過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
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274:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:08:48.96 ID:z5UY+Nzb0
ゼマルディはしばらくの間、何かを押し殺すようにして彼女を見ていた。しかしやがて息を一つつき、残った左腕でポン、とカランの頭に手を置く。静かに撫でてやりながら彼は立ち上がった。

「よし」

「どうするの?」
以下略



275:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:09:21.58 ID:z5UY+Nzb0
「上って……どこ?」

「正確にはここから三百メートルほど上の、地上だ」

「地上? そんなところに行ってどうするの?」
以下略



276:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:09:50.89 ID:z5UY+Nzb0
「いっぱいいるよ。何だ? 知らんかったのか」

「知らないも何も……私にはあなたの言ってることが何だかよく分からないよ」

しばらくゼマルディは、困ったようにポリポリと自分の無事な方の頬を指先で掻いていた。そして固まった皮をペリペリと剥がし、それを脇に投げてからおもむろにカランの手を掴んだ。
以下略



277:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:10:30.48 ID:z5UY+Nzb0
「ど、どうして?」

「何言ってるんだお前?」

「だって、ルケンはゼマルディが殴って大怪我させたでしょう? それに、どうしてここにいるって……」
以下略



278:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:11:09.36 ID:z5UY+Nzb0
彼はしばらくの間、彼女の目に浮き上がった確かな怒りの色を見下ろしていた。
そしてやがてマントの襟を立て、口元を隠してからそれに答えた。

「分からないならいいんだ。知らない方がいい」

以下略



279:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:11:43.21 ID:z5UY+Nzb0
「急すぎるよ。だって、私何も……」

「ダメだと言ったらダメだ。よし……」

そう言って、彼は壁の一点を見つめると大きく息を吸った。しかし、負った怪我のせいで意識が集中できないのか何度も頭を振る。
以下略



280:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:12:12.95 ID:z5UY+Nzb0
そう、一緒に。

ここから逃げ出したい。

それを彼に伝えようと口を開く。
以下略



281:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:12:41.10 ID:z5UY+Nzb0
その途端だった。
カランにとっては初めての経験だった。
無論、そんなことを経験したことのある女の子は、彼女の周りにだって一人だっていないだろう。それほど鮮烈で、それほど強烈な出来事だった。
反射的に動いたのはゼマルディだった。ほぼ間一髪といってもいいほどの動きで、彼は傍らのカラン……その腰を、壁から引き抜いた左腕で抱えると、地面を強く蹴って部屋の扉に体を叩きつけた。頑強な男の体にぶつかられて、半分腐食していたカランの部屋扉は外側に向かって留め金を弾かせながら倒れこんだ。
そこにもつれあうようにして、ゼマルディに庇われながら廊下に転がり出る。


282:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:13:16.40 ID:z5UY+Nzb0
殆ど奇跡といってもいい。
顔を上げた彼女の目に、自分の部屋……六畳はあるその部屋が、何か巨大な衝撃波に薙ぎ倒されるかのように、その全てが後方に吹き飛んだのが見えた。
部屋の中身ではない。
部屋、それそのものがだ。
丁度ゼマルディが入ろうとしていた壁が、根元からそのまま吹き飛ばされ、部屋の中のものを叩き潰し……そして対抗側の壁に叩きつけられ、それをも砕いて向こう側に抜けていく。
以下略



283:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:13:45.13 ID:z5UY+Nzb0
もくもくと砂煙が上がっていた。
前が見えないほどだ。
しかしそれが、段々と外の空気に中和されて晴れていく。
転がった時にゼマルディは頭をぶつけてしまったらしい。小さく呻きながら起き上がろうとしている彼の手の中で、カランは確かに見た。
見てしまった。
以下略



284:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:14:16.02 ID:z5UY+Nzb0
――消えたのだ。

いや、吹き飛ばされた。綺麗に。長方形に。
部屋が……全ての部屋が。
合成コンクリートが、やすりでもかけられたかのようにつるつるになっている。まるで抜き取られでもしたかのようだ。それは何かが通り過ぎた建物の壁も、同様だった。綺麗な四角形に抉り取られてしまっている。
以下略



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