48:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:50:58.00 ID:bOaug2Ec0
汽車はもう、しずかにうごいていたのだ。
車室の天上の、一つのあかりに黒い甲虫がとまってその影が大きく天井にうつっていた。
女は、なぜか先生に怒られている生徒のように、下を向いてじっとしていた。
49:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:52:36.31 ID:bOaug2Ec0
ところがその人は別に怒ったでもなく、頬をぴくぴくしながら返事した。
「乗客の行くべきところです。わっしは、鳥をつかまえる商売でね。
仕事場所に向かうときに、よくこの汽車にお世話になるんですよ。」
50:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:54:02.69 ID:bOaug2Ec0
「そいつはな、雑作ない。さぎというものは、みんな天の川の砂が凝って、ぼおっとできるもんですからね、
そして始終川へ帰りますからね、川原で待っていて、鷺がみんな、脚をこういう風にして下りてくるところを、
そいつが地べたへつくかつかないうちに、ぴたっと押えちまうんです。
するともう鷺は、かたまって安心して死んじまいます。
51:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:55:24.29 ID:bOaug2Ec0
「違うもなにもありませんや。そら。」
その男の人は立って、網棚から包みをおろして、手ばやくくるくると解いた。
52:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:56:58.71 ID:bOaug2Ec0
「ええ、毎日注文があります。しかし雁の方が、もっと売れます。雁の方がずっと柄がいいし、第一、手間がかかりませんからな。そら。」
鳥捕りは、また別の方の包みを解いた。
すると黄と青じろとまだらになって、なにかのあかりのようにひかる雁が、
53:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:58:39.86 ID:bOaug2Ec0
「も少しおあがりなさい。」
鳥捕りがまた包みを出した。
男は、もっとたべたかったのだが、
54:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 01:01:01.80 ID:bOaug2Ec0
男「鷺の加工は大変なんですか。」
男は、自分も仕事で何か作っていたことを思い出して、
うそをついているにせよ、鳥捕りのすることが気になっていたのだ。
55:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 01:02:40.06 ID:bOaug2Ec0
男「どこに行った?」
二人が顔を見合せたら、燈台守は、にやにや笑って、少し伸びあがるようにしながら、二人の横の窓の外をのぞき込んだ。
二人もそっちを見たら、たったいまの鳥捕りが、黄いろと青じろの、うつくしい燐光を出す、
56:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 01:04:07.93 ID:bOaug2Ec0
ところが、つかまえられる鳥よりは、つかまえられないで無事に天の川の砂の上に降りるものの方が多かったのだ。
それは見ていると、足が砂へつくや否や、まるで雪の融けるように、縮まって扁べったくなって、
間もなく熔鉱炉から出た銅の汁のように、砂や砂利の上にひろがり、しばらくは鳥の形が、砂についているのだが、
57:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 01:05:02.60 ID:bOaug2Ec0
男は、すぐ返事しようと思ったけれども、さあ、ぜんたいどこから来たのか、もうどうしても考えつかなかった。
しかし女は、何か分かっていて、それでも答えたくないような様子だった。
「ああ、遠くからですね。」
58:ここまで ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 01:11:55.45 ID:bOaug2Ec0
今夜はここまで。
次回の最後に、原作には無かった部分の伏線を回収していきます。
読んでくれてる人がいたらぜひ最後までお付き合いください。
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