849:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/07/05(木) 17:03:55.64 ID:5zJPOgVlo
小さな声だった。俺は戸惑う。
初めて見る態度だった。こんなことを言われたことは一度もなかった。いままで一度も。
だから俺は一瞬立ち止まっておきながら、また一歩踏み出した。
850:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/07/05(木) 17:04:28.35 ID:5zJPOgVlo
泣き疲れたような声だった。彼女の目に涙は浮かんでいなかったし、表情は眠たげなだけで、寂しそうにも見えない。
それでも彼女は泣いていたのかもしれない。あるいは俺の自意識過剰なのかもしれない。
俺はこいつの考えていることが分からない。ずっと前からなにひとつ。
851:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/07/05(木) 17:04:54.77 ID:5zJPOgVlo
「だからあの子の言ってることが嘘だなんて知ってる。でも、きみの気持ちまでは分からないから」
彼女の声は曇天の下の神社に透明に溶けていった。何もかもを透き通ってしまいそうな声だった。
852:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/07/05(木) 17:05:20.66 ID:5zJPOgVlo
彼女は自嘲するように笑った。
「ストーカーみたい。気味悪がってくれて、いいですよ」
853:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/07/05(木) 17:05:55.67 ID:5zJPOgVlo
「それ、どういう意味です?」
俺は言えなかった。その言葉を自分で言うのは、ひどく白々しいことだと思えたからだ。
彼女は呆れたように言う。
854:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/07/05(木) 17:06:27.47 ID:5zJPOgVlo
「あの子なんて、放っておいたって害はないですよ。どうせ口先だけで、何もできやしないんです。そういう子です。よく分かります」
「……どうして?」
855:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/07/05(木) 17:07:03.40 ID:5zJPOgVlo
ともだちの相談をうまく使って、もういちど距離を縮められないかとか、なんとかして近づけないかとか。
そんなことばかりずっと考えてたんです。
どうせきみはわたしのことなんて好きにならないって分かってたのに、それでも諦めきれなくて、未練がましくつきまとってたんです。
856:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/07/05(木) 17:07:58.87 ID:5zJPOgVlo
「でも、これでおしまいです」
と彼女は言った。影をひそめていた恐れが、俺の心を支配する。
857:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/07/05(木) 17:08:31.13 ID:5zJPOgVlo
ふと、頬にふれた雪の冷たさに、はっとした。
気付けばあたりは暗くなっている。夜が来た。もうそんなにも時間が経っていたのだ。
どうしよう、と俺は考える。
858:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/07/05(木) 17:08:57.48 ID:5zJPOgVlo
家の扉には鍵がかかっていた。持ち歩いていた鍵をつかって扉を開ける。
玄関に妹の靴はない。出かけているのだと俺は思った。
リビングのテーブルの上に書置きがある。
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