17:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:08:25.34 ID:CGXDMCHp0
二回、含みを加えて言うと、圭介は微笑んだ。
「その代わり、娘さんは最も大切なものをなくします」
「仰られている意味が……」
18:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:09:44.08 ID:CGXDMCHp0
*
「急患だ。即ダイブが必要だ」
車椅子を押しながら、圭介が言う。
19:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:10:26.98 ID:CGXDMCHp0
「何をするんですか」
それを軽くいなした圭介に、彼女は金切り声を上げた。
「娘の命がかかっているんですよ! それを……それをこんな……こんな小娘に!」
20:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:11:02.15 ID:CGXDMCHp0
「何を……」
「二度同じことを言わさないでください。貴女が邪魔だと言っているんです」
ネクタイを直し、彼はメガネを中指でクイッと上げた。
21:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:11:43.95 ID:CGXDMCHp0
*
「やれるか、汀?」
そう聞かれ、汀は小さく震えながら圭介を見上げた。
22:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:12:33.34 ID:CGXDMCHp0
「そう言うな。特A級スイーパーの名前が泣くぞ」
「だって駄目なものは駄目だもん」
頬を膨らませた汀を無視して、圭介は計器類の中から、ヘルメットのようなものを取り出した。黒いネットで作られていて、顔面全体を覆うようになっている。
23:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:13:06.33 ID:CGXDMCHp0
*
汀は目を開いた。
彼女は、先ほどまでと同じ病院服にヘッドセットの姿で、自分の足で立っていた。
動かないはずの、下半身不随の体で、足を踏み出す。
24:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:13:54.48 ID:CGXDMCHp0
黒い服を着た修道女のような女の子が二人、ギシ、ギシ、と階段をきしませながら、昇って来るところだった。
何かを話しているが、聞こえない。
顔も確認は出来ないが、マネキンではないようだ。
「トラウマだ」
25:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:14:48.52 ID:CGXDMCHp0
「でね、国語の小山田、美紀ともヤッたらしいよ」
「えぇ? 本当? 何で美紀なの?」
同じ会話だったが、違う声だった。
26:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:15:23.51 ID:CGXDMCHp0
「ゆぶユブユブユブゆぶユブユブゆぶ」
上を見た汀が、一瞬停止した。
今まで昇った女の子達が、全員一塊になって汀のことを見下ろしていたのだ。
そして「ユブユブ」と全員が呟いている。
27:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:16:02.23 ID:CGXDMCHp0
*
彼女は、映画館に立っていた。
薄暗い劇場は狭く、百人も入れないほどの小さな映画館だ。
そこに、全員同じ髪型をしたマネキン人形が、同じ姿勢で背筋を伸ばし座っていた。
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