1:JK[saga]
2011/12/14(水) 01:58:07.42 ID:7vHzEqmB0
月光。
夜の灯火の下、彼女は駆ける。
当てのある旅路ではない。
ただ夜の中を彼女は駆ける。
彼女に唯一の名は無かった。
彼女は斯様な存在だ。
彼女を敢えて呼称するならば、
人が何時しか彼女に与えていた呼称で呼ぶのも酔狂かもしれない。
月夜叉。
月夜を往く夜叉。
いつの頃からか、彼女は人の子から斯様に呼称されていた。
無論、彼女は人の子では無い。
彼女が何者であるかは、彼女自身も知る事ではない。
彼女は彼女として存在し、思考し、行動している。
月夜叉は夜を往く。
月夜叉は朝を知らない。
宵闇と共に発生し、朝焼けと共に消失する。
その繰り返しだ。
その繰り返しを、月夜叉は渺茫たる時の中で続けている。
それが彼女の全てであり、彼女もそれでいいのだろうと思考している。
されど月夜叉は駆ける。
駆けるのは急いでいるからだ。
久遠に等しい時を生きてきた彼女とて、
駆けなければならない事態も稀には存在する。
駆けるのは少女と再会する為。
知己の少女と戯れたいが故だ。
月夜叉は通常人間に視認される存在ではない。
月を駆ける夜叉の姿は人の子には蜃気楼の如き存在であり、
万一視認されたとしても、錯覚か夢現として片付けられる事が常である。
月夜叉は構わない。
人の子には人の子の生き筋があり、月夜叉には月夜叉の途がある。
2:JK[saga]
2011/12/14(水) 02:08:47.25 ID:7vHzEqmB0
月夜叉を視認出来るのは、
極一部の才能を持っている者……、
否、ある特定の条件を偶然にも満たした者だけである。
人の子の眼に己の姿が写る事が無かろうと、月夜叉に不満はない。
3:JK[saga]
2011/12/14(水) 02:20:49.79 ID:7vHzEqmB0
雪と月夜叉が邂逅したのは、全く偶然からだ。
ある切欠により少々消耗していた月夜叉が遊戯場で暫し休息を取ろうとした際、
雪が長椅子に腰掛けて涙していたのだ。
通常ならば月夜叉も斯様な小娘には関心を寄せないのだが、
その日に限って彼女を気に掛けてしまい、言葉を思念として飛ばしてしまっていた。
4:JK[saga]
2011/12/14(水) 02:32:42.94 ID:7vHzEqmB0
無論、月夜叉は己の真実の姿を目にする事は無い。
月夜叉は人の子ではなく、生物ですらないのだ。
故に姿見に己の姿が映る事は決してない。
姿見にも、水面にも、彼女の姿は顕現しない。
太陽光の反射は、彼女を照らさない。
5:JK[saga]
2011/12/14(水) 02:40:25.77 ID:7vHzEqmB0
「お月さん?」
『逆に問おう。
雪には好意に値する男は存在するのか?』
6:JK[saga]
2011/12/14(水) 02:44:09.12 ID:7vHzEqmB0
雪が長椅子の上に立って月を仰いだ。
月夜叉も雪を真似て月を仰ぐ。
今宵は半月。
己と同じ名の衛星。
7:JK[saga]
2011/12/14(水) 02:50:46.04 ID:7vHzEqmB0
月光が。
その名の通り儚い雪に。
降り注いでいる。
死ぬ、と雪は。
8:JK[saga]
2011/12/14(水) 02:55:31.56 ID:7vHzEqmB0
人間には羨ましい事であろう。
人間は、生物は、生まれ、いずれ消えていく。
志半ばで斃れる者も少なくあるまい。
否、満足して死ねる存在などそう多くもあろうはずもない。
知っている。
9:JK[saga]
2011/12/14(水) 03:03:16.39 ID:7vHzEqmB0
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