967:その命、尽きるとき(お題:女神) 3/10 ◆AWMsiz.p/TuP
2012/08/12(日) 23:28:19.12 ID:j3F87tL90
「二十八年前ですか」
口にしただけで、疲れを感じる年月だった。
「写真はあるんですか?」
茂さんは、首を横に振った。名前と年齢と、三十年ほど前の勤務先だけで人を探す。人探しの経験は無いが、一日二日でどうにかなる
とは思えなかった。それこそ駄菓子屋の店先でソーダアイスを食べるより、無駄な時間を過ごす羽目になりそうだ。
968:その命、尽きるとき(お題:女神) 4/10 ◆AWMsiz.p/TuP
2012/08/12(日) 23:28:51.81 ID:j3F87tL90
「足が出る?」
「うん。恥ずかしい話なんだが、なにせ少ない年金で細々と暮らしている身だからなあ。ああいうところは金がいくらかかるかわからん
から、手が出んのよ」
確かに探偵に人探しを依頼した場合の相場などわからない。しかし、茂さんが探偵を敬遠するのは、それだけが理由では無いように思
えた。思いつくのは警戒心だ。僕も探偵というものには近づきがたい響きを感じる。
969: ◆1ImvWBFMVg[sage]
2012/08/12(日) 23:29:07.22 ID:ez1SVrJF0
じゃあ予約
970: ◆7az9zC1iQs
2012/08/12(日) 23:29:08.59 ID:27/YQd0ao
挟まってごめん予約!
971:その命、尽きるとき(お題:女神) 5/10 ◆AWMsiz.p/TuP
2012/08/12(日) 23:29:20.13 ID:j3F87tL90
「あの」僕は奥さんに声をかけた。
「はいっ」弾けたように、奥さんが笑顔で反応する。
「ここのラーメン屋はいつくらいからやられているんですか?」
ええと、と奥さんが口ごもる。すると店主が口を開いた。
「うちの親父が始めたのが最初なんで、五十年くらい前からやってますよ。それがなにか?」
972:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)
2012/08/12(日) 23:29:49.78 ID:jt57Ksiv0
よやぃ
973:その命、尽きるとき(お題:女神) 6/10 ◆AWMsiz.p/TuP
2012/08/12(日) 23:29:57.18 ID:j3F87tL90
ラーメン屋を出ると、僕は駅前にある図書館に向かった。スナック『銀河』のあった場所で起こった事故を調べるためだ。
二十八年前までスナック『銀河』で働いていた柴田めぐみ。それと二十七、八年前の事故。時期が近いことで、なんらかの繋がりがあ
るような気がした。もちろん、偶然の可能性のほうが高い。しかし、どちらにしても調べておいて損はないと思った。ともすれば、事故
に会ったのが、柴田めぐみ本人という可能性もある。
早速、二十八年前の六月二十七日の新聞を確認した。小さな記事もしっかりと目を通していくと、隅のほうに、早くも目当ての住所が
974:その命、尽きるとき(お題:女神) 7/10 ◆AWMsiz.p/TuP
2012/08/12(日) 23:30:33.24 ID:j3F87tL90
「彼女を尾行したところ、家の表札に柴田めぐみの名前がありました」
駄菓子屋の店先で、僕は茂さんに昨日プリントした写真を渡しながらいった。午前十時のおやつ時ということもあり、早くも小麦色の
小さなお得意さんが群がっている。
「写真の女性が柴田めぐみだと思うんですが、どうでしょうか」
「ああ、面影がある。ずいぶんと老けてしまったが間違いない」茂さんが感嘆の声を漏らした。「まさか本当に見つかるとはなあ」
975:その命、尽きるとき(お題:女神) 8/10 ◆AWMsiz.p/TuP
2012/08/12(日) 23:31:09.44 ID:j3F87tL90
喉がへばりつく感触で、僕は飛び起きた。口の中がからからになっている。全身にぐっしょりと汗がまとわりついており、脳みそは靄
がかかったようにぼやけていた。時計を確認すると、時間は十四時になっていた。茂さんと別れた後、四時間も居眠りをしていたことになる。
のろのろと立ち上って駄菓子屋の中に入り、冷蔵庫からラムネを取り出した。最近のラムネはビンじゃないところが残念だ。プラスチ
ック容器の先端にあるビー玉を押すと、ラムネが待ってましたとばかりにしゅわしゅわと音を立てた。
「この暑いのに、よう寝れるわ」
976:その命、尽きるとき(お題:女神) 9/10 ◆AWMsiz.p/TuP
2012/08/12(日) 23:31:37.35 ID:j3F87tL90
近頃の運動不足も相まって、心臓が悲鳴を上げていた。自転車も油が乾ききっているようで、僕と同じようにきいきいと嫌な音を立て
ている。勢いよくカーブを曲がったせいで、散歩中の野良猫を轢きそうになった。振り返ることなく、ごめん、と心の中で呟く。柴田め
ぐみの家まであと少しだ。ふと、公園に目がいった。通り過ぎる間際、見慣れた白と茶色が視界の端に映った。僕は慌てて、ブレーキを
引いた。自転車が金切り声を上げる。振り返ると、公園のベンチに茂さんが一人で小さく座っていた。
「茂さんっ」
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