2:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:12:08.38 ID:n3CjMYIK0
灰色のコンクリートでできた街路、壁に貼られた賞金首のポスター、
方眉をつりあげ、バイケンが不機嫌そうに灰になりかけた葉巻を吐き捨てる。
「ナット、最近売り上げが落ちてねえか」
3:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:12:49.55 ID:n3CjMYIK0
愛嬌のある顔ではあるが、お世辞にもハンサムとはいえない。
「おいおい、俺を覚えてないのか。冷たいなあ」
男が親しい友人に話しかけるように、バイケンに向かって気さくに声をかける。
4:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:13:28.74 ID:n3CjMYIK0
闇に沈んだ廃屋で、キリコは赤ん坊を優しく抱きしめた。夜風のせせらぎと静かな月の光。
キリコ・キュービィー、それがこの男の名だ。キリコ──神の後継者と呼ばれ、神を殺し、そして神の赤ん坊を連れ去った男。
その半生は神秘と伝説に彩られ、マーティアルですら恐れおののいた。
5:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:14:13.08 ID:n3CjMYIK0
惑星アルディーンはザ・ゴザと並ぶ戦場の星だった。金に目が眩んだ命知らずの傭兵と、賞金首のお尋ね者が集う星、
それがアルディーンだ。巨大なドームが割れ、次々と宇宙船が飛来していく。
空中に掲げられた航路標識を小型の飛行艇が横切った。ここはアルディーンの首都だ。
6:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:14:59.41 ID:n3CjMYIK0
激しいドラムとベースのリズム、耳を聾するエレキギターの咆哮。カウンターに並ぶスティールにふたりは腰を下ろした。
コブラがバーテンにライトビールを二つ注文した。キリコはあまり酒が飲めない。ビールを嗜む程度だ。
この前、コブラがバーボンを奢ってやったら、酒の度数にキリコは顔をしかめていた。
薄暗い照明、天井からつり下がった裸電球は、絞首台にぶらさがった死刑囚のように音もなく揺れていた。
7:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:15:46.78 ID:n3CjMYIK0
低い空、暗雲が重く圧し掛かってくる。森と森を隔てる川──黒い急流を二体のスコープドッグが泳ぐように突き進む。
水深に足を取られないように注意しながら、岩床の裂け目に流れ込む、強く引っ張るような川の力をふたりの男は感じていた。
川岸にたどり着き、泥濘を踏みつけながら、キリコは辺りに敵兵が潜んでいないか警戒した。
地面から突き出た岩場の影、生い茂った茂みの中、苔むした倒木にカモフラージュし、敵はどこからでも飛び出してくる。
8:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:16:12.53 ID:n3CjMYIK0
ふたりが左右に旋回しながら、敵の銃弾を回避する。キリコの撃った数発の弾が敵の装甲を貫いた。
ポリマーリンゲル液に引火し、一機のツヴァークが回りの仲間を巻き込んで爆破した。
鼓膜を震わせる爆音、吹き上がる紅蓮の炎、機体の破片が岩肌に突き刺さる。ゴーグル越しにキリコは敵を見据えた。
9:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:16:52.41 ID:n3CjMYIK0
ミッター橋が強い突風にあおられて、グラグラと揺れるように傾いだ。キリコが橋の中央までいくと、橋下を見おろす。
打ち寄せる汚水の波が、コンクリートの壁を引っかいている。
排水溝が垂れ流す廃棄物──ヘドロの川から昇る異臭がキリコの鼻腔を撫でた。
コブラの左腕は義手だった。義手の中に仕込まれていたのは銃だ。
10:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:17:33.80 ID:n3CjMYIK0
コブラとキリコが良く集う、その酒場の名前は「ハッシュ・ハッシュ・ハッシュ(マリファナだらけ)」といった。
何故、そんな名前なのかは誰にもわからない。バーテンですら知らなかった、
酒場に陽気なサックスが響いた。赤々と燃えた葉巻の煙を吐き出し、コブラが空になったグラスをコースターに置く。
溶けかかった氷がグラスにぶつかり、カランと音を鳴らした。
11:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:19:21.65 ID:n3CjMYIK0
ファッションモデルのようなスタイルだ。
腰から垂れ下がった弛んだガンベルトが、美女の白い尻の辺りで止まっていた。
コブラの視線が女の相貌を射抜く──ジェーン──女は殺されたジェーンと瓜二つだった。張り詰めるコブラの鼓動。
12:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:21:38.93 ID:n3CjMYIK0
「賞金稼ぎ兼ボトムズ乗りってとこかしら。この星にはお尋ね者も多いし、傭兵仕事も腐るほどあるから、稼ぐには持って来いよ」
コブラがスツールの背にもたれかかり、ヒューっと口笛を吹いた。
「女のボトムズ乗りかあ、渋いねえ」
突然、バーテンの笑い声がカウンターに響いた。腹を抱えてひゃっひゃっひゃと笑い続ける。
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