?」
『いやぁあああああああああああ成人男子ボイスなのに色っぽい!!??くっそ中の声がダイレクトに耳元に届くのきつい!きっっっっつい!!!』
 「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の悲鳴が響き渡るが、それすら耳に届かなくなりかけている。与えられる刺激に、思考が飛びかけるのをギリギリ抑え込む。
「さっさと部屋から出る為なんだから……ちゃんと、協力、して?」
 耳元で囁きかけてくる声は。さぞや、女性客から喜ばれる声なのだろう。
 が、男としてはそんな声で囁かれても悪寒を感じるだけである。そうだというのに、指先の動きは、その悪寒すら塗りつぶし。
「たくさん、声を響かせてくださいね」
 死刑宣告のような発言の直後。本気の責めが、始まった。


 で、だ。
「どうやって脱出したんです?」
「くすぐったさ優先のマッサージをしただけですが」
 「お風呂坊主」の契約者からの連絡で現場に急行した「黒マント」に飲まれた黒服は、無事脱出した「無限廊下」の契約者と、その友人だという整った顔立ちの男性から事情聴取を行っていた。
 「無限廊下」の契約者たる教師は、息も絶え絶えに、紅潮した顔でぐったりしている。「お風呂坊主」の契約者はイケナイものが目覚めそうになっているのか、なるべく直視しないようにしていた。それで正解だ。
「仕事上、まぁその辺りはわかってますのでね。いやらしい声が響くマッサージが「エッチな事」カウントされて良かったと思います」
「……お前…………覚悟しておけよ……」
「後で全身の「業」を抜き取ってあげるから勘弁してくださいね」
 悪気は一切なく、半ば殺意すら混じった「無限廊下」の契約者の言葉に、友人……「温泉街の按摩さん」の契約者たるマッサージ師はにっこり笑って見せた。
 ……下手に男女が閉じ込められるよりはマシだった。の、だろう。多分。そう思うしかないのだろう。
 黒服はいまだ視線をそらし続けている「お風呂坊主」契約者をどう正気に戻そうか考えつつ、今後の対応に静かに頭を悩ませた。
















「……女性の「業」の方が個人的には美味だと思うんですがね。仕方ない」
「お前のゲテモノ食いの好みはどうでもいいし口に出すな」


434 :単発:幸運の招き猫 [sage]:2022/01/18(火) 15:57:24.62 ID:NSGYhJoS0

 これは、都市伝説と戦う為に契約したのではなく、契約している自覚すらない者とうっかり契約しちゃった都市伝説の物語である。


 クロとの出会いは、出会いらしい出会いと言えるかどうかわからない。
 うちの庭にいつの間にか居ついていたのだ。餌を与えている訳でもないのに、どこからか庭に入り込んで日向ぼっこしていた。
 ある日、台風が来るというので。風にさらわれて怪我でもしたら可哀想と思って家に入れたら「自分、前からここに住んでましたよね」と言わんばかりの態度でそのまま居ついてしまった。びっくりするほど警戒心がない。野生とは何であったのか。
 ただ、クロは自分にとって「幸運の招き猫」と呼べる存在だろう。クロが庭に居ついてから、何かと不幸続きだった我が家は幸運が舞い込み始めた。
 浮気とか浮気とか浮気とかが原因で離婚寸前だった両親は、何やら痛い目にあったらしい母がとうとう己の非を全面的に認めて浮気を止めて仲がなんとかなった。事業がうまくいっていなかった父は、事業が軌道に乗ってくれて仕事がうまくいくようになった。売り払うしかないと名k場諦めていた家を手放すことはなくなり、色々と我が家は豊かになった。
「ありがとうなー、クロ。お前は招き猫だな」
 こちらの言葉に、クロはにゃーん?と不思議に思っているような返事をした。
 飼い主のひいき目と言われるかもしれないが、クロは結構賢くて人間の言う事を大体理解している。
「招き猫だからって訳じゃないけど、お前には長生きしてほしいな」
 にゃーん。
「だから、ちゃんと明日は動物病院に予防接種に行こうな」
 …………。
 うん、やっぱり、こちらの言う事を理解している。動物病院とか予防接種とか。聞きたくない単語が出たとたん、耳を倒して目を閉じて聞かないふりをしている。その癖して、顎の下を撫でてやればゴロゴロゴロとご機嫌に喉を鳴らすのだが。
「予防接種は大事だからなー?あと、健康診断もな。お前、オムレツ盗み食いするの本当止めような。クロ用に味付けなしで作ってやってるんだから、人間用盗み食いは本当止めてくれ」
 ゴロゴロゴロゴロゴロ、と、喉を鳴らしながらクロは寝たふりを開始した。こんなに喉を鳴らした寝たふりがあるか。
 だが本当、健康診断は大事だ。クロはなぜかオムレツが大好きで、人間用に作ったオムレツまで盗み食いしようとしてくる。猫の体には悪いからと、クロ用に特別にオムレツを作っても。足りないのか奪い取ろうとしてくる。それくらいに大好きだ。
 家に来た頃にはもうオムレツが好きだったから、もしかしたら、家に来る前にどこかで食べたことがあったのだろうか。
「お前の為なんだからなー?わかってくれよー?」
 こうして説得すれば、なんだかんだ逃げずに動物病院まで連れていかれてくれるのだから。いい子である事には変わりないのだろう。
 あぁ、本当、クロには長生きしてほしい。


 契約者……契約者よ……。
 いや、契約した事すら自覚がないであろう我が主よ……。
 我はただの黒猫に非ず。我が名は「アイトワラス」。バルト三国が一つリトアニアにて生まれし存在である。
 故郷にて「教会」を始めとしたいくつかの団体に追いやられ、逃げるように船に乗り込みこの遠い島国までやってきた。
 ただの猫のふりをして主の家にて居座り、家にあげられ名付けられたのをいいことに勝手に契約を結びし愚か者でもある。
 我が追いやられたには理由あり。我は富をもたらす者。さりとて、その富は他者より奪い取りしものである。
 本来ならば牛乳や穀物、金品を隣家より盗み出し、飼い主の家にため込み豊かにさせるだけの力。それは契約により力を増し、他者の幸運を奪い取り主に与えしものとなった。
 故に、我が主の幸運は、我が主が言う通り我によるものであり。我が主にとって我が「招き猫」である事には変わりないのだろう。
 ……だが。この幸運が、他者から奪い取ったものであるのだと知ったら。知ってしまったら。我が主はどうするのだろうか。
 我は、このまま、我が主の元にあり続ける事ができるのだろうか。
 本来、我は一度住み着いた家からはそうそう離れる存在ではない。追い出すのは困難であると語られている通りに。
 だが、契約が結ばれ多少は逸話から逸脱できる。その気になれば、離れる事もできる……離れて、契約を解除する事が、できるのだろう。
 あぁ。あぁ。それでもだ。
 ここは酷く居心地がいいのだ。何も知らず、ただの猫であると思って可愛がってくれる我が主がどうしようもなく愛おしく、我が傍に居て護らねばならぬと強く思うのだ。
 我が主よ。己の正体を明かす事すらできず、他者から奪うという罪深き行為でしか主を幸福にできぬ我を許さずとも良い。
 せめて、この命が終わるまで。この力は全て、我が主のためにだけに振るわせてもらおう。



435 :単発:幸運の招き猫 [sage]:2022/01/18(火) 21:54:15.36 ID:NSGYhJoS0

 これは、決してあきらめない都市伝説契約者の想いと願いが、ついに叶った物語である。


『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
 突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
 二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
 ここまでのコピペをまたやる羽目になるとは思わなかったが現状はこうとしか言いようがない。他に適切な出だしが思い浮かばないのだから仕方ないとしよう。
『くくくくくくくく…………やったっ!!ついにやったぞっ!!!!!男女の組み合わせで引きずり込むのに成功ヒャッハーーーー!!!』
「滅びればいいのに」
 ハイテンションな「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声を聞きながら、「カマキリ男爵」の契約者は殺意をみなぎらせていっていた。
 完全なる油断。このような不埒な都市伝説契約者が悪事を働いているのはわかっていたというのに……!
「四十六時中警戒し続ける訳にもいかないとは言え、完全に油断したな」
 壁の強度を軽く確認しながら、「舐めたら治る」の契約者はぼやいた。
 そう、とうとう、「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者と読者諸君にとっては念願の、男女の組み合わせでの「エッチな事をしないと出られない部屋」である。
 クラスメイトの男女。都市伝説契約者同士と言う秘密の共有と連帯感。共闘した事もある仲。
 「カマキリ男爵」の契約者としては、「舐めたら治る」の契約者は多少なりとも、異性として意識する相手ではある。
 あるのだが……いや、あるからこそ。このような部屋に二人で閉じ込められてしまった際、余計にその意識は加速する。
「…………強度は変わりなさそうだし。やっぱり条件を満たさないとダメか」
「条件……」
 脱出条件。「エッチな事」。条件はわかっているのである。
 あとは、実行するだけなのだが。流石に気軽に実行するには勇気とか色々と足りない。
「仕方ない。とりあえず胸を揉むでいい?」
「何がとりあえずなの!!!???」
 躊躇なき「舐めたら治る」の契約者の発言に、「カマキリ男爵」の契約者は全力全霊にてツッコミを入れた。
 彼女は悪くない。何一つ悪くない。「舐めたら治る」の契約者にデリカシーとか乙女心を理解する力とか色々と足りない。躊躇しない意志は足りている。
「え。だって、流石に胸を揉むのは「エッチな事」に含まれるだろ」
「そうだろうけど!!??」
「いやらしい声が出る感じのマッサージでも開いたらしいけど。俺はスポーツマッサージはともかくそういうのはできる自信がないし。かと言ってスカートめくりでは「エッチな事」レベルが低すぎて扉が出ない予感がする」
「「エッチな事」レベルって何!!!???」
『まぁ、確かにスカートめくり程度で脱出はできない事になってはいるが』
 ハイテンションから冷静さが戻ってきたらしい「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者からツッコミが響いたがひとまずスルーとする。いつか殴る。むしろ鎌で引き裂く。
 それよりも問題は。さりげなくかつ確実に「舐めたら治る」の契約者が距離を詰めてきている事実だ。
「あんた、女の胸を揉むって行為に躊躇ないの!!??」
「脱出条件満たせるなら躊躇する必要はないよ。時間を無駄に浪費するのもどうかと思うし」
「くそっ!!
436 :単発:幸運の招き猫 [sage]:2022/01/18(火) 21:57:07.16 ID:NSGYhJoS0
 これは、決してあきらめない都市伝説契約者の想いと願いが、ついに叶った物語である。


『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
 突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
 二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
 ここまでのコピペをまたやる羽目になるとは思わなかったが現状はこうとしか言いようがない。他に適切な出だしが思い浮かばないのだから仕方ないとしよう。
『くくくくくくくく…………やったっ!!ついにやったぞっ!!!!!男女の組み合わせで引きずり込むのに成功ヒャッハーーーー!!!』
「滅びればいいのに」
 ハイテンションな「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声を聞きながら、「カマキリ男爵」の契約者は殺意をみなぎらせていっていた。
 完全なる油断。このような不埒な都市伝説契約者が悪事を働いているのはわかっていたというのに……!
「四十六時中警戒し続ける訳にもいかないとは言え、完全に油断したな」
 壁の強度を軽く確認しながら、「舐めたら治る」の契約者はぼやいた。
 そう、とうとう、「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者と読者諸君にとっては念願の、男女の組み合わせでの「エッチな事をしないと出られない部屋」である。
 クラスメイトの男女。都市伝説契約者同士と言う秘密の共有と連帯感。共闘した事もある仲。
 「カマキリ男爵」の契約者としては、「舐めたら治る」の契約者は多少なりとも、異性として意識する相手ではある。
 あるのだが……いや、あるからこそ。このような部屋に二人で閉じ込められてしまった際、余計にその意識は加速する。
「…………強度は変わりなさそうだし。やっぱり条件を満たさないとダメか」
「条件……」
 脱出条件。「エッチな事」。条件はわかっているのである。
 あとは、実行するだけなのだが。流石に気軽に実行するには勇気とか色々と足りない。
「仕方ない。とりあえず胸を揉むでいい?」
「何がとりあえずなの!!!???」
 躊躇なき「舐めたら治る」の契約者の発言に、「カマキリ男爵」の契約者は全力全霊にてツッコミを入れた。
 彼女は悪くない。何一つ悪くない。「舐めたら治る」の契約者にデリカシーとか乙女心を理解する力とか色々と足りない。躊躇しない意志は足りている。
「え。だって、流石に胸を揉むのは「エッチな事」に含まれるだろ」
「そうだろうけど!!??」
「いやらしい声が出る感じのマッサージでも開いたらしいけど。俺はスポーツマッサージはともかくそういうのはできる自信がないし。かと言ってスカートめくりでは「エッチな事」レベルが低すぎて扉が出ない予感がする」
「「エッチな事」レベルって何!!!???」
『まぁ、確かにスカートめくり程度で脱出はできない事になってはいるが』
 ハイテンションから冷静さが戻ってきたらしい「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者からツッコミが響いたがひとまずスルーとする。いつか殴る。むしろ鎌で引き裂く。
 それよりも問題は。さりげなくかつ確実に「舐めたら治る」の契約者が距離を詰めてきている事実だ。
「あんた、女の胸を揉むって行為に躊躇ないの!!??」
「脱出条件満たせるなら躊躇する必要はないよ。時間を無駄に浪費するのもどうかと思うし」
「くそっ!!秒すら躊躇してくれない!普段からこうだったわくそっ!!!」
 「カマキリ男爵」が聞いていたら「お下品ですよ」と怒られそうな勢いで叫びちらす。
 そうだ、「舐めたら治る」の契約者はそもそも普段から一切合切躊躇を見せないではないか。
 だからこそ、普段から怪我をするたびに舐められて……………………。
「………………普段されてる事の方がずっとエッチだーーーーーっ!!!!????」
『えっ、君達どういう仲???もう一線超えてた????』
「超えてないっ!!!!!!ただ舐められただけ…………だけじゃないっ!!!???「だけ」ですませていい事じゃないわ畜生!!!!!!」
「ただの治療行為だろ」
437 :単発:幸運の招き猫 [sage]:2022/01/18(火) 21:58:23.10 ID:NSGYhJoS0
 これは、決してあきらめない都市伝説契約者の想いと願いが、ついに叶った物語である。


『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
 突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
 二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
 ここまでのコピペをまたやる羽目になるとは思わなかったが現状はこうとしか言いようがない。他に適切な出だしが思い浮かばないのだから仕方ないとしよう。
『くくくくくくくく…………やったっ!!ついにやったぞっ!!!!!男女の組み合わせで引きずり込むのに成功ヒャッハーーーー!!!』
「滅びればいいのに」
 ハイテンションな「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声を聞きながら、「カマキリ男爵」の契約者は殺意をみなぎらせていっていた。
 完全なる油断。このような不埒な都市伝説契約者が悪事を働いているのはわかっていたというのに……!
「四十六時中警戒し続ける訳にもいかないとは言え、完全に油断したな」
 壁の強度を軽く確認しながら、「舐めたら治る」の契約者はぼやいた。
 そう、とうとう、「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者と読者諸君にとっては念願の、男女の組み合わせでの「エッチな事をしないと出られない部屋」である。
 クラスメイトの男女。都市伝説契約者同士と言う秘密の共有と連帯感。共闘した事もある仲。
 「カマキリ男爵」の契約者としては、「舐めたら治る」の契約者は多少なりとも、異性として意識する相手ではある。
 あるのだが……いや、あるからこそ。このような部屋に二人で閉じ込められてしまった際、余計にその意識は加速する。
「…………強度は変わりなさそうだし。やっぱり条件を満たさないとダメか」
「条件……」
 脱出条件。「エッチな事」。条件はわかっているのである。
 あとは、実行するだけなのだが。流石に気軽に実行するには勇気とか色々と足りない。
「仕方ない。とりあえず胸を揉むでいい?」
「何がとりあえずなの!!!???」
 躊躇なき「舐めたら治る」の契約者の発言に、「カマキリ男爵」の契約者は全力全霊にてツッコミを入れた。
 彼女は悪くない。何一つ悪くない。「舐めたら治る」の契約者にデリカシーとか乙女心を理解する力とか色々と足りない。躊躇しない意志は足りている。
「え。だって、流石に胸を揉むのは「エッチな事」に含まれるだろ」
「そうだろうけど!!??」
「いやらしい声が出る感じのマッサージでも開いたらしいけど。俺はスポーツマッサージはともかくそういうのはできる自信がないし。かと言ってスカートめくりでは「エッチな事」レベルが低すぎて扉が出ない予感がする」
「「エッチな事」レベルって何!!!???」
『まぁ、確かにスカートめくり程度で脱出はできない事になってはいるが』
 ハイテンションから冷静さが戻ってきたらしい「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者からツッコミが響いたがひとまずスルーとする。いつか殴る。むしろ鎌で引き裂く。
 それよりも問題は。さりげなくかつ確実に「舐めたら治る」の契約者が距離を詰めてきている事実だ。
「あんた、女の胸を揉むって行為に躊躇ないの!!??」
「脱出条件満たせるなら躊躇する必要はないよ。時間を無駄に浪費するのもどうかと思うし」
「くそっ!!秒すら躊躇してくれない!普段からこうだったわくそっ!!!」
 「カマキリ男爵」が聞いていたら「お下品ですよ」と怒られそうな勢いで叫びちらす。
 そうだ、「舐めたら治る」の契約者はそもそも普段から一切合切躊躇を見せないではないか。
 だからこそ、普段から怪我をするたびに舐められて……………………。
「………………普段されてる事の方がずっとエッチだーーーーーっ!!!!????」
『えっ、君達どういう仲???もう一線超えてた????』
「超えてないっ!!!!!!ただ舐められただけ…………だけじゃないっ!!!???「だけ」ですませていい事じゃないわ畜生!!!!!!」
「ただの治療行為だろ」
 なんでそんな反応するんだと言わんばかりの「舐めたら治る」の契約者。こんな反応するに決まっているじゃないか。
438 :エンターキー暴走につき連続中途半端投稿してしまいました申し訳ない [sage]:2022/01/18(火) 21:59:32.17 ID:NSGYhJoS0
えっちどあいがんばってますのでおゆるしください。
439 :単発:単発:幸運の招き猫に誤字脱字見つけたのでお詫びで書こうとしたら連続で馬鹿な事やらかしたんですよ [sage]:2022/01/18(火) 23:05:21.56 ID:NSGYhJoS0


 これは、決してあきらめない都市伝説契約者の想いと願いが、ついに叶った物語である。


『くくく……我こそは都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者。そして貴様らがいるその部屋は、「エッチな事をしないと出られない部屋」……』
「「都市伝説「エッチな事をしないと出られない部屋」!!??」」
 突然の説明台詞であるが、つまりはそういう事だ。
 二人は、突如として壁も床も天井も真っ白な部屋に閉じ込められてしまっていた。室内には出入口らしきものはない。あるのは大きなキングサイズベッドと、なんか色々入っているのであろうなと言うベッドサイドチェストだけ。
 ここまでのコピペをまたやる羽目になるとは思わなかったが現状はこうとしか言いようがない。他に適切な出だしが思い浮かばないのだから仕方ないとしよう。
『くくくくくくくく…………やったっ!!ついにやったぞっ!!!!!男女の組み合わせで引きずり込むのに成功ヒャッハーーーー!!!』
「滅びればいいのに」
 ハイテンションな「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声を聞きながら、「カマキリ男爵」の契約者は殺意をみなぎらせていっていた。
 完全なる油断。このような不埒な都市伝説契約者が悪事を働いているのはわかっていたというのに……!
「四十六時中警戒し続ける訳にもいかないとは言え、完全に油断したな」
 壁の強度を軽く確認しながら、「舐めたら治る」の契約者はぼやいた。
 そう、とうとう、「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者と読者諸君にとっては念願の、男女の組み合わせでの「エッチな事をしないと出られない部屋」である。
 クラスメイトの男女。都市伝説契約者同士と言う秘密の共有と連帯感。共闘した事もある仲。
 「カマキリ男爵」の契約者としては、「舐めたら治る」の契約者は多少なりとも、異性として意識する相手ではある。
 あるのだが……いや、あるからこそ。このような部屋に二人で閉じ込められてしまった際、余計にその意識は加速する。
「…………強度は変わりなさそうだし。やっぱり条件を満たさないとダメか」
「条件……」
 脱出条件。「エッチな事」。条件はわかっているのである。
 あとは、実行するだけなのだが。流石に気軽に実行するには勇気とか色々と足りない。
「仕方ない。とりあえず胸を揉むでいい?」
「何がとりあえずなの!!!???」
 躊躇なき「舐めたら治る」の契約者の発言に、「カマキリ男爵」の契約者は全力全霊にてツッコミを入れた。
 彼女は悪くない。何一つ悪くない。「舐めたら治る」の契約者にデリカシーとか乙女心を理解する力とか色々と足りない。躊躇しない意志は足りている。
「え。だって、流石に胸を揉むのは「エッチな事」に含まれるだろ」
「そうだろうけど!!??」
「いやらしい声が出る感じのマッサージでも開いたらしいけど。俺はスポーツマッサージはともかくそういうのはできる自信がないし。かと言ってスカートめくりでは「エッチな事」レベルが低すぎて扉が出ない予感がする」
「「エッチな事」レベルって何!!!???」
『まぁ、確かにスカートめくり程度で脱出はできない事になってはいるが』
 ハイテンションから冷静さが戻ってきたらしい「エッチな事をしないと出られない部屋」契約者からツッコミが響いたがひとまずスルーとする。いつか殴る。むしろ鎌で引き裂く。
 それよりも問題は。さりげなくかつ確実に「舐めたら治る」の契約者が距離を詰めてきている事実だ。
「あんた、女の胸を揉むって行為に躊躇ないの!!??」
「脱出条件満たせるなら躊躇する必要はないよ。時間を無駄に浪費するのもどうかと思うし」
「くそっ!!秒すら躊躇してくれない!普段からこうだったわくそっ!!!」
 「カマキリ男爵」が聞いていたら「お下品ですよ」と怒られそうな勢いで叫びちらす。
 そうだ、「舐めたら治る」の契約者はそもそも普段から一切合切躊躇を見せないではないか。
 だからこそ、普段から怪我をするたびに舐められて……………………。
「………………普段されてる事の方がずっとエッチだーーーーーっ!!!!????」
『えっ、君達どういう仲???もう一線超えてた????』
「超えてないっ!!!!!!ただ舐められただけ…………だけじゃないっ!!!???「だけ」ですませていい事じゃないわ畜生!!!!!!」
「ただの治療行為だろ」
 なんでそんな反応するんだと言わんばかりの「舐めたら治る」の契約者。こんな反応するに決まっているじゃないか。
 冷静に考えて、いや、冷静に考えずとも。胸を揉まれる事よりも全身舐めまわされる事の方がエッチだ。「舐めたら治る」の契約者にとっては治療行為なのであろうが、される方としてはエッチな事としか認識できない。
 そうだ。「舐めたら治る」の契約者が治療行為だというから現実から目を背け続けてきていたが。エッチなのだ。自分は、怪我するたびにこの男にエッチな事をされているのだ。
 一度意識してしまえば、そこから意識がそれてくれない。「舐めたら治る」の契約者が男性相手でも平気で同じ治療を行う事実も現実として存在しているのだが、一つの事に意識が囚われてしまったが故にそこまで考えが至らない。
「どうした?赤くなって」
「あ……」
 思考が固まった隙に、「舐めたら治る」の契約者は「カマキリ男爵」の契約者の目の前まで来ていた。そっと額に触れてくる手つきは優しい。
「……少し熱いが、熱って程でもないか」
「ぁ、う」
「体調悪いんなら、さっさとこんな部屋出るべきだな」
「あっ」
 くるりっ、と体勢を入れ替えさせられる。向き合う体勢から、後ろから抱きすくめられるような体勢に。
440 :単発:単発:幸運の招き猫に誤字脱字見つけたのでお詫びで書こうとしたら連続で馬鹿な事やらかしたんですよ [sage]:2022/01/18(火) 23:06:31.17 ID:NSGYhJoS0
「まっ」
 て、と言う言葉は最後まで続かず。
「ひゃんっ!?」
 むにっ、と。「カマキリ男爵」の契約者のたわわなCカップに遠慮も躊躇もなく手が伸びてきて、その手によって緩やかに胸の形が変わる。
 むにゅ、むに。手が動くたび、体中を甘い痺れのようなものが走る。
「痛くないか?」
「い、痛くはない、けどっ」
「うん、これくらいの力でいいのか」
 違う、そうじゃない。力が入りすぎていないか気を使ってくれたのだろうけれど、そうじゃ、なくて。
 服越しに触れてくる手。直接触られている訳ではない。普段怪我した際に舐められる事の方が客観的じゃなくてもエッチな事のはず。
 そのはずなのだが、今回は「エッチな事」と意識しての行為なのだ。いつものように「治療行為」として行われている事ではない。
 だからなのか。だから余計に、いつもと違って変な気持ちになってしまう。
「あ……ふぁあ…………ゃ、なんか、変……っ」
「まだ扉が出てない」
「ひんっ!?さ、き、やぁっ!?」
 後頭部に、熱がたまっていくような錯覚。下着とブレザー越しに触れてくる手は止まらない。少しばかり先を意識するようにくりくりと人差し指で押しつぶされて、足の力が抜けそうになる。
 多分、意識していない相手であればここまでならない。ここまで体の奥が熱くなるのは、多少なりとも意識をしているから。
 疑いようなく、好意を、恋愛感情を持っているのだと自覚してしまった。きっとあちらは、欠片もそんな風に思ってくれてはいないだろうと。そこもわかっているだけに、自覚した想いが痛くて苦しい。
「……あ、ん……っ!あぁ…………も、ぅ」
 胸の先を弄ばれながら、胸全体を揉みしだかれる。
 思考と体がリンクしなくなってきた。後頭部がピリピリと熱い。体中をぐずぐずの熱が走り抜ける。後頭部に収まりきらなかった熱は、今度は、下腹部へと集中しだして……。
「…………お、開いた」
「ぁ」
 ぱっ、と。その責めは唐突に終わった。快楽を与えてきていた手はあっけなく離れていく。
 もう、立っていられない。へなへなと座り込んで荒く呼吸しながら「舐めたら治る」の契約者の視線の先を確認する。
 確かに、そこには扉が現れていた。条件をクリアしたとみなされたらしい。
 こんな、中途半端な、状態で。
「ごめんな。嫌だっただろ。大丈夫か?」
 「カマキリ男爵」の契約者の想いには、案の定、欠片も気づいていない様子で。「舐めたら治る」の契約者はしゃがみ込んで彼女の顔を覗き込む。
 気遣う表情と視線に、後頭部にたまっていたぴりぴりじんじんとした熱が、ぱぁんっ、とはじけた。


