2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[saga]
2011/10/25(火) 12:00:00.10 ID:FnrEbXqAO
衛宮士郎は焦っていた。
軋むような痛みと共に自身の手の甲に現われた不可思議な紋様。
それは貫徹して正義の味方で有り続けると決めた確固たる意志を礎に流れる穏やかな日常に、歪な影をもたらす呪いだったのだ。
3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[saga]
2011/10/25(火) 12:00:45.18 ID:FnrEbXqAO
早朝の不可解な現象は士郎の頭の隅にしがみついており、それが忘却の海へと沈みかける度に、彼は手の甲に巻いた包帯を見つめてその痣の顕現を思い返す。
友人の一成や慎二に包帯の事について指摘されるが、彼は曖昧な返事で何とか煙に巻いている。
彼の本質上その行動は本意ではないがそれも仕方無いだろうと士郎は半ば強引に自分を説得していた。
4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[saga]
2011/10/25(火) 12:01:34.04 ID:FnrEbXqAO
だからこそ士郎は痣を直隠しにする事に決めた。
衛宮切嗣の魔術師としての本質を僅かとはいえ垣間見たからこそ、彼を彷彿させるその痣は不偏なる日常の敵性であると彼は判断する。
だからこそ士郎は痣を隠し、そしてそれは一人を除いて誰からも悟られなかった。
だからこそ、不自然なまでによそよそしい彼の態度は彼女に悟られた。
あまりに不自然だったからこそ、当然優秀である彼女だけはその不自然に自然に気付く。
5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[saga]
2011/10/25(火) 12:02:20.05 ID:FnrEbXqAO
「聖杯戦争……か」
衛宮士郎は自宅の土蔵にてぼんやりと立ち尽くしていた。
傍らに立つ少女の名は遠坂凜。
彼女は整った顔を不機嫌そうに歪め、がしがしと頭を掻く。
6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[saga]
2011/10/25(火) 12:03:03.74 ID:FnrEbXqAO
だが彼の周囲に英霊の気配はおろか、魔術に関連する影も匂いも見当たらない。
不審に思った彼女は士郎との接触を試みる事にした。
万に一つでも自身に危険が降り注ぐような事があっても彼が相手ならば容易く打破出来る自信があったから。
それは驕りや慢心ではなく、彼女の身体に流れる無数の魔力回路と才能がもたらす確信だった。
だがいざ接触してみると彼には聖杯戦争に関する知識が一切無いと知った。
7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[saga]
2011/10/25(火) 12:03:52.27 ID:FnrEbXqAO
「まぁ参加するかどうかは自由よ。けどもし参加するなら、私達はこの陣で英霊を召喚した時から敵同士。ゆめゆめ忘れないようにね」
「参加するよ。だけど俺は遠坂とは闘わない」
「はあっ!? さっきの話ちゃんと聞いてたわけ? 聖杯戦争とは――」
8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[saga]
2011/10/25(火) 12:04:37.14 ID:FnrEbXqAO
一呼吸置いて、士郎は固めた決意を吐き出す。
「俺はこのふざけたゲームを壊す! みすみす命を危険に曝すような奴がいて、黙って見てるわけにはいかない!」
一瞬不穏な空気が流れ、凜は奥歯を噛み締める。
9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[saga]
2011/10/25(火) 12:05:28.50 ID:FnrEbXqAO
夜だった――。
ほぼ毎日夕食を共にする間桐桜と藤村大河は丁度凜と入れ違いでやってきて、三人での慎ましい食事を終え、士郎は再び一人になる。
「…………」
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[saga]
2011/10/25(火) 12:05:58.06 ID:FnrEbXqAO
「素に銀と鉄。礎には石と契約の大公。師には我が大師シュバインオーグ」
「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ満たされる時を破却する」
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[saga]
2011/10/25(火) 12:06:33.31 ID:FnrEbXqAO
「――――告げる。汝の身は我が下に。我が命運は汝の剣に」
時を同じくして、遠坂凜も英霊召喚に臨んでいた。
描かれた陣は寸分の狂いもなく、詠唱は澱み無く紡がれてゆく。
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[saga]
2011/10/25(火) 12:07:05.29 ID:FnrEbXqAO
「誓いは此処に。我は常世全ての善となる者」
そして彼等の元ではない他の何処か。
偉大なる言葉を紡ぐ声はか細く、あまりに頼りない。
仄暗く、この世のものとは思えない異臭が充ち満ちた部屋の中で、描かれた陣だけが薄く輝いていた。
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