1: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:29:10.35 ID:d32EPYEGo
ぼんやりと、天井を眺める。ぼやけた視界は焦点を結ばずに彷徨う。
少し辛いことがあるとすぐにこうなる。
そして、そんな弱い自分に嫌悪感を感じて悪循環に陥るのだ。
分かっている、分かっているのに、止められない。
「せっかく、日常に戻ってこれたのに、知らない明日を掴み取ったのに。こんなことになるんだったら、あの時死んでしまっていればよかった……」
崩れたビルと巨大な歯車がフラッシュバックする。会心の一撃。
それ以外に表現しようのないその瞬間には選択肢なんて一つしかないように思えた。
それが間違いだったのだ。実際には死ぬか、生きるか、の二択だった。
選んだのは生きること。だけれど、知らなかった。
こんなにつらいなんて、こんなに苦しいなんて、こんなに、こんなに幸せが私を押しつぶそうとして来るだなんて。
ようやく、整ってきた焦点で時計を眺める。時刻は八時三分。
はっきり言って遅刻ギリギリだ。もう、起きて学校に行く用意をしないと。
朝ごはんを食べる時間は、ないかな。確か冷蔵庫にバナナが一本だけ残っていたはず。
歩きながらそれを食べれば、いいよね。
そんなことを考えながら、制服へと手をかけて逡巡。
手が、震える。いつもみたいにそれを着て、学校で授業を受ける私を想像する。
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2: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:30:18.14 ID:d32EPYEGo
怖い、嫌だ、そんなのは、嫌だ。
奇妙な感情が渦のように私を支配していく。
担任の早乙女先生に、会いたくない。
3: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:31:03.51 ID:d32EPYEGo
「駄目ね、本当に」
ふぅぅ、と長く長く息を吐きだして肺の中を空っぽにしてから目いっぱいまで空気を吸い込む。
少しだけ感情の波が静まる。手の震えも、ゆっくりと治まる。
4: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:31:52.08 ID:d32EPYEGo
取りあえずお湯を沸かすべく、やかんに水を注ぎ火にかける。
湯が沸くまでの間に歯磨きを済ませてしまおう。そう思い立ち、歯ブラシに歯磨き粉をつけ口に突っ込む。
ブラッシングの軽快な音とコンロの火の音だけが狭い部屋に木霊する。
5: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:32:39.20 ID:d32EPYEGo
☆
青い空に慎ましい雲たちが流れ、それを見下ろす様にふてぶてしく輝く太陽は眩しい。
6: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:33:35.09 ID:d32EPYEGo
「そうだったのね、暁美さん。私応援するわよ!」
「ほ、ほむらちゃん好きな人が出来たの!?」
7: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:34:30.52 ID:d32EPYEGo
「まっ、今はあまり興味もないから、別にどうでもいいわ」
「もぉ、強がっちゃって。そんなほむらもかわいいぞぉ!」
8: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:35:19.82 ID:d32EPYEGo
☆
足元にインキュベーターを連れて魔女の結界をこじ開ける。
見慣れないグロテスクな様相は、目新しくもありつつやはり既視感に囚われる。
9: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:36:14.13 ID:d32EPYEGo
「むしろそうじゃない魔女を教えてほしいくらいだわ」
「ワルプルギスの夜がいい例だったじゃないか。あれは特定のテリトリーを持たないだろう?」
10: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:37:21.23 ID:d32EPYEGo
あぁ、なんてタノシイノ!
戦いは好きだった。だって余計なことを考えなくてもいいから。
そして、辺りが銃弾でボロボロになってようやくと、結界に変化が訪れた。
11: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:38:06.72 ID:d32EPYEGo
うん、これがいいかな。
女子中学生が持つことの出来る重量をはるかに超える機関銃を片手で悠然と取り出した。
そして、爆発。指向性の爆風と爆片が魔女を痛めつける。
12: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:38:56.05 ID:d32EPYEGo
13: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:39:56.64 ID:d32EPYEGo
高鳴る鼓動を押さえつけて家に戻り、服をばさりと、投げ捨てる。
お気に入りのカチューシャもゆっくりと外して、洗面台の横へとしまう。
蒸れたタイツを伝線しないように脱ぎ、ショーツとブラも脱衣して洗濯機へと放り込む。
14: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:40:43.39 ID:d32EPYEGo
「すごい! すごいよ、ほむらちゃん!」
はしゃいだまどかに思い切り頬刷りされた。プニプニとした柔肌の感触が懐かしい。
放心しきったわたしは、成すがままされるがままにまどかに抱き寄せられている。
15: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:41:39.58 ID:d32EPYEGo
「鹿目さん? 暁美さんは今日が初めてだったんだから無理もないわよ。鹿目さんが初めての時もぼうっとしていたでしょう?」
「そうだったけ? でも、そうだよね。ごめんね、嬉しくってちょっとはしゃいじゃってて、」
16: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:42:37.23 ID:d32EPYEGo
そうね、幸せで、いい。わけがなかった。
懐かしい記憶の微睡みから意識が舞い戻り、強烈な乖離感を味わう。
何も知らなかったあの頃。ただ、偽りの幸せを甘受出来てしまっていたあの頃。
17: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:43:23.40 ID:d32EPYEGo
けれど、やっぱり駄目だ。
私はモソモソと布団へともぐりこんで頭から掛け布団を被って膝を抱え込む。
焦点が合わない瞳が映すのは、じっくりと穢れを溜め込む私自身のソウルジェムだ。
18: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:44:18.90 ID:d32EPYEGo
チャイムが鳴る。
今は日曜日の昼間で用事なんて何もないはず、そう思うが思い出した。
佐倉杏子と、風見野にあるラーメンを食べに行く約束をしていたんだった。
19: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:45:08.59 ID:d32EPYEGo
ぐちゃぐちゃの思考の中で連打されたチャイムの音が空転する。
意識が、完全に外と分断されている。
薄暗い情念が囁きかける。
20: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:46:02.27 ID:d32EPYEGo
「……ぃ! ……む、ら!…………、ら!」
何か、体が揺さぶられて足元がふらついた。
もう、何なの?
21: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/13(土) 15:46:53.35 ID:d32EPYEGo
「き、気が付いたか! 馬鹿野郎、あんた一体どうしたってんだよ」
目の前の佐倉杏子らしき人物はほっとしたのか、胸を撫で下ろしている。
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