6:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:12:00.51 ID:A45p+aH70
 「何だ……こいつらも来てたのか」 
  
 「ええ」 
  
 囁くように言葉を交わし、愛寡は疲れたように笑ってみせた。 
7:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:12:39.41 ID:A45p+aH70
 いつもそうだ。 
 この人は、いつも無邪気な顔で。 
 私のことを認めてくれる。 
 ここにいてもいいよと、何もしないでも認めてくれる。 
 この人は。 
8:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:13:36.03 ID:A45p+aH70
 「何がだ?」 
  
 「いい、のです」 
  
 「……」 
9:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:14:18.14 ID:A45p+aH70
 ――あなたはそう 
 ――いつもそう 
 ――笑って許してくれる 
 ――怒らない。認めてくれる 
 ――それが、どれだけ私を傷つけているか 
10:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:14:47.50 ID:A45p+aH70
 「さて……こいつらを起こさなきゃいけねぇな」 
  
 「え……?」 
  
 愛寡の顔から、笑顔が消えた。 
11:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:15:20.77 ID:A45p+aH70
 ――この人は 
 ――この人は 
 ――それさえも許してくれないというの? 
 ――その、ひとひらの慈悲さえくれないの? 
 ――一体いつまで 
12:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:15:54.23 ID:A45p+aH70
 「待って……」 
  
 すがるように呟いて、愛寡は……立ちあがろうとした彼の首に手をかけた。 
  
 「……待って……」 
13:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:16:24.23 ID:A45p+aH70
 寝息が、聞こえる。 
 白青髪の少女と、黒髪の少女。 
 二人の姉は……愛寡と彼の会話にも起きる気配を見せなかった。 
 どれだけ長いこと、彼の首を絞めていただろうか。 
 どんなに絞めても。 
14:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:17:00.21 ID:A45p+aH70
 太陽が沈んで行き、そして空に満天の星がきらめき始める。どこまでも……何処までも続く電灯のように。漆黒の空間のどこまでも遠くに、ビーズ玉よりも小さな、小さな星達がきらめき始める。 
 愛寡は、彼の首を絞める手を緩めていなかった。もはや渾身と言ってもいいほど、全体重をかけて締め付けていた。 
 彼の唇や顔は土気色に変色し、目は閉じられ、既に息はない。 
 二人の姉は、ピクリとも動いていない。 
 いつの間にか寝息は聞こえなくなっていた。 
15:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:18:38.54 ID:A45p+aH70
 体中が冷え切り、指先が真紫になった頃。 
 やっと愛寡は彼から手を離した。 
 そしてうずたかく体に積もった雪を払おうともせず、吹雪の中で肩を落とした。 
  
 ――どうして許してくれるの? 
16:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:19:08.58 ID:A45p+aH70
 カサリ、という音がして。物言わぬ死体と化した彼の口が動いた。殆どミイラ。骨と皮のその口から、握り拳大の、手の平のような足をした黒光りする背中を見せた昆虫が這い出してくる。 
 それは次から次へと……何処にそんなに隠れていたのかというくらい、雪崩のようにミイラ死体の口から溢れ出てきた。 
 それは、二人の姉の死体からも同様だった。 
 蟲……蟲。 
 黒い……おぞましいそれは、愛寡の足を噛み、腕を噛み。耳に足を突っ込み……口から体の中に入ろうと足を動かし。 
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