過去ログ - 奉太郎「守りたいもの」
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1: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:01:21.94 ID:bTDiL5Hz0

氷菓SS、再投稿となります。

なお、本作は第五作「遠回りする雛」との矛盾を孕んでいます。

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2: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:03:16.38 ID:bTDiL5Hz0

 千反田えるは好奇心の亡者である。

 俺は千反田との、僅か一年足らずの部活動を通して、早くもそれを実感している。学校の七不思議然り、氷菓事件然り、合宿での幽霊事件然り、その判断材料には事欠かない。帰納法的に正しいと言えるだろう。
 だが、帰納法は所詮経験則でしかない。千反田にも好奇心が発揮されない不思議があると考えるのが当然だろう。かつての経験則より、人を容易く判断することに対して俺は慎重だ。決して二度と同じ轍は踏むまいと心に決めている。
以下略



3: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:04:33.42 ID:bTDiL5Hz0

「失礼な。俺だってそれくらい気にする」

「やらなくてもいいことはやらない、だろ?」

以下略



4: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:06:10.14 ID:bTDiL5Hz0

「お前は用事はないのか?」

 総務委員会と手芸部を古典部の他に掛け持っている男だ。おいそれと暇になることがなさそうなものだが。
 俺の心理を読んだのか、里志は口角を上げてニヒルに笑う。全く青瓢箪には似合っていない。
以下略



5: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:06:57.56 ID:bTDiL5Hz0

 頭を働かせずに歩いていると里志が俺を追い抜いた。チェーンの回る音を響かせながら、手を振って進んでいく。
 俺と里志は中学から同じで、一緒にいる期間も時間もそこそこ長いが、どうしてか連れ立って帰ることはなかった。

 見る人が見ればその関係は「冷たい」と言われてしまうだろう。
以下略



6: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:07:49.29 ID:bTDiL5Hz0

 が、里志曰くの「桁上がりの四名家」のお歴々が揃いも揃って神山高校に籍を置いている辺り、エリート層であっても学問に身を入れようという教育はあまりされてないのかもしれない。
 校則が厳しいと噂のブレザーたちでも下校時の道草は許されているらしい。勉強はやらなくてはいけない部類に入るが、だからこそ手短にするべきだ。

 彼らの向上心は俺には恐らく縁がない。
以下略



7: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:10:01.88 ID:bTDiL5Hz0

 新刊の期待もほどほどに、平積みされた本の山に視線を通していく。店内にはポップや店員からのおすすめ紹介などがひしめいていて、実に自己主張の強い場となっていた。
 躍る惹句は「春休みの読書感想文にどうぞ! 名作文庫フェア」を筆頭に、学生の長期休暇にちなんだものばかりだ。

 他に目につくのは映画化の紹介や万引き防止を促す張り紙。しかし俺が見たいのはそれではなく、今月の新刊一覧である。
以下略



8: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:12:29.01 ID:bTDiL5Hz0

 ふと俺が入ってくるときの出来事を思い出す。これは恐らく、あのどちらかのものだろう。
 中身を見れば持ち主のプロフィールもわかるだろうが、さすがにそれはプライバシーの侵害だ。自宅の電話番号くらい入ってそうなものだが、はてさて。

 店員に渡すのが妥当と判断し、店内へと戻ろうとするが、ちょうど子連れがこちらに向かってくるところだった。母親らしき人物の両隣りに、男の子と女の子。通路一杯の幅を使っている。
以下略



9: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:14:34.60 ID:bTDiL5Hz0

 俺の学校の生徒が襲われたらしい。
 その話を聞いたのは、朝のホームルーム、担任からだ。昨晩、塾から帰る途中のできごとだという。

 名前は出さなかったが、場所がとある河川敷であること、女生徒であること、命に別条はないが鞄が持ち去られたことが伝えられた。次いで注意喚起もされた。
以下略



10: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:15:22.32 ID:bTDiL5Hz0

「怖いな」と、特別棟四階の端、神山高校の辺境、地学準備室で俺の隣に座った里志はそう言った。

 里志は口ではそう言っているものの、表情はにこやかだ。まさか自分が被害者になるわけがないというような。
 それはある種一般的な反応だ。俺だってまさか矛先が自分に向くとは思っていない。
以下略



11: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:16:37.73 ID:bTDiL5Hz0

「どうした、千反田」

 俺は伊原の隣でかちゃかちゃとやっている千反田に声をかけた。

以下略



12: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:17:38.02 ID:bTDiL5Hz0
 いや……。そういえば。
 俺はポケットからそれを取り出す。昨日偶然拾ったそれを。

「俺も持ってるんだ」

以下略



13: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:18:41.62 ID:bTDiL5Hz0

「いやいや、いいんだよ。お二人とも、お幸せにね」

「だから、そんなことはなくてですね――折木さんも何か言ってくださいっ」

以下略



14: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:19:32.52 ID:bTDiL5Hz0

「千反田さん、ケータイの登録はしたかな?」

 思い出したふうに里志が言う。
 携帯電話の登録? 自転車の防犯登録みたいなやつか?
以下略



15: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:20:14.29 ID:bTDiL5Hz0

「あの、福部さん。携帯電話の登録ってなんでしょうか?」

 おずおずと千反田が尋ねる。

以下略



16: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:21:07.34 ID:bTDiL5Hz0

「最近の携帯電話ってのは多機能なんだよ、ネットにつなげたり、カメラもついてる」

「それくらいわかる。バカにするな」

以下略



17: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:22:21.68 ID:bTDiL5Hz0
 咄嗟に席を立った。最早条件反射といってもよい。

「あ、違うんです折木さん。携帯電話のことで聞きたいことがあって……」

 その後の古典部の活動は、千反田に携帯電話の使い方を教える時間となった。メール、電話、カメラといった基本的な事項を教え終わったころ、完全下校のチャイムが鳴る。
以下略



18: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:24:23.54 ID:bTDiL5Hz0

「なんだと」

 件の本屋の前で、俺は驚愕していた。なんと夜中の内に、飲酒運転の車が本屋に突っ込んだそうなのだ。「KEEPOUT」の黄色いテープが張られ、当然中に入ることは無理である。
 ガラスの破片こそ目立たないが、細かいものは道路に散乱している。シャッターで店内を確認することはできない。恐らく酷い有様なのだろう。
以下略



19: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:25:39.81 ID:bTDiL5Hz0

 次の日、また生徒が襲われた。またも女子生徒で、塾からの帰り道をやられたという。
 二人目、しかも連日でとなると、ちょっとした騒ぎどころでは済まない。記者は取材に来るし、全校集会もあった。警察も聞き込みに来ていたらしい。

「物騒ですね……」
以下略



20: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:26:18.59 ID:bTDiL5Hz0

 農家ネットワークのトップにいるのが千反田家だ。考えてみれば確かに、リーダーとしての仕事がこの時期に重なるのかもしれない。
 どのような仕事をしているのか、俺には想像もつかない世界だ。農家と言えば年がら年中土と触れ合うばかりのイメージしかないが、それだけで作物が売れるなら、みんな農家になっていることだろう。

「大変だ」
以下略



21: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:27:12.84 ID:bTDiL5Hz0

「……」
「……」

 そのまま十秒もたっぷり待って、慌てて千反田が立ち上がった。
以下略



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