「あ」
 目の前で、「カマキリ男爵」の契約者は意識を失ってしまった。
 まいったな、と思いながら「舐めたら治る」の契約者はその体を抱き上げる。
「さすがに、好きでもない相手から胸を揉みしだかれるのはショックが大きかったか」
 それは違うよ!と「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者であればツッコミを入れてくれた事だろう。
 が、すでに脱出条件を満たしているが故、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者は部屋の中を確認できずツッコミを入れてやることができない。
(報告……は、しなくてもいいか。彼女もこんな体験したのを人に知られたくはないだろうし。とりあえず、家に送ってやらないと)
 「カマキリ男爵」の契約者の体を抱きかかえたまま、部屋を出る。
 部屋を出れば、閉じ込められる直前まで二人でいた公園に出た。時間はそこまで経ってない。茜色の夕焼け空はそのままだ。
 注意深く辺りの様子を伺ってみたが、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者らしき気配はない。逃げられたか。
「いい加減、誰かなんとかしてくれないかな」
 自分でも、犯人見つけたら一発二発、技をかけても許されるだろうな、と。
 気絶したままの「カマキリ男爵」の契約者を抱えたまま、「舐めたら治る」の契約者は剣呑な思考を巡らせていた。




441 :単発と連載の間:いつから全員が契約者だと錯覚していた? [sage]:2022/01/21(金) 01:08:49.22 ID:F3kCl3w10


 これは、家族に都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した契約者がいる者の物語である。



 家についた際、室内に気配を感じて彼女は一瞬、動きを止めた。ドアノブを軽く回せば、鍵が開いている。
 静かに、深呼吸。何者かは知らぬが、家主の許可なく入り込むとは、言語道断。
 故に、彼女の行動は迷いは一切なかった。
「曲者!!!!」
 勢いよく扉を開け放ち、室内へと飛び込みながら侵入していた気配へと先制攻撃!
「ぬぅん!!!」
 鈍い音が響き渡る。彼女の勢いの乗った先制攻撃を、室内に鎮座していた男は片手で軽々と受け止めた。
 馬鹿な、と自らの、現役プロレスサーに膝をつかせた事もある一撃を軽々受け止めた男を見て。おや、と気の抜けた声をあげた。
「兄者ではないか」
「うむ。久しいな。我が妹よ」
 筋骨隆々とした大男。ボディビルダーのような「魅せる」為の筋肉ではなく、戦いによって鍛え上げられた肉体を持つ男は。間違いなく、彼女の兄であった。

「まったく。せめて、相手が何者であるか見極めてから攻撃せんか」
「しかしだな、兄者。連絡もなしに一人暮らしの室内に自分以外の何者かがいるとなると。高確率で曲者であろう」
「……ふむ。言われてみればそうだな。連絡を怠った我輩の責任であったか」
 兄は素直に自らの非を認めた。
 実際、いくら家族であるとはいえ、一人暮らしの家に連絡なしに勝手に上がり込むのは大問題だろう。いくら合鍵を持っていたとしても、だ。
「突然どうしたのだ?武者修行のため、世界各国を回っている最中であったと記憶しているが」
「お前が、アイドル、とやらになったと友より聞いてな。どのようなものかと思って様子を見に来た」
 つまり、妹の事が心配だという事なのだろう。
 兄のその心配を、妹はきちんと理解した。たとえ離れて生活していようとも、長年共に過ごした兄の考えをこの妹は手に取るように理解するのだ。だから、兄が何を特に心配しているのかも、理解する。
「幼き頃より、お前は我輩と共に鍛錬を続けてきた。むしろ、それが生活の中心であった…………アイドルとやらの仕事、今までの生き方とはまるで違う。無理をしておらぬか?」
 女だてらに、兄と共に鍛え続けた。それが当たり前の生活だった。
 そんな彼女にとって、アイドルと言う表向き煌びやか、裏は悪意や欲望が跳梁跋扈するような世界は未知の世界。己は決して関わる事がないと思っていた世界。彼女にしてみれば、己がその世界に所属している現実が不思議で仕方ない。
 兄の心配もよくわかる。だからこそ、安心させるように笑って見せた。
「確かに、鍛錬に加えて舞踊や歌唱の練習も行う必要があるし、慣れぬことも多いが…………我も、楽しませてもらっておる。それに」
「それに?」
「アイドル、と言うものは。時としてストーカー等と言った危険に見舞われる事があるそうでな。我が仲間達は、皆、我より年下で可憐でか弱いのだ。何かあった時、我がいれば守ってやれる」
 そう、己には向いていないだろうと思いつつ、彼女がアイドル業を続ける一番の原因はそれだ。つい最近もテレビ局で騒動があったばかりだし、この界隈はどうしても後ろ暗い話題が尽きない。
 そのような数々の危険から、同じメンバーである少女達四人を護ってやりたい。いや、護らねばならぬ。それが己の義務であると彼女は信じて疑っていなかったのだ。実は己が「FOXGIRLS」で一番人気がある事実には、彼女はさっぱり気づいていない。
「我の事は良い。それより兄者よ。義姉者の姿が見えぬし気配もしないようだが?」
「彼女であれば、お前に手料理を振舞いたいと食材を買いに行っている。もうそろそろ、戻ってくる頃であろう」
 そうか、と、妹は頷く。自分達が幼い頃から、不思議と姿が変わらない兄の嫁は。きっと今も変わっていないのだろうな、と思いながら。


 世間的に、それはストーカーと呼ばれる存在だった。新米アイドルグループ「FOXGIRLS」。そのリーダーに男は心奪われていた。メンバーの中では一番の年長。アイドルらしさはあまりなく雄々しさすら感じさせるその姿に心を完全に掴まれた。
 素晴らしいと思う。女性はあれくらい強い方がいい。むしろ、そういう女性が特定の相手にだけ弱い顔を見せてくれたりしたら最高だ。
 様々な伝手を使い彼女の住居をとうとう見つけた。さぁ、あの家に忍び込んで、この盗聴器を……。
 ………………っぽ。
「…………?」
 何か聞こえたような。何か気配を感じるような。振り返って、男は悲鳴を上げそうになった。
「ぽぽ、ぽぽっぽ」
 そこには、女がいた。清楚な白いワンピース、真っ白なつばの広い帽子。ここまではいい。しかし、その体躯が異常だった。男よりもはるかに大きい。男が心つかまれている「FOXGIRLS」のリーダーよりもさらに大きい。二メートルを超えているどころか、三メートル近くあるのではないだろうか。
 ぎょろ、と見下ろしてくる大きな瞳は、恐ろしさすら感じさせるもので。そのあまりの恐ろしさに、男はそのまま、気絶した。


「ぽ」
「おぉ、久しいな義姉者!」
「ぽ、ぽぽぽ」
「どうした?……む、近場で男が急に倒れた?わかった。我輩が救急車を呼んでおこう」
「ぽ……」
 自分が言葉をしゃべれぬばかりに申し訳ない、と。彼が少年の頃に契約し、今は夫でもあるその人にしょんぼりしてみせる八尺様。
 なんとなく、自分の義妹によからぬ事をしようとしていた気配があった男性が自分を見た瞬間気絶したことに心傷つきつつも。
 …………守れたのならいいか、と、思い直すことにした。



442 :単発:かごめかごめは逃げることを許されぬ遊女を歌ったものと言う説もある [sage]:2022/01/21(金) 17:19:45.60 ID:F3kCl3w10


 これは、都市伝説と契約したが故に、タガが外れた契約者の物語である。



 かごめかごめ。かごのなかのとりは。
 いついつでやう。よあけのばんに。
 つるとかめがすべった。うしろしょうめんだぁれ?

 ある少女の母親が死んだ。
 忽然と姿を消してから一か月後、少女と一緒に住んでいたアパートの室内で腐乱死体となって発見された。
 死因は、餓死。
 何故、行方不明になっていた彼女の死体がアパートの室内から発見されたのか。
 警察は捜査を続けたが、真相はわからぬままだった。
「怖いわねぇ、何があったのかしら……」
「家の中は荒れ放題だったんでしょう?」
「あの子、どうなるのかしらね……」
 近所の人達は、葬式でひそひそと噂しあった。
 少女は、そんな噂が聞こえているのかいないのか。自分を引き取る事になった元父親の両親……ようは自分の祖父母にかまってもらって楽しそうに笑っている。
 死んだ母親が、離婚した父親から支払われていた養育費を離婚前から付き合っていた恋人に貢いで少女の為には使っておらず。
 また、日常的に少女に対して、恋人と共に様々な虐待を行っていた事がわかったのは。
 その恋人の腐乱死体もまた、近所で発見された頃の事だった。

 かごめかごめ。かごのなかのとりは。
 いついつでやう。よあけのばんに。
 鶴と亀が滑った。後ろの正面だぁれ?

 ある少女の友人が死んだ。
 忽然と姿を消してから一か月後。学校行事で訪れていて、そして行方不明になった現場である宿泊研修を兼ねたサマーキャンプの地で腐乱死体となって発見された。
 死因は、餓死。
 少女の母親と同じ死因だった。
 少女はその友人と、本当に本当に仲が良かった。お嫁さんごっこ、なんて遊びをするくらいに仲が良かった。
 ただ、友人が行方不明になる数日前、酷い喧嘩をしたらしかった。
 友人が謝った事で喧嘩は終わったようであり、事件には関係ないと判断された。
 そもそも、か弱い小学生の少女が、事件に関係しているはずもないと判断された。
 みんなが泣いていた葬式会場。少女もまた、クラスメイト達と同じようにしくしくと泣いていた。
「なんでだろう。なんでだろう……」
 泣いていた少女の呟きの意味を正確に理解した者は、その場には誰もいなかった。

 かごめかごめ。かごのなかのとりは。
 いついつ出やう。夜明けの晩に。
 鶴と亀が滑った。後ろの正面だぁれ?

 ある少女の学校の先生が死んだ。
 忽然と姿を消してから一か月後。学校の生徒指導室で腐乱死体となって発見された。
 死因は、餓死。
 少女の母親や友人と同じ死因だった。
 生徒達からの人望ある女性教師だった。生徒の悩み事に真剣に耳を傾け、問題の解決に動いてくれる教師だった。
 少女に対しても、悩み事を連日聞いてやっていた事が周囲の証言でわかっている。
 三度も続くと、少女が原因ではないかと思う者が出始めた。
 とは言え、ただの少女が人を行方不明にさせて、さらに餓死させるなんて簡単にできる事ではない。
 彼女らが行方不明になっている間も、少女は普段通り、なんら変わらぬ生活を送っていたのだからなおさらだ。
 だからこれは、意地の悪い噂として。「あの子、呪われているんじゃないの?」と。そんな風に広まった。

 かごめかごめ。籠の中の鳥は。
 いついつ出やう。夜明けの晩に。
 鶴と亀が滑った。後ろ正面だぁれ?

「なんでだろう……なんでなんだろう……」
 先生の葬式からの帰り道。少女は独り暗く俯き呟く。
「なんで、みんな。私の愛をわかってくれないんだろう……」
 お母さんは、私をかまってくれないから閉じ込めた。
 お友達は、愛してるって言ったら「気持ち悪い」って言ってきたから閉じ込めた。
 先生は、好きです、愛していますと伝えたらやんわりと窘めてきたから閉じ込めた。
 どうして、みんなわかってくれないだろう。こんなにもこんなにも愛しているのに。
 愛しているから閉じ込めて。愛してるって答えてくれたら出してあげるだけなのに。
 なんで、みんな私に愛してるって言ってくれないんだろう。なんで私の事を罵ってくるんだろう。
「わかんないや……」
 死んでしまったなら仕方ないけれど。どうしてわかってくれないのか、わからない。
 今度愛する女性はそうじゃないといいなと、願う事しかできない。

 籠女籠女。籠の中の鳥は。
 いついつ出やう。夜明けの晩に。
 鶴と亀が滑った。後ろ正面だぁれ?






443 :単発:雨降らせるも多少の縁 [sage]:2022/01/22(土) 17:44:25.56 ID:8ds7bCVg0


 これは、都市伝説と契約した能力者であるが、都市伝説とどう戦うか悩む者の物語である。


 雨が降る、雨が降る。
 ざあざあざあざあ雨が降る。
 ばしゃばしゃと水たまりを乗り越えながら、それは苛立たし気に叫ぶ。
「えぇいっ!鬱陶しいぞ、糞がっ!!」
 べっとりと濡れた髪が肌に張り付く。それを払いもせず女は駆け抜けていた。
 耳元まで痛々しく裂けている大きな口を含め、その顔は怒りに歪んでいる。
「こんなっ!鬱陶しい雨程度でっ!!私、「口裂け女」から逃げられると思うなよぉおおおおっ!!!」
 「口裂け女」。都市伝説としての知名度はトップクラスであり、それ故に無数のバリエーションが存在する都市伝説。
 長い黒髪に真っ赤なコート。赤いベレー帽に赤いハイヒール。獲物は鋏。身体能力は100mを6秒で走れる程度。この「口裂け女」はそんな個体だ。特別目立った能力はないと言えるか。
 だが、シンプル故に強く厄介なのが「口裂け女」である。か弱い個体であれば、都市伝説契約者でなくとも鍛え上げた人間に倒される場合もあるが。そうやって都市伝説なしで撃退する人間がレアな個体なのである。逸脱人がそんなにたくさんいても困る。
 実際、100mを6秒で走る俊足からはそうそう逃げ切れるものではない。今、「口裂け女」が追っている相手とて、角々を使いなんとか逃げているという現状であり、「口裂け女」が追い付くのも時間の問題だろう。
(あぁ。それにしても。本当、鬱陶しい雨だ……!)
 そう、雨。この雨は、どうやら自分が追いかけている少女が降らせたものであるらしいと「口裂け女」は認識していた。
 何せ、少女を襲おうとしたそのタイミングで振り始めたのだ。いくらなんでもタイミングが良すぎる。何よりも、自分と少女を追いかけるように雨雲が移動し続けている時点で、通常の雨ではない。
(都市伝説契約者だったのは計算外だった……が、こんな雨、関係ない!)
 ただ、雨を降らせるだけ。この雨が酸性雨だったり猛毒を含んでいたりするならば別だが、本当にただの雨でしかない。
 そんなもので撃退されるほど、「口裂け女」はやわではないのだ。契約者こそ存在しないが、こうして思考できる程度には自我が確立している。ただただ雨を降らせることしかできない人間程度に負けはしないし逃がしはしない。
 さぁ、距離が縮んできた。あと少し、あと少し……!

 あと少し、あと少し。
 少女は必至で雨の中駆け続ける。自分が呼んだ雨で全身ずぶぬれだが、そんな事を気にする余裕なんてない。
 追いつかれたら、殺される。
 唯一幸いなのは、追いかけてくる「口裂け女」の持つ獲物が鋏であるという点か。鎌やら斧やらと比べるとリーチが短い。攻撃を受けるまでほんの少しだけ余裕がある。本当に、ほんの少しだけだが。
(…………これしかできないの、本当、不便)
 少女は、生まれた瞬間から契約者だった。稀にいるのだ。代々契約を受け継いできたやらそういう事情によって、生まれた瞬間から契約者であるというものが。
 「雨女」。都市伝説と言うよりも、妖怪の一種。能力は雨を降らせる事。ただそれだけ。人々を干ばつから救う雨の神とされる事もあるが、少女にとっての認識は「雨を降らせる厄介な存在」だ。
 もっと幼い頃は、能力をコントロールできなくて非常に困った。そのせいで遠足や運動会を延期にさせてしまったり、桜の花を早々と散らせてしまったり。「雨女」とからかわれていじめられたりもした。
 そして、今。こうして追いかけられている最中だって。ほとんど役に立たない力。
 雨を降らせたって、目くらましにもなりやしない。前が見えない程の大雨ならいいかもしれないが、そこまでできる訳でもない。足を滑らせてくれるだろうかと期待したが駄目だったようだ。
 あぁ。追いつかれる、追いつかれる。あと少しで、追いつかれる…………。
「こっちよ!」
 雨の中、聞こえてくる声。聞き覚えのある声に、導かれるようにそちらへと足を向けた。
 飛び込んだ路地の行き止まり、知っている女の人がいてちょっとだけほっとしながら、マンホールを踏み越えていく。
「馬鹿めっ!自らどん詰まりへと飛び込んだかっ!!」
 「口裂け女」が、爛々と目を輝かせ路地へと飛び込んできた。両手に鋏を出現させてしゃきしゃき言わせながら、マンホールを踏み越えようとして。
 マンホールから、それが飛び出す。明らかにそこから飛び出すにはあまりにも大きな、白い、ワニが。
「な、にぃいいいいいいいいいっ!!!???」
 飛び出してきたワニの大口に飲み込まれそうになって、「口裂け女」が鋏を振り回す。しかし、鋏はワニにまともな傷を入れることはできず、逃げられもせず。
 ばくんっ、と。
 悲鳴を上げる暇もなく、「口裂け女」は一口で飲み込まれてしまった。
「大丈夫?」
「なん……とか……」
 ぜぇぜぇと呼吸を整えながら、「雨女」の能力を解除する。あぁ、効果範囲に巻き込んでしまった家々の皆さん、洗濯物を干している最中だったらごめんなさい。
 申し訳ない気持ちを抱えながら、自分を助けてくれた「下水道の白いワニ」の契約者を見上げる。
「すみま、せん……助けてもらって……」
「いいのいいの。不自然に移動してる雨雲が見えたから、なんかあったんだろうなー、って」
 よしよし、と落ち着かせるように背中を撫でてくれる「下水道の白いワニ」の契約者。
 あぁ、そうか。あまり広い範囲に雨雲を展開させる余裕はなかったから、その分、雨雲の動きが不自然だったのか…………おかげで、助けてもらえはしたが。
「助けてもらってばかりで……本当…………歯がゆい、です」
「気にしない気にしない。その雨が必要になる事だってあるんだから」
「そう、でしょうか……」
「そうそう。もし、どうしても申し訳なく思うなら。あの子用にいい感じのお肉用意してくれればいいから」
 仕事は終わったと言わんばかりに、下水道へと戻っていこうとしていた「下水道の白いワニ」。お肉、と言う単語に「ごはん?」とでもいうように顔を上げて見つめてくる。
「……わかりました。じゃあ、ワニさんの好きなお肉、教えてください」
「オッケー。まっ、どちらにせよ着替えてからね。ずぶぬれだしー」
 けらけら笑って、くしゅんっ、とくしゃみする「下水道の白いワニ」の契約者。
 いつか、彼女の言うように自分が降らせる雨が必要になる日はくるのだろうか。
 私には、まだわからない。




444 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/23(日) 03:31:58.24 ID:UBt6WSX9o
 
単発の人、投下お疲れ様でした
単発が集まって一つの物語を形成するといいますか
共通世界観の単発シリーズ、良いと思います

ロアいいですよね、ロア
FOXGIRLSのリーダーがメンバーから慕われてるというのも良いし
勇ましいリーダーが実は契約者メンバーから守られてるというのも良いですね…
しかしまさかリーダーの実兄も都市伝説契約者だったとは(八尺様かわいい)、世界は狭いね!(八尺様かわいい)

「エッチな事をしないと出られない部屋」……
起源はともかくとして能力は使い方によってかなり凶悪なことができるのでは?
ただ毎度後半はフェードアウトしていくところが何というか色んな意味で空気読んでる感ありますね
契約者が同性同士もイケるメンタル持ちならば無敵だったろうに……

他にも三角関係のなかで「人体発火現象」契約者の心情が意味深長だったりとか
「アイトワラス」を拾った家庭が不幸続きだったのは実は幸運を吸い取られてのでは? とか
エンターキー荒ぶりすぎじゃないか? とか、「かごめかごめ」の契約者の話からほのかな百合の香りがしたりとか
「下水道の白いワニ」の契約者が再登場したり、美味しい単発ご馳走様でした

ところで「雨女」の契約者が知ってたらいいんですが、雨は幸運を呼ぶらしいですよ
つまり彼女が助かったのは
 
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/23(日) 14:09:19.19 ID:Se8EWtazo
「エッチな事をしないと出られない部屋」の人は報われてよかったなぁ
だからおとなしくお縄につこうか?

FOXGIRLSのキャラ立ちすごい子が非契約者だとは思わなんだww

雨女ちゃんは水のない場所でこのレベルの水遁をとかできる要員になれるよ! がんばれ!

かごめちゃんと猫ちゃんは救われづらそうですねえ
かごめちゃんはもうどうしようもなさそうで・・・
446 :単発:どちらも妖怪系だと思えば仲間仲間 [sage]:2022/01/23(日) 16:36:13.29 ID:q8EvEdSZ0


 これは、出会ってはいけない都市伝説契約者と都市伝説が出会ってしまった物語である。


 類は友を呼ぶ。昔からそう言われている。
 それとはまた違うが、都市伝説契約者同士や都市伝説契約者と都市伝説は自然と引き付けあい、遭遇しやすいとも言われている。
 実際の処、都市伝説の撃退手段や知識を持たない一般人が都市伝説と遭遇し被害にあうよりは、ある程度対処できる契約者が遭遇する方が全体的に被害は少ないのだろう。
 そうだとしても……世の中、「出会ってはいけない」と評される出会いというものは存在する。そして、そのように評されてしまうのだとしても。まるで運命に導かれたかのように、そうした二人は出会ってしまうものだ。
 今回の件も、当人達同士は否定するのかもしれないが。きっと、出会うべくして出会ってしまった衝突事故のようなものなのだ。

(気配……来たか)
 周囲に畑が広がるエリア。そこに辛うじてある物陰に隠れていたその契約者は、感じた気配に笑みを浮かべる。
 やっと、獲物が来た。
 この都市伝説と契約して以降、どうにもこの行為を止められない。飲まれているつもりはないのだが、逸話に語られる行動をどうしてもとりたくなってしまう。
 だがその契約者の漢は思う。これは犯罪ではないはずだ。相手を傷つけたり性的に襲ったりするわけではない。
 よって、犯罪ではないのでセーフであろう。「組織」に見つかったらめったくそに怒られることは間違いなさそうだが、警察のお縄にはつかずにすむはずだ。多分。
 気配を押し[ピーーー]。怪しい気配、なんて思われて回れ右されては困るのだ。
 だんだんと近づいてくる気配。肉と肉がこすれあうような音が聞こえる気がするが、恐らく気のせいだろう。気にするほどのものでもない。
 あと少し…………今だ!
 男は手ごろな細い棒を持って勢いよく物陰から飛び出す。突然のことに、夜道を歩いていた気配が足を止める。
 すかさず、気配へと持っている棒を向け。ついでに丸出しにしていた己の尻を向けながら男は叫ぶ。
「そこのお前!この棒で俺の尻の穴をほじれ!!」

 ――説明しよう!
 この男が契約している都市伝説……と言うか怪談は「柿男」!
 詳細は省くが、年頃の娘さん相手に自身の尻穴を棒でほじらせてしゃぶらせた変態である!
 正体的には柿の実の精のようなものであり、最終的には娘さんが尻の穴にしゃぶりつくくらい甘くておいしかったらしい。
 が、その言動!行動!!控えめに言って変態である!!!

