12:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:10:48.69 ID:Oy6YgigW0
◇◇◇
最初は、ウイルスか何かの類かと思われていました。
駆逐されかけたこともあったのは悲しいですけれど、まゆははあきらめませんでした。
ファンの方々にまゆの存在を語りかけ、そして、みんなの言葉を聞いていきます。
13:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:11:33.15 ID:Oy6YgigW0
――そこに、あの人からの言葉が聞こえたんです。
「まゆ、来て」
天啓と言う言葉を使ってみたくなりました。それくらい、まゆには嬉しかったんです。
ああ、あの人はまだ、まゆの事を見捨てていない。
14:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:12:21.03 ID:Oy6YgigW0
◇◇◇
海を眺めながら、まゆとあの人は何日も何日も二人でおしゃべりをします。
そんな当たり前のことが、とても嬉しい。
15:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:13:10.58 ID:Oy6YgigW0
◇◇◇
まゆのライブは、廃墟となったドームで行うことに決めました。用意は、あの人が全部してくれるそうです。
ライブの日、まゆは生まれて初めてあの人の家から出ました。今まで電子の海で外の世界とつながったことはあるけれど、直接出たのは初めてです。
16:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:13:45.57 ID:Oy6YgigW0
日が暮れたころ、準備はようやく整いました。
照明とカメラ、そして、あの人がステージの上に展開したまゆのホログラムを囲んでいます。
映像は、ネットワークを通じて世界中に配信されるそうです。あの人が言うには、世界中がこの瞬間を待っているそうです。
「ねえ……聞いてもいいですか?」
17:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:14:17.72 ID:Oy6YgigW0
まゆは、この世界が好きです。
まゆは、この世界に生み落としてくれた、あの人が好きです。
もちろん、まゆをまゆとして形作る、『佐久間まゆ』の事も、全部、全部好きです。
18:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:15:38.39 ID:Oy6YgigW0
「聞いてください、まゆの歌を」
スピーカーからまゆの歌が流れる。
恋する少女の歌。誰かを愛した少女の歌。
朽ちた世界には不釣り合いの、瑞々しい、愛することの嬉しさを伝える歌。
19:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:16:45.83 ID:Oy6YgigW0
◇◇◇
幸せは、続く筈でした。
まゆの幸せは長く続きませんでした。
20:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:17:59.23 ID:Oy6YgigW0
「最初はね、バカみたいなことだと思ったんだ。だって、君は実態を持たない存在だ。佐久間まゆだって、実際に存在したかもわからない」
それは、狂人の御業だったと思います。本来存在しない存在を、作り出そうと言うのだから。
「でも、僕は恋い焦がれたんだ、佐久間まゆと言う存在に。どうしても、一目、佐久間まゆを見たかったんだ」
残った生命を絞り出すように、あの人は叫びます。
「だって、この朽ちた世界で初めて眩しいと思ったんだ、『佐久間まゆ』と言う存在が。それを手にしたいって思うのは、当たりまえだろ!」
21:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:19:04.12 ID:Oy6YgigW0
まゆは、あの人の遺骸を抱くこともできません。
ただ、あの人の体温が消えていくのを、見ているだけ。
ただ、あの人の肉が腐り落ちていくのを、見ているだけ。
ただ、あの人の骨が朽ちていくのを、見ているだけ。
22:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:20:06.06 ID:Oy6YgigW0
◇◇◇
ある人がいいました。
君は不幸ではないかと。
40Res/27.08 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20