過去ログ - まゆ「あなただけいればいい」
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1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:11:23.70 ID:epGhJc5fo


 佐久間まゆという少女は、プロデューサーにとって一つの例外だった。


 仕事上、最も先に事務所に入るのはプロデューサーである。始発の電車に乗り、誰よりも早くその扉を開ける彼には、当然にその鍵を持つ必要があった。

 しかしある日を境に、彼はその鍵を持ち歩かなくなった。
 理由は単純で、先客がいるからだ。
 先客である彼女は二人分のコーヒーを淹れ、ソファーに座って彼を待っていた。湯気のたつコーヒーは黒々として、小綺麗なコップに湛えられている。

「おはようございます、プロデューサーさん」
「ああ……おはよう、まゆ」

 素知らぬ風をして言葉を返すプロデューサーに、まゆはただ微笑んだ。

「コーヒー、淹れ立てです。よかったら、飲んでくれますかぁ?」

 いつも通り、佐久間まゆは目を細めて、にっこりと笑う。

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2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:12:50.81 ID:epGhJc5fo

 今日、プロデューサーが行うべき仕事は、ほとんどが彼女に関連するものだった。
 まゆの送り迎えを除けば、書類の整理が微々たる程度にあるくらいだ。整理する書類を持ち出して、出先で片づけたほうが、よほど都合がよかった。
 ルーチンワークを済ませ、事務員の千川ちひろに報告を行ってから、まゆを連れて車へ向かう。

以下略



3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:13:54.61 ID:epGhJc5fo

 撮影所は車で数十分程度の所だった。行き慣れた道を通りながら、彼はちら、とバックミラーを覗く。
 目と目が合い、まゆはにっこりと笑った。
 はは、と口だけでも軽く笑い返して、目線を戻す。バックミラーからは、彼女の熱い視線が投げ続けられている。目が合わない訳はなかった。
 目の前の信号が赤に変わる。ゆっくりと車を止めて、肩の力を抜く。
以下略



4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:15:31.93 ID:epGhJc5fo

 モデルという範囲であれば、このプロダクションでは佐久間まゆを上回る逸材はいない。元モデルのアイドルというのは競合他社にも何人かいるが、その中でも引けを取らないと、プロデューサーは考えている。

 彼女は自らの見せ方を熟知している。自らという身体の魅力をどのように表現すべきかという点では、限界まで研ぎ澄まされた刃物に似ている。

以下略



5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:16:49.37 ID:epGhJc5fo

 仕事を滞りなく終えた帰り道のことだった。

「少し、寄り道がしたいです」

以下略



6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:17:29.18 ID:epGhJc5fo


 夕焼けで赤く染まる公園に、人影は見られなかった。プロデューサーは自販機で缶コーヒーとアイスココアを買い、ココアをまゆに渡す。
 銀色の缶を丁寧に受け取ると、満面の笑みで嬉しそうに返事をする。変装用の伊達メガネは、むしろ妖艶さを際だたせているようだと、プロデューサーは思った。

以下略



7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:19:00.20 ID:epGhJc5fo

 まゆとプロデューサーは、暗くなりつつある公園の中を歩く。
 春が終われば夏が近づき、暖かい風が二人にそっと吹き寄せる。

 あまり広くはない公園を丁度一回りしようという辺りだった。
以下略



8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:20:01.75 ID:epGhJc5fo

「よかったら、一緒に乗りませんか?」
「……いや、体重差もあるから、流石に無理だろう」
「……そうですよねぇ」

以下略



9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:21:39.72 ID:epGhJc5fo


「わ、わっ」

 人に押してもらうだけで、ブランコの動きは随分と変わるものだった。
以下略



10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:22:27.06 ID:epGhJc5fo

 すっかり暗くなった公園で、依然として二人きり。
 目の前の街灯につられた蛾が、はたはたと明かりのそばで飛ぶ。
 遠くで車が地面を低く鳴らしている。

以下略



11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:23:56.23 ID:epGhJc5fo

「えっ、あっ」

 まゆの静かな言葉に、プロデューサーは反射的に返事にもならない声をこぼす。
 同時に手から写真が落ち、ひらひらとまゆの足下に着地した。
以下略



12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:25:16.97 ID:epGhJc5fo

「プロデューサーさんにも迷惑がかかって、大変ですからねぇ」

 写真を真一文字に破る。

以下略



13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:26:14.03 ID:epGhJc5fo

 プロデューサーはその様子を見て唾を飲み込んだ。乾いた口の中で歯を噛みしめ、できる限り落ち着き払って言う。

「俺は、まゆに、迷惑をかけるようなことをして欲しくないと、言ったはず……」
「してませんよぉ」
以下略



14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:28:20.53 ID:epGhJc5fo

「『プロデューサーさんは、もう私のものだから』って、とても嬉しそうに、楽しそうに、誇らしげに、幸せそうに……」
「わかった、もういい!」

 自ずと語気が荒くなる。そんなプロデューサーを、まゆはじっと見つめる。
以下略



15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:28:58.84 ID:epGhJc5fo

「あ、大丈夫ですよぉ。まゆは何もしてませんから。これは単なる報告です。プロデューサーさんの為の」

 まゆはにっこりと笑った。いつもの笑顔。
 それを見て、プロデューサーの体に悪寒が走る。
以下略



16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:30:41.44 ID:epGhJc5fo

「……それは、どうしてだ?」

 プロデューサーの震えた声音を、まゆはじっとりと抱き止めるようにして、答えを返した。
 立ち上がって、プロデューサーを笑顔で見つめる。
以下略



17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:31:16.26 ID:1HZbkAi+o
深夜になにを録音されたんですか…こわひ


18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:32:12.29 ID:epGhJc5fo

「まゆのことアイドルにしたいって、プロデューサーさんが言ったから、まゆはアイドルをしているんです。
 これは、まゆにとって心からの望みなんですよぉ? だって、プロデューサーさんが、そうして欲しいって、心から望んでいることですもんねぇ?」

 一歩、近づく。
以下略



19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:33:12.52 ID:epGhJc5fo

「たとえプロデューサーさんが、まゆを弄ぼうと、
 利用しようと、
 汚そうと、
 汚させようと、
以下略



20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:34:58.88 ID:epGhJc5fo

「……そうか」

 プロデューサーはまゆの顔を見る。満面の笑み、目を細めて、恍惚とした、魅力的な笑みだった。
 諦観に似た感覚を覚える。
以下略



21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 00:36:04.55 ID:epGhJc5fo
 おわり。


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