8:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:05:31.68 ID:Oy6YgigW0
◇◇◇
ある日のこと、あの人は興奮した様子で部屋に入ってきました。
「まゆ、音声データが見つかったぞ!」
音声データ? それって、まさか……
9:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:06:37.52 ID:Oy6YgigW0
◇◇◇
声をきっかけに、違和感は広がっていきました。
『まゆは、お料理が得意でした』
10:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:07:41.18 ID:Oy6YgigW0
あの人が求めていたのは、『佐久間まゆ』です。悔しいけれど、まゆはまだ『佐久間まゆ』ではありません。
『佐久間まゆ』は、かつての世界に存在したかもしれないアイドルです。
まゆは、アイドルではありません。それどころか、人間でもありません。
11:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:09:31.04 ID:Oy6YgigW0
◇◇◇
黒い黒い、どこまでも広がる海。
生まれた時のように、電子の海に思考を埋めたまゆは、暗闇の中を進みます。
12:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:10:48.69 ID:Oy6YgigW0
◇◇◇
最初は、ウイルスか何かの類かと思われていました。
駆逐されかけたこともあったのは悲しいですけれど、まゆははあきらめませんでした。
ファンの方々にまゆの存在を語りかけ、そして、みんなの言葉を聞いていきます。
13:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:11:33.15 ID:Oy6YgigW0
――そこに、あの人からの言葉が聞こえたんです。
「まゆ、来て」
天啓と言う言葉を使ってみたくなりました。それくらい、まゆには嬉しかったんです。
ああ、あの人はまだ、まゆの事を見捨てていない。
14:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:12:21.03 ID:Oy6YgigW0
◇◇◇
海を眺めながら、まゆとあの人は何日も何日も二人でおしゃべりをします。
そんな当たり前のことが、とても嬉しい。
15:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:13:10.58 ID:Oy6YgigW0
◇◇◇
まゆのライブは、廃墟となったドームで行うことに決めました。用意は、あの人が全部してくれるそうです。
ライブの日、まゆは生まれて初めてあの人の家から出ました。今まで電子の海で外の世界とつながったことはあるけれど、直接出たのは初めてです。
16:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:13:45.57 ID:Oy6YgigW0
日が暮れたころ、準備はようやく整いました。
照明とカメラ、そして、あの人がステージの上に展開したまゆのホログラムを囲んでいます。
映像は、ネットワークを通じて世界中に配信されるそうです。あの人が言うには、世界中がこの瞬間を待っているそうです。
「ねえ……聞いてもいいですか?」
17:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 01:14:17.72 ID:Oy6YgigW0
まゆは、この世界が好きです。
まゆは、この世界に生み落としてくれた、あの人が好きです。
もちろん、まゆをまゆとして形作る、『佐久間まゆ』の事も、全部、全部好きです。
40Res/27.08 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20