285:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:14:47.59 ID:z5UY+Nzb0
「嘘……」
口元に手を当てて、震える声を発する。
「嘘だ……」
286:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:15:17.98 ID:z5UY+Nzb0
逃げなきゃいけないのに。
早くゼマルディを起こして、一緒に逃げなくてはいけないのに。
カランは、ただ近づく彼を唖然として見つめていることしか出来なかった。
287:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:15:50.75 ID:z5UY+Nzb0
ミシ……とおかしな、岩にヒビが入るかのような音がした。
傍らの彼の体が、一瞬空中に浮いた。
次の瞬間大きなその手がカランの手からはずれ、ゼマルディはもんどりうって何度か地面を弾んでから、うつ伏せに床をスライドして止まった。その口からゴプリ、と……内臓でも傷つけたのか、大量の濁った血液を吐き出す。
288:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:16:20.81 ID:z5UY+Nzb0
少年が持っていたボール大のモノが放物線を描いて宙を舞い、ゼマルディとカランの間にゴヅン、という音をたてて着地する。それは軟質なラグビーボールのような音を立てながらその場を転がり、そして飛び散っていた、砕けた壁の破片に引っかかり止まった。
カランの目が、裂けるのではないか。
そう思うくらいに丸く、大きく見開かれた。
289:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:16:50.38 ID:z5UY+Nzb0
認めてしまってはいけなかった。
それを現実だと認識してはいけなかった。
しかしカランは。
耳をその両手で強く塞ぎ。
290:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:17:22.03 ID:z5UY+Nzb0
「見るな!」
その声を掻き消さんばかりに怒鳴り声を出したのは、歯を食いしばって立ち上がったゼマルディだった。彼はよろめきながら彼女の脇に転がり込むと、カランを床に押し倒した。そして潰さんばかりにその目を手で押さえる。
「見るな、目を閉じろ! 閉じろ!」
291:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2012/02/12(日) 20:17:55.93 ID:z5UY+Nzb0
「ダメだろカラン。折角の……俺からのプレゼントだ。ちゃんと見て、楽しい反応をしてくれなきゃ……」
「いや……いやいやいやいやあああ!」
「嫌、じゃあないだろ? 女の分際で生意気なんだよお前。中々に粋のいい獲物で、捌くのに苦労したんだぁ……あぁ、そういえば」
292:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:18:22.93 ID:z5UY+Nzb0
「さて、カラン」
「いや……」
「今日は男女鍋だ。俺の刀工は滅多に見れるもんじゃあないぜ? お前はラッキーだよ」
293:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:18:56.25 ID:z5UY+Nzb0
涙と鼻水でずるずるになった顔で、痛みと恐怖と訳の分からなさで泣いているカランの骨羽が揺れ、割れた風鈴のようなガラガラした音色が聞こえていた。
それを目を細めて聞いて、ルケンは何度か頷いてみせた。
「いい音出せるじゃないか、お前」
294:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:19:23.33 ID:z5UY+Nzb0
「そして体の各部分を少しずつ落としていって、最後は首だ」
「……」
「ふふ……それを煮るとな、美味いんだ。お前にはいの一番に食わせてやるよ」
295:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:20:17.27 ID:z5UY+Nzb0
どうして動いたのか。
それは、カランにも分からなかった。
叫び声を上げ続けていて破れ、血が出ている喉から。
……どこか重い、気が狂ったのではないかというくらい濁った絶叫がほとばしった。
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