過去ログ - 姉「でも、自分がいる場所を失ってしまうこともあるかもしれない」
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2014/06/14(土) 21:34:35.99 ID:izjnFaTMo
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「どうしたの? この痣」江良さんはそう言って、俺の頬にふれた。
頬にはきのうの夜にできたばかりの青あざがあって、ふれられるとずきずきと痛んだ。
痛みをこらえながら、「いろいろあったんだよ」と俺は言った。
「誰かと喧嘩でもしたの?」と江良さんはあざを撫でながら言う。
江良さんの手はちいさくてかわいらしい、と俺はその時にはじめて気がついた。
「そんなところ」と俺は言う。
「誰と喧嘩したの?」
「姉ちゃんだよ」
「お姉ちゃん? ろんちゃんにはお姉ちゃんがいるの?」
「“ろんちゃん”って」
「阿保くんのあだ名だけど」
「それはわかるけど、なんで江良さんが俺のことをろんちゃんって呼ぶのかがわからない」
「阿保ってなんかヤな感じじゃない? アホーって言われてるみたいで」
「まあね」
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2014/06/14(土) 21:35:51.47 ID:izjnFaTMo
たしかに江良さんの言うとおり、小学生の時のあだ名はアホだったし、中学生の今もあだ名はアホだ。
ろんちゃんと呼ぶのは、近所のおじいちゃんやおばあちゃんがほとんどだが、
同級生の中にも俺のことをろんちゃんと呼ぶものがいた。
だから江良さんも俺がろんちゃんと呼ばれていることを知っていたのだろう。
以下略
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2014/06/14(土) 21:36:36.82 ID:izjnFaTMo
「いきなり真正面からどーんと押されて、机で頬を強打することだってある」
「それは痛そう」
江良さんは真正面からどーんと押されて、机で頬を強打したような表情を浮かべた。
以下略
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2014/06/14(土) 21:37:36.99 ID:izjnFaTMo
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下校時刻になって、「江良さんとどんな話したんだ?」と
以下略
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2014/06/14(土) 21:38:46.99 ID:izjnFaTMo
上靴から運動靴に履き替え、下校する生徒でごった返す玄関を抜けると、冷えた風が頬をうった。
赤く染まりつつある秋の空にはいわし雲が浮かんでいて、とても高く見えた。
校庭には禿げかけた木と、抜け落ちた髪の毛みたいに散らばる枯れ葉があった。
以下略
6
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2014/06/14(土) 21:40:20.29 ID:izjnFaTMo
教育熱心な母さんは、俺のことを忘れてしまうくらいには姉ちゃんを溺愛していて、
なにかと出来の悪い弟と出来の良い姉を比べては姉ちゃんを褒め、俺を貶した。
はじめの頃はそのことをとても悔しいと思ったものだったが、
今となるとそれはあたりまえのことになってしまっている。
以下略
7
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2014/06/14(土) 21:41:43.80 ID:izjnFaTMo
一度両親に「姉ちゃんに何度も殴られている」と言ってみたことがあった。
両親は姉ちゃんを呼び、「どうしてそんなことするの?」とやさしく問いただした。
「ちょっと苛々してて、つい」と姉ちゃんは言った。「ごめんね」と俺に向かって言った。
以下略
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2014/06/14(土) 21:42:53.29 ID:izjnFaTMo
「それにしても江良さん、かわいいよなあ」と亜十羅は言った。「俺も絆創膏がほしいよ」
江良さんがかわいいことには概ね同意見だが、俺は黙っていた。
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2014/06/14(土) 21:43:52.62 ID:izjnFaTMo
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駅の前で亜十羅と別れてから、俺は駅前をぶらぶらと歩いた。
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10
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2014/06/14(土) 21:44:50.76 ID:izjnFaTMo
「ひさしぶり」ユメちゃんはそう言って象から下り、俺の方に歩いてきた。
「めずらしいね? どうしたの?」
「なんとなくね」と俺は言う。
以下略
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2014/06/14(土) 21:45:48.25 ID:izjnFaTMo
明日来と有栖がボールを持ってくるまでは暇なので、
俺はベンチに腰掛けて、買ってきた本を読んでみることにした。
姉ちゃんはちいさな頃からよく本を読んでいたが、
以下略
12
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2014/06/14(土) 21:47:24.28 ID:izjnFaTMo
俺は買ってきた本をてきとうに捲る。
黄ばんだ紙にはびっしりと文字が整列していて、見ただけでくらくらとしてしまう。
けっきょく三ページほど読んでから栞をはさんで、鞄にしまった。
以下略
13
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2014/06/14(土) 21:48:27.85 ID:izjnFaTMo
「ろんちゃんとミヤちゃんは、友だちなの?」とユメちゃんが首をかしげる。
「ミヤちゃん?」
以下略
14
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2014/06/14(土) 21:50:03.31 ID:izjnFaTMo
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ユメちゃんは泥まみれになった明日来と有栖を連れて帰っていった。
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2014/06/14(土) 21:50:55.14 ID:izjnFaTMo
「嘘じゃないって、あの三人に訊いてみてよ。
わたしは嘘をつかないことで有名なんだよ」
「嘘をつかないことで有名っていうのが嘘だったりするんじゃないの?」
以下略
16
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2014/06/14(土) 21:53:09.64 ID:izjnFaTMo
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うちはどこにでもあるサイディング張りの一軒家だった。
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2014/06/14(土) 21:54:29.88 ID:ePOPKBq4o
うわつまんね
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2014/06/14(土) 21:54:47.07 ID:izjnFaTMo
姉ちゃんがいなくなるのは結構なことだが、
姉ちゃんのいない食卓はいつもぎすぎすとしていた。
たとえば、母さんが半ば義務を遂行するかのように、俺へ質問をぶつける。
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2014/06/14(土) 21:55:59.89 ID:izjnFaTMo
夕飯ができるまでクッションを枕代わりにして、絨毯の上に寝そべって、テレビを見ることにした。
つまらない芸人がつまらない話をしてつまらない番組を盛り上げていた。
要するにつまらなかった。それはもう救いがたいほどに。
以下略
20
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2014/06/14(土) 21:56:26.84 ID:izjnFaTMo
一一時七分に姉ちゃんは帰ってきて、すぐに浴室に向かった。
風呂あがりに廊下をとんとんと歩く姿を想像するだけで、お腹の辺りが重くなる。
一一時五〇分に、姉ちゃんがとんとんと階段を上がってくる足音が聞こえた。
以下略
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2014/06/14(土) 21:57:02.60 ID:izjnFaTMo
姉ちゃんは俺の前に立ち、俺を睨みつける。俺が立ち上がって睨み返すと、
あざのない方の頬にこぶしが飛んでくる。鋭い痛みが頬を刺し、俺は床に転げる。
姉ちゃんは俺を見下ろしながら、腹を蹴ってくる。
以下略
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