146:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:10:38.77 ID:vAi26PND0
彼女の背中に伸びた、姉のものとは比較にならないほどの小さな羽根がくぐもった音を発した。
極薄のワインカップを柔らかく叩き合わせたような音を発しながら、カランは呆然としている妹に、にっこりと笑いかけた。
「昨日いきなり生えてきたの。不思議ね」
147:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:11:17.53 ID:vAi26PND0
「え……だから、私はどこにも……」
「あいつに会ったの? ねぇ、だから羽生えたんだ? ルケン様がいくらやっても生えなかったのに、ねぇ、私らのことバカにしてるのお姉ちゃん?」
「ば、馬鹿になんてそんな」
148:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:11:48.28 ID:vAi26PND0
(この女……)
確かに、ヤナンはその時そう思った。
血の繋がった実の姉のはずなのに、そう思ってしまったのだ。
149:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:12:20.54 ID:vAi26PND0
唯一頼りにしていた妹に理解不能な罵倒を浴びせられて、完全にカランは萎縮してしまっていた。羽を彼女から隠すように背中に折りたたんで、そしていそいそと服を着ようとする。
「怒らないで。お姉ちゃん、何か悪いことしちゃったんなら謝るから」
「……怒ってないよ」
150:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:12:55.49 ID:vAi26PND0
「……ほら?」
「違うよ。持ってきてないよ……」
「また嘘つくんだ。お姉ちゃんのくせに、この私に嘘をつくんだ!」
151:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:13:23.60 ID:vAi26PND0
五分……十分。
実に二十分以上も、人の気配がない脱衣所の扉をカランは見上げていた。
頭の中では先ほど妹が言った言葉が、それこそ一字一句間違わずにぐるぐると回っていた。
――嘘をついた。
152:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:14:02.34 ID:vAi26PND0
でも……。
でも、妹だけは分かってくれると思っていた。
言わなくても、分かってくれると……本当にただ安易にそう思っていた。
安心してしまっていたのだ。
マルディは、妹の思っているような男性ではない。そう、教えてあげるつもりだった。
153:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:14:31.81 ID:vAi26PND0
「あ……」
目が合った。
入ってきたのは、姫巫女候補の少女達だった。四人いる。カランよりも年上で、二十代の娘達だ。いわゆる『背水』の子供達だった。
154:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:15:02.59 ID:vAi26PND0
しかし、彼女にだって痛いのは嫌だった。ましてや傷が残るのなんてまっぴらだ。慌てて彼女達から離れようと、自分の頭だろうと体だろうとお構いなく投げ落とされる衣服を掻き分けて外に出ようとする。
そこで、一人の娘が足を上げ……まるで虫を踏み潰すかのように、這って出ようとしたカランの脇腹を踏みつけた。優しい踏み方ではなかった。胸骨が折れてしまったのではないかと言うくらい床に胸を叩きつけられ、ショックで思わず悲鳴を上げてしまう。
痛みが脳までジンジンと響いてきていた。恐怖と、先ほどの妹との喧嘩で呆けて訳が分からなくなっていた頭が本格的にパニックを起こしてしまう。
悲鳴を上げても、服を脱いでいる娘達は気づいた様子をしようとはしなかった。また別の娘が、今度はかかとの高い靴を履いたまま、奇妙な笑みを浮かべつつカランの右ふくらはぎにそれを踏みつけさせた。
骨と腱が圧迫され、正真正銘の切り裂くような激痛に、カランは掠れた叫び声を上げた。
155:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:15:35.93 ID:vAi26PND0
娘達の中でも年長の少女は、震えているカランを侮蔑をこめた目で見下ろし、ドン、と裸足の足で床を蹴った。
「ひっ……」
反射的にビクッと体を跳ねさせたカランを見て、娘達は動物ショーを見ているかのように甲高い、表向きだけは上品な笑い声を上げた。
156:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:16:09.44 ID:vAi26PND0
端的な声を上げて、腹を押さえて横向きに地面に固まる。一瞬羽が心配されたが、ゆったりとした生地が厚いローブだったため、折れる心配も外に飛び出る心配もなかったのがせめてもの救いだった。元々姫巫女候補の着る服は、羽を保護するように合成の樹脂針金が織り込まれている。だから背中辺りに衝撃を加えても、その殆どは拡散される。
「あったあった。あら……カラン、あなた変な臭いがするわよ?」
涎と、僅かに胃液のようなものを口の端から吐き出しているカランを見下ろし、娘は折角拾い上げた下着をポイ、とまた少女の方に投げ捨てた。そして彼女の白い髪を鷲掴みにし、自分の方に引き寄せる。
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