 「柿男」の契約者は、それに忠実に動いた。いや、本来の昔話だと柿の実美味しそうだなぁ食べたいなぁと思ったお嬢さんの家に不法侵入して尻の穴をほじらせたので変態度合いと犯罪度合いがすごい事になるのだが。
 一応、不法侵入はせず、通りすがる人を待っての行動なのでギリギリセーフ……いや、どちらにせよアウトかもしれない。変態だ。
 とにかく、「柿男」の契約者は不審者として通報されても文句言えない行動をとった。そして、固まっていた。
 不幸にも「柿男」のターゲットとなってしまった女性もまた、固まっていた。お互いに固まっていたのだ。
 被害者たる女性が固まっているのはいい、と言うより当然だ。こんな変態不審者が出た瞬間、きちんと悲鳴を上げられる女性は案外少ないのだから。
 では、何故、「柿男」の契約者もまた固まっていたか?それは、女性のその姿が問題であった。

 それは、巨胸と言うにはあまりにも大きすぎた。
 大きく、豊満で、たわわで、そして一糸まとっていなかった。
 それはまさに、一切何一つ隠されていないエベレスト級の豊満バストだった。

 片や、尻丸出しで尻の穴をほじれと女性に要求した男。
 片や、あまりに豊満すぎる胸元だけではなく全身丸出しの女。

「「変態だーーーーーっ!!!!????」」

 ほぼ同時に互いに叫んでしまったのは、どちらも悪くてどちらも悪くなかった。

 ――説明しよう!
 この女性は「サッパン・スックーン」と呼ばれる、アルゼンチンやボリビアに伝わる妖怪の一種である!
 南米の農村に出現するとされ、見た目は小麦色の肌に長い髪、魅力的な大きな瞳。掌だけは不思議と雪のように白く、そして何よりも巨乳を通り越した豊満バスト。そして全裸。
 決して痴女妖怪ではない。畑仕事で忙しい母親に変わって子供の面倒見てくれたり、怠けものを懲らしめたりするタイプのよくある妖怪だ。
 ついでに言うと、名前の由来はそのあまりに豊満なバストが歩いている最中に揺れてこすれ合った時に鳴る音らしい。どんな音?

「いや、痴女!変態!!!なんで日本の北関東の畑地帯に南米っぽい全裸痴女いるの!!??どうなってるの治安!!!」
「変態はそちらデス!お、お尻を丸出しで、しかも、ほ、っほ、ほ…………とにかく、変態デス!おまわりさーーーん!!!!」
「いや痴女の方が変態度高いから!!よいこの教育に悪すぎる!!!!おまわりさーーーーーん!!!!!」
 どちらも変態である。が、どちらも自分は変態ではなく相手が変態だと言わんばかりに全力で叫び倒す。
 出会っては行けなかったであろう都市伝説契約者と都市伝説。
 その出会いは互いに叫び倒してご近所さんに通報され、警察から「組織」へと連絡がいって二人そろって厳重注意されるという結末へと至ったという。



447 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/24(月) 19:33:48.34 ID:hxouiCSEo
柿女さんはいらっしゃいませんかああああああああああぁ?!
448 :単発と連載の間:正体知らぬは命取り [sage saga]:2022/01/24(月) 23:30:13.56 ID:brJoWwmc0
 これは、都市伝説と戦う為ではなく都市伝説能力を利用してうまい事自分の欲望を満たそうとした者が、人知れず始末された物語である。


「そうか。よりにもよってあの朴念仁に惚れたか……」
「幼馴染からのこの言われよう」
「あの男が朴念仁でなかったら誰を朴念仁と言うんだ」
 ある日の放課後、学校帰り。
 「カマキリ男爵」の契約者は、「舐めたら治る」の契約者の幼馴染である同級生の女生徒と一緒にショッピングモールへと向かっていた。
 示し合わせた訳でなく、たまたまだ。彼女は特に部活に所属していない「カマキリ男爵」の契約者と違い、演劇部に所属していていつもはそこそこ忙しい。
 そうしてたまたま一緒にショッピングモールへと向かう最中、「舐めたら治る」の契約者の話題となって今に至る。ようは、「カマキリ男爵」の契約者の、「舐めたら治る」の契約者への想いが演劇部の彼女にバレたとも言う。
 「カマキリ男爵」の契約者としては、あまり自覚したくなかった想い。よりにもよって「エッチな事をしないと出られない部屋」と言うふざけたものに閉じ込められた際に自覚したのも嫌だが、そもそも意識するようになったきっかけが「舐めたら治る」の力で治療された事実と言うのがまた嫌だ。変な性癖目覚めたみたいではないか。
 そんな「カマキリ男爵」の契約者の複雑な心境に気付いているのかいないのか。演劇部の彼女は面白げに笑うのだ。
「あの男ときたら、恋をする事よりも体を鍛える事の方に興味が向いているだろうしな。よほど頑張らなければ、恋心にすら気づいてもらえないぞ?」
「……それはよーーーーーっく、わかるわ」
 力強く同意した。多分、あれはストレートにストレートを重ねてしつこいくらい伝えないと気づかないタイプだ。
 恋をするよりも、自身を鍛えたり友人と過ごす時間を大切にしているようにも見える。そのうえで、都市伝説事件とかで負傷者が出たならば、積極的にかつ躊躇なく治療に動こうとする。
 ……ひとまず、治療に関しては今は頭の中から追い出すことにした「カマキリ男爵」の契約者。今、あの件について考えるのは麺たるに大変とよろしくない。
「ま、あの朴念仁をデートに誘いたい、とかという希望があったら少しくらいは手伝うよ。あの男、男女問わず一緒に遊びに行くことを「デート」だと認識している節があるが」
「…………考えとくわ」
 演劇部の彼女の言葉に、ひとまず、「カマキリ男爵」の契約者はこう答えておいた。想いを伝えることがあるかどうかわからないので、なんとも言えないが。
「……と、言うか。あなた、本当にあいつと付き合ってないんだ」
「ないない。半ば家族のようなものだし。そうじゃなくともアレはない」
「幼馴染が容赦なさすぎる」
「幼馴染だからさ。とりあえず、契約都市伝説の「カマキリ男爵」とも相談しておくといいよ。契約者のそういう心の乱れは、契約都市伝説に伝わる事あるし」
「うぐっ!?…………うん、今度、ちゃんと相談する……」
 ものすごく恥ずかしいが、そうするしかあるまい。
 演劇部の彼女は、都市伝説との契約による諸々の事情に詳しいのだ。彼女自身が契約しているかどうかについては「カマキリ男爵」の契約者は把握していないが。そうした事情に詳しい彼女が相談相手として頼もしいのもまた、事実だ。
 そうしているうちに、ショッピングモールについた。ここまでは目的地が同じ。ショッピングモールについたら別行動だ。
「では、私は部活用の化粧品を見てくる」
「私は、「カマキリ男爵」に楽譜頼まれてるからとりあえずは本屋さんかな……それじゃあ。またね」
「あぁ。また明日」
 お決まりの言葉を言って、別行動になる。
 離れていく演劇部の彼女の後姿を見ながら、「カマキリ男爵」の契約者はこっそりとため息をついた。
 演劇部の彼女は、話し方は男っぽいが顔立ちは整っているし女性としてはすらっと長身でスタイルもいい。日仏ハーフでヨーロッパの方の血筋が強く出ている感じの容姿。クラスでもそうだし、今だって自然と人目を引いている。
 「舐めたら治る」の契約者と並ぶと、なんともお似合いなのだ。だから、幼馴染同士特有の距離感のせいもプラスして、周囲から付き合ってるんじゃないかとかからかわれるのだろう。
 お互いに恋愛方面では欠片も意識し合っていないのだというのが幸いか……いや、幸いと思っていいのかどうか。
 ぐるぐるりとめぐる己の思考のまとまりのなさを感じながらも、「カマキリ男爵」の契約者はショッピングモールに来た目的を果たすべく、目的のお店へと向かった。

449 :単発と連載の間:正体知らぬは命取り [sage saga]:2022/01/24(月) 23:31:07.73 ID:brJoWwmc0
 ……よりによってあいつか、と言うのが素直な感想。「舐めたら治る」の契約者の事は昔から知っている。だからこそ余計に、よりによってあいつか、と言う感想に至る。
(あの男は、恋愛云々以前に自分自身に自信がない奴だし。恋愛意識を持つにしても、まずは自信をもてるようになってもらわないとな】
 勉学も、武術も。並以上になっていて。それでもまだ足りない、まだ足りないと上を向き続ける男の意識はそう簡単には恋愛には向かないだろう。
 「カマキリ男爵」の契約者は、まさに恋愛的な意味での強敵相手に恋をしてしまったのだ。そこは同情しかない。
 一応、変なトラブルが起きないように見守ってはおこう、というのが個人的な考えだった。
 思考を巡らせつつ、ショッピングモールの中の化粧品店へと向かう。その最中、モールの中の大きな柱の影。ちょうど、監視カメラにも映らないであろうそこへと足を踏み入れた時。ちょうど、この位置へと視線を向けていた者は自分以外には恐らく一人。
「…………!?」
 突如、視界が暗転する。一瞬の浮遊感。次の瞬間には、自分は先程までと全く違う場所にいた。ここは、恐らくショッピングモールの中の個室トイレ、
 そして、目の前に。見知らぬ男がいる。中年、と言っていい年頃か。狭い個室トイレでは圧迫感を感じる程度の体格。鍛えられてはいない。肉は柔らかいだろう。
 こちらを座敷便座に座らせた状態でにやにやと笑いながら見下ろし、かちゃかちゃとベルトを外そうとしていた。
「……「ショッピングセンターレイプ」か。あれは、犯人は中学生。被害者は児童であったと記憶していたが。契約によってショッピングセンターではなくショッピングモールでも、高校生程度でも捕らえられるようになったのか」
 こちらの言葉に、男の動きが止まる。何も知らぬだろうと思っていた相手に真実を見透かされたように告げられた時。そして、その相手が怖がりもせず冷静でいた時。人は、恐怖に囚われやすい。
「まぁ、狙われたのが私で良かったとするか。対処がしやすい」
「……っ、その口ぶり、契約者か!だが、「ショッピングセンターレイプ」を発動している以上、ここは俺のテリトリーだ!女は、ここでは無力でしかない!」
「なるほど、女は無力、か」
 恐怖にかられてか、ぺらぺらと喋ってくれてやりやすい。
「ならば、問題ないな」
 こちらがにやりと笑い、そして動き出して見せれば。
 その「ショッピングセンターレイプ」の契約者は、悲鳴を上げるしかなかった。

 この日、トイレ清掃へと向かっていたその清掃員は、男子トイレから女子高生が出てきたような気がして首を傾げた。
 多分、気のせいなのだろう。どう見ても女子高生だった。きちんと女子トイレから出てきたはずである。男子トイレから出てくrはずがない・
 そう考えて思考からその存在を追い出して、まずは女子トイレの掃除。ピッカピカに掃除を終えて、そのまま男子トイレに。
(…………あれ?)
 妙な臭いがした気がした。とある個室から、赤い液体がにじみ出ていた。
 扉は閉まっているが鍵はかかっていない。何度かノックした後に恐る恐る扉を開けて、悲鳴を上げた。
 そこには、一人のでっぷりとした中年男性が。まるで獣にでも襲われたかのような血塗れの姿で倒れていたのだ。

 辛うじて息があったその男は救急車で病院まで運ばれて。後に、この近辺で起きていた連続強姦事件の犯人と判明した。
 あのショッピングモールのトイレで何が起きて、あんな状態になっていたのか。
 警察に逮捕されても、男は酷くおびえたように何も語らなかったという。




450 :単発と連載の間:そういえば「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者は使用フリーです [sage saga]:2022/01/25(火) 17:51:09.32 ID:EVGMyznp0


 これは、都市伝説と戦う為ではなく己の欲望を満たしたくて都市伝説と契約した者が、うまくいかなくて欲望満たせず涙する事の方が多いその様子を書いた物語である。


 「エッチな事をしないと出られない部屋」。まさに名称通りの部屋を生み出し、そこに人を閉じ込める程度の能力の都市伝説である。
 一時期、SNSやらイラスト投稿サイトやらで流行ったネタだ。てっとり早くいやんうふんあっはんなネタを描く際の導入として使われたものなのだろうが、そのような部屋でありながら結局エッチな事にならなかった、みたいな逆張りネタもまた結構ある。
 そして、エッチな事に限らず様々な〇〇しないと出られない部屋と言うネタが無数に生まれ。そういう「〇〇しないと出られない部屋」と言う条件を契約者が設定できるタイプもいれば、この契約者のように「エッチな事をしないと出られない部屋」とがっつり条件が定まっているタイプもいる。
 自分は、「エッチな事をしないと出られない部屋」でじゅうぶんだと、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者はそのように考えていた。
 そう、これでじゅうぶんなのだ。別に、どちらかを殺さないと出られないとか物騒なのはいらない。ただ、男女のきゃっうふふなエッチな事を覗き見できればじゅうぶん。誰かを殺すような力なんていらない。ただ望むのは自分が関わらないエッチな事。
 だから、この日も適当な安ホテルの上の方の階に泊り、そこから高性能の双眼鏡をもって獲物を探していた。彼の契約している「エッチな事をしないと出られない部屋」の効果範囲は視界内。道具を使って遠くを見ても発動してくれるのはありがたいである。これで見えている範囲で、この二人で閉じ込めたら良い感じになるのでは?と言う組み合わせを発見し次第、能力を使うのだ。
「……お、あれは「FOXGIRLS」のメンバーか。マネージャーと二人…………いや、駄目だ。マネージャーとアイドルと言う関係は美味しいが。スキャンダルになってはいけない」
 個人的に好きなアイドルである「FOXGIRLS」の姿が見えたが、発動をぐっと我慢。同じ事務所所属の「スプラッターレディーズ」と同様に彼としては見守っていきたいアイドルなのだ。変なスキャンダルとか起こさせたくない。
 変なところで良識を働かせて「FOXGIRLS」のメンバーとマネージャーを見送る。あぁ、今夜放送の「FOXGIRLS」が出演する鬼ごっこバラエティも見なければ。リーダーとぶりっこちゃんとお嬢様が参加なのだ。一人でも逃げ切れるといいな。
 思考を「FOXGIRLS」の今後に向けていたところで……来た。獲物だ。
(何度か閉じ込めた連中……!)
 そう、この街に来てから何度か閉じ込めたり逃がしたりした連中の姿だ。三回のうち二回は男だけで閉じ込めてしまい、むしろこちらにとって拷問みたいな現場になってしまった悲しき思い出。
 「エッチな事をしないと出られない部屋」の中で行われている光景を、自分は全て見る事ができるし聞くことができる。正確には、全部見えちゃうし全部聞こえちゃう。強制的に見せられる&聞かされるなのだ。男同士は流石に地獄である。自分が見聞きしたいのは男女のエッチな事なのだ。同性はいかんぞ非生産的だ。
 とにかく、何度か閉じ込めた連中が見えたのである。始めてみた者もいるがまぁいいだろう。女性が三人、男性三人。一気にそれぞれ別々の部屋に閉じ込めるとかできればいいのだが、残念ながらそこまではできない。謙虚に男女一組を閉じ込めるとしよう。
(そうなると、どの組み合わせがいいか……)
 まずは女性から見ていこう。とはいえ、一人は以前に逞しい系男子との組み合わせで閉じ込めに成功し、見事にエッチな様子を見る事ができた相手である。なので、今回は除外でいいだろう。
 残る二人。片方はボーイッシュ、と言うか凛々しいというか。女性ではあるのだが、どこか男性的な雰囲気も漂う少女。肉食系めいた気配もする。あぁ言う子がエッチな事に積極的で乱れるのもいいし、逆に実はそういう事が苦手で恥じらうのもまた、いい。
 もう一人は、以前に教師と生徒の関係で閉じ込めようとして失敗した相手だ。あぁ、あの時聞こえた男性教師の声、エッチだったな……悔しいけどエッチだったな…………マッサージされてるだけなのに条件満たすレベルでエッチなの悔しい。違う話題が逸れた。どこにでもいそうな平凡な雰囲気がいい。ごく普通の女子高生、逆に希少だと最近気づいた。
 次、男子に移ろう。一人はどこか線が細い感じの少年。うん……逞しい系男子と一緒に閉じ込めてしまった少年だ。二人共躊躇0だったな……脱出のためとはいえ躊躇0だったな……最近の男子高生怖いな……。
 トラウマは記憶の底に閉じ込めて、次。いや、次もトラウマだわ。問題の逞しい系男子だわ。スポーツってか格闘技やってる系の逞しさ。いや、エッチな現場も見れたけどトラウマが結構強いわ。どっちの時も躊躇なかったな……すごいな最近の男子高生。
 最後の一人!ごめんこれもちょっとトラウマ一歩手前!教師に延々とエッチな声あげさせた人だわ!イケメンなのはいいけどどうしてもあの教師のエッチな声が記憶よぎるわ!!
451 :単発と連載の間:そういえば「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者は使用フリーです [sage saga]:2022/01/25(火) 17:52:00.21 ID:EVGMyznp0
 困った、男子が全員トラウマだ。いや、ここは今度こそ男女の組み合わせにしてトラウマを残り越えるべきか。逞しい系男子は良い感じのエッチな様子も見せてくれたので今回はやめとくとして……。
(……よし!線が細い系男子とちょっと肉食な雰囲気もするボーイッシュ系少女!これだ!!)
 組み合わせは決めた。よって、「エッチな事をしないと出られない部屋」を発動すべく集中する。
 まずは、「エッチな事をしないと出られない部屋」と言う異空間を生成。そこに、視界に入っている二人を閉じ込めるのだ。
 ……高性能双眼鏡での視界に、目標の二人が入った。いざ、発ど……
「ッアーーーー!!!???」
 しまった!かなり離れているはずだというのに不穏な気配にでも気づいたか。ボーイッシュ女子が一瞬で視界から消えた。その後を追いかけようとして、線の細い系男子の視線の先を追おうとした。したのだ。
 その結果、双眼鏡の視界に、線の細い系男子とマッサージ師らしい男性が入ってしまって。
 ……「エッチな事をしないと出られない部屋」、発動。
「くそっ!!どうしてだ…………どうして…………こんな事に…………っ」
 くそ!聞こえてくる声やら見える様子から、どっちも過去に閉じ込めた相手と言う事もあって対応が早い!
 一応、いつものボイスチェンジャー使いつつお決まりの言葉はかけておいたが、話聞いてはくれているけれど、もうどう動くべきかを考えている。
 男……また男同士…………いや、お好きな人にはたまらない組み合わせなのかもしれない。どっちがどっちなのかわからないけど好きな人は好きなのだろう。どっちがどっちかで戦争になるレベルでは。
 だが自分は男女がいいのだ。男女の組み合わせが…………好きなのだ…………同性はちょっと…………。
「ッアーーーーー!!??お止めください!!??いやえっちぃ!!!!声がえっちぃ!!!!!くそっ、マッサージ師って奴はエロAVとかみたいにテクニシャンなのか!!??」
 聞こえてくる!エッチな声が聞こえてくる!!!くすぐったい感じのマッサージすごい!尊敬はしたくないけどすごい!!!
 エッチな声が耳元でダイレクトに響く。どこか色っぽさを感じる顔が視界に入る。止めてほしいのだが一度閉じ込めるとエッチな事を実行して、こちらが確認しないと解放できないので仕方ない。仕方ないので見聞きするしかない。辛い!!!!!
「どうして…………どうして、この街は男女でのエッチな感じの様子を見せて……くれないんだ……」
 べそべそ泣きつつ、ベッドに倒れこむ。
 このまま、ある程度見聞きすれば勝手に「エッチな事をしないと出られない部屋」の発動は解除される。たとえ行為が途中で有ろうと解除されるので時々「延滞料金払わせてください!!」と言いたくなるのもまた欠点だ。
 辛い。本当…………辛い……もっと男女のいやんうふふなエッチな様子を見たい……。

 欲望は止まらない。欲望を願う心は止まらない。
 この「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者がいつか捕まるかどうか、わからない。
 ただ、捕まったとしても、捕まらなかったとしても。今後のこの手の都市伝説の被害はぽつぽつ、発生するのだろう。
 人が欲望を抱く限り、その存在は生まれ続けるのだから。




452 :単発:これもまた一つの在り方 [sage saga]:2022/01/26(水) 17:02:49.36 ID:ZMGUeKTy0


 これは、人間と契約しなくともなんか平穏な生活手に入れちゃったっぽいので適応した都市伝説の物語である。


 広い広い、どこまでも広がる草原。
 確か、己が生まれたのはそのような場所であった記憶がある。
 あの広い場所を気ままにはね飛び回っていたが、水辺にて首長き獣と争い、致命に近き深手を負った。
 もはやこれまでと覚悟を決めたが、倒れている己を人間が見つけ、そこから多数の人間が集まって己を何処かへと運び、治療を施した。
 何故、己が「人間」というものを知っていたのかはわからない。
 己が生まれたのは「人間」が原因であると、そういうぼんやりとした程度のものではあるが。人間が己をどう扱うかわからず、多少暴れた。
 暴れても、暴れても、人間は己に治療を施してきた。色々と言葉をかけられたようなのだが、生憎その言葉の意味まではわからない。
 ……ただ、必死に呼びかけていた事はわかる。救おうとしてくれたらしい事はわかる。
 だから、己は最終的に、その人間達による治療を受け入れた。その後に実験動物にでもされるかもしれないが、その時はその時だ。

 傷は癒えて。己は今もこの施設にいる。
 どうやら、ここは「動物保護施設」とか呼ばれる場所らしい。
 己以外に、傷ついた生き物が保護され、治療され、野に戻されたりここで暮らし続けたりしている。
 残念ながらと言うべきか幸いと言うべきか、己と同じ存在はいないようだった。
 似たような動物はいるが、己は似た姿をしながらも別の存在だ。己と比べるとそれらはずっと小さいし、本能的にわかるのだろう、己を怖がり近づこうともしない。
 そうして、似たような存在に避けられる己を見て、どうやら人間は己を野に返せぬと判断したらしい。群れになじめぬものと認識されたか。
 別に、己は生まれて以降ずっと群れる事なく生きてきたので問題はないのだが…………人間とは、なんとも過保護な思考をするものだ。
 その気になればこの地より逃げ出すこともできるのだろうが。不思議とそういう気にはならなかった。
 己の治療に一番必死だった人間は、今でも親身になって己に語り掛け、世話を焼いてこようとする。もう怪我は癒えているというのに、具合を確かめようとしてくる。
 己がここから逃げ出したならば、この人間が心配するのではないか、と妙な考えを抱くようにもなった。
 ……「契約」を、考えもした。だが、今のところそれは行っていない。
 この人間が、己との「契約」に耐えきれるかどうか、己には判断がつかなかった。
 もしも耐えきれぬならば、この人間は人間ではなくなるだろう。それを「嫌だ」と感じる程度の、人間が言うところの情のようなものが己にもあった事は少し驚いた。
 まぁいい。この人間が死ぬまでは、己はここにいてやろう。
 己のような存在を治療したこの人間への、せめてもの義理として。
 この場所が、己のような「都市伝説」に襲われるような事があれば。己が戦い、護りぬいて見せよう。


「…………よし、大丈夫そうだな」
 古傷の確認を終えた。
 酷い怪我をしたところを発見され、この施設に保護されたカンガルー。何か獣にでも襲われたようなその傷は、同僚達が「もうだめかもしれない」とそう言葉をこぼすほどのものだった。
 それでも、諦めきれなかった。通常の個体とは少し違う特徴のあるそのカンガルーを自分は放っておけなかった。
 野生に生きた生き物として、人に触れられる事すら拒むように治療中に暴れようとするその生き物を。麻酔にすら抗うその生き物を治療し終えた後、自分はうっかり倒れて川を渡りかけたらしい。
 そういえば、治療中にカンガルーキックとかカンガルーキックとかカンガルーパンチとか食らった気がする。よく生きてたなぁ自分。
 まぁ過去の臨死体験一歩手前はどうでもいい。問題はこのカンガルーだ。
 傷はもう癒えているのだが、どうにも群れになじめる様子がない。
 通常のカンガルーと違い、この個体はあまりにも大きい。そのせいか、他のカンガルーが逃げてしまうのだ。この個体自体はそれを気にしていないようでのんきに生活しているが。これでは野生に返しても生きているかどうかわからない。
 ……それに。本当に、大きいのだ、この子は。体高三メートルもあるのだ。その巨体はあまりにも、目立つ。
 こう言う目立つ個体は敵にも狙われやすいし、密猟者にも狙われやすい。
 この命を守る意味でも、施設では野生に返さずに保護を続ける事に決定した。
「本当なら、野生に返せるのが一番なんだけどな……」
 こちらの言葉を聞いているのかいないのか。
 のんきに餌を頬張りつつ、じっと見つめてくるつぶらな瞳。
 人間の身勝手なエゴだとは思いながらも、護らねば、とそう感じた。



 こうして、その都市伝説。UMA「ジャイアントカンガルー」はそこにいる。
 少なくとも、それを親身に世話する人間がそこにいる限りは、「ジャイアントカンガルー」はその場所を守り続けるのだろう。
 契約はなされずとも。時としてこうした友情のような何かは。確かに、存在するのだ。




453 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/26(水) 23:02:28.02 ID:+L5CJCh8o
 
単発の人、お疲れ様です
出たな柿の精! 柿の精といえばかの有名なタンタンコロリンですが
なんというか類話(?)が卑猥なんですよね、あれ絶対艶笑譚ですよねきっと
サッパン・スックーンは初めて知りましたが、日本で紹介されたのは2019年?
調べてみるとマプチェ族の民間信仰にも登場する子守りの妖精みたいで……しかしインパクトある
勉強になりました

もはやレギュラーメンバーな「カマキリ男爵」の契約者、いいですね
同じくレギュラーメンバーになった感のある「エッチ部屋」の契約者、いいですね
何やら裏のありそうな演劇部女子(?)が登場したり、意外と「エッチ部屋」が謎の良識を持ち合わせていたりと
どんどん賑やかになってるんじゃないでしょうか(でも「エッチ部屋」からは何か残念なヘタレな感じがする)

「ジャイアントカンガルー」の舞台は豪州かな?
野生っぽいけど“契約”なる概念を理解していたり、どこか己の境遇含めて達観している趣があったりと
余韻を感じる単発でした、ごちそうさま!
 
