過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
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397:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:11:26.33 ID:Z6fjuYRs0
「…………こわい?」

先ほど喉を傷つけてしまったのだろうか。微妙にくぐもっている。
ゼマルディは、彼女の顔を直視することが出来なかった。

以下略



398:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:11:57.06 ID:Z6fjuYRs0
ゼマルディという一個の存在が今まで生きてきた中で、砂粒以下でしかない程の時間を占有した、その一言。
しかしそれは。
彼の今までの人生それ全てを押し流し、洗い流してしまうほど。
圧倒的に、優しすぎる言葉だった。

以下略



399:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:12:26.55 ID:Z6fjuYRs0


 それは唸り声だった。
純然たる、最も根幹的な威圧だった。
そしてそれは、笑っていた。
以下略



400:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:12:56.68 ID:Z6fjuYRs0
マンションの最上階から落下したルケンとゼマルディは、合成コンクリートの地面を深度二メートル以上もすり鉢型に陥没させていた。その中心に、ルケンは頭を抑えてうずくまっていた。
驚異的なのは、化け物の耐久力より先に生身であるはずのルケンが、落下の衝撃に耐え切っているという事実だった。左肩の骨が砕けているようで、奇妙な方向にダラリと垂れているが……後は頭を打っただけのようで、命に別状はない。
落下時の衝撃は、その重量と速度、高さにより加算されていく。トラックに正面衝突した時の非にならないほどの衝撃だったはずだ。
頭を振り、右手で左肩を押さえようとして、しかしルケンは痛みに小さく叫び声を上げた。
髪の間からぎらつく目を上げ、彼は自分を地面に叩きつけた張本人を視認し。
以下略



401:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:13:44.79 ID:Z6fjuYRs0
「カル、カル、カル、カル」

断続的に唸りながら、猫背のウロコ男がゆらゆらと足を踏み出す。

「なんだ……あれ……」
以下略



402:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:14:14.26 ID:Z6fjuYRs0
何が起こったのか、どこがどうしてああなったのか推し量ることなどできようもなかった。イレギュラーもイレギュラー。予想なんて出来ているはずもなかった。追いついたら目の前で四肢をもぎ、カランが狂乱している様を見せてやりながら殺すつもりだった。
それは、簡単に出来るはずだったのだ。

――無理だ。

以下略



403:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:14:54.76 ID:Z6fjuYRs0
理由も経緯も、それを考えるより先に、ルケンは本能的に逃走を選んでいた。痛みなんて感じている暇はなかった。砕けた左肩を気にかけるまでもなく、力が入らない足に無理矢理に意識を集中し、その場を飛びのこうとする。
しかしそこで、彼はまた……今度は背後から首を掴まれた。ハッとした時は、既にキリのような爪が喉の皮を破り、肉に食い込み。そして圧倒的な力で振り回されていた。
最初はもう一人奴の仲間がいるのかと思った。しかし背後に人影はない。加えて、目の前の大男には全く動きがなかった。
否。
怪物の左腕……そこが、半ばからなくなっていた。腕の断面が水面のようにゆらゆらと動いている。まるで切断されたかのように切れているのだ。
以下略



404:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:15:19.57 ID:Z6fjuYRs0
まるで重機のような力だった。逆らうことも出来た。しかしそれを行うと、支点として掴まれている自分の首が握りつぶされたり、へし折れたりする危険性がある。
ありえない。
蒼くなる。
奴の力は、体を別の空間に飛ばすことが出来るというもののはずだ。そう聞いていたし、事実目で確認もしている。
しかしこれは違う。全く別の能力だ。飛ばしているのではない。まるで空間それ自体を操作しているような……。


405:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:15:50.52 ID:Z6fjuYRs0
男――黒い一族は、十二歳の成人の儀後、その力を得る。一人一つ。どんなに優秀な者でも、例外は唯の一つもありえない。
ありえないはずなのだ。
抵抗することも出来ないまま、ルケンは背中から軽々と壁に叩きつけられた。その瞬間に能力を全開にし、衝撃点を先に吹き飛ばしておく。しかし相当な力が体を襲い、彼は溜まらず胃液を撒き散らした。
ゼマルディは低く唸りながらただ立っているだけだ。
その目が赤く、鈍く光を発している。
以下略



406:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:16:16.45 ID:Z6fjuYRs0
逃げなければ。
逃げなければ、死ぬ。
死んでしまう。
本能が悲鳴を上げる。
しかしそこでやっと、ルケンの頭に冷静な血が巻き返された。折れた歯を吐き出し、彼は猛獣のごとき唸り声を発してゼマルディを睨みつけた。震える足を気力で押さえつけ、よろめきながら立ち上がる。
以下略



407:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:16:46.95 ID:Z6fjuYRs0
逃げなければいけなかった。即、そこから離脱しなければいけなかったのだ。

間髪をおかずに。
ルケンは。
認識をすることもできずにその場所から吹き飛ばされていた。
以下略



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