1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2013/11/11(月) 00:59:23.69 ID:Bw6Z329mo
教室の隅の方に、バスケ部の男子が五、六人集まってる。
「このクラスでどの女子が一番かわいいと思う?」なんて話をしてる。とてもさりげなく。
くだらないとは思わなかった。どの男子もときどきそんな話をしてる。いつもじゃないけど、ときどき。
でも、設問が漠然としすぎていたせいだろうか。その場にいた誰もがすぐには答えられなかったらしい。
言葉の後に短い沈黙が続いた。
「じゃあ結城と木村の二人ならどっち?」
バスケ部のキャプテンはそう続けた。
彼は一年のときは剣道部に所属していたんだけど、二年にあがると同時になぜかバスケ部に転部した。
その後二ヵ月でレギュラー入り。最終的には卒業した先輩たちの指名で部長になった。謎の好青年。
訊ねられたのはバスケ部の七番で、しばらく答えに窮していた。
SSWiki : ss.vip2ch.com
2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 01:00:15.45 ID:Bw6Z329mo
「え、ここで悩む?」
キャプテンが笑いながら言う。ここは普通に悩むところじゃなくねえ? そんなふうに。
追従の声も周囲からあがった。七番は慌てた調子で「いや、どっちともよく話すからさあ」とよく分からない言い訳をする。
3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 01:01:11.98 ID:Bw6Z329mo
何もしないのは暇だから、俺はいつも一人で暇を潰している。
気取ってドストエフスキーなんて読んだみたり、前日に観た「汚れた顔の天使」のことを考えたり。
もしくは「ホテル・カリフォルニア」のイントロをできるかぎり正確に思い出そうとしたり。
4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 01:01:41.93 ID:Bw6Z329mo
◇
べつに寂しいわけじゃない。
5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 01:02:13.30 ID:Bw6Z329mo
◇
その場にいるだけで人を傷つけたり、不愉快にさせたりする人間っていうのはべつに珍しい存在でもない。
たぶんそこらじゅうに掃いて捨てるほどいるんだと思う。
6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 01:02:40.08 ID:Bw6Z329mo
佐々木春香は性格が悪い。最初にそう言ったのはたぶん木村だ。
木村里奈。吹奏楽部でフルートを吹いている。
木村里奈が、たぶんバスケ部のキャプテンあたりにそう言った。会話の流れは至ってシンプル。
7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 01:03:30.26 ID:Bw6Z329mo
俺がそのことを無神経にも報告すると、「わたし、そいつらと話もしたことないんだけど」と、佐々木は泣きだしそうな顔で笑ってた。
その表情は、すごく魅力的だった。いたいけな強がりと頼りなさが融和していた。
とてもかわいくて、いっそ性的ですらあった。
8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 01:04:26.84 ID:Bw6Z329mo
◇
そんなわけで、俺はひそかに盗み聞きしていたバスケ部のやり取りに対して、頭の中で「佐々木が一番に決まってるだろ」と答えていた。
そんなことを実際に口に出せば、彼らは、
9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 01:04:59.26 ID:Bw6Z329mo
◇
どうでもいい話だけれど俺たちは中三で、季節は秋で、だから正確に言えば彼らはバスケ部じゃなくて元バスケ部だった。
キャプテンは元キャプテンだったし、七番は元七番だった。
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 01:05:52.09 ID:Bw6Z329mo
俺は「直帰」ないし「自主的居残り派」だ。寄り道もするが、ゲーセンやファーストフード店で時間を潰すことはしない。
だってゲーセンってうるさいしなんか怖くねえ? というのが俺の主張。
ゲーセンで金を使うくらいならコンビニで同額分のスナック菓子を買い込んで家で食べる。
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 01:06:19.19 ID:Bw6Z329mo
冗談みたいなナチュラルボーン・ボッチな生活において唯一と言ってもいい話相手が佐々木春香だった。
彼女はいつも屋上のフェンスに背を向けて座り込み、イヤホンをつけて音楽を聴いている。
レンタルショップで買ったらしい安物のMP3プレイヤーを、結構長い間使い古している。
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 01:06:58.03 ID:Bw6Z329mo
彼女は俺のそんな反応すらも楽しんでいたのだと思う。
俺と彼女は、フェンスを背に、並んで座り込みながらも、ほとんど言葉を交わさなかった。
13: ◆1t9LRTPWKRYF[saga]
2013/11/11(月) 01:07:25.43 ID:Bw6Z329mo
つづく
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/11/11(月) 01:48:14.54 ID:GKlcrCG10
乙です
後輩が待ってるss書いた人ですか?
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/11/11(月) 20:31:14.14 ID:vjZ5ob4po
面白そう。だけど倒置が多すぎる気がするからもう少し簡素な文章でいいんじゃないかと思う
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 22:06:47.32 ID:Bw6Z329mo
◇
佐々木春香はクラスの中で浮いていた。
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 22:07:14.03 ID:Bw6Z329mo
観察と対話の成果として、俺は佐々木春香についていくつかの情報を手に入れることができた。
音楽はもっぱら洋楽を好んでいて、それも少し古めのものが多い。
本は割とエンタメ寄りで、古典なんかには手を出さない。
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 22:07:50.80 ID:Bw6Z329mo
◇
一度、彼女に訊いてみたことがある。どうしていつも屋上にいるのか、と。
彼女はちょっと困った風に笑ってからイヤホンを外し、風に踊る髪を手のひらで押さえた。
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 22:08:28.02 ID:Bw6Z329mo
「それにね、そんなに悪い場所じゃないよ、ここ。いいところだってちゃんとある」
彼女は俺の方を見て取り繕うように続けた。その日は夕焼けが奇妙なほど綺麗だった。
茜色に染まっていく街並みを、俺たちは屋上から見下ろしていた。
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 22:09:07.28 ID:Bw6Z329mo
◇
とにかく彼女は屋上をそれなりに愛している。
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/11(月) 22:09:37.27 ID:Bw6Z329mo
◇
そもそも彼女と俺は同じ幼稚園、同じ小学校に通っていた同じ地区の顔見知りだった。
351Res/224.35 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。