320:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:34:13.34 ID:3SORN3Q00
「俺なんかよりカランを見てやってくれよ」
「あの子は君みたいに動き回らないから、そもそも動作不良は起きないよ。俺のマシンドパーツはナノシステムを組み込んでるから、大概なら組成修復はするからね」
「用が済んだなら、帰りたいんだけど……」
321:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:34:50.31 ID:3SORN3Q00
少し迷った後に、青年はマスクを直し巨体をソファーに沈み込ませた。
「早く戻らねぇとカランが……」
「大事な事なんだ。とりあえず、これを見て欲しい」
322:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:35:20.31 ID:3SORN3Q00
聞き返し、視線をスライドさせる。ドクは切抜きを裏にしていたらしく、ゼマルディはそれを手にとってだらしなくソファーに腰をかけたまま、無造作に裏返して。
腰を抜かしそうになった。
思わずその新聞の写真を見たままの姿勢で硬直する。
「やっぱりそうか。もしかしたらと思ったけど……」
323:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:35:51.57 ID:3SORN3Q00
そしてくしゃくしゃに丸められた記事をまた広げて、チラリと見る。
それにはここから離れた区画のドームで起こった無差別殺人の記事が記載されていた。スラムでは一概に、特に風俗と報道に関する規制が甘い。加えてドクが買ってきたのは、スナッフ系統(殺しなどの死体愛好)を愛用する異常嗜好者のための機関紙だった。どこでどうそのような写真を入手するのか、本当なら規制がかかるべき人間の惨殺死骸があられもなく載っている。
一見しただけでは訳が分からない。
良く見れば……いや、本当ならば良く見てはいけないのだろうが、理解してみれば単純だ。
頭部が爆薬で飛ばされたように千切れ切れている大量の人間が、川に浮かんでいる。大人も子供も全く関係がない。淀み腐った川に、その地獄のような光景が展開していた。一部の人間は胴体が千切れて内臓がばら撒かれている。
324:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:36:27.62 ID:3SORN3Q00
「……魔法使いのせいってことになってる。だけど不思議でね。このドームはここから三百キロほど離れているけれど、スラムに至るまでに狂信教が根っこまで浸透してる。かなり有名なドームだから。魔法使いも表立ってこんな惨殺を行うとは思えなかったんだ」
「右上」
「ん?」
325:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:37:10.04 ID:3SORN3Q00
珍しく端的に突き放し、ゼマルディは左手で自分の額を抑えた。そして無事な方の目を指先でコロコロと転がす。
「まぁ、問題はだ」
記事を畳んでポケットに入れ、ドクは続けた。
326:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:37:40.31 ID:3SORN3Q00
「君は確かに命の恩人だし、俺の友達だよ。だがそれとこれとは話は別だ。今回ここに移転したのには相当気を使ったんだ。でも間違いなくそいつは、俺達を追ってきてる。ネットの情報かとも思ったけど、その線は全部潰したから、結論として言えるのは君らに何か特別な繋がりがないかってことだけなんだ」
「……」
「いわゆる、魔法のようなものでね」
327:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:38:18.85 ID:3SORN3Q00
ここはサバルカンダと呼ばれるドームの下層一階だった。相当に巨大なドームだが……いわゆる、スラム街だ。そう。ここはスラムだけで構成されている。
まるで蟻の巣のように汚らしい建築物が折り重なって形成されており、人口はゆうに三十万を超える。
一つの理由は、ここは半円形上の建物ではなく、巨大な塔のような形状になっている都市だということがあった。単純に収容するスペースが広いのだ。
もう一つの理由は、このドームの生命維持機関……つまり空調などは動作をしていないということがあった。つまり、機関を制御する政府が存在しない。それゆえに市民登録も必要ない。必然的に訳ありの人間達が転がり込む場所だ。
加えて、ここは他のドームからかなり離れた場所にあり交通の便も全く整っていないと言う事実も、その閉鎖的な滓を助長していた。
328:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:38:51.70 ID:3SORN3Q00
「……ルケン……」
ゼマルディは知らずの間に歯を噛み締めていた。奥歯が砕けるのではないかというくらいの、鮮烈な歯軋りだった。片側だけの口から犬歯を覗かせながら、ギリギリと音を立てる。
その目が徐々に蛍光ランプのように赤く発光を始め、次いで彼の目の前の空のコップが、地震でもあったかのようにカタカタと音を立て始めた。
ウェイトレスが怪訝そうな顔でこちらを見ているのをドクが一瞥し、彼は手を伸ばしてゼマルディの髪を引っ張った。そして耳元に口をつけて囁きかける。
329:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:39:20.76 ID:3SORN3Q00
言われて初めてハッとしたのか、ゼマルディは深く息をついてドクの手をどけ、またソファーに座りなおした。
「何言ってるンです?」
「一度ちゃんと測ったほうがいいな。俺は魔法使いじゃないから何とも言えないけど、多分君の匂いが尋常じゃないんだ。それを追ってきてると見た方がいいな」
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