カンガルーはね、戦闘は絶対ボクシングスタイルだと思うんだよなあ
 
454 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:28:18.48 ID:MNOhVNoyo
 
○前回の話

 >>410-421
 ※今回の話は作中時間軸で【9月】の出来事です



○あらすじ

 日向ありすは、学校町内で犯行を繰り返していた変質者を追っていますが
 早渡脩寿をその犯人と見なし、待ち伏せのうえで襲撃することにしました
 
 一方、早渡は身に覚えがない疑いに困惑。業を煮やした日向により攻撃されかけますが
 共通の友人である遠倉千十が割って入ったことで、その場は一旦収まりました



○時系列

●【9月】
 ・早渡、「組織」所属契約者と戦闘

 ・「怪奇同盟」に挨拶へ     (アクマの人とクロス)

 ・東中で花房直斗、栗井戸聖夜から三年前の事件を聞く
  その際にいよっち先輩と出会う
  その後、診療所で「先生」から「狐」について聞く     (花子さんとかの人とクロス)

 ・東中を再訪、いよっち先輩が“取り込まれ”から脱する
  「モスマン」の襲撃から脱出

 ・ソレイユ(日向)、変態クマ(変質者)に捕まる
 ・「ピエロ」、学校町を目指す

 ・日向、早渡を変態クマ(変質者)と見なし襲撃     ☜ 今回の話はこの直後!

 ・∂ナンバーの会合
 ・∂ナンバー、「肉屋」侵入を予知


●【10月】
 ・「肉屋」戦 (9月終盤か、10月初頭?)
 ・「ピエロ」、学校町への潜入を開始

 ・学校町内の各中学、高校にて生徒の失踪が相次ぐ


●【11月】
 ・「組織」主催の戦技披露会実施
 ・診療所で「人狼イベント」       (上下2点は順序が逆の可能性あり)

 -------------------- 一日目(仮) --------------------
 ・「バビロンの大淫婦」、消滅
 ・角田ら、「狐」配下と交戦
  新宮ひかり、上記交戦へ介入                            ↓ 「ピエロ」が一時、学校町内で活動開始 

 ・「ピエロ」、東区にて放火を開始、契約者らにより阻止される

 ・暗殺者二名がひかり、桐生院兄弟と交戦     (鳥居の人とクロス)


 ・「組織」Mナンバー(中立派)により、「異常事象を非-契約者から隠蔽する結界 『角隠し』」が東区限定で展開される

 ・「ピエロ」中枢、東区放火組に撤退か自害を指示
-------------------- 二日目(仮) --------------------
 ・「ピエロ」東区放火組が撤退もしくは自殺を開始、放火活動 終了       ● 「ピエロ」の活動、一旦ここまで / 断片的ではあるが、ここまでのエピソードが公開済

 ・「都遣」CEOによる『「ピエロ」による学校町破壊を阻止する 《隠密》 工作活動』が進められる
・「組織」Pナンバー(穏健派)を中心として、対「ピエロ」鎮圧作戦「Bedtime」が立案される



 ・「楽団」による学校町での 《隠密》 潜入工作が開始される

 ・日没前の時点から「ピエロ」による「サーカス」開始(予定)
 ・同時期、「組織」Mナンバー(中立派)により、「異常事象を非-契約者から隠蔽する結界 『角隠し』」が学校町全域を対象として展開(前倒しになる可能性あり)

-------------------- 三日目(仮) --------------------
 ・子夜前後 「ピエロ」、学校町から撤退

 ・「組織」Mナンバー(中立派)、Pナンバー(穏健派)、Vナンバー(過激派、但し穏健派による監視/監督を伴う) による事後隠蔽が完了


  
455 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 1/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:29:14.78 ID:MNOhVNoyo
 








 あれからどれぐらい時間が経ったろう
 両脚に力を込め、どうにか立ち上がった


 正直まだ心臓がバクバク鳴っている
 何度か深呼吸を繰り返した


 先ず、コスプレ女子に襲撃された
 あの子は俺のことを「変態クマ」と呼んでいた

 次に、あの子はANホルダー、つまり契約者だ
 あのANfxからして炎を扱う系統と見てほぼ間違いない

 そして、千十ちゃんに助けられた
 千十ちゃんに庇われなかったら、今頃火だるまにされてた筈だ

 そうだ、千十ちゃんだ
 あの後コスプレ女子と一緒に消失したが、あれは転送能力か何かか?


 心が、ざわつく


 さっきの状況から推測するに、千十ちゃんとコスプレ女子は友達、だと思う
 だがまさか、まさかとは思うけどコスプレ女子に誘拐された、なんてことはないよな?

 未だ混乱している頭を軽く振った、すると
 だしぬけに胸ポケットが震え、通知音が鳴った

 急だったのでビックリした、SNSアプリの音だ
 反射的に端末を引っ張り出し、確認する


 千十ちゃんからだった



 【脩寿くん、大丈夫?】

           【だいじょぶ、ありがと!】
           【それよりせとちゃんの方はだいじょぶ!?】



 考えるよりも前に指が動く
 この操作に慣れない、速く入力しようとするほど指がもつれそうになる
 それよりもなんかもうちょっと気の利いた言い回しをすべきなのか
 いや、こういうときこそシンプルイズベストだろ



 【私は大丈夫!さっきの友達と一緒だから】



 送信して間もなく千十ちゃんから返事がきた
 友達、だ。問題ない、誘拐なんかじゃない



 【さっきのこと、ちょっと友達に聞いてみるね】

           【わかった。なんかあったらいつでも連絡して】
           【変なことに巻きこんでごめんよ】

 【気にしないで 😎 】








 
456 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 2/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:29:55.91 ID:MNOhVNoyo
 


 ひとまず安心していいか、それに若干申し訳なく思う
 さっきのゴタゴタに千十ちゃんを巻き込んじまった状況だ

 どうしようか、千十ちゃんに一応こっちの事情も説明した方がいい
 事情というか、さっきの経緯というか
 でも大事な話をちまちまやるのは性に合わないし
 それにこういうのは電話か、直接会ってから話すべきだ

 色々考えなきゃいけないことが多すぎる
 とりあえずどっかで心を落ち着かせる必要があるな



 なんでまだ心がざわついたままなんだ
 さっきのコスプレ女子に気圧されたのが尾を引いているのは理解できる
 でも違う、なんだこの違和感は



 ひとまず端末をジャケットにしまおうとしたところで
 だしぬけに端末が鳴った
 今度は電話の呼び出し音、千十ちゃんか!?



『もしもーし、早渡こーはーい?』



 いよっち先輩でした



「はい早渡でございます、えっ何、先輩? な、何すか?」

『実はねー、今から早渡後輩のお家に遊びに行きたいんだけど
 ほら、前のお礼とかもしたいし
 それでねー、今ドーナツ屋さんに来てるんだけど、迎えに来てほしいんですけどもー?』

「は? い、今から? マジで?」

『マジなんですけどもー?』



 なんでそんな嬉しそうなんだ、いよっち先輩

 どうするかな
 今日はもう東区探索を続けられるような状態じゃない
 千十ちゃんの方の状況も気になる、けど今この時点で自分にできそうなことはあるか?



『……ちなみに、早渡後輩におことわりされたら、わたしショックの余りこの場で泣いちゃうかもだからね?
 店員さんに後輩男子に弄ばれて捨てられましたって泣き喚いてやるからね?』

「営業妨害っっ!! 虚偽申告っっ!! そういうのやめろ!!」



 あまりの返答に思わずツッコミを飛ばしてしまった
 いや待て、その前に今の言葉は何だ
 これは脅迫か? これはひょっとしていよっち先輩に脅されてるのか?



 
457 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 3/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:30:58.31 ID:MNOhVNoyo
 


「迎えに行くから!! 迎えに行くからお店に迷惑かけるのやめて!!」

『んふふ、早渡後輩ならそう言ってくれると思ったよ』

「ったくもー、……こっちはちょっと直前までゴタついててさ」

『えっ、あ、ごめ! なんか用事あったの!?』

「でもまあそれもそれで一旦落ち着いたから!
 もしまた急用入ったら、場合によっちゃ付き合ってもらうかもしらんが
 それでもいいなら迎えに行くよ、どうする?」

『いいの!? 勿論OKだよ、なんかごめんね』



 決まりだ
 千十ちゃんの方も気になるけど、今は先輩を迎えに行こう
 それにこれで気分転換になるかもしれない



「それで? そのドーナツ屋って何処にあるの?」

『えっとねー……』



 いよっち先輩から大まかな位置を教えてもらった
 多分これって学校町内だよな? ここからそう遠くないよな?

 了解の意を告げて通話を切り上げる
 徒歩で向かおう、そうすればこの緊張感もそのうち抜ける筈だ

 西日は大分傾いている
 けど、陽が完全に落ちるまでには辿り着けるかもしれない
 篠塚さんから聞いた「逢魔時の影」と「盟主様」の件もあるしな
 ちょっと急いだ方がいいな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 ショートカットしようと路地に入った所為で却って道に迷ったりしつつも
 ランドマーク的にそろそろドーナツ屋に近づいたんじゃないか、という頃合いだった


 再びSNSアプリの通知音


 反射的に端末を操作する
 やっぱり千十ちゃんからの連絡だった



 【脩寿くん、今いいかな?】
 【さっきのこと友達に話聞いてたんだけど】
 【脩寿くんのこと変質者だって疑ってたらしくて】
 【それで】


 
458 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 4/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:31:51.99 ID:MNOhVNoyo
 

 変質者? 俺が? 疑われて?
 少し固まった

 つまり、さっきのコスプレ女子は俺が変質者か何かだと勘違いしていたと、そういうわけだろうか
 これは誓っていいが、意図的に変態的行為に及んだ記憶はないし、何か誰かに迷惑を掛けた心当たりもない
 いや、過去のあれこれを振り返ってみると例えば花房君や「先生」の前でちょっとばかり取り乱した記憶はあるし
 篠塚さん家や墓守さんの面前でかなり恥ずかしい勘違いやアレなことを口走った記憶もある
 でも! だけども! 他人に迷惑を掛けるような、ましてや犯罪を疑われるような言動に及んだことは、……ない、筈だ

 だがもしあのコスプレ女子が、仮に「七尾」出身者だった場合は話が別だ
 あまり思い出したくない昔の話だが俺は「七尾」の施設時代、「セクハラ大魔王」という非常に有難くないあだ名を頂戴していた
 一応理由はある。いけ好かない女性職員に対し、その、なんだ、セクハラじみた行為で仕返しをしていた
 反省はした、大いにした
 一応言い訳させてもらうとあの当時だってセクハラは報復みたいなもんだったし、女性職員以外には決して手を出してない
 ここも誓っていい
 もっと言うと「七尾」出身者でANホルダーならお互いの色々を知ってる筈だが、あのコスプレ女子は初めてさんだ。こちらも心当たりがない



 【友達の話だと脩寿くんの行動してる場所が変質者と同じみたいで】
 【それから脩寿くんが夜中に東区をうろついてるとこ何度も見てるって言うの】
 【私は人違いじゃないかって言ったんだけど】
 【脩寿くんはこんなの心当たりないよね?】



 俺が色々考えてるうちに、千十ちゃんからガンガン送られてきた
 これはつまり、俺の東区探索をあのコスプレ女子が目撃していたわけか
 どうしよう、誤解だと弁明したいが、そうなるとこれは全部話さないといけない流れだろうか
 どう返事すべきか、できれば電話か直接会って話をしたい。切実に



 【私は友達の誤解をときたいんだけど、友達は脩寿くんのこと疑ってて】
 【証拠があるって言うんだけど】
 【今電話してもだいじょうぶ?】

           【おk!】



 電話だ、即答する
 数秒置いて着信音が鳴った


『もしもし脩寿くん? あの、……あの』

「さっきのことだよね!? 送ってきたの見たよ!!」

『うん、それで、あの』


 何だ、何だか物凄く切り出し辛そうだ
 あのコスプレ女子との話で、まずい方向に転がったっぽいな
 やっぱりさっきの時点でこっちの状況を先に説明しとくべきだったか?


『さっき、あり……ソレイユちゃんと会ったときのこと、詳しく確認したくて
 多分さっきのは誤解だと思うから、だからその、脩寿くんの話を聞きたいの
 脩寿くんがさっき何してたか、教えてくれないかな』


 千十ちゃん、凄く言葉を選んでるような雰囲気だ
 こっちも緊張してきた、どこから説明した方がいいだろ


 
459 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 5/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:33:05.14 ID:MNOhVNoyo
 

「俺は人、というか家を探してて。四月からずっと」

『夜になっても、ずっと探してたの……?』

「あー、うん。最近は別の用事が重なって
 夜に出歩かないといけない状況だったんだけど、それも先週解決して」

『……』

「あと、さっきの子が俺を変質者だって疑ってるのは流石に何かの間違いだと思うから
 直接会って話をしたいんだけど、……千十ちゃん?」

『……』


 重い沈黙が続いている
 何かまずったか、俺


『あの、あのね
 何日か前の夜、東区の中学校に居たのって、本当のこと?』

「っ!?」


 数日前の夜、東区の中学
 間違いない、いよっち先輩に会いに行った夜だ
 そういやさっきのコスプレ女子も俺を焼こうとしたときに話してたな
 恐らくいよっち先輩に会ってるときのことも遠くから観察してたんだろう


『脩寿くん、ありすちゃんはね。脩寿くんが都市伝説の子に、多分「飛び降りる幽霊の子」に襲い掛かってるのを見たって言うの
 私は違うんじゃないかって思うんだけど、でも、ありすちゃんはこの目で見たから間違いないって言ってて
 だから、あの、私! ……脩寿くん、そんなことやってないよね!?』

「誤解もいいとこだよ!?」


 思わず大声を上げてしまった
 いやもう周囲の状況に構ってられない


「確かに先輩に会ったのは事実だけども! 襲い掛かってなんかないよ!?
 話を聞きに行って、成り行きで助ける感じになっちゃったけどね!?
 その子本当に何を見てたんだ!? 大体一部始終を全部見てたんならその後『モスマン』が襲撃してきたのも、知、って……」





 待て、待て待て待て

 おい

 なんでだ?



 違和感が、はっきりと輪郭を伴った



 千十ちゃんは、都市伝説について、知ってるのか!?



「千十ちゃん……、千十ちゃん?」

『あっ、うん』



 口の中が急速に乾いていく
 心臓が急に縮み上がるような錯覚がした



 
460 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 6/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:34:00.58 ID:MNOhVNoyo
 


「千十ちゃん、あの、あのさ。第三種適合とかアンクスとかそういう言葉に聞き覚え、ある?」

『えっ? 何? あの、わ、わからない』


 思わず妙なことを口走ってしまった
 取り乱し過ぎだ、落ち着け俺


「あの、なんで千十ちゃんが都市伝説とか『繰り返す飛び降り』とか知ってるんだ?」

『えっ? あっ! あっ……あのっ、わ、私も契約者なの!』

「千十ちゃんが、     契約者」

『だから、あのっ、そのっ、ある程度、そういうことは知ってて!』

「……。さっきの子も、契約者だよね?」

『あっ、あっ、……う、うん』

「……」



 千十ちゃんが、契約者

 いや落ち着け、だから何だってんだ
 学校町に居るんだから契約者の一人や二人にかち合っても普通だろ、それは
 何も驚くことじゃない、その筈なんだ

 ひとまずコスプレ女子の誤解を解くのが先だ



『ごめんね、本当ならもっと早く言い出したかったんだけど
 タイミングが分からなくて。あっ、脩寿くんも契約者だよね?
 あのっ、私、脩寿くんは変質者じゃないって、ありすちゃんの誤解を解きたいの
 それで、脩寿くんと直接会って三人で話をしたいんだけど、大丈夫かな?』

「そのことなんだけど、千十ちゃん今どこにいるの?」

『えっと、ドーナツ屋さんなんだけど……』



 話を聞けば、俺がまさに向かおうとしていたお店じゃないか
 実にタイムリーじゃないですか、しかも三人とも契約者って言うなら話が早い



「千十ちゃん、提案なんだけど直接会って話せるなら
 俺が襲ったっていう『繰り返す飛び降り』の子から直接事情を説明してもらおうと思うんだ
 その方が色々手っ取り早いだろうし、どうかな?」

『えっ? あのっ、えっ!? と、都市伝説の子を、連れて、くるの? へっ!?』

「うん? なんかまずいかな?」

『あっ、でも、確かに、それができるなら、一番かもしれないけど、でも、あの』

「大丈夫、そんなに待たせないよ。もうそろそろドーナツ屋近くだから」

『えっ!? えっ!?』



 一旦通話を切り上げた
 一応いよっち先輩には事前に話をしといた方がいいだろう

 今度はいよっち先輩に電話した
 だが、出ない
 多分店内でドーナツを見てるか食うかしてるんだろう
 なら直接行って対面で説明するしかないな

 俺は未だ不規則な動悸を繰り返す胸を殴り、目的地へ駆け出した





 
461 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 7/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:34:38.47 ID:MNOhVNoyo
 








          ●



「脩寿くん、来てくれる、らしいんだけど」


 電話を終えた千十の様子がおかしい
 というか電話中から千十の様子がおかしい
 まあそれを言い出したら、電話の前から様子がおかしかったけど


「『飛び降り』の女の子を連れてきて、直接説明してもらうって話になっちゃって」

「えっ、嘘!? マジで!?」


 都市伝説を、「学校の怪談」を、連れてくる、ですって?
 ここに!?


「ありすちゃん、あの、お店の外に出た方がいいよね」
「そうね、ここじゃちょっと」
「あの、それから。ありすちゃん」


 撤収しようとドーナツの残りを口に押し込んで
 テーブルの上を綺麗にしていたところで、千十が不安そう顔をする


「あの、さっきソレイユちゃんの格好で脩寿くんと顔合わせてたから
 これから会う前に、その、ソレイユちゃんに着替えたりとか、必要だよね?」

「もご……」


 もっともな指摘だ、私の面割れを心配してくれてる


「んぐ。……大丈夫、必要ないわ」

「え、でも」

「アイツも契約者なんでしょ? なら変に隠してもバレるのは時間の問題だし
 ここは正々堂々と行くわ」

「ありすちゃんが、それでいいなら」


 確かに元々は正体を隠すためにソレイユの格好するようになったのもあるけど
 結局バレてしまうってことは、過去の「組織」の強引な勧誘の一件で思い知らされた
 まあ、あんな恥ずかしい格好をしている理由は勿論身バレ防止のためだけじゃないんだけど


「それで? ドーナツ屋の外でいいの?」
「うん、近くに居るって言ってた」
「なら早いとこ出ましょうか、アイツ待たせるとか嫌だし」



 
462 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 8/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:35:08.30 ID:MNOhVNoyo
 


 メリーを鞄に隠して、席を立つ
 千十と一緒にお店を出ようとして


「千十?」
「あっ、ううん。何でもない」


 ドアの前で店内を振り返っていた彼女に声を掛ける
 友達でも見つけたのかな?


「なんだか、知ってる人の声が聞こえた気がして」


 そう言ってドアから出た千十は、もう一度お店の中へと振り向いた
 私もつられてそちらを見る


「あっ、すいませーん。チョコミントクルーラーも追加でー
 あとあと、オールドボストンってまだ残ってますかー?」


 小、中学生くらいの子がドーナツを注文していた
 白いマフラーを巻いた少女だ

 確かに朝晩は少しひんやりしてきたかな、とは思うけど
 マフラーにはまだ早いんじゃないだろうか
 寒がりな子なのかな?

