過去ログ - 安価でシークレットゲーム5
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987:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:49:23.10 ID:nQ4y3AGI0
 坪倉武(男子13番)は、近くに誰もいないか警戒し、辺りを頻繁に見回していた。そして辺りに誰の姿も見えないことに安心した武は、茂みの中をゆっくりと進んだ。
 武が進むたびに、茂みがガサガサと大きな音を立てていたのだが、武は緊張のあまりそのことに気がついていなかった。誰かが付近にいたとしたら、茂みの音のせいで武のいる場所はバレバレである。それに気が付かないほど、武は放心状態であったのだ。当然自分の近くに、ついさっき殺人を終えたばかりの大介が潜んでおり、次に武を狙っているなど、知る由もなかった。
 次の一歩を踏み出したとき、茂みの中の枝の一本がデイパックに引っかかった。
 くそっ!
 武はあせりながら引っかかっている枝をデイパックからはずした。はずした弾みで再び茂みからガサッと大きな音をさせてしまった。だが案の定武はそのことに気がつかない。
以下略



988:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:49:53.93 ID:nQ4y3AGI0
 突然武の背中に何かが当たった。驚いて振り向くと、そこには一本の大木が立っていた。背中にあたったのが人間ではなかったことに少し安心したが、すぐに視線を目の前の大介に戻すと、再び恐怖が舞い戻る。
「待ってくれ!止まってくれ!こっちに来ないでくれ!」
 武は両手を前に出して、とにかく大介に近寄ってこないように頼んだが、そんなことで殺意を持っている大介が止まるわけがなかった。
「武。お前さっきからうるせえよ。そんなに怖いんなら一思いに殺ってやろうか?」
 口調はおとなしかったが、恐ろしく顔歪ませながら大介が言った。そう、ここへ来てついに大介が本性を見せたのだ。
以下略



989:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:52:57.13 ID:nQ4y3AGI0
 龍輔は手にかけたばかりの真知子の死体をまじまじと見つめている。仕留めた獲物の大きさに満足するハンターのごとく、至福に満ち溢れた目つきをして。
 圭子は自分の身体がぶるっと震えるのを感じた。当然だろう。全身から殺意を漲らしている猛獣のようなこの男を前にして、少しの恐怖も抱かないなど、気が正常である限りはありえない。
 だが、圭子の中を支配する感情は、すぐに悲しみと恐怖のどちらでもなくなった。圭子の中を満たした感情、それは龍輔に対する怒りに他ならない。
「黒河くん! どうしてこんな酷いことを――どうして真知子を殺したのよ!」
 口が勝手に動く。
以下略



990:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:54:31.80 ID:nQ4y3AGI0
 プログラムに巻き込まれるという極限状態の中、参加生徒が精神に何らかの支障をきたすということは少なくない。過去何年にもわたって行われてきたプログラムの歴史の中では、そんな者の数など知れずといった状態だ。
 そんな中、恐怖や緊張が限界点へと達してしまうと、僅かながらにでも正気を保っていた生徒でさえも、心をついに崩壊させてしまうという事態にまで発展してしまうこともある。発狂もちょうどこれに当てはまる。
 今回プログラムに参加させられることとなった、兵庫県立梅林中等学校三年六組の生徒の中にも、こんな状態に陥ってしまった生徒は存在する。
 ただでさえ乱れていた長い癖毛をさらに振り乱しながら、行く当てもなくフラフラと森林内を歩き続ける少女。氷室歩(女子十六番)。
 二年前に起こった兵庫県立松乃中等学校大火災の被災者である彼女は、事件以来壊れてしまっていた。
以下略



991:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:55:48.84 ID:nQ4y3AGI0
 どこからか十数発の連続した銃声が聞こえたので、森の中を歩いていた一人の男は足を止めて、ふと遠くの空を見上げた。
 へぇ、誰か景気良くやってやがるな。
 そんなことを思い、どこか爬虫類に似た攻撃的な顔に笑みを浮かべたのは黒河龍輔(男子六番)。恋人の死に泣き崩れていた烏丸翠を、容赦なく背後から撃ち殺した悪魔のような男だ。
 龍輔は兵庫県立梅林中等学校の中では、最も恐れられていた不良だった。
 生活態度は悪く、学校をサボるなんてことは毎日のように行い、きちんと登校してきた日も、他の生徒に危害を加えるなど、とにかく学校にとっては目の上のたんこぶのような存在だった。
以下略



992:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:56:43.93 ID:nQ4y3AGI0
 そもそも龍輔に支給された武器はファイティングナイフ一本だけであり、いくら普段からナイフを使い慣れている(理由は聞くな)彼といえど、これだけでプログラムを戦い抜くということは難しいだろう。
 そんなわけで、他の参加者に支給された武器がいかなる物か見当も付かなかった彼は、プログラム開始当初は少なからず不安を抱えなければならなかったのだ。
 そんな中で手に入れた拳銃だ。プログラム内で支給されている物の中では、おそらく当たりの部類に入るであろうそれを手に入れた途端に、彼の自信が上昇気流に乗り始めたということは想像に難しくはない。
 だが彼がこの時に手に入れた武器はこれだけではない。
 風間雅晴のデイパックの中に入っていた白い粉。数年前から世間に出回り始めた新種のドラッグ『ホワイトデビル』。愛用者ひしめく裏世界では高額で売買されているそれをも、龍輔は手に入れていたのだ。
以下略



993:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:57:32.02 ID:nQ4y3AGI0
 こんな所で死んでたまるかという思いから、プログラムのルールに乗っ取り、容赦なく同級生達を[ピーーー]と決めた龍輔には、迷いなく横に並んでくる人物の考えていることなど、頭を捻らずともすぐに分かる。
 自分と同じく、このプログラムのルールに乗った。それ以外に考えられない。
 だから彼はその時、自分よりも先に一歩を踏み出した御影霞と、それに遅れながらも堂々と戦場入りすることを決意した和歌子のことを、いずれ戦うことになるかもしれない強敵と見なして、警戒する必要があると判断した。するとどうだ。龍輔が強敵視した人物の一人は、今こうして他者を殺そうという考えのみに突き動かされる殺人機械となって、再び目の前に姿を現したではないか。これを案の定と言わずして何と言う。
 自分と同じ考えを持つ者の出現に、流石の龍輔も気を引き締め、そして本気になって迎え撃たねばならなかった。そこにはもはや微々たる余裕もない。
 一瞬だけ見えた相手の姿へと向けて、龍輔は走りながら発砲した。だが体制が悪かったためか、またしても外してしまったようだ。
以下略



994:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:58:35.35 ID:nQ4y3AGI0
 陸上部の厳しい練習に毎日無欠席で参加し続けるのは当然のことで、学校が休みの日でさえも、早朝と夕暮れ時のランニングは欠かさなかった。そのおかげで、和歌子は今の俊足を手に入れた。
 要するに、和歌子は努力に抜かりの無い女なのだ。そしてその性格は、プログラムに参加している今にも存分に役立っている。
 龍輔の知るところではないが、春日千秋と磐田猛の二人から逃げ去った後、和歌子は先に殺害済みの徳川良規の遺体が転がっている場所へと戻り、そこでまだ回収前だった彼の武器、ボウガンを手に入れて、以後少しの間はその弓的練習に勤しんでいたのだ。
 もちろん、いつ現れるか分からない敵に隙を見せてはならないため、それはほんの十回程度しか行われなかったが、その少しの差が、今、大きな違いとなってあらわれたのだ。
 自分の武器を何度か試し、その性能をある程度把握できていた和歌子。敵と離れた状態での銃撃は、今回が初めての龍輔。その二人の狙いのどちらが正確なのかは考えるまでもない。
以下略



995:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 13:00:11.59 ID:nQ4y3AGI0
 茂みの中から飛び出してきたのは矢ではなかった。それはその辺の地面にいくらでも転がっているただの石ころ。茂みの中から和歌子が投げたそれを、龍輔は矢だと思い込んでしまっただけだったのだ。
 龍輔がそれに気付いたときには、時既に遅く、一瞬遅れて茂みの中から飛び出した矢が高速で迫ってきて、対処する暇すらない彼の手から拳銃を、神業とでも言うべき正確さではじき飛ばした。
 手から離れた拳銃は宙を舞う。
 龍輔はすぐさまそれを捕まえようと手を伸ばしたが、あと少しのところで届かず、最も信頼していたその武器は崖の下へと落下してしまった。
 あの深い森の中に落ちてしまったなら、探して見つけ出すのはほぼ不可能だろう。だが今はそんなことをしている余裕はない。
以下略



996:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 13:01:19.11 ID:nQ4y3AGI0
 右手のボウガンには、早くも次の矢も装填済みで、いつでも次の攻撃を仕掛けてきそうなその様子に、龍輔は悔しながら息を呑んでしまった。
「テメェ、ナメたマネしてくれるじゃねぇか! どうなるか分かってるんだろうな!」
 威勢良く吠える龍輔。しかし冷静なる和歌子は全く動じない。だが劣勢でありながらも態度を変えないその姿は気に入らなかったのか、少し眉をしかめて怪訝そうな顔をした。
「あんた、どうやら自分が置かれている状況を理解できていないようね」
 和歌子はボウガンを構えた。そして狙いを定めて矢を放つ。
以下略



997:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 13:02:14.67 ID:nQ4y3AGI0
 遥かなる広がりを見せる外の景色を見ていると、窓から身を乗り出せば、何処まででも飛んでいけそうな気がした。だけど、それは単なる気のせいに過ぎず、実際にはそうはいかない。
 今の私は、籠の中に放り込まれた鳥と同じ。柵の外に出たいと思っても、自力で飛び出すことは出来ない。この首に巻きついた忌々しき金属のリングのせいで。
 藤木亜美は、窓の外の景色を眺めながら、深いため息をついた。
 彼女は現在、ビルの周りを監視するという役割に就いている。猛曰く、ビル周辺に誰かが近づいてきたとしても、それにいち早く気づきさえすれば、なんとでも対策をとることが出来るとのこと。たしかに、近づいてきたのが敵だったとしても、その接近に早く気づけば、それだけ逃げるための準備時間を作ることも出来るだろう。だけど、いつまでもこうやって延命措置ともとれる行為を続けていたところで、状況が好転しはしない。
 三日という定められた制限時間は刻々と迫る。そう、私に残された時間はもう三日も残されていない。このまま島から出ることができなければ、まだたったの十五年しか続いていない短い人生に、もうじき幕が下ろされてしまうのだ。


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