16:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:06:57.46 ID:CGXDMCHp0
   「日本に自殺病が蔓延するようになって、もう十年ほど経ちますが、一向にその数は減らない。むしろ増え続けています。そして、娘さんもその一人になりかかっています」 
  
   資料をデスクの上に放って、彼は椅子に腰掛けた。 
    
   「どうなさいますか?」 
17:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:08:25.34 ID:CGXDMCHp0
   二回、含みを加えて言うと、圭介は微笑んだ。 
    
   「その代わり、娘さんは最も大切なものをなくします」 
    
   「仰られている意味が……」 
18:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:09:44.08 ID:CGXDMCHp0
  * 
   
   「急患だ。即ダイブが必要だ」 
    
   車椅子を押しながら、圭介が言う。 
19:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:10:26.98 ID:CGXDMCHp0
   「何をするんですか」 
    
   それを軽くいなした圭介に、彼女は金切り声を上げた。 
    
   「娘の命がかかっているんですよ! それを……それをこんな……こんな小娘に!」 
20:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:11:02.15 ID:CGXDMCHp0
   「何を……」 
    
   「二度同じことを言わさないでください。貴女が邪魔だと言っているんです」 
    
   ネクタイを直し、彼はメガネを中指でクイッと上げた。 
21:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:11:43.95 ID:CGXDMCHp0
  * 
   
   「やれるか、汀?」 
    
   そう聞かれ、汀は小さく震えながら圭介を見上げた。 
22:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:12:33.34 ID:CGXDMCHp0
   「そう言うな。特A級スイーパーの名前が泣くぞ」 
    
   「だって駄目なものは駄目だもん」 
    
   頬を膨らませた汀を無視して、圭介は計器類の中から、ヘルメットのようなものを取り出した。黒いネットで作られていて、顔面全体を覆うようになっている。 
23:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:13:06.33 ID:CGXDMCHp0
  * 
   
   汀は目を開いた。 
   彼女は、先ほどまでと同じ病院服にヘッドセットの姿で、自分の足で立っていた。 
   動かないはずの、下半身不随の体で、足を踏み出す。 
24:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:13:54.48 ID:CGXDMCHp0
   黒い服を着た修道女のような女の子が二人、ギシ、ギシ、と階段をきしませながら、昇って来るところだった。 
   何かを話しているが、聞こえない。 
   顔も確認は出来ないが、マネキンではないようだ。 
    
   「トラウマだ」 
25:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:14:48.52 ID:CGXDMCHp0
   「でね、国語の小山田、美紀ともヤッたらしいよ」 
    
   「えぇ? 本当? 何で美紀なの?」 
    
   同じ会話だったが、違う声だった。 
26:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:15:23.51 ID:CGXDMCHp0
   「ゆぶユブユブユブゆぶユブユブゆぶ」 
    
   上を見た汀が、一瞬停止した。 
   今まで昇った女の子達が、全員一塊になって汀のことを見下ろしていたのだ。 
   そして「ユブユブ」と全員が呟いている。 
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