 そんなことを思いながら、今度こそ本当にお店を後にした



          ●





















 
463 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 9/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:35:55.17 ID:MNOhVNoyo
 









 ドーナツ屋を見つけたとき、既に千十ちゃんがお店の前で待っていた
 あのコスプレ女子の姿は、ない
 いや、千十ちゃんの隣に同じ制服を着た眼鏡女子が立っていた
 俺と目が合う、その途端に一気に眼鏡女子の顔が険しくなった

 あの顔、見覚えがあるぞ!
 「ラルム」でやたら俺に熱視線を送ってきたあの子じゃねーか!?
 なるほど繋がった、あの眼鏡女子はコスプレ女子だったってわけか

 よし、なるべく穏便にいこう


「さっきはどうも」
「……」


 ヤバい、めっちゃ睨み付けてくる
 俺が変質者の容疑を掛けられてるから仕方ないとはいえ、だ
 できるだけ早く人違いだって理解してもらいたい


「脩寿くんあの、この子がさっきの」
「ええと、そ、ソレイユちゃんだっ「その名前で呼ばないでっ!!」


 心構えはしてきた、が、これは早くも不安になってきたぞ
 彼女の声はめっちゃ刺々しい、一瞬頭のなかが白みかけるが


「なんと呼べば」
「……日向(ひむかい)よ」
「日向、さん」
「……言っとくけど、さっきのこと。誰かに言おうなんて考えてたら、――アンタ燃やすわよ?」


 低い、脅すような声色だ
 いや待て、圧されるわけには行かねえだろ
 ここで俺が挙動不審気味になったら解ける誤解も拗れちまう


「しゅ、脩寿くん、あの」
「あ、うん。今その子はドーナツ屋のなかに居るから、ちょっと呼んでくる。そのまま待ってて」


 千十ちゃんに応じて、そのままドーナツ屋に入る
 客席をざっと追う――、居た。今まさに座ろうとしている


「いよっち先輩」
「お、あ! 早渡後輩! 丁度ドーナツ買ったとこ。こっちはお店で食べる用。一緒に食べる?」
「悪い先輩、急用が入った。顔を貸してほしい」
「えっ!? わたし? なんで!?」


 あまり時間は掛けられないな
 先輩に顔を近づけ、押し殺した声で状況を伝える


「全部説明すると長くなるけど、俺がいよっち先輩に会った夜に、俺達のことを見てた子が居て
 その子がどうも、俺がいよっち先輩を襲ったって勘違いしてんだよ。んで、俺は変質者だと思われてる」

「な、なにそれ。ちょっと、面白いんだけど」

「かなり穏やかじゃない状況なんだよ! とにかくその子に誤解だってことを説明したいんだけど」

「はーん、なるほど。それって、ドーナツ食べてからでも間に合うな感じ?」

「悪い、実はその子たちが直ぐ外で待ってんだ」

「あー、おーけー。分かった、後輩の頼みだ。でもちょっと待ってねー」




 
464 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 10/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:36:38.86 ID:MNOhVNoyo
 

 先輩は店員さんに話し掛け、少し席を外して店外へ出る意を伝えていた
 店員さんの反応は――問題なさそうだ


 そのままいよっち先輩と一緒に店を出る
 気づけば既に陽も暮れ、外は闇に染まり始めていた


「えーっ、と? この子たちが早渡後輩を変質者だって?」
「あ、いや、主に眼鏡の子が」


 問題の眼鏡女子、日向さんは若干険しさが和らいだ、というか困惑気味の表情になっていた
 まさか本当に連れてきたのか、とでも言いたげだ


「いえ、その……その子、本当に『学校の怪談』の子?
 確かに東中で見た子っぽいけど、何というか、『怪談』にしては雰囲気が普通よ?」

「う、うん。普通の、女の子に見える」

「千十は都市伝説の気配とか存在を、感覚で判別できるんだけど
 あなたまさか、無関係の子を巻き込んで適当言ってんじゃないでしょうね?」

「あ、あー」


 言わんとしていることを理解した、そしてその理由も
 マフラーの認識阻害効果は問題なく機能しているらしい


「先輩、悪いけど今だけマフラー外してもらえるか? ……先輩?」


 いよっち先輩は直前まで何か千十ちゃんの方を見入っていたようだけど、気の所為だろうか
 千十ちゃんの方はきょとんとしているが


「あっ、うん? マフラーね、いいの?」
「うん、今だけ」


 いよっち先輩が首に巻いていたマフラーに手を掛け、――ゆっくりと外した
 途端に周囲に“波”が漏れ出るのを肌で感じた。“感覚”を閉じていても直ぐ傍に立てば明確に知覚できる

 途端に「うっ」と小さい呻きを漏らして日向さんの顔が強張った
 千十ちゃんの方を見る――口に両手を当て、大きく目を見開いている



「えっあっ、うそっ、い、一葉さんですよね……!?」
「――ッッッ!?」
「や、やっぱり! 千十ちゃんだよね!?」



 まさか、知り合いか?
 しまった、そこまで想定してなかった!!



「あー、何年振りだっけ? 確か、えと、ちょうど三年かな?」

「え、なに千十と知り合いなの?」

「あの、ありすちゃん、この人は、あの……」






 
465 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 11/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:37:34.95 ID:MNOhVNoyo
 


「あー、千十ちゃんだいじょぶ! 自分で説明するからね!
 ……えっと、わたしは東一葉って言います。で、本当は三年前に死にました
 東中の連続飛び降り事件? 結構有名らしいけど、あ、知ってる?」

「え?     あ、はい。もちろん」

「良かった、いや良くないけどね! えっと、で、わたしもそれに巻き込まれて飛び降り自殺したことになってるんだけど
 わたしだけよく分からないけど、『繰り返す飛び降り』? 都市伝説だっけ? そういうのになって、いつ間にか戻って来ちゃって
 実際は契約者? が、なんか訳の分からないチカラ? を使って、生徒を飛び降り自[ピーーー]るように仕向けてた、……らしいんだよね
 わたしも最近知ったんだけど。あ、それで、三年前の状況を映像? で見たんだけど、そのとき早渡後輩――早渡君と居合わせて、ね?」

「あっ、おう!」


 目の前の状況に頭のなかが完全に真っ白になっていたが
 いよっち先輩に話を振られ、我に返った
 そうだ、今彼女が話していることは本来俺が説明しないといけないことだ


「三年前の東中の事件について、成り行きで色々教えてくれた奴らがいたんだけど、その流れでいよっち先輩に出会って
 そのとき先輩の様子がおかしかったから、心配で夜の東中に足運んでたんだ
 なかなか会えなかったけど、前の夜にようやくいよっち先輩に会えて――それが君が俺達を見たって日だよ」


 眼鏡女子に、なるべく睨み付けないよう自制しながら視線を向ける
 彼女は俺から目を逸らし、先輩と千十ちゃんの方を見て、より困惑気味の表情を浮かべていた


「それで色々助けてもらって、今は東中から離れて安心安全なところに避難したってわけ!」

「そう、だったんですか……」

「もー、千十ちゃんもビックリだよね? 一度死んでるのにこうやって戻ってきてさ!
 幽霊じゃなくて体も昔のままで戻って来ちゃって。お姉さんもビックリだよ! ……せ、千十ちゃん!?」




 思わず心臓を握り潰されたような錯覚がした
 千十ちゃんは、泣き出していた




「あっおっ、せっ千十ちゃん? ど、どうしたの!?」

「あの、あの……、中学校に、あがったときから、ずっと、学校町も、ちゅ、中学校も、怖くて
 はじめての、“外”の、学校が、なんだか、すごく、こ、怖くて、そ……そんなとき、声かけて、くれたの、一葉さんと、さ、咲李さんで
 ほんとに、良くしてくれて、私、私、いっぱい、助けて、もらったのに……っ、あんな……あんな……っ!!」

「あっ! なっ、泣かないで……!」



 いよっち先輩が慌てて千十ちゃんを抱きしめた、先輩まで泣きそうな顔になっている
 千十ちゃんはいよっち先輩と知り合いだった、今の話だと咲李さんとも知り合いのようだ


 胸の奥が締め付けられる。俺が浅はか過ぎた、こうなることを予想できてなかった
 



 



 
「……落ち着いた?」
「すいません……。私、迷惑ばかり」
「思ってない! 迷惑なんて思ってないからね!」


 しばらくの沈黙の後
 千十ちゃんはゆっくり先輩から離れたが、それでも先輩は彼女の手を握っていた
 街灯や照明の所為か、千十ちゃんの顔が赤く見える


「えーと、そうそう。それで、早渡後輩はあの日の夜、なんていうか、“取り込まれ”?
 そんな風になりかけてたわたしを助けるために、色々頑張ってくれたんだよね
 後半なんか、空からなんかモンスターっぽいの飛んできたし! それも早渡後輩が何とかしてくれたんだけど」

 
466 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 12/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:38:18.64 ID:MNOhVNoyo
 

 いよっち先輩は日向さんに話し掛けてるようだが
 当の彼女は顔を伏せていた


「だから早渡後輩がわたしを襲ってた、ってのは誤解も誤解だよ!」
「……ありすちゃん。脩寿くんは変質者なんて、そんな人を傷つけるようなこと、する人なんかじゃないよ」
「そ、そうそう! そもそもだよ? こんな見た目だけ不良っぽいヘタレな雰囲気の男子がそんなことする勇気なんか無いって!!」
「……わかりました」


 日向さんは顔を上げ、いよっち先輩に相対した
 表情はまだかすかに困惑しているようにも見える

 日向さんは先輩に頭を下げた


「すいませんでした。私の勘違いの所為で、迷惑を掛けてしまって」
「だから迷惑なんて思ってないから! はー、でもほっとしたー。良かったね早渡後輩!」
「勘違いしないで」


 それはもう静かな、しかし鋭い声色だった
 ようやくここで日向さんは俺の方に向き直った
 なんというか、形容しがたいほどの無表情だった


「東中のことは私の誤解、それは認める。でも、だから何?
 あなたが変質者じゃないって証明にはならないから
 犯人の正体を暴くまで、あなたに対する疑いが解消したわけではないから」

「あ、ありすちゃん……!」


 そう来るか、でもまあ言い分は一理ある
 いいだろ、乗ってやろうじゃねえか


「オーケー、今はそれでいい。東中の一件について理解してくれたんなら、それでいい
 これでもういよっち先輩に迷惑掛かることもないわけだしな」

「だーかーら! 迷惑なんて思ってないってばぁ!」

「要するに、後はその変質者とやらが俺じゃないってことを証明すればいいわけだろ?
 やってやるよ。とりあえずとっ捕まえてアンタの前に引きずり出せば納得してくれるか?」

「はいっ! 喧嘩ストップ! やめやめ! ドーナツ屋さんの前でやることじゃないでしょ!
 それに折角の千十ちゃんとの再会なのに、水差すような真似はやめてくれるかなー?
 早渡後輩も! ありすちゃんもだよ?」

「あっ、おっ、ごめん先輩!」

「う……、失礼しました」



 いよっち先輩の制止に思わず謝った
 そういやまだドーナツ屋前だってことをすっかり忘れてた
 思わず周囲に視線を向けるが、幸いか人の姿はさほど無かった
 あ、いや。今まさにドーナツ屋に入ろうとしていたOLっぽい女性がこちらを見ていた



 アホか俺は、熱くなり過ぎだ。しかも千十ちゃんが取り乱した後だってのに。アホか俺は



「うんうんよろしい、分かってくれればいいのだよー!
 とりあえずさ、仲直りと言ったらなんだけど。続きはドーナツ屋さんのなかで話さない? ね?」

「あー、いよっち先輩。時間的にちょっとマズい
 ただでさえ、その、近頃は変なのがあちこちに出没してるみたいだし」

「え? あっ、そっかー」

「そうね、もう遅い時間だし。千十もそろそろ帰らなきゃやばいでしょ?」


 日向さんも俺と同意見らしい
 一瞬耳を疑ったが、いや、冷静に考えれば結構な時間帯であることは一目瞭然だ
 日没前後の時間帯にのみ現れるという「逢魔時の影」、そして「盟主様」
 と言っても現時点では既に日没から時間も幾分か経過している頃合いだ、なので「盟主様」達にかち合う可能性はほぼ無いだろう

 
467 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 13/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:39:01.62 ID:MNOhVNoyo
 

 だが、この町には同等かそれ以上に危険な存在がうろついている
 学校町内を徘徊する危険な都市伝説に加え、「赤マント」の集団、あるいは「モスマン」、「狐」の手勢、そして……問題の変質者
 付け加えると、この町の徘徊都市伝説は経験則上、日没を境に活性化するものと理解している
 つまりだ。この時間は、まあまあヤバい

 それはそれとして
 俺は眼だけ動かして日向さんを盗み見た
 まあ何というか、先ほどから俺に対して露骨に顔を背けている状況だ
 先ほどの会話に戻ると、俺が彼女に変質者を引きずり出そうかと言い放ったとき
 日向さんはやや狼狽えたような表情を見せた

 彼女の言い分が理にかなってるとして、それでも心情的にはムッときたし
 言い返した瞬間は若干留飲が下がった感はある、そこは認める。だが



 これで満足するつもりは勿論ない
 まだ問題の変質者が学校町内をうろついてるんだ、それも野放し状態で

 それなら
 変質者の正体を突き止め、できればとっ捕まえたい



「千十は私が送っていくから」
「ごめんねありすちゃん」
「ううん、私が巻き込んじゃったものだし」
「もうちょっと早い時間なら、ドーナツ食べながらお話できたんだけどねー……」


 千十ちゃんは日向さんが送っていくことになった
 俺もいよっち先輩送らないとだな、そういや高奈先輩の自宅って何処だ?
 うろ覚えの記憶が正しいなら、確か辺湖市だって話だったような


「あの、一葉さん。……また会えますよね」

「えっ? あっ! うん、勿論だよ! あっでも、えーと、千十ちゃん、あのさ
 わたしがこうやって都市伝説? になって戻って来た、ってことは周りの人にはヒミツにしてほしいな!
 ほら、死人が復活したなんて大パニックになっちゃうやつでしょ? だから……その」

「誰にも言いませんっ、約束します!」

「あっ、私も言いません。秘密は守ります」

「ありがとー! ありすちゃんもありがとね。 ……あっ」


 今度は千十ちゃんからいよっち先輩を抱きしめた
 ややあって、先輩が千十ちゃんを抱きしめ返した



 仲、良かったんだな



 しばらくして先輩から離れた千十ちゃんは、また泣きそうになっていた


「じゃあ、また。おやすみなさい」
「あっうん! また会おうね!!」


 去り際、千十ちゃんは一度だけこっちを見た
 街灯の光で、千十ちゃんの目元が光っている

 彼女は俺達に向かって小さく手を振っていた
 両手を大きくブンブン振ってる先輩の傍で、俺は片手を小さく挙げて応じるのがやっとだった













□■□
468 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:40:37.91 ID:MNOhVNoyo
 



早渡 脩寿(さわたり しゅうじゅ)
  南区の商業高校一年、契約者
  突然身に覚えのない容疑で日向ありすに攻撃されかける
  自分はそんなにチャラくないと思ってるので、チャラ男とか不良とかヤンキー呼ばわりされるとちょっと傷つく



日向 ありす(ひむかい ありす)/マジカル☆ソレイユ
  東区の高校一年、契約者で主に炎と熱を操る
  色々あって契約能力使用時には痴女っぽい格好をする
  嫌いな物がチャラい奴なので、早渡に対する第一印象は「最悪」



遠倉 千十(とおくら せと)
  東区の高校一年、契約者
  契約者なのに、都市伝説の存在や契約者をひどく怖がっている
  自分の恐怖症を克服しようと中学の頃から色々頑張ってきたが、その成果は



東 一葉(あずま いよ)
  元 東中の二年生、三年前の「連続飛び降り事件」の犠牲者
  現在は都市伝説「繰り返す飛び降り」になり果ててしまったが、生来の性格と記憶が失われたわけではない
  中学時代の遠倉千十とは面識がある以上の仲、今回の登場人物のなかでは一番お姉さん





 過去自分が発言していると思ったら、全くどこにも書いてなかったので、この場を借りて申し上げます
 マジカル☆ソレイユのリスペクト元は単発作品の「魔法少女マジカルホーリー」です
 作者さん、本当にありがとうございます。貴方のお陰でマジカル☆ソレイユは生まれました


 
469 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:55:08.37 ID:MNOhVNoyo
 


 花子さんとかの人に土下座でございます…… orz
 ここまで来るのに徒に時間を費やしてしまったのが悔やまれる……が、言い訳できない
 
 遠倉は中学時代、転校先の芽香市(学校町)で初めて七尾以外の世界に触れたのですが
 よりによって学校町、市内を蠢く異形が怖い、同じクラスの子達(契約者)が怖い、と怯え切って憔悴している彼女に
 いよっち先輩が関わったのなら、人柄的に咲李さんも関わっていらっしゃるのでは? という所からこういう形になりました


 
470 :何かこそこそやってたりやらなかったりしている花子さんとかの人  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/27(木) 11:40:03.57 ID:U8kVXGly0
次世代ーズの人様乙でした
変質者の誤解がとけ……とけ…………とけたよね、やったね早渡君!
頑張れ早渡君、第一印象最悪だと、そのあと挽回するのが大変だって先人達が言ってた、頑張れ!

はじめて触れた七尾以外の世界が学校町、そこそこ@(控えめ表現)ハードモードでは?
咲李が関わっていてもおかしくはないでしょう
彼女は優しくて、おせっかいでしたから
471 :単発:こんなに「たわわ」って打ったの初めてな気がする [sage]:2022/01/27(木) 16:39:56.72 ID:U8kVXGly0


 都市伝説とか都市伝説契約者とか能力者とかそこら辺関係なく、大体男はみんなおっぱい好きだよ!と言う物語である。


 あぁ、夜も遅い時間になってしまった。
 その青年は、早足で夜道を歩き帰路についていた。
 別に仕事で忙しくなった訳ではない。友人達と遊んでいたらうっかりこんな時間になってしまっただけの事だ。
 仕方ないのである。うっかり色々盛り上がってしまったのだ。ついでにちょっと帰りのバスの時間を一時間間違えてしまっていただけだ。仕方ない。
 曇り気味の夜空。月明かり星明りは乏しく、繁華街から離れると電灯の明かりも乏しくなる。
 それでもまぁ慣れた道だ。流石に迷うほど馬鹿では……。
「……あれ、ここさっき通ったっけ?」
 前言撤回。この青年は結構なレベル高めの馬鹿かもしれない。少なくとも記憶力はそこまで優秀ではない。
 えーっと?と現在地点を見失い、まぁ歩いてりゃそのうち家につくだろ!とお馬鹿さん特有の気楽さで歩き続けていた、その時だった。
「……ん?」
 前方から、誰か来る。たっゆんたっゆん。重たそうな二つの果実を揺らし、青年の前方から歩いてくる。
(う、うぉおおおおお……!すごい…………すごく……大きいです……!)
 青年がこんな感想をのんきに抱いたのは、青年が馬鹿だからではない。青年でなくとも、結構な確率でこの感想を抱くであろうから青年が馬鹿と言うせいではない。
 たわわだった。それは見事にたわわだった。何曜日であろうと関係ないのないたわわが、そこにあった。男女問わず、ここまでたわわな胸を持った人物がいたらうっかり見とれる、そんなたわわだった。
 前一行でどれだけたわわと言う単語を使ったか数える気にもならないたわわな胸。青年が見とれても仕方ない事だ。
 たわわな胸を持ったその女は、にこりと微笑む。雲の切れ間から覗いた月明かりが照らすその笑顔はとても美しく。しかし青年は女の胸元しか見ておらず。
 いつの間にかその胸元が超ドアップで視界にやってきていた事にも、馬鹿故か気づけず。
「おぶぅっ!!??」
 ぼよんっ、と。振り子かな?と言うレベルのそのたわわな胸に青年は顔を挟まれた。視界が暗くなる。たわわな胸と言う肉に挟まれ、音もよく聞こえない。
 ……そう、青年の首から上は、女のたわわな神々の生み出したもう谷間の間に挟まれていた。
 男ならばさぞや嬉しい現場であろう。しかし、ぎゅうぎゅうと力強く挟み込まれ呼吸がうまくできない。このままでは窒息死してしまうだろう。
 女は笑う。艶やかに嗤う。女は確かに殺意を持って、青年の頭部を自身の胸元で挟み込んでいた。
 何故、そのような事を行うかと言えば、女がそういう存在だからだ。たとえ己が本来語られる国でなかろうとも、本能に忠実に動く……それが都市伝説と言うものだ。

 「ハンツ=テテク」。マレーシアに伝わる怪異。その名はマレー語で「胸のお化け」を意味する。別名「ハントゥ・コペク」。意味は「乳首お化け」。
 本来はここまで若く美しい姿はしていない。もっと年老いた鬼婆のような、よくて中年女性くらいの年頃の姿をとるはずの存在。二本に来たらなぜかぴっちぴちに若返ってしまって解せない。
 解せないが、それでも「ハンツ=テテク」がとる行動は変わる事はない。
 子供や若者が夜遅い時間に外を出歩いているのを見つけては、胸の中に閉じ込めて窒息死させる。もしくは何処かへと連れ去り神隠しにする。人に害なす化け物だ。
 余談だがマレーシアと国境を接したマレーシアにも、名前違いで似たような怪異が存在するという。おっぱいは国境を越えていた。

 ぎゅうぎゅう、ぎゅうぎゅうと。挟み込む、挟み込む。呼吸を奪い、命を奪うために抑え込む。
「…………?」
 ……妙だ、と、「ハンツ=テテク」は疑問を感じ始める。
 おかしい。そろそろ死んでもおかしくないのだが……今宵、獲物に選んだ青年は、まだ、死んでいない。どこか、女の胸元を堪能するかのように深呼吸のような動作すらしている。そんな事をしても呼吸はできない状態だというのに。
 「ハンツ=テテク」は、己が襲っているこの獲物が都市伝説契約者であると気づけていない。だが、それは「ハンツ=テテク」が馬鹿と言う訳ではない。仕方ない。
 この青年が「馬鹿」だから仕方ないのだ。「馬鹿は死ななければ治らない」……逆説的に、馬鹿であるが故にこの青年は死なない。
 流石に、こうして窒息状態が続けば苦しいのだが。それでも、苦しかろうともこの状態からの脱出を選ばない程度には馬鹿でありエロいが故に青年は死なない。ちなみに青年が自分自身が契約者であると気づいているかどうかも不明である。馬鹿なので。
 ぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう。
 死のぱふぱふを続ける「ハンツ=テテク」。この戦いは永遠に終わらないものかと思われた。が。
 さっばーんすっくーん、と、肉と肉がこすれるような音と共に。
「やっぱり、お洋服は慣れまセーン。胸元が苦しいデース」
「ここまでぼいんぼいん用の服とか、この国だとレアだしなぁ。アメリカとかの方があると思う……ってか、結局サイズあう下着なくてノーブラ状態なのに胸苦しいとか、本当、服に慣れてな……」
 男女二人、会話しながらそこに到達してしまった事で。この戦いは終わりへと向かい始める。
 「ハンツ=テテク」に負けないほどのたっゆんたっゆんバストを持った、掌だけ雪のように白い南国美女と、それに付き添っていた男。
 二人は、青年を胸元に挟む「ハンツ=テテク」を見るや否や。

「「変態だーーーーーーーっ!!!???」」

 盛大に、盛大に。夜道に二人分の叫び声が響き渡った。
 変態呼ばわりされ、流石の「ハンツ=テテク」も慌てる。
「!?な、何を…………何が、変態だというのだ!?」
「変態だーーーーっ!!??路上でぱふぱふプレイしてる変態だーーーーーっ!!??」
「ぱふぱふプレイ!?」
「変態デース!!路上で男性に胸元押し付ける変態デース!!!!」
「違う!!!と、言うかそっちの女!貴様も怪異だろう!ワタシの事を言えるのk」
「へんたーい!!おまわりさーーーーん!痴女です!!!痴女が出ました!!!!」
「痴女デース!!今の私はお洋服を着たので痴女卒業!よって私は痴女カウントされない!!でも別の痴女が出没してマース!!!おまわりさーーーんっ!ポリスメーン!!!!」
 ばかばかしい叫びは、しかし確実に辺りに響き渡り。さしもの「ハンツ=テテク」も、警察官やら何やら人が集まってきては逃げ出すしかなく。
 胸元に長時間挟まれ続けた青年は、警察からの事情聴取に「天国……でした……」としか答えず。
 この混沌とした出来事は、後の何かに繋がる事もなく、そこそこよくある都市伝説事件として片付いたのかもしれないし、片付かなかったのかもしれない。








472 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 19:51:29.11 ID:MNOhVNoyo
 
 >>471
 単発投下お疲れ様です
 使用された「たわわ」は実に12回!ちなみに登場した単語「馬鹿」の使用回数も12回!
 「ハンツ=テテク」の今回初めて知りました……しつけ系統の妖怪かと調べてみたところ思った以上に殺意高めだった
 スックーン姉さんの付き添いは柿男かな? まさかこんな再登場をするとは。そしてまあ出会ったらそりゃまあそうなりますね
 
 > 都市伝説とか都市伝説契約者とか能力者とかそこら辺関係なく、大体男はみんなおっぱい好きだよ!
 
 そうですね、その通りだと思います
 
 早渡「…………」 ☜ 静かに顔を覆っている
 
 ホントそうですよね! その通りだと思います!!
 
