11:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:13:21.81 ID:lE2tgw5So
さながら捨て子の泣き顔だった。
光を被けたことりの目は涙に汚され、腫れた目尻を赤くゆがめていた。
唇はもう言葉を形作ることもできず小さく開いたまま、
頬にはあの透き通る髪の幾筋かが濡れて張り付いたまま、
12:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:13:48.41 ID:lE2tgw5So
「えいっ」
不意に指先が頬へと押し付けられる。
廊下の向こうから戻ってきたことりだった。
13:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:14:14.95 ID:lE2tgw5So
作詞の進度を尋ねられたのは、
ことりが私の背中を流し始めた時だった。
曇りガラスを雨粒が叩く音もいつしか弱まり、
14:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:14:41.53 ID:lE2tgw5So
「海未ちゃんはさ、」
手を止めて尋ねる。
「いつも、どうやって詞を作ってきたの?」
15:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:15:08.10 ID:lE2tgw5So
「作詞の方法なんて、私にも分かりません。もっとうまい人がいますよ」
でも、わたしたちは海未ちゃんの詞じゃないとダメなんだよ。
16:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:15:34.67 ID:lE2tgw5So
「じゃあ海未ちゃん、ことりも洗ってよ」
「はいはい。髪は洗ってましたから、」
17:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:16:01.23 ID:lE2tgw5So
私はため息を魂が抜け落ちるほど長く吐いてから、ボディソープを手に取った。
フランス語のラベルに描かれた
貝殻の中のヴィーナスがやけに挑発的な笑みを見せている。
18:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:16:27.81 ID:lE2tgw5So
肩胛骨のくぼみが造るわずかな影をなぞって、
ことりの形を崩さぬように
指を動かしていく。
手のひらを広げて、背筋に白い泡を広げていく。
19:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:16:54.41 ID:lE2tgw5So
もう一度肩に手を添えて、右腕からすくい取ってゆく。
か細いながらも薄く肉の付いた腕に泡を通してゆく。
少し力を込めても受け入れてしまう柔肌は、
ほとんど髪の毛を梳くのと変わらないほど指を滑らせていく。
20:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:17:20.99 ID:lE2tgw5So
ことりはいま、何を見ているのだろう。
ちらと見えた顔は目を閉じたまま、
フェルメールが描いた女性たちのように、安らかな表情をしている。
21:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:17:47.54 ID:lE2tgw5So
では、あとはどうぞ、と手を引くのを今日のことりは許してくれない。
「海未ちゃん。こっちも」
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