過去ログ - 提督「この世界にいらないもの?」
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2:名無しNIPPER[saga]
2015/07/27(月) 15:32:32.10 ID:NYc+OQMZ0
「ぽい〜………」

夕立らしからぬ元気のない「ぽい」。夏の暑さで体力的にまいっているわけではない。熱中症でも風邪でもない。この夕立は熱は熱でも精神的熱、すなわち恋煩いというものにまいっていたのだ。

「いつまでいじけていてもどうにもならないでしょ? 特に過ぎ去ったことは」
以下略



3:名無しNIPPER[saga]
2015/07/27(月) 15:33:04.45 ID:NYc+OQMZ0
すごい運動能力だと感心はするが勘弁して欲しいのは時雨であって、夕立の勢いをそのまま受けて二人仲良く転倒するのは避けたいと思った。そもそも仲良く倒れるといっても、この場合夕立は時雨を下敷きにするのだから、背を痛めるのが時雨だけなのは確かであった。

その被害の不平等性にいち早く気付いた時雨は、自分でも驚く程なめらか自然的に衝撃準備のために腰を低くしていることに気付いた。不公平といった悪に立ち向かうときの人間は普段以上の実力を発揮するものだ。特にその不公平の被害者が自分の場合には。

自分の身を考えるなら、両足をすぐ手放して、夕立だけその勢いで吹っ飛ぶようにすればいい。時雨自身の被害は最小限になるのだが、それは可哀想だと思い直し、改めて両足を掴む握力を強めた。
以下略



4:名無しNIPPER[saga]
2015/07/27(月) 15:33:39.50 ID:NYc+OQMZ0
「わあ、すごいっぽい! すごいっぽい!」

夕立が両腕を水平に伸ばしバタバタさせてはしゃぐ。突然視点が高くなったことに興奮を隠せないといった様子だ。時雨は父親が幼子を両脇から持ち上げて「高い高い」とあやすさま空目してしまい苦笑いした。

「さあ、夕立おりてくれる? 御飯を食べに行こう」
以下略



5:名無しNIPPER[saga]
2015/07/27(月) 15:34:15.34 ID:NYc+OQMZ0
「さあ、行こうか」

「ぽい」

今度ばかりは夕立も悪いと思ったのか素直に時雨に従った。まるで子供だなと時雨は前を「ごっはんー♪ ごっはんー♪」と鼻歌交じりにスキップしていく夕立を見て思った。
以下略



6:名無しNIPPER[saga]
2015/07/27(月) 15:35:00.71 ID:NYc+OQMZ0
それゆえ夕立の後ろに目はない。いやでも、夕立は妙に生真面目なところがあるから、「そんなズルは出来ないっぽい」とその手段を拒絶したのかもしれない。しかし、後ろ目のカンニングというのはバレる恐れのないノーリスクの行為だ。罰の心配をせず嫌な補習を回避できるという誘惑に打ち勝つほど夕立は倫理的な性格であるのだろうか。

「時雨? どうしたの?」

いつの間にか時雨の前に夕立がいて、下から時雨の気難しそうな顔を覗き込んでいた。
以下略



7:名無しNIPPER[saga]
2015/07/27(月) 15:35:48.96 ID:NYc+OQMZ0
「あはは! 時雨ってば感情がプラナリアみたいにコロコロと変わって可愛いっぽい!」

余り夕立らしくない、というか誰らしくもない言い回しに時雨はたじろいだ。でも、まったく馴染みがないわけでもないその表現の理由を探るとある恋愛小説に行き着いた。

そうだ。夕立は恋に目覚めてから盛んにラブロマンスというものに興味を示すようになって、面白いと思ったものを共感して欲しいためか、同室の時雨にも半ば無理やり熱心に勧めてきたのだ。
以下略



8:名無しNIPPER[saga]
2015/07/27(月) 15:36:43.28 ID:NYc+OQMZ0
夕立も一般乙女の例に漏れず恋愛小説の作法に則ってみたのだ。そしてそれがたまたま「プラナリア」だったというだけだ。時雨は夕立を見た。満足そうな顔。何の問題も感じていないらしい。恋は盲目。

「プラナリアって感情があるのかい?」

「知らないっぽい!」
以下略



9:名無しNIPPER[saga]
2015/07/27(月) 15:37:32.57 ID:NYc+OQMZ0
「プラナリアって二つに切断すると一匹が二匹になるような奴だけど、もし感情があるならば、一方がもう一方を好きになることはあるのかな?」

「あるかもしれないけど、恋愛感情ではないっぽい。だって、その二匹は双子みたいな感じに互いを思うと思うっぽい」

「双子だと恋愛感情をもってはいけないってこと?」
以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2015/07/27(月) 15:38:22.26 ID:NYc+OQMZ0
「じゃあ血の繋がりのない夫婦は家族になれないじゃないか」

「それは子供を介して間接的に血の繋がりを持つっぽい。子供がいて初めて家族になるっぽい」

「養子はどうなるの?」
以下略



11:名無しNIPPER[saga]
2015/07/27(月) 15:39:23.26 ID:NYc+OQMZ0
結局そこに行き着くのだった。どこぞの書物では感情に関する判断、趣味判断は客観性を要請する主観的判断と定義づけられているが、わかったようでわからないものだ。共感を求める個人的判断というのは一種の奇跡ではないのかと思う。

これこれを好ましいと思う。個人的判断だ。他者がそれを否定しても問題はない。他者がそれに賛同するのはある種の偶然であろう。その偶然を要請しなければならない個人的判断とは厄介。もちろんそれは相手を無理強いに頷かせる傲慢さとは別物だから、残された道は他者と一致する判断センスを身につけるということになるだろう。

でも、どこかおかしく感じる。正解のある個人的判断というのは既に個人的判断ではなく、数学と同様客観的判断になっているように思うからだ。
以下略



12:名無しNIPPER[saga]
2015/07/27(月) 15:40:02.43 ID:NYc+OQMZ0
「ねえ、夕立。プラナリアのことだけど」

「え? プラナリア? ………ああ、あれね」

ついさっきの話題なのに、もう夕立の中では完全に過去のものとなっているらしく、反対に食事中にプラナリアの話なんてと若干非難の視線も時雨に向けた。時雨としてもまあ確かにそうだなと反省したが、口にしてしまった以上引き返すなんてこともしない。
以下略



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