 
 
 >>470
 ありがとうございます、そしてお久しぶりでございます
 > 変質者の誤解がとけ……とけ…………とけたよね、やったね早渡君!
 早渡「(東中でいよっち先輩を襲ったっていう)誤解は解けたんすけど」
 早渡「(日向さんが言う変質者疑惑の方は)誤解解けてないんすよね……」
 早渡「……変質者ぜったいゆるさん」
 > はじめて触れた七尾以外の世界が学校町、そこそこ@(控えめ表現)ハードモードでは?
 ですねー、「ハードモード」とは言い得て妙です
 後々「なんで今まで生きてこれたんだ?」とか言われそう
 > 咲李が関わっていてもおかしくはないでしょう
 > 彼女は優しくて、おせっかいでしたから
 33以降書くために何度かこれまで公開された話を読み返してたんですが、咲李さん優しすぎない?ってなりました
 東中出身であの事件の頃の在校生にはもれなく全員、事件が影を落としてるでしょうね……
 
 
 
 >>422
 >>426
 亀ですが乙ありでございます
 「ピエロ」で一気にバランサーが真っ黒に傾いてしまいましたが
 ラブコメ部分はしっかりやりつつ、「ピエロ」の方も進めていきたいです
 まず滞っていた【9月】を進めつつ、【11月】部分の再整理からですね
 
 
 
 >>361
 サイコメトリーの黒服は恐らく「(サイコ)メトリー」の黒服ことPナンバーのミッペかと思います
 のでコメントを残そうと……
 ミッペはまだ若葉マーク(新人)の黒服で能力の制御が上手くいってない感がありますが
 恐らく強力な能力持ちの情報を読み取ろうとするとオーバーヒートを起こして倒れる可能性がありますし
 リーディング経由で読み取ろうとした能力持ちの影響を受けるリスクも排除できませんね(特に精神干渉系の相手だと)
 あとリーディング対象の場所とかが不明だと、そもそもリーディングしようが無い面もあり
 たとえ本人が「狐」捜査に意欲的でも周囲や上長に止められたものかと
 
 あと、残留思念の契約者は三白眼の怖い中学生こと栗井戸星夜君と思われますが
 彼の能力も再現の程度により体力消耗が半端ではなく、加えて強力な存在が再現に含まれると「もっていかれそうになる」らしいので
 やっぱり「狐」そのものを対象とする追跡捜査は現実的ではなかったのではないかと推測しています
 
 
 
473 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 19:52:05.30 ID:MNOhVNoyo
 


○前回の話

 >>455-467


○あらすじ

 「変態クマの変質者」の容疑を掛けられ、かつ「中学で学校の怪談の女子を襲っていた」疑惑を向けられた早渡
 いよっち先輩の協力により、なんとか「中学で学校の怪談の女子を襲っていた」の方の誤解は解けた
 しかし「変態クマの変質者」の容疑はまだ残ったまま、その場はお開きになった
 これからどうするんだ早渡、いよっち先輩送っていきなよ早渡


 
474 :次世代ーズ 34 「帰る場所」 1/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 19:53:10.23 ID:MNOhVNoyo
 









「四月の中頃くらいかな? 昼休みに千十ちゃんを見かけて
 校舎裏に座り込んでて。最初はイジメられてるのかなって不安になったんだ
 四月の入学して間もない頃なのに、そういうのってあるのかなって不思議に思って
 一応学校町でもおっきい中学だから小学生のときの人間関係がそのまま持ち上がってくることあるんだけど
 でもほら、単にクラスに馴染めてないだけなのかもって思ってさ、どうしようか迷ってたら咲李が直ぐに声を掛けてね」

「そんなことが」

「それから暫くは昼休みを一緒に過ごすようになって
 それでね、最初は咲李とわたしが話してたんだけど、千十ちゃんも自分のこと少しずつ話してくれてね
 小中高一貫? そういう系の施設出身って教えてくれて。四月に引っ越してきたんだって。確か、ええと、山梨だっけ?」

「そうっす。北杜の、だいぶ山奥」


 千十ちゃんと日向さんを見送った後、俺達はドーナツ屋に戻っていた
 置きっぱなしになっていた手つかずのドリンクは半ば強引に俺が引き取り、奢りで新しく先輩のをもう一本注文した
 これくらいしなきゃ悪い
 先輩の話に相槌を打ちながら、ソーダっぽい味覚のドリンクを呷る


「にしても早渡後輩も千十ちゃんと同じ施設の出身だったとはねー、二人は幼馴染なんだ」

「いやまあ、……そう、なんだけど」


 罪悪感めいたものが胃の底を刺激する
 千十ちゃんと“再会”したあの日、「ラルム」で感じたものだ
 彼女に言われるまで思い出せなかった俺に、幼馴染だなんて言える資格は、きっとない





 
475 :次世代ーズ 34 「帰る場所」 2/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 19:53:58.25 ID:MNOhVNoyo
 

「それで、――千十ちゃんもだんだん明るくなっていったかなって
 五月には同じクラスの子と一緒に来るようになってね。かやべーちゃん、元気にしてるかなー
 咲李も大丈夫そうだねって安心したみたいで。それからも時々、昼休みはちょくちょく一緒に遊ぶようになって
 あっ、咲李は色々忙しくてあんまり一緒に居られなかったけど、わたしと千十ちゃんたちで二年生のクラスでよく話したりね
 それで……、一学期は大体そんな感じで……」


 不意に先輩が押し黙った
 俺はもう一口、ドリンクを含んだ

 店内のBGMを耳にしながら、先輩の方を見やる
 彼女は両手でドリンクのカップを包みながら、ほとんど減っていないソーダを見つめていた


「あのさ、早渡後輩。ごめん
 『あの日』のことを聞きたいんなら、わたし、役に立てないよ
 夏休み入る前の頃から、何があったかほとんど覚えてなくて」

「あ、いや。先輩、そういうんじゃない。俺は」

「――ごめん」

「先輩が謝ることじゃないよ。マジで
 それ言うなら俺は今日、先輩に助けてもらったわけだし
 ……なんならこれで貸し借りチャラってことにしない?」

「なにそれ、全然足し引きになってないよ、それ」


 先輩はようやく顔を上げて困ったように笑った
 それを見て、思わず俺も頬が緩んだ


「もう遅いし送ってくよ。さっき話に出てた通り、危ないしな
 そういや元々俺ん家に来ようとしてたんだっけ」

「あっ! そうだった! ……ねえ早渡こーはい、今から行ってもわたしは全然いいんだけど?
 男子のお部屋ってどんな感じなのか気になるし
 ベッドの下にどんないかがわしい雑誌とか隠してるのか気になるし!」

「はっははは、早速俺で遊ぶ気マンマンなのはやめろ?
 いやでもほんと遅い時間だから! 俺ん家に来るのはまた今度にしない?」

「ふーん、早渡後輩がそう言うんなら、突撃するのは今度にしてあげてもいーかなー」


 多分いよっち先輩の本来のノリはこっちだろう
 若干元気が戻ったようで、少し安心した


「じゃあ、そろそろ出るか」
「早渡後輩、あのね」


 うん? 先輩は何やらモジモジしてるが


「お願いしたいことがあるんだけど、いい?」
























 
476 :次世代ーズ 34 「帰る場所」 3/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 19:54:34.84 ID:MNOhVNoyo
 

 ドーナツ屋を出た後

 俺は先輩の後を付いていく
 帰路である南区方面じゃない
 位置的に、恐らくこの町の中央、中央高校に近づいてる気がする


「帰る前に付き合ってほしいところがあるんだ」


 いよっち先輩にそう告げられ、彼女に従うことにした
 俺達は今、住宅街の只中に歩を進めていた
 速足だった先輩のスピードが、やや上がった
 その先にあるのは――ごく普通のアパートだ



 なんとなく、察した



 先輩に従い、アパートの外階段を昇る
 先輩も俺も無言だ

 やがて三階の踊り場まで上がって、先輩は立ち止まった


「変わってないな」


 彼女の背中越しに、囁き声めいた一言を聞く
 足音を立てないように廊下を進み
 そして、とある一室の前で再び立ち止まった


          『奥上野』


「やっぱり……」


 先輩の声は俺にも分かるほど沈んでいた
 振り返った先輩は、どこか固い面持ちだ


「ごめんね、付き合ってもらって。――もう帰ろう」
「ここが先輩の実家なんすね」


 正確には実家“だった”と言うべきだろう
 既に表札は別人のそれへと変わっているのだから


 しばらくの沈黙の後、先輩は頷いた
















 外階段へと戻り、静かに階下へと向かう


「わたし、ずっと東中に居たとき、悪夢のなかに居た感じだったんだよね。前話したっけ」


 先輩は振り返らず、囁き声で教えてくれた


「そのとき、東さん家は引っ越しちゃった、みたいな話を誰かしてるの、聞いてさ
 確かめたかったけど、一人で来るのが怖くて」

 
477 :次世代ーズ 34 「帰る場所」 4/11 [sage]:2022/01/27(木) 19:55:17.28 ID:MNOhVNoyo
 

 何と応えればいいのか、分からない


「でも、仮にね。引っ越してなくても
 死んだ子どもが戻ってきたら、……やっぱ怖いよね、親だとしても、ね」


 そんなことはない、と言いたい
 でも言えなかった

 先輩の置かれた状況は先輩しか分からない
 先輩の今感じてる辛さは先輩にしか分からない

 俺は何と言えばいい










 一階に着いた
 お互い何を言うでもなく、アパートから出る


「あら、こんばんは」


 出し抜けに横合いから声が掛かった、年配の女性の声だ
 視界の端でいよっち先輩がビクッと揺れるのが分かった


「どうも」


 俺は声の主に会釈で応じる
 杖をついた、セーター姿のお婆さんだった

 そのまますれ違うように歩を進め、ブロック塀の死角へと回り込む
 この間、いよっち先輩は俺の影に隠れるように身を縮めていた


「さっきの、知り合い?」
「アパートの大家さん」


 なるほど、理解した


「先輩、ちょっとここで待ってて」
「えっ? あっ、なんで?」


 踵を返し、アパートへと戻る
 お婆さんは、背中を向けているがまだ居た


「すいません、少しいいですか? 此処の大家さんですよね?」

「あら。ええそうよ、どうしたのかしら?」

「此処に、……三年前は、東さんという方が住んでらっしゃったと思います
 娘さん、一葉さんのことで、どうしても挨拶したくて伺ったんですが」

「ああ、東さんを尋ねに来たのね。見ない顔だと思ったわ」


 彼女は曇った表情のままだ


「東さんは、一葉ちゃんを亡くしてから直ぐに此処を引っ越したの
 ごめんなさい、これ以上は話せないわ」

「無理を言ってすいません。ですが、一葉さんにはどうしても挨拶したかったんです
 俺……自分の先輩だったんで
 せめて、何処へ引っ越されたのか、それさえ分かれば」

 
478 :次世代ーズ 34 「帰る場所」 5/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 19:56:31.71 ID:MNOhVNoyo
 

 大家さんが酷く困っているのは嫌でも伝わってくる
 だが、此処で折れるわけにはいかない
 せめて先輩のためにできることをやらないと


「ごめんなさいね、守秘義務を抜きにしても
 東さんが何処に越していったのかは私にも分からないのよ」


 ややあって、溜息とともに大家さんは状況を教えてくれた
 一葉さん――いよっち先輩を亡くした東夫妻は傍目にも不安になるほど憔悴しきっていたらしい
 大家さんにも「娘が死んだこの町に居るのが辛い」と零し、ある晩、まるで夜逃げするかのように此処を引き払っていったという


「すいません、こんな無理を言って」

「貴方、東区の中学出身かしら? 中学校へはもう行った?」

「自分は――別の中学です。でも、東中には行きました。黙祷してきました」

「そう……、きっと一葉ちゃんも喜んでると思うわ
 思えば。あの夏からずっと辛いことばっかりね
 私のお友達も行方不明になったの。去年の冬にね
 親しい人が居なくなるのは、幾つになっても堪えるものよ」


 大家さんは遠い眼をして、夜空の彼方へ目を向けていた















 俺もいよっち先輩も、黙ったまま歩道を渡った

 今度こそ南区に向けて帰途に着いた


「早渡後輩」


 前を進むいよっち先輩に、急に声を掛けられ思わず息を呑んだ
 先輩は変わらず前を向いたままだ


「ありがとね、付き合ってくれて」


 そう言う先輩の背中は、酷く虚ろに見える
 このまま消えてしまうんじゃないかという程に


「実はさ、親が引っ越したこと一度確かめたんだよ」


 出来ることなら、先輩に並びたい
 横顔だけでもいい、一目見たい


「わたしも、甘く考えたんだ
 やろうと思えば、親に直ぐ連絡できるんじゃないかって
 わたし、携帯もってるし
 でもね」


 でもそれは無理だ
 歩道が細く、人が一人通れるだけの幅しかない
 今は先輩の背中越しに、声を聞くしかできない


 
479 :次世代ーズ 34 「帰る場所」 6/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 19:57:03.89 ID:MNOhVNoyo
 


「登録してた連絡先、使えなくなっちゃってたんだ
 そんな電話番号は存在しませんって
 電話だけじゃなくて、チャットも、メールも無効になっててさ
 お母さんのも、お父さんのも。こんなことある? って感じだったよ、もう」


 誰かがいてくれればいいのに
 こういうときに限って俺達以外に人影は見当たらなかった
 おまけに車の往来もないときてる
 確かにこの辺りは普段から人気は少ないだろうけど


「あーあ、なんかもうね。あんまり考えたくなかったけど
 本格的にひとりぼっちになっちゃったみたい」



 先輩のおどけたような調子の言葉を聞き、胸が詰まった
 その声は、今にも泣きそうなほど、震えていたからだ



「中学にずっと居続けてたときからずっと思ってんだけど
 なんでわたしだけ戻って来ちゃったんだろ、って」


 前方の横断歩道
 その向こうに見える歩道は、幅が広がっている
 もうじきだ、先輩の横に並ぼう


「わたしが戻って来ても、しょうがないって、ずっと考えててさ
 みんなも、咲李も一緒に戻って来たら、良かったのにって」


 横断歩道を、渡る
 俺は、先輩の横へと歩を速めた
 そっと、先輩の腕に自分の腕を回した


 俺達は立ち止まった


「先輩」


 いよっち先輩は泣いていた
 そして、そのまま俺の顔に目を向けた


「わたしね、お母さんたちが引っ越したの、なんかの間違いで
 アパートにまだちゃんと居て、それで、わたしが会いに行ったら、どんな顔するんだろうって
 もし、お母さんに拒絶されちゃったら、どうしようって、そんな怖いことばっか、ずっと考えてて」


「……」

「わたし、結局戻って来なかったほうが、良かったんじゃないかって、ずっと思ってて
 そのまま消えていなくなった方が、みんなも、『あの日』のこと、思い出さずに済んだのに
 わたし、わたしね。でも、でもね……!!」


 俺は、ただ黙ったまま、先輩の嗚咽を聞く


「千十ちゃんが、千十ちゃんがね、帰り際に、言ったの
 『私もずっと怖かったです』って、『一葉さんにまた会えて良かったです』って……
 『また会って、お話してもいいですか?』って……! わたしさ、そのときは頭いっぱいで、考える暇、なかったけど
 今になって、今になってね、あんな風に言ってくれて……、わたしのこと、怖がらずに、抱きしめてくれて……! ……うれしくって!!」


 
480 :次世代ーズ 34 「帰る場所」 7/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 19:58:59.22 ID:MNOhVNoyo
 


 先輩は俺の顔を見つめたままだった


「さわたり、こうはい
 わ、わたしは、此処に居ていいんだよね?
 死んだのに、も、戻ってきて、こうやって、居てもいいんだよね……!?」

「先輩」



 震えそうになる吸気を、気合で抑え込み
 ぐっと息を止めた

 そして力を抜く



「先輩、『此処に居ちゃだめ』なんて俺にそんなことは言えないよ
 いいじゃん、居ても。三年前に先輩が死んだのも、先輩の所為じゃないし
 都市伝説になって戻って来ちまったのも、先輩の所為じゃない
 居ちゃだめなんて理由があるかよ、先輩は此処に、学校町に居てもいいんだ」


「うん……っ!!」



 答えになってるだろうか
 今は俺に言えることを言った、それしかできない



「それに俺は、俺も先輩に会えて良かったって思ってるよ
 第一先輩と会わなけりゃ三年前の事件の真相なんて知ることもなかったし」

「えっ? さわたり、こうはいは、事件のこと、調べてたんじゃ、ないの?」

「いやあ、ね。確かに調べてたけどさ
 東中で花房君たちに会ったとき、正直に言うけど
 いきなり話し掛けられたもんだから胡散臭さが半端なかったんだよな
 正直今でもなんであそこまで教えてもらえたのか、色々疑いだすとキリないんだけど
 でも、事件の再現に付き合ったのも、先輩がいてくれたおかげだし、感謝してる」

「……そっか」


 いや、教えてもらえた理由も、彼ら自身が話していたし、実際その通りだろう

     『お前が情報を知る事が、こっちにとっての情報料なんだからさ』
     『中途半端にわかってる状態で「狐」やら別の事やらに巻き込まれて敵になられても、鬱陶しいし邪魔なだけだからな』

 特に栗井戸君、言い方は若干キツいけど、しかしその物言いはもっともだ
 俺はもう学校町に渦巻く状況に足を突っ込んでいる
 いずれ、より深みに足を踏み込むことになる

 彼らが与えようとした手がかりを、俺はもう少しで無下にするところだった
 そうならずに済んだのは他ならぬいよっち先輩の存在に因るところが大きい

 ――確かに俺は花房君の様子をうかがうために先輩を利用した、という下心があった。そこは認める
 でもこの場でそこまで言っちゃうのは野暮だろ、流石に


「それに今日も、色々ヤバい状況だった俺を助けてくれたのはいよっち先輩だしな
 先輩は俺の恩人だよ。だから、頼む」


 ブレザーのポケットに手を突っ込む
 シワになっちゃいないだろうな、それはちょっとあんまりなオチだぞ

 うん、問題なさそうだ


 引っ張り出したハンカチを、先輩に差し出す


「涙、拭いてくれ。一葉先輩」


 先輩は黙って受け取り、ハンカチに顔を埋めた

 
481 :次世代ーズ 34 「帰る場所」 8/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 19:59:35.89 ID:MNOhVNoyo
 














「ごめん、洗って返すね」

「俺は急がないからな、ゆっくりでいいよ
 それにモテる男を目指すなら常に清潔なハンカチを懐に忍ばせておくべし、ってな
 ストックは大量にあるんだよ」

「なにそれ、身だしなみは大事だけど自慢するようなとこじゃないよー? それは」

「うるせ! いいじゃん別に! いいじゃん別に」


 俺達は再び歩き出していた
 南区の繁華街近辺に差し掛かったおかげか明かりも人気も増えていた

 そのまま進んでいけば隣町、辺湖市新町に辿り着く


「ねえ早渡後輩、わたし……いつかお母さん達に会えるかな」

「会えるよ、絶対」


 先輩がぽつりと漏らした問いを即答で肯定した

 勿論手放しで答えられるようなことじゃない
 一度死んだ人間が都市伝説化して戻って来た、となったら
 基本的にその手の治安当局が黙っちゃいないだろう、『組織』とか『西呪連』とか主にあの辺が

 だからと言って
 先輩の思いを否定するような応じ方は、できなかった

 そうだな、正直色々思うところはあるけど
 今伝えるべきことじゃない。機会を改めないとだな


「お金貯めてお母さんたちを探そうって考えててね
 もう夜にはお願いしてあるんだけど。お仕事を手伝うことになったんだ」


 いよっち先輩の話だと、高奈先輩はネット上で店を構えており
 オーダーを受けて服を製作する本格的な仕事をやってるらしい
 なんでも海外ではちょっとした人気の店だそうだ


「夜ん家に置いてもらってるわけだし、それにほら、働かざる者食うべからずって言うじゃない?
 あ! そだ、そう言えば早渡後輩もバイトしてたり、するの?」

「お? ああ、まあ……うん」


 先輩の話を聞いてたら思わぬ質問が飛んできた
 いやまあこの会話の流れだし、普通か


「どんなバイトなの? 接客とか? 学校町のお店? だったら教えて!! 行くから!!」

「いや接客じゃないよ、職場も学校町じゃないし。表の言葉だと……工事従事者、みたいな?」

「なにそれ? ちょっと、勿体ぶらずに教えてよ! ねえ!」

「なんつーか説明が難しいんだよ、ざっくり言うと異界の拡張工事のバイトなんだけど」

「なにそれ……?」

 
482 :次世代ーズ 34 「帰る場所」 9/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 20:00:12.85 ID:MNOhVNoyo
 

「異界ってアレだよ、都市伝説とかそういうので……ほら、異次元とか異空間とかあるでしょ?
 ああいうとこを開拓して、現世の人間なり都市伝説なり古い怪さんなりが安全に居住できるような空間を作る、そういう仕事
 異界はほら、色んな瘴気が噴き出したり変なのが定期的にうろついたりするから、そのまま進入すると結構危ない場所だからそういう作業が必要で」

「ふー……ん???」


 いまいちピンとこない、いよっち先輩はそんな表情だ
 確かに自分のバイト内容を一から説明するとなるとまあ結構長く複雑になりそうだ
 俺も分かりやすく説明する自信が、正直ない

 携帯を引っ張り出して、アルバムを開く
 画像を指で掻き分け、……あった


「これ、バイト先の仲間」
「あっ! 美人さんじゃん!!えっこれ角生えてるの!?」
「真ん中は梅枝さんでうちのリーダー。呪術も使える凄い人だよ」
「こっちは早渡後輩でしょ? こっちの人は? ……ちょっとタイプかも」
「おっ? いよっち先輩、マコトみたいなヤツがタイプなの? こいつは同じ『七尾』出身の幼馴染」


 俺含めた三人が映った画像を先輩に見せた
 去年職場で撮ったやつで、バイトの休憩中だったので皆仕事着のままだ
 真ん中で笑顔なのが梅枝さん、「鬼」の血筋。そして彼女に腕を回され両脇で苦しそうにしてるのが俺と真琴だ
 梅枝さんが首に腕回してきて思いっきり引き寄せたタイミングで撮られてるので、主に俺の顔面が凄いことになってる


 しっかし、いよっち先輩の好みなタイプは真琴みたいなヤツか
 いやまあ分かるぞ、俺が言うのもアレだけどなんてたって真面目を絵に描いたような好青年だしな
 だが残念だったな、いよっち先輩。そいつは既に婚約者が居て、しかも両想いときたもんだ。残念だったな!


