57: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/11(日) 03:15:13.86 ID:fDDiOZLHo
『……ええ、圧倒される、というのはこういう事なのでしょうね』
足に力を込めて、私は立ち上がる。体中のエネルギーを持っていかれたような気がする。そのぐらい、千秋さんの声は私の体に、畏敬の念を抱かせたのだ。
『すみません、いつものを頂けますか』
58: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/11(日) 03:15:40.21 ID:fDDiOZLHo
『ええ、凄まじい歌声でした。千秋さんは声楽を習ってらしたので?』
「そうよ。私、クラシックが好きなの。それで、いつかはクラシックの歌手になって見せよう、と思っていたの」
そういって微笑む彼女は、どこかつまらなさそうではあった。その理由は定かではない。気分を害することは言っていないはずだが、彼女の眼は私をじっと見据えている。
59: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/11(日) 03:16:06.71 ID:fDDiOZLHo
『……そうですね、感動はしなかったです。とても凄まじい声ではありましたが』
「っ、どういう、ことかしら」
少し、彼女の目つきが厳しくなった気がした。
60: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/11(日) 03:16:37.24 ID:fDDiOZLHo
『えーっと、ですね。その、何と言ったらいいかわからないのですが』
「おっ、どうかしたのかい」
そうやって言いよどんでいるうちに、マスターがサラダセットとブレンドコーヒーを持って戻ってくる。
61: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/11(日) 03:17:29.01 ID:fDDiOZLHo
(いや、正確には全く感動しなかったわけではないんだけど……。説明が、ええい、もうどうにでもなれ)
私は半ば自暴自棄になりながら、内心でそう叫び、そしていつも通り頭の中で整理をし始める。
確かに、彼女の声は凄まじい物だった。だが、感動はしなかった。この矛盾点をどうにかして説明しなければならない。
62: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/11(日) 03:17:56.77 ID:fDDiOZLHo
私は、やはり頭の中で整理をしつつ、目まぐるしく言葉を探した。
そして次の瞬間、ティンと来た。そう表現するしかない。もし私の頭の上に電球があるなら、ぴかり、と光っている事だろう。
『……そうですね、”ガラスの声”、という表現が一番しっくりきそうです』
63: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/11(日) 03:19:03.76 ID:fDDiOZLHo
「おう、またおいでよ、千秋ちゃん」
「ええ、そうさせてもらうわ。それと……」
千秋さんは、出口の前でくるり、と振り返る。ふわり、とその長い黒髪が弧を描く。
64: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/11(日) 03:20:37.97 ID:fDDiOZLHo
『……行ってしまったな』
私はそう独語した。何とも、悪いことをしてしまったかもしれないと思いつつ、私はため息をつく。そのため息を拾ったマスターが、
「まあ、気落ちしなさんな、お客さん。ところで、さっきの”ガラスの声”ってのは、どういう意味だい?」
65: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/11(日) 03:21:22.25 ID:fDDiOZLHo
『そんな、私はそんな大層な物なんて持ち合わせていませんよ』
私は苦笑をした。そうだ、私はたぐいまれなほどの凡人である。そんな凡人の、第六感ともいえるそんな表現なのだ。他の人間には理解できるわけがない。
それは、以下にも高尚なお話、というわけではなく、ありていに言えば、たとえ話の下手な人のたとえ、の様なものだろうと思う。
66: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/11(日) 03:22:16.59 ID:fDDiOZLHo
今回の更新は以上です。少し間が開いてしまいました。
冷房の設定温度の下げ過ぎは良くないですね。
皆さんはクーラー病にかからないように、お気を付け下さい。
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