7:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:00:01.20 ID:CGXDMCHp0
   汀はにっこりと笑った。 
   そしてマネキンの前にしゃがみこんだ。 
    
   「だから死にたいの?」 
    
8:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:00:30.39 ID:CGXDMCHp0
   マネキンの手が動き、汀の首を掴んだ。 
   それがじわりじわりと、彼女の細い首を締め付けていく。 
   汀は、苦しそうに咳をしながら、ひときわ強く眼窟の中に指を突きいれた。 
    
   『ウッ』 
9:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:01:13.44 ID:CGXDMCHp0
   1 劣等感の階段 
  
   「……と言うことで、旦那様は一命を取り留めました」 
    
   眼鏡をかけた、中肉中背の青年が、柔和な表情でそう言った。 
10:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:02:01.07 ID:CGXDMCHp0
   「まぁ……後は区役所の社会福祉課にご相談なさってください。こちらが、ご主人が今入院されている病院です。面会も可能です」 
    
   「先生!」 
    
   女性が机を叩いて声を張り上げた。 
11:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:02:49.57 ID:CGXDMCHp0
  * 
   
   散々喚き散らした女性を軽くあしらい、診断室を追い出した青年は、息をついてカルテをベッドの上に放り投げた。 
   八畳ほどの白い部屋だった。 
   見た目は普通の、内科の診断室に見える。 
12:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:03:31.54 ID:CGXDMCHp0
   「汀、もう寝る時間だろ」 
    
   「隣が煩かったから」 
    
   「悪かったよ。もう寝ろ」 
13:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:04:35.85 ID:CGXDMCHp0
   「今度は何を買ってくれるの?」 
    
   汀がそう聞くと、圭介は軽く微笑んでから言った。 
    
   「3DSで欲しいって言ってたゲームがあるだろ。あれ買ってきてやるよ」 
14:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:05:24.48 ID:CGXDMCHp0
  * 
   
   その「患者」が現れたのは、それから三日後の午前中のことだった。 
   夏の暑い中だというのに長袖を着た、女子高生と思われる女の子と、その母親だった。 
   圭介は、座ったまま何も話そうとしない女の子と、青ざめた顔をしている母親を交互に見ると、部屋の隅の冷蔵庫から麦茶を取り出して、紙コップに注いだ。 
15:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:06:17.13 ID:CGXDMCHp0
   「赤十字の病院でも……同じ診断をされました。もう末期だとか……」 
    
   「はい。末期症状ですね。言葉を話さなくなってからどれくらい経ちますか?」 
    
   「四日経ちます……」 
16:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:06:57.46 ID:CGXDMCHp0
   「日本に自殺病が蔓延するようになって、もう十年ほど経ちますが、一向にその数は減らない。むしろ増え続けています。そして、娘さんもその一人になりかかっています」 
  
   資料をデスクの上に放って、彼は椅子に腰掛けた。 
    
   「どうなさいますか?」 
17:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:08:25.34 ID:CGXDMCHp0
   二回、含みを加えて言うと、圭介は微笑んだ。 
    
   「その代わり、娘さんは最も大切なものをなくします」 
    
   「仰られている意味が……」 
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