「楽しそうな職場だね、いいなー」

「肉体労働系の仕事だからまあまあハードだけど、でも楽しいよ
 一年半くらい前だっけ、それくらいから始めたんだけど時間の流れ方が明らかにおかしい場所とかあって
 どうなってんだこれって、なってさ。ぶっ続けで一日くらい潜って監督に止められたり、そんな感じだったよ」

「へー、中学行きながらバイトしてたんだ。あれ、でも法律的にどうなのそれ?」

「あ、いや。俺は中学行ってないんだ」


 さっき大家さんと話したときの返答は、実は嘘だ
 あの場で正直に話すわけにもいかないし便宜上の理由ってやつだ


「えっ!? でも、えっ? 『七尾』って小中高一貫なんでしょ!? だって、えっ!? 義務教育だよ!?」
「ふっふふふ、そこの事情を説明するとそれこそめっちゃ長くなるし色々複雑な事情とか話さなきゃなんだけど」


 「七尾」のANクラス出身者はEカリとJカリの内容を強制的に脳みそに書き込まれ
 E5修了の時点で中等教育まで履修したのと同レベルの学力を習得することが必須になってて
 S1に上がった時点で高認の証書が交付される――んだが、こうした制度にも言うまでもなく色々事情がある

 まず脳みそに書き込みを施す「学習装置」なる設備は当然AN、都市伝説能力に由来するシロモノだし
 高認に合格したことにするという措置も「七尾」が裏で政府や教育系の行政機関と繋がってるからこそ出来る行為であって
 グレーというより真っ黒だ、色々


「えーっ!? じゃあ早渡後輩ってやろうと思えば大学に飛び級できるってこと!?」
「飛び級っつーか飛び入学っつーか、でも許可する大学はまだまだ少ないし、基本は18歳なるまで大学入学はできないって話だぜ」
「へー、ちょっと俄かには信じがたい話ですねー! でもなんで『七尾』から出ることになったの?」
「……“上”の都合で閉鎖しちゃったんだ、施設が」


 流石に以前高奈先輩にした話を繰り返すと更に長くなるので止めておく
 あといよっち先輩には空七との一件を隠したい。絶対突かれそうだし


「じゃあじゃあ! 早渡後輩の『七尾』と『七つ星』? の頃のこと、今度教えてね!」
「うん、今度な」









 
483 :次世代ーズ 34 「帰る場所」 10/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 20:00:40.55 ID:MNOhVNoyo
 









 先輩とそうこう話をしているうちに目的地に近づいてきた
 高奈先輩の住むアパート、今はいよっち先輩の帰る場所でもある


「いよっちせんぱーい!!」
「ん?」
「あっ、れおん君。半井さんも」


 聞き覚えのある声だ
 前方を見遣れば、「人面犬」の半井さんに乗ってれおんがこっちにやって来る


「へっ、デートは楽しんできたかよ」
「そんなんじゃねえよ」
「今日はもう色々あったよー、ねー後輩?」
「うんまあ、……まあ色々あったね」
「しっぽりヤったか?」
「ナチュラルにセクハラかますのやめろ半井さん」
「あ、そだ。れおん! ドーナツ買ってきたよー、ほら」
「え! わーいやったー!」
「おっし、戦利品は頂いた! 戻るぞれおん」


 いよっち先輩から大きい方の手提げ袋を受け取ると
 れおんと半井さんは猛ダッシュでアパートへと戻っていく

 ふと気配を感じ、もう一度前を見る
 れおんと半井さんと入れ替わるように、私服姿の高奈先輩がこちらに向かってきた
 高奈先輩の横には眼鏡を掛けた女性も一緒だった


「ひさし、ぶりね。早渡、君」
「どうも」
「え、な、なんで? みんなして、ど、どうしたの?」


 先輩に軽く会釈で応じると同時、いよっち先輩が慌てたように高奈先輩に尋ねていた


「そろそろ、帰ってくる、頃合いだと。思ったのよ」
「夕飯の支度もできて、一葉ちゃん帰ってくるの待ってたの」


 勘ね、高奈先輩は微笑みながらそんなことを言う
 眼鏡の女性と目が合った。先輩のお母さんだろうか



 
484 :次世代ーズ 34 「帰る場所」 11/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 20:01:18.28 ID:MNOhVNoyo
 


「この方は、西野さん。お手伝いに、来てくれる、ご近所、さん。なの」
「貴方が早渡君ね、夜ちゃんから聞いてる。どうかな? 折角だし貴方も一緒に夕飯食べていかない?」
「あいや、そういうわけには! 自分もちょっと早く帰りたいんで! すいません、次の機会は是非!」
「そんな、遠慮しなくてもいいのよ?」


 眼鏡の女性の提案を、思わず両手で制する
 なんというか悪い、そこまで世話になるわけにもいかない

 バツが悪い、横に居るいよっち先輩を見た
 手厚い出迎えじゃないか、先輩

 そろそろ俺もこの辺で引き上げた方がいいだろう


「先輩、今日はありがとな」
「こっちこそ。早渡後輩のお家に突撃できなかったのが心残りだけどね!」
「それは次の機会ってことで、マジで」
「あと、これ。冷めちゃってるけど」


 先輩から小さい方の手提げ袋を受け取る
 ドーナツ屋で買った、元は俺の家に持って行く用だったものだろう


「それから、改めましてだけどさ」


 いよっち先輩は、おもむろに片手を差し出してきた


「今日は……今日も色々、みっともないとこ見せたけど。これからもよろしくね」

「こっちこそ」


 先輩の手を、握り返す

 僅かながら、先輩の“波”を腕伝いに感じる
 それは甘いキャンディのような、優しいニオイだった





















□■□
485 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 20:26:04.88 ID:MNOhVNoyo
 


 引き続き花子さんとかの人に土下座でございます…… orz
 いよっち先輩まわりの話ですが、前スレ 808で案が出た
 
 > 星夜が東ちゃんに接触するとしたら、以前リレー状態でクロスさせていただいた「狐」に関する情報を早渡君に渡しまくった話から一週間もたたないうちだと思うんで、マグロ目状態で接触できる
 
 やるかやらないかは別にしても、今後言及される可能性を考慮し
 星夜君が接触した/しなかった部分については明言を避けました
 
 内省的な話が続き、全く「都市伝説と戦う」をしてない感が半端ない状態ですが
 もう数話後にはいよいよ「変態クマ」こと「変質者おじさん」と戦闘になります
 その数話後には「トンカラトン(朱の匪賊)」と戦闘になるし
 更にその先で「逢魔時の影」と会敵、そして「盟主様」から逃げることにもなります(アクマの人に土下座でございます orz)


 
486 :うっかりに気付くのが遅れた花子さんとかの人  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/27(木) 21:43:31.54 ID:U8kVXGly0
次世代ーズの人乙でしたの

直斗がうさんくさくてすまねぇ早渡君!
でもあいつ普段からわりとあぁだわ!
ついでに言えば星夜もあのきつさ大体全員に向けてる(一部例外あり)でごめん!!

星夜の東ちゃんとの接触、今現在きっちり固まってるわけじゃないので接触あったかどうかは未定です
接触するとしたら誰かブレーキがいる。星夜のブレーキが


さて、>>470>>471のIDを見比べていただこう
…………おわかりいただけるでしょうか
えぇ、自宅のネット環境変わって、一々PCの電源いれるたびに回線繋ぎ直しじゃなくて繋がりっぱなしだから、同日だとID一緒やんってのを忘れておりました
トリ入れてなかった意味が消えた!!!


そういう訳で、やっと時間とれた&色々読み直したりとかで「絶対みっちり長文書かなきゃいけない病」から多分脱出できた愚か者です
年単位で長らくお待たせして大変と申し訳ありません
いつまで書ける状態続くかわかりませんが、ひとまず書けるうちに書ける分だけでも書いちまえの心意気でちょこっとずつ投下していこうと思います
エンジンかける意味で、後先考えずにリハビリで書いてた単発も書けたらいいね

そんな心意気で、今夜の別件の用事始まる前に短い奴だけど書いてたのなんかぽいします
487 :過去の遺物な花子さんとかの人  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/27(木) 21:46:20.44 ID:U8kVXGly0
【これまでのあらすじ】

まとめwikiの「次世代の子供達」を読むとおおまかにわかるかもしれないしわからないかもしれません


【おおまかな時間軸】

「バビロンの大淫婦」消滅

 ↓

ピエロ大暴れ&「狐」陣営による「凍りついた蒼」襲撃【※大人の事情で投下待機状態ですが時間軸的には同じくらいになるはず】

 ↓

ピエロ大暴れなうかそれが終わった辺り ←今回ここ!



                 ハ_ハ  
               ('(゚∀゚∩  ちょっと曖昧だけどこんな感じだよ!
                ヽ  〈 
                 ヽヽ_)
488 :見つけた=見つけられた=見つかった  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/27(木) 21:48:14.31 ID:U8kVXGly0
 甘い香りがする。
 甘い、甘い、甘い、甘い、甘い、あまい、あまい、あまい、あまい…………

 くすくすと笑う声がする。女の笑う声。
 稲穂色の長い髪を持つ、気崩して肌を露わにした装束の美しい女子(おなご)は、ゆっくりとそこに踏み込んできた。

 アァ、甘い、甘い。甘い香りがそこに満ちていく。
 頭がぼうとしてくるような、芯までとろけていくような香りだった。
 思考を奪い去り、その甘みにだけ夢中にさせてくるような、中毒性のある香りだった。

 くすくすくす……と、女が艶やかに微笑む。
 微笑みながら、歩み寄る、甘い香りをまき散らす。思考がとろけていく。
 何も、考えられなくなるような……思考を丸ごととろかされ、この女子の事しか、考えられなくなるような……

「…………あぁ、可愛い子達」

 女子が口を開く。甘い声。
 その声が耳に届くと、さらに思考がとろける。
 女子に、狐の尾が生えている。美しい純白の尾が、全部で九本。
 ゆらゆらと揺れる尾は美しい。揺らめくその動きから目を逸らせそうにもない。

 彼ら、「朱の匪賊」が四番隊の「トンカラトン」達は、その女子から目をそらせずにいた。
 香りを感じた時点で、もう遅かったのかもしれない。姿を見てしまえば、そして、声を聞いてしまえば。
 さらにさらに、精神への「汚染」は進む。心を犯す誘惑の、魅惑の力に侵食される。

 あぁ、あぁ……この香りは、姿は、声は。

「…………「十六夜の君」…………」

 女子の笑みが深まる。
 すらりとした指が、伸びてくる、触れてくる。
 甘さが、直接溶け込んでくるような錯覚。

 あぁ。忘れもしない仔の御威光。
 天にも昇るかのような心地よさ。

 今、自分達の前に姿を現したこの女子は、間違いなく……自分達が探していた「十六夜の君」。
 「白面金毛九尾の狐」。
 町が面妖な仮装をした道化師によって騒がしいこの夜に。彼らはとうとう、探し人を見つけ出して。

 そして、その甘い香りは、彼らに一気に広がっていった。
489 :見つけた=見つけられた=見つかった  ◆7JHcQOyXBMim [sage !nasu_res]:2022/01/27(木) 21:49:50.33 ID:U8kVXGly0



 この甘い誘惑を逃れることができた者が、果たして、「朱の匪賊」の中にいただろうか?
 それは、彼らのみぞ知る事であり。

 このタイミングで、彼らがついに彼女を見つけてしまった事が。
 彼女がついに、姿を現した事が。
 彼らの運命を決定づける事になるであろう事が。
 果たして彼らは理解できたかどうか。

 もう。
 わからない。





to be … ?
490 :見つけた=見つけられた=見つかった  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/27(木) 21:52:50.56 ID:U8kVXGly0
「朱の匪賊」の皆様、「十六夜の君」見つけるの遅れてごめんね
「バビロンの大淫婦」消滅後にやっと表に出られるようになったので迎えに行きました
ばりばりに誘惑が振りまかれていますが、「朱の匪賊」の皆様がどれだけ誘惑に飲み込まれてしまったか、耐えきれた者がいたかどうか

その辺は次世代ーズの人様に無責任ながら一存させていただきます
甘い幸せに浸るも浸らぬも、彼ら次第でしょう
491 :甘い頭痛と先への備え  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/27(木) 21:56:20.69 ID:U8kVXGly0
 …………痛い。
 ずきずき、ずきずきと頭の芯が傷む感覚。
 一時、マシになったかと思った頭痛はまた再発していた。
 考えようとすると、頭痛が強まる。考えるなと言うように激しく痛む。

(……いや。思考を止めるな。考えろ、考えろ……!)

 己に言い聞かせ、彼、九十九屋 九十九は頭痛に抗いながら必死に思考を巡らせようとしていた。
 思考を止めてはいけない。今は、思考を巡らせ続けなければいけない。

(アダムが、死んだ…………判断ミスだ。俺があの場に残るべきだった……!)

 そうすれば、みすみす死なせずにすんだ。
 自分が、あの場に残っていれば対応できた。
 あの「カブトムシと正面衝突」を防げるだけの力が自分にはあった。
 最悪防げなかったとしても、対処できたはずだ。そのはずだ。
 ……だというのに、自分はあの場にいなかった。
 頭痛が原因で、休むように言われて……そのまま、従った。無理にでも、あの場に残るべきだった。

 皓夜はまだ泣いている。
 アダムが死んだ後、「食事」の為にある場所を襲撃した際には一旦涙は止まっていた。
 だが、ある程度腹が満ちたら、再びその思考は悲しみに囚われたのだ。
 アナベルもそれは同じ。
 抱き人形と言う布の体故涙を流すことのできないアナベルだが、それでも幼い少女のすすり泣きの声をもらしていた。
 二人共、アダムによく懐いていたから。

 今、九十九の手元にはロケットペンダントがある。
 皓夜が、「あだむが持ってたやつ」と言って、九十九に渡してきたものだ。
 アダムの遺体は、彼の遺した最期の言葉に従って皓夜が全て食らいつくしてしまって……そのアダムが身に着けていたペンダントを、皓夜は遺品として持ち帰ったのだ。
 そして、それを九十九に預けてきた。「きっと、自分だとなくしてしまうから」と。なくしたくない物を預けてくる程度には、九十九は皓夜に信頼されていた。
 ロケットの中身は、家族写真だった。
 男と、女と、まだ幼い子供。男の顔の部分だけ酷く乱雑に黒く塗りつぶされていたが、そこにあるだろう顔が誰のものかは容易に想像できる。
 きっと、アダムは皓夜の事を自分の子供のように扱っていた。
 皓夜だけではない。アナベルや、ミハエルや……もしかしたら唯の事すらも、そう見ていたのかもしれない。
 自分達の中で、「父親」を経験したことがあるのはアダムだけだった。
 ファザー・タイムは死神の側面が強すぎて「父親」とはまた違う……もし「父親」の側面があったとして、それを向けられるのはミハエルだけだろう……結果的に、アダムは自分達の集まりの中で父親のような役割を果たしていた。

 そのアダムが、死んだ。その役目を果たせるものはもういない。
 皓夜やアナベルの悲しみは、そう簡単には癒えないだろう。
 死を間近で見る事になった唯も深く心が傷ついたようだったが、彼女はまだもう少し、悲しみに沈み切らずにこらえている。
 皓夜とアナベルの悲しみが深いのは、その場にいながら何もできなかったせい。
 特に皓夜は、自分を庇って死んだという点があまりにも衝撃が強すぎたのだろう。
 きっと、皓夜は…………誰かに庇われるという体験自体、生まれて初めてだっただろうから。

(ひとまず…………皓夜とアナベル、には、「あの方」がついているから、だいじょう、ぶ…………っ!?)

 「あの方」が、皓夜とアナベルの傍に居る。
 悲しみを忘れさせるから大丈夫と、そう微笑んで言っていたから、大丈夫……。


 ずきんっ、と。
 頭の芯が、ひときわ強く痛みを訴えた。
 あまりの痛みに、思わずその場で蹲る。

(……しっかり、しろ…………「あの方」がいる、から……皓夜とアナベルはだい、じょう……)

 ずきん。
 痛みが増す。考えろ、思考を捨てるな。
 「あの方」が、包帯まみれの連中を連れて自分達の前に姿を現してくれて。
 その時には頭痛が収まっていたというのに、またこうしてずきずき傷む。
 こんな、頭痛に囚われている暇などないのに、どうして。
492 :甘い頭痛と先への備え  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/27(木) 21:57:50.24 ID:U8kVXGly0
(……う、ん……?…………そうだ。どうして、こんなに。頭痛が、するんだ……)

 頭痛は、いつからしていた?
 どうして、頭痛は強まった?
 考えようとすると、また傷んだ。

 なんとか立ち上がり、ふらふらしながら隠れ家の中を歩く。
 ミハエルと、唯がすすり泣いているような声が聞こえて。そこにかけるべき言葉は見つからず、歩き去る事しかできず。
 ……あちらは、ファザー・タイムに任せるしかない。自分にはかけてやるべき言葉は見つけられない。
 ずきずきと傷み続ける頭を抱えて、やるべき事と頭痛の原因を考える。

(とにかく、「あの方」と合流は出来た……頭痛は、「あの方」の傍にいれば収まる、大丈夫…………明日。いや、もう今日か。動くとあの方はおっしゃった…………なら。俺は、治療を行える者の確保を……)

 一番戦えるのは自分。
 攻撃が届く範囲も、威力も。殺し慣れも。
 「あの方」が連れてきた包帯まみれの連中の実力が分らない以上は、自分が一番戦えるものとして考えるべきだろう。
 情報は、「あの方」より先に合流した、「組織」所属の黒服からも与えられている。
 それを元に、厄介な連中のうち、誰に誰が対応するか。考えないと……。

 頭が痛む。
 目をそらすなと警告するように。

(……大丈夫…………できる、やれる……「あの方」とも合流できたんだから、もう、何も心配する事なんて……)

 頭が痛む、傷む、傷む。
 目をそらすな、今の状況をもっとよく見ろ。

 もしも、もしも……万が一が、あれば…………。

「……九十九」

 声を掛けられ、振り返ろうとして。激しい頭痛に、足がふらついた。
 倒れ込みそうになった体は、伸ばされた腕にはしと受け止められる。

「お、っと……大丈夫か?」
「……ヴィットリオ」
「抱きとめるんなら美女の方がいいんだが…………って、おい。本当に大丈夫か。顔色酷いぞ」
「…………顔色に関しちゃ、お前に言われたくない」

 酷い顔色なのは、きっとお互い様だ。
 九十九の体を受け止めたヴィットリオも、酷く顔色が悪い。
 「あの方」の傍に居た時はそうではなかったのだが。この軽い調子の男も、アダムの死に思うところあったのだろう。
 自分達があの場を離れた後で死んだという事実が、重たくのしかかっているようだった。

「頭、まだ痛むのか?」
「……「あの方」の傍に居た時は、落ち着いてはいた」
「そうか、お前もか」

 お前も?
 頭痛をこらえつつヴィットリオの顔をよく見れば。あちらもまた、何か痛みに耐えているような顔。

「俺も……最近ちょくちょく、頭痛がしてさ。「あの方」の傍にいる時は痛みが消えてて安心したんだけど。傍から離れたら、また傷みだしてさ」

 我慢できない程じゃないけど、と。
 そう言って笑ってくるが、だいぶ辛そうだ。

(…………「あの方」の傍に居る間は、落ち着いていた……?)

 自分と、同じように。
 それは、その、理由は…………。

「…………ぐ」

 気づいた事実を消し去るように頭が痛む。
 駄目だ、目をそらすな。そらすのだとしても……あと、少し……。

「九十九?おい、本当に大丈夫なのか?「あの方」を呼んで……」
「…………、駄目だ」

 目をそらすな。
 事実を認識しろ、そして、考えろ。
 万が一に、備えろ。

「ヴィットリオ、ちょっと、来い」
「え?」
「……話しておくべき事が、ある。今後のために」


 万が一に備えろ。
 その万が一が来るかどうかはわからない。
 いや、それを考える事すら不敬であったのだとしても、それでも。
493 :甘い頭痛と先への備え  ◆7JHcQOyXBMim [sage !red_res]:2022/01/27(木) 21:58:35.59 ID:U8kVXGly0


 一人でも多く生き延びるための、備えをしなければ。



to be … ?
494 :書けるうちにどこまで書けるか花子さんとかの人  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/27(木) 22:08:08.94 ID:U8kVXGly0
ひとまず、「狐」編最終決戦前日深夜くらいの気持ちの時間軸
一応、「朱の匪賊」の皆様が合流した事前提で書かせていただきました
「狐」に合流しても他の傘下と一緒に行動しないよ、って場合はご指摘いただければwiki掲載時にそっと直します

九十九屋が酷い頭痛
ヴィットリオも頭痛がしているようです
他の、しばらく誘惑の影響を受けていなかった唯やミハエルも程度の差はあれ頭痛を感じているかもしれません
皓夜とアナベルの頭痛は、まぁ「狐」がじっくり二人の傍にいるようなのできっとなくなってしまうのでしょう
郁はどうなんでしょうね。わかりません


>>472
>使用された「たわわ」は実に12回!ちなみに登場した単語「馬鹿」の使用回数も12回!
そんなに使っていたかたわわ……まさかの馬鹿と同じ回数
ちなみに最近はpixiv百科事典にて「都市伝説」とか「女妖怪一覧」とかでざっと眺めてネタになんねーかなっての探したりしてました
まだまだ世界にはネタに使えそうな存在が眠っている

>早渡「…………」 ☜ 静かに顔を覆っている
(肩ぽむ)(暖かい眼差し)

>早渡「(日向さんが言う変質者疑惑の方は)誤解解けてないんすよね……」
(肩ぽむ)(頑張れ、ファイトだ!)

>咲李さん優しすぎない?ってなりました
その優しさが仇になって死んだのが三年前なので
優しすぎるのってむつかしいね

>残留思念の契約者云々について
仰る通り体力消耗が激しいのと、wikiの方ではもうこっそり書いておいたんですが、あいつ、担当黒服が姿も形も見えないという若干特殊立場な訳で
「狐」そのものを対象とする追跡調査には加わらせてもらっていません
495 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 23:37:52.18 ID:MNOhVNoyo
 

>>488
「見つけた=見つけられた=見つかった」 へのクロス

●朱の匪賊
 主に「トンカラトン」のみで構成される武装都市伝説集団
 朱の匪賊側は対外的に自らの勢力を「朱の師団」と称する

 
496 :次世代ーズ 「一日目の夜、『あkえ縺ョ縺イ縺槭¥』」 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 23:39:54.62 ID:MNOhVNoyo
 


 嗚呼、嗚呼、嗚呼
 遂に、遂に、遂に、この刻がやってきたのだ


 「トンカラトン」のみで構成された集団、「朱の匪賊」
 その四番隊

 彼らは「十六夜の君」を捜し、大挙してこの学校町を訪れた
 「狐」と呼ばれ、恐れられ、蔑まれている、「十六夜の君」を加勢するために



 そして、今宵
 遂に御姿を現したその女子に対し、四番隊 隊長 包 六郎(つつみ ろくろう)
 および、その場の四番隊総員が、膝をつき、平伏していた


 恍惚が、脳を蕩かす
 何故彼らは誰に言われるまでもなく、「十六夜の君」へ額突いたのか
 最早それを問う者は、そうした疑いを抱く者は、この場には残っていなかった


「『十六夜の君』……」


 平伏したまま、中之条は咽び泣いた

 中之条――元 三番隊にして先の悲劇の今や唯一の生き残りだ
 四番隊を「十六夜の君」へ引き合わせるべく、自ら先導役を買って出たのだ

 その労苦が、今まさに報われたのだ


「『十六夜の君』、お逢いしとうございました……」



「『十六夜の君』、拙者は『朱の師団』四番隊 隊長、包 六郎と申します
 先の戦場では三番隊が力及ばず、御許への助太刀を成し遂げられず、申し訳ございません」



 平伏したまま、包は目の前に現れた女子に申し出た



「三番隊より御許への加勢を頼まれ、四番隊、遅れ馳せながら参上致しました
 我ら四番隊、御許へ命を捧げます故――」



 俄かに、場を満たしていた香気が、一際強まった

 官能が四番隊を犯す

 恍惚が四番隊を犯す



「――なんなりと、御命令を」



 彼らがかつて盃を交わした「朱の師団」本隊への忠誠など、とうに吹き飛んでいた
 彼らと苦楽を共にした副隊長、副々隊長、そして四番隊若干名の不在など、最早些末事と成り果てていた


 この刻

 既に「朱の匪賊」四番隊は、「狐」による完全な支配下にあった



 そして、これ以降

 「朱の匪賊」四番隊は、「狐」の手勢、その忠実な手駒として動くことになる





□□■
497 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 23:41:51.42 ID:MNOhVNoyo
 

タイトルが文字化けしてるのはわざと



花子さんの人、投下お疲れ様です
うわあ、とうとう現れちゃった、「狐」

>>488
そしてありがとうございます!

前スレ 494-497 の回収がとうとう来ちゃった
ちなみに本スレ >>262-264 の副隊長、副々隊長による四番隊追跡シーンは
恐らく今回の後の時系列かもしれない、きっと!


