3:オータ ◆aTPuZgTcsQ[saga]
2015/07/13(月) 17:48:49.36 ID:pbmAn6xEO
 二十年前、僕はまだ幼稚園児だった。 
 幼稚園児なのに、もう世間から浮いていた。 
 頭はそれなりに回る方だし、運動も特に不得意な訳ではない。 
 だけど、まわりの人間とどうしても馴染めなかった。 
 みんな、あまりにも子供すぎて、幼さについていけなかったのだ。 
4:オータ ◆aTPuZgTcsQ[saga]
2015/07/13(月) 17:49:39.26 ID:pbmAn6xEO
 母が迎えに来て、妹と三人で家に帰ると、やっぱり父は家でテレビを見ていた。 
 職につかない父と仲の悪い母は、近所迷惑など考えもせず夜中に言い争いを繰り返す。 
 僕はこっそり妹を呼んだ。 
  
  
5:オータ ◆aTPuZgTcsQ[saga]
2015/07/13(月) 17:53:16.99 ID:pbmAn6xEO
 「今日は海に行こうね。お父さんとお母さんには許可をもらったから」 
  
  
 眠たそうな目をしたまま、昨日と同じ白いワンピースを着た女の子は、僕に言った。 
  
6:オータ ◆aTPuZgTcsQ[saga]
2015/07/13(月) 17:54:41.43 ID:pbmAn6xEO
 話題に困った僕は、ふと女の子に親のことを聞いてみた。 
  
  
 「二人ともいい人よ」 
  
7:オータ ◆aTPuZgTcsQ[saga]
2015/07/13(月) 17:57:28.06 ID:pbmAn6xEO
 騒がしい波の満ち引きの音に、さらさらと流れる砂浜に、どこまでも続く青空に、彼女はなにを思ったのだろう。 
 僕は佇む彼女の横で、彼女がなにか言うのを待っていた。 
 だけど、彼女は海を眺めたまま立ち尽くしているので、僕はその場をそっと離れた。 
  
  
8:オータ ◆aTPuZgTcsQ[saga]
2015/07/13(月) 17:58:37.76 ID:pbmAn6xEO
 空と海がオレンジに染まる頃、僕たちはようやく立ち上がり、あの急な坂を歩き出した。 
 行きも楽じゃなかったけど、帰りの上り坂もやっぱり辛い。 
 呼吸を早くしながら、僕はふっと墓場のことを思い出した。 
  
  
9:オータ ◆aTPuZgTcsQ[saga]
2015/07/13(月) 18:00:20.85 ID:pbmAn6xEO
 はっと目が覚めると、僕は自分の部屋のベッドで横になっていた。 
 外が騒がしいので、扉をゆっくり開けると、そこには妹が立っていた。 
  
  
 「お、お兄ちゃん!」 
10:オータ ◆aTPuZgTcsQ[saga]
2015/07/13(月) 18:01:34.68 ID:pbmAn6xEO
 相変わらず保健室通いを続ける僕に、ある変化が訪れた。 
 僕が失踪した時に教室に行ってないことがバレて、母が幼稚園に文句をつけにきたのだ。 
 いっそ怒鳴りこんでくれれば、少しは僕に同情が集まりそうなのに、無駄な知性を溢れさせて母は担任と対峙した。 
  
  
11:オータ ◆aTPuZgTcsQ[saga]
2015/07/13(月) 18:02:40.31 ID:pbmAn6xEO
 あの人の名前がなんだったのか、今の俺には思い出せない。 
 再び現れた彼女は、あまりにもあの頃と雰囲気が変わり、俺には思い出す手がかりにならなかった。 
 しかし、ふんわりと漂っていた花の香りを思い出す。 
 白い作業着には似合わない、柔らかくて安心するような香りだった。 
  
12:オータ ◆aTPuZgTcsQ[sage]
2015/07/13(月) 18:06:06.60 ID:pbmAn6xEO
 やっぱりこういう内容は恥ずかしいのですが、後編も書いてしまいました。 
 読んで頂けて嬉しいです。 
  
 三代目「ナルトはお前に任せる」 
 勇者「ゴキブリ勇者」 
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