>>490
こちらもありあがとうございます
> ばりばりに誘惑が振りまかれていますが、「朱の匪賊」の皆様がどれだけ誘惑に飲み込まれてしまったか、耐えきれた者がいたかどうか
>
> その辺は次世代ーズの人様に無責任ながら一存させていただきます
全員魅了 → そして完全に「狐」勢力の手駒 の流れで問題ありません!
その場にいた四番隊から(元々)抜けてるのは 【副隊長(兄者、珍宝)、副々隊長(ヤッコ)、銀冶、門佐、六ン馬 の5名】 ですね
残りの四番隊は基本全員「狐」の手駒、最初は50-60名で想定してたと思いますが、下手すると200名近くいるかもしれない
湯水のように使って頂いて構いません! なんなら自分が書くときも湯水のように消費するかもしれない


>>486
> 星夜の東ちゃんとの接触、今現在きっちり固まってるわけじゃないので接触あったかどうかは未定です
> 接触するとしたら誰かブレーキがいる。星夜のブレーキが
こちら了解ですー、どちらでも対応できるようにしますね


>>491-493
九十九屋さんこれ大丈夫? 大丈夫じゃない方の頭痛だよね? 前スレでも頭痛の症状出てなかった? (素)
あと個人的に唯ちゃんがこれからどうなるのか心配してたんですが……まあ多分大変なことになるでしょうね(予想よ外れろ)
正直彼女が誰とぶつかることになるか、ちょっとハラハラしてます


>>494
> 一応、「朱の匪賊」の皆様が合流した事前提で書かせていただきました
了解です、全然問題なし

> あいつ、担当黒服が姿も形も見えないという若干特殊立場な訳で
ここ、確かにwikiでさらっと書いてましたね……
> 「狐」そのものを対象とする追跡調査には加わらせてもらっていません
やはりか、でもなんか裏というか背景ありそう


早渡は今後の展開にどのようにも対応できるように余裕に幅を持たせておきたいところですが
初期検討メモでは、早渡と「トンカラトン」副隊長さんが一緒になって、「狐」戦最中か、「狐」戦終了時点で花房君の下(?)へ駆け付ける想定でした
あくまで想定です

早渡「花房君!? 無事か!?」   ☜ 「無事じゃないのはそっちだろ」ってレベルでボロボロ
珍宝「お主が花房か!? 無事なようだなぁ!!」   ☜ 剥き身の日本刀と違法自動小銃で武装

……副隊長さん以下、別働の5名は違法銃火器所持してるし、これ真顔で通報されないだろうか





次世代ーズ【9月】時点の35「憩う、ひととき(仮)」、36「聞き込み(仮)」37「クマ対決会(仮)」投下は、少なくとも1週間空きそうです……
せめて36までは2月入る前に投げたかった……

 
498 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 23:56:48.87 ID:MNOhVNoyo
 

>>486
> いつまで書ける状態続くかわかりませんが、ひとまず書けるうちに書ける分だけでも書いちまえの心意気でちょこっとずつ投下していこうと思います
> エンジンかける意味で、後先考えずにリハビリで書いてた単発も書けたらいいね
無理しないでね!
このご時勢だから周囲は大体フィジカルかメンタルをヤッてる人が増えてます
マジでご自愛ください……

 
499 :ストーブ早めに対マーンして止めたら寒い花子さんとかの人  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/28(金) 00:19:03.06 ID:CHNR9VCc0
あ……ありのまま起こったことを話すぜ!
「卓終わってスレ覗きに来たら既にアンサーネタが投下されていた」
催眠術とか超スピードとか以下略

次世代ーズの人様乙です。素早いご返答感謝
……って、「朱の匪賊」の皆さーーーんっ!!!???
くそっ!一人くらいは抗ったりできなかったか!おのれ「狐」!皆さんになんて事を!

っつか、本当は前スレで投下した人狼ゲーム後の会話辺り投下すべきなんでしょうが
まずは書けるやつから書いてかないと永遠に話進まねぇな?ってなったので書けるとこ優先で書いてます。申し訳ない
そちらも書きあがり次第ぽいちょしますね

>湯水のように使って頂いて構いません! なんなら自分が書くときも湯水のように消費するかもしれない
「朱の匪賊」の皆さんかわいそう(他人事のように涙をぬぐう)

>九十九屋さんこれ大丈夫? 大丈夫じゃない方の頭痛だよね? 前スレでも頭痛の症状出てなかった? (素)
ここで前スレで投下した「赤に染まる」を読み直してみましょう
いや、読み直さなくてもいいんですが、そこで在りし日のアダムが「九十九。お前、最近頭痛がするって言ってただろう。」って言ってますね
頭痛、あったみたいですね。我慢してたけど

>やはりか、でもなんか裏というか背景ありそう
この辺書けるかどうか未定なんでぶっちゃけると、星夜、天地の直属です
黒服挟んでない直属。ちょっと立場が微妙過ぎて黒服つけられない



ところで、後の展開書いていこうとして大変なことに気付きました
「朱の匪賊」の四番隊隊長さーん!包 六郎さーーーん!!!
どうしよう、「狐」決戦の時、鬼灯と戦いたい?
対戦カードとか対戦の流れざっと考えてたら、鬼灯と戦いたい場合、こちらが土下座する必要性が見えたので
500 :親に向かってなんだその「対マーンして」って謎の誤字。「タイマーして」だよ花子さんとかの人  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/28(金) 00:29:39.61 ID:CHNR9VCc0
レスこぼれた

>早渡「花房君!? 無事か!?」   ☜ 「無事じゃないのはそっちだろ」ってレベルでボロボロ
>珍宝「お主が花房か!? 無事なようだなぁ!!」   ☜ 剥き身の日本刀と違法自動小銃で武装
直斗が「お前が大丈夫かってかそっちの奴(珍宝さん)誰だ」って言う流れが見える
そういう状況になるかは予定は未定なのでどうなるんだろうね



あ、ちなみに、「朱の匪賊」の皆さんへ
「狐」勢力に合流で来たので、「狐」勢力の面子とこんな状況ですが交流は可能です
決戦開始前、わずかな時間ではありますが会話したければどうぞ
「狐」勢力の内、会話が難しい状態であろう皓夜とアナベルだけは会話無理かもですが(「狐」が甘く漬け込んでるし、それ終わったら次の日に備えて寝ちゃってそうなので)
それ以外とは、会話できる、と、思います
501 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/28(金) 01:20:44.89 ID:3KXXzzMMo
 

>>499-500
> くそっ!一人くらいは抗ったりできなかったか!おのれ「狐」!皆さんになんて事を!
皆さん最初から加勢する気満々でしたから……(魅了の件は中之条以外知らないが)

> まずは書けるやつから書いてかないと永遠に話進まねぇな?ってなったので書けるとこ優先で書いてます。申し訳ない
いえいえー、自分も本来なら言い出しっぺ&散々引っ掻き回した「ピエロ」から書かないとなので

> そこで在りし日のアダムが「九十九。お前、最近頭痛がするって言ってただろう。」って言ってますね
……ありましたね、そういや
頭痛薬でどうこうできる感じじゃないっぽいなこれは

> この辺書けるかどうか未定なんでぶっちゃけると、星夜、天地の直属です
ほらきた! しかもなんかヤバそうな感じの出た!

> 「朱の匪賊」の四番隊隊長さーん!包 六郎さーーーん!!!
> どうしよう、「狐」決戦の時、鬼灯と戦いたい?
> 対戦カードとか対戦の流れざっと考えてたら、鬼灯と戦いたい場合、こちらが土下座する必要性が見えたので
ガンガン行こうぜ……!(花子さんの人が予定的にお辛くないのであれば是非ともお願いします)
鬼灯さん相手ならたとえ命を掻っ攫われようが恥ずかしいことされようが、隊長的には美味しい

> そういう状況になるかは予定は未定なのでどうなるんだろうね
👍

> 「狐」勢力に合流で来たので、「狐」勢力の面子とこんな状況ですが交流は可能です
> 決戦開始前、わずかな時間ではありますが会話したければどうぞ
こちらも了解です、でも多分三番隊の件で覚悟完了してるから「悪鬼粉砕ッッ!! 参るッッ!!」てな感じの脳筋状態かと
でも何か話せるネタがないか考えます
隊長「貴隊には腕の立つ剣客が居ると伺った! 是非ともそのお目にかかりたいものだ!」   ☜ ううん……

 
502 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2022/01/28(金) 01:24:06.60 ID:3KXXzzMMo
 




 九月、気持ちのいい朝
 この日も彼女は少し冷たい空気を吸い、日光から隠れるようにしながら職場に向かっていた

 彼女の職場は住宅街に紛れるようにして佇む、小さな下着屋さんだ
 時折ご近所のご婦人方が団体で訪れたり
 近隣や隣町から中学、高校の学生さんが来て、賑わったりするけど、基本的にはお客さんの入りは少ない

 それなのにお店が赤字どころか黒字なワケは

「ウチは通販部門にも力を入れてるからねー」

 というのが店長お決まりの台詞だった


「おはよーございまーす!」


 店内に入るとまず初めにやることは


「おはようございます店長! また徹夜で作業してたんですか! ちゃんと帰って休んでくださいって言ったじゃないですかぁ!!」

「うーん……、むぅ……」

「もうっ! もうっ! お店のなかが“ニオイ”でいっぱいですよ! お店の下着にも“ニオイ”付いちゃってるじゃないですかぁ!!」


 スタッフルームで店長が突っ伏すように寝てないかを確認し
 寝てたら叩き起こして、速やかに換気を実施し
 そして、“ニオイ”が付着した商品に、「サキュバス」の魅了香除去専用の消臭剤を噴霧することだ


「もうっ! もうっ! ニンゲンのお客様だって来てくれるんですから、せめてお家で寝てって、いつも言ってるじゃないですかぁ!!」


 彼女も店長も、人間ではない
 彼女は伝承存在「リリン」と人間のハーフ、そして店長もまた「サキュバス」の血筋である

 彼女ら――所謂“淫魔”は通常、人間を襲う存在なのだが
 彼女らをはじめとした、この町に住む“人ならざるモノ”達は、人間との共生を望んだ
 そして、この町ではこれまでもそうであったように、“人ならざるモノ”を受け入れ、どうにか上手くやってきた


「クロワー、そんな怒ったらお客さんも怖がるよー!」

「もうっ! もうっ! 元はと言えば店長が……っっ!! ひぃッ!!」

「これ凄いっしょ、今回は自身作だよー。 触手の蠢きにインスパイアされた、名付けて『例の吸うヤツ』!!」

「ひぃッ!! そ、そんなのこっちに見せないでくださいーっっ!!」


 店長にやたら卑猥な挙動をかますご立派様な張型を見せつけられ、「リリン」の店員は悲鳴を上げた
 彼女の反応に気を良くした店長は一頻りクックックッと笑うと、顔を洗うため奥に引っ込んでいった


「もうっ、もうっ……!」


 眉を八の字にひそめながら、「リリン」の店員は消臭作業を続けていく
 開店までもう少しといったところか

 “修業”と称してこの町にやって来ることになった、「リリン」こと東雲クロワ
 彼女は今日も「サキュバス」店長に振り回されることになりそうだ






 「サキュバス」が営む女の子専用の下着屋さん
 裏では非常に過激な大人の夜の玩具を開発、販売しておりますが(営業届出及び許可取得済)
 どうぞお気軽にお越しくださいませ❤






 
503 :冷え込みきついぜ花子さんとかの人  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/28(金) 11:32:20.55 ID:CHNR9VCc0
乙でしたー
すごく……繁盛してそうなお店です

>>501
>頭痛薬でどうこうできる感じじゃないっぽいなこれは
「狐」からずっと離れてたら頭痛がはじまって、近づいたら治ったけどある程度離れるとまた頭痛
なんででしょうね(すっとぼけ顔)

>ほらきた! しかもなんかヤバそうな感じの出た!
(そっぽむいてる)

>ガンガン行こうぜ……!(花子さんの人が予定的にお辛くないのであれば是非ともお願いします)
えー、とりあえず避難所のチラ裏に対戦カード予定そっと置いておきますね
詳しくはそちらにて

>隊長「貴隊には腕の立つ剣客が居ると伺った! 是非ともそのお目にかかりたいものだ!」 
うでのたつ……(面子を見る)(九十九屋、ミハエル(と言うよりファザー・タイム)、唯かな)



504 :連載と単発の間:「ざしきさま」の家の子  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/28(金) 17:33:44.78 ID:CHNR9VCc0


 これは、当人は都市伝説と契約していないが、「家」が都市伝説と契約している者の物語である。


 収録の後にシャワーを浴びて、私服に着替える。
 今日、「FOXGIRLS」のうち三名が参加した鬼ごっこ系バラエティ番組の収録は、残念ながら「FOXGIRLS」のメンバーは最終的に全員捕まってしまった。
 それでも、勉強になった、と彼女は感じた。普段何気なく見ていたバラエティ番組の裏側はあんな感じなのだな、と参加して初めてわかる。テレビで放送されていない裏側でも、あんなにいろんなことが起きていたのだ。
「二人とも、お疲れ様。頑張ったな」
「おつかれさま〜。リーダー惜しかったねぇ」
「まさか、四人がかりに囲まれてそれでも数分逃げるとは……お見事です」
 そう、自分なんて追いかけられたら終わりと隠れてばかりだったけれど。リーダーは何度もハンターと追いかけっこを繰り広げ、時に囮となって他の参加者を逃がすといった活躍をしたのだ。捕まって檻に来た際、思わず先につかまっていた他参加者と一緒にリーダーを拝んでしまった。頼もしい。
 それに比べて、自分なんて。本当隠れてばかりで、何も……
「二人も、途中のミッションでの活躍、見事であった。我はどちらの問題も答えがわからんかったからな」
「え……」
 リーダーの言葉に、きょとんとしてしまった。途中のミッション…………あぁ。
「脱落者復活ミッションですか?」
 問題用紙が入った封筒を発見して、特定の場所まで持って行って答えがわかれば脱落者が復活。そういう参加自由ミッションだった。
 自分は、ちょうど問題を答えるという場所の近くに隠れていて。でも、問題用紙を探しに行く勇気は出なくて。どうしよう、と思っていたら、メンバーの中でも最年少の子が封筒を発見できたらしく、アスリートと一緒にやってきたのだ。
 どうやら、その封筒の中の問題は、用意されていた問題の中で一番難しいものだったらしく……でも、たまたま自分はその答えを知っていて、答えることができた。
「私達が復活させた芸人さんが無事、逃げ延びたしねぇ。これで、「何もしてなかった」とかネットで叩かれたりもしませんよぉ」
「そ、そう……でしょうか。私、あれくらいしか……」
「復活ミッション終了まで時間が僅かだったからな。主が答え、復活させたからこそ、あの芸人は逃げ延びることに成功したのだ。大金星に貢献したと言えよう。もっと誇りに思え」
「そうだよぉ、お嬢。なんだったら、あの芸人さんに賞金一部わけて♡とか、美味しいものごちそうして♡とか言っても許されちゃうよぉ」
「そ、そそ、そんな。と、殿方にそんな事お願いするなんて、はしたないです」
 たまたまスカウト活動中だったプロデューサーに声をかけられてこの世界に入るまで、男性とはあまり縁のない世界に生きていた。幼稚園から大学までエスカレーター式のその学校は、男子は小学生までしかいないのだ。
 アイドルと言う、テレビの中の存在でしかない遠い世界に足を踏み入れて、毎日驚きと勉強の連続。踊りも歌もまだうまくない自分が、「FOXGIRLS」の中で足手まといになっていないかいつも心配だったけれど。
「……お役にたてたのなら、良かった……」
「ふむ。主はまず、自信を持つところからであるな。主は頭が良いし……インテリ芸能人、であったか?そういう枠組みで番組に呼ばれることもあろう」
「そうでしょうか……?…………でも、私。その、番組に出演するなら。「FOXGIRLS」の皆様と一緒がいいです」
 自分だけでは何もできない、と言うのもあるけれど……同じ、「FOXGIRLS」の仲間なのだから。ライブの時だけではなく、テレビ番組に出演する時だって、みんな一緒がいい。
 素直に口にした言葉に、リーダーはほぉ、と感心したような声を上げ、最年少の子は一瞬きょとんとした顔になり。
「……ふっふー。お嬢、寂しがりぃ。なら、みんなで色々出演できるよう、頑張ろうねぇ」
「うむ。我も、より番組に招待されやすいよう精進せねばな」
 今日のロケでは一緒じゃなかった二人も含めて。もっと色々、アイドルとして色んな活動ができたらいいなと。そう強く、思うのだ。

505 :連載と単発の間:「ざしきさま」の家の子  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/28(金) 17:34:14.62 ID:CHNR9VCc0
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい。夕食は、すませてきたそうですね」
「はい。収録の後、打ち上げがありましたので」
 あの後、逃げ切った芸人が「「FOXGIRLS」の人のおかげで賞金が手に入ったから」と、自分達を食事に誘ってくれて。マネージャーや、番組に参加していなかった二人まで含めて打ち上げかねて食事をごちそうしてくれた。
 今度、何かお礼をしなければ……あぁ言う世界では、どのようなお礼を差し上げればいいのか。後で、マネージャーに確認をとる必要がある。
「お疲れのようですけれど。きちんと「ざしきさま」にご挨拶するのですよ」
 はい、と母の言葉に頷きながらまずは自室へと向かう。荷物を一旦部屋に置いてから、「ざしきさま」のお部屋へと。
 しめ縄と札で封じられている部屋ではあるが、外から開けることはできる、その部屋。
「……「ざしきさま」。ただいま、帰宅いたしました」
「良かろう。入るがいい」
 幼子の声。失礼します、と扉を開けると。畳張りの部屋の中、おかっぱ頭に着物姿の童女…………では、なく。長い髪を縦ロールにしてふりふりひらひらのアンティークドールのようなドレスを着た童女だった。
 昔はおかっぱ頭に着物姿だったらしいのだけれど。ある時、家人が「外に出られず退屈でしょうから」と渡した本を読んだりテレビを見たりするようになって、それ以外の格好をしたがるようになったと聞いている。
 ……「ざしきさま」。この家に古くから憑いているのだという、不思議な存在。「ざしきさま」当人は「わらわとこの家は「契約」関係にある」と言っていたけれど、難しい事はわからない。
 ただ、この家では「ざしきさま」の存在は外には漏らしてならず。「ざしきさま」をこの部屋からだしてもならず。代わりに丁寧に丁重に扱いもてなし続ける。それによって、家の繁栄を約束されているらしい。
 「ざしきさま」は家人との交流を好む為、自分もこうして、お相手させていただく事が多い。特に、アイドルを始めてからは、「ざしきさま」が話を聞きたがるので、お会いする機会が増えた。
 畳の上に正座し、「ざしきさま」と向かい合う。
「おや。疲れているようだが……今日のろけとやら、そんなにも過酷であったか?」
「えぇ、鬼ごっこ、のようなものなのですが。追いかけてくる鬼役の方々が本当、速くて。私、逃げ隠れで精いっぱいでした。少しは走りましたが、すぐに捕まってしまいました……」
「なるほど。おまえは体力がないからのぅ…………ならば、長々と話を聞く訳にはいかぬな」
 コロコロと微笑んで、「ざしきさま」が手を伸ばしてくる。優しく、赤子を撫でるかのような手つきで頭を撫でられた。
「おまえが最後まで逃げ切れたかの結果は、明日、教えておくれ。今日はしっかり休むのじゃぞ」
「はい。きちんとやすませていただきます」
「うむ…………あ、待て。確か今日のろけ、「刀剣夏の陣」の主演俳優が出演しとったな?あ、あの方が逃げ切れたかどうかだけでも教えておくれ!」
 最近御熱心な様子の、大変と男前の俳優が逃げ切れたかどうか。そこはどうしても気になって我慢できないようで。
 申し訳なさそうな顔をしながらも訪ねてくる「ざしきさま」の姿に、なんだか和んでしまう。この家にとって恩人である偉大な存在のはずだけれど。こういう時は、まるで年頃の少女のような様子も見せてくるのだ。
「了解いたしました。あの方は……」

 「ざしきさま」。
 その真の名は「座敷童」。
 憑いた家に幸福を、富を運ぶその存在は。
 今の世でも静かに、在り続けている。




506 :甘く浸る夢の中  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/28(金) 22:51:59.49 ID:CHNR9VCc0
 甘い声がする。
 聴く者の脳へと染みこむような甘い声が。
 ゆらりと尾が揺れる。誘うようにゆらゆらと。
 少女の姿をとった……否、少女の体に「入っている」状態の「白面金毛九尾の狐」は、そろりと傍らに座る鬼の背中を撫でてやる。

「どう?……頭が痛いのは、落ち着いたかしら?」
「……うん……うん、こーや、もうだいじょーぶ…………きのう、ごはんたべたし……もう、だいじょーぶだよ、おかあさん」
「そう、良かった」

 ふわりと微笑む「白面金毛九尾の狐」。
 その微笑みは、我が子を見る母親のよう……では、ない。
 邪悪さを孕んだ悪女が、利用すべき手駒を見下す笑顔。
 だが、その笑顔がそうであると、鬼は気づけない。
 甘い香りが思考に漬けこまれてしまって、わからない、気づけない。

「なるべく、無理はしないようにするのよ、皓夜。私の可愛い「羅生門の鬼」の子。お前にはもっともっと、力を付けてもらわねば」
「もっと……」
「そう…………「茨城童子」とも混ざり合って。もっと強い鬼になってもらう必要がある」

 都市伝説は、伝承は。時として混ざり合う。
 デュラハンとバンシーの伝承が混じり、デュラハンが「個人」ではなく「血筋」に憑き、その血筋を殺し続けたような実例もある。
 また、口裂け女のようないくつもの説が存在する都市伝説が、己とは別の説の同族を狩り、取り込み続けたような実例もある。

 「羅生門の鬼」。かの「茨木童子」と混合されやすい鬼。
 それに、あえて無関係の名をつけてやや存在をあいまいにする事で。まずは、「茨城童子」と混ざりやすくなる。
 そこに、さらにさらに別の「鬼」も、色々と混ぜてあわせていけば、取り込ませていけば。
 この「鬼」は、どれだけ、強大な「鬼」へと成長できるだろうか。
 それを想い、「白面金毛九尾の狐」は邪悪に微笑む。
 こうして、己の誘惑漬けにして、どろどろに思考を溶かしてしまっていれば、逆らう事もあるまい。
 存在をあえて曖昧にさせるせいで、人を食らい続けなければ体を保てないという弱点が強まってしまっているが、仕方ない。
 ここまで曖昧にさせるだけでも時間がかかった。今更、新しい鬼を拾って育て直すのも面倒だ。
 この鬼は、なるべくなるべく死なせないように取り扱わなければ。

「アナベル」
「はぁい」

 くってりと、鬼の膝の上に身を投げ出している布製の抱き人形。海を越えた遠い異国での拾い物。
 己よりずっと年若い癖に、強い呪いの力を持った呪いの人形。
 たかが百年も生きていない存在の癖に、ここまでの呪いの力。
 もっと殺して、もっともっと力を強めれば。
 それはそれは、優秀な手駒となってくれるだろう。

「もう、我慢しなくてもいいのよ。明日には、あなたの力。たっぷり振るってもらうわ」
「ほんとう?いいの?」
「えぇ…………たぁくさん、たぁくさん。殺していいのよ」

 呪いの力とは、そういうもの。
 特に、命を殺める呪いであれば、殺せば[ピーーー]ほどに、数を重ねれば重ねるほどにその力は強まる。
 もし、この街の命全て……契約者は含まずとも、契約すらしていない無力な一般人を全て[ピーーー]ことができれば。
 その力、どれほど強まってくれるだろう。

 楽しみで楽しみで、狐は邪悪に微笑む。
 この街は、「踏み台」だ。
 己がもっともっと力を強めて、この世全てを手に入れるための、支配するための、足がかり。
 様々な勢力が集まり混沌としたこの地を堕とすのに成功すれば、大きな一歩となりえる。

「この街は、厄介な連中もいるわ。二人は、わかっているかしら?」
「……うん、しってるー……じょうほう、もらったー……」
「めーかくに……私達を敵とにんしきしてるこどもたちが……いる……」

 そうよ、と頷き。内面、憎悪をたぎらせる。
 あぁ、忌々しい連中め。
 三年前は、必要最低限の手駒が揃っていなくて逃げるしかなかった。
 だが、今なら。必要最低限の手駒が揃っているのだから……

「まずは、その厄介な連中。みんなで殺してあげましょうね」

 見せしめとして、まずはあの厄介な餓鬼共から。
 …………あぁ、ついでに。かつて、生意気にも己を毒殺しようとしてきた人間と、三年間、鬱陶しくも己を追いかけ続けた「通り悪魔」。
 あの二人も、始末してやろう。
 その亡骸、嬲って嬲って、無残な見せしめとしてやろう。

 「白面金毛九尾の狐」は微笑む、微笑む。
 邪悪に、歪に、笑みを深める。
 その笑みの歪さに、邪悪さに、気づくことができず、気づけることができず。
 鬼と抱き人形は、甘さの中でとろけていく。


 甘さに浸って、気づけない。気づかない。


 自分達の行きつく先が、ほぼ、確定しようとしている事に。


to be …… ?
507 :過去の遺物な花子さんとかの人  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/28(金) 22:54:27.45 ID:CHNR9VCc0
先日投下させていただきました>>491-493辺りと同じくらいの時間軸のシーンでした
とろけてぼんやりとした思考では、何も考えられないね
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