過去ログ - 提督「降りしきる>>1の中で>>1と>>1つ」【安価】
1- 20
2:名無しNIPPER[saga]
2015/08/01(土) 20:25:15.03 ID:WOfLjiaL0
日中は曇り空だった。降るかなと思っていたらやっぱり降った。この「やっぱり」というのは「宝くじはやっぱり外れたか」の時に用いられる「やっぱり」であって、「やっぱり」と言いつつ反対のことを期待していたが、それが裏切られたので自分を納得させようという「やっぱり」であった。

つまり、提督はこの夕立を事後予想していただけであるから、濡れないための手段を前もって準備していなかったのだ。

雪でも降ってくれれば傘もいらず、まっすぐに帰れたのだが、流石にそれを期待するには夏の世界は暖かすぎた。奇妙な因果でもあれば、白雪でも降ったかもしれないが、それも期待するには世界の法則は誠実すぎた。
以下略



3:名無しNIPPER[saga]
2015/08/01(土) 20:25:45.51 ID:WOfLjiaL0
提督は普段書類仕事に追われているか、暇であっても娯楽で時間を潰してきた。こうした何をするでもない真空の時間を持つことに慣れていなかったのだ。のんびりすると言っても、すぐに体がうずうずして居心地が悪くなった。

退屈なぐらいならば、雨のうちへ飛び出して、水たまりの中のアメンボと戯れる方が良いような気さえしてきた。腰を上げようとしたのを慌てて留まらせた。成人男性でそれはありえない。

今の状況を客観的に見て、自分はどのような振る舞いをするべきか考えることにする。夏の夕立、寂れた神社で、軍服姿の男が雨宿りをしている。絵になるのは、神妙な表情で何かを考えている様だ。落ち着き無くそわそわしているのは格好が悪い。
以下略



4:名無しNIPPER[saga]
2015/08/01(土) 20:27:05.26 ID:WOfLjiaL0
取り敢えずロダンだ。考える人だ。手の甲を巻き込むように顎にあてるポーズをしてみた。どうもしっくりこない。確かにこの姿勢は有名な「考える人」像と同じ。「考える人」って題なのだから考える人の典型姿勢と言ってもいいはずだが、どうも真に迫りすぎて過ぎているのではないかと思う。

両膝を開いて右肘を左膝に乗せようとする姿勢は背中を大きく曲げる必要があって、全体的に縮こまった印象だ。実際に考える人ならばこの姿勢になるのかもしれないが、今の提督は考える人の姿勢を取りたいだけであった。真実はどうでもいい。

足を組んでみる。すると、膝の位置が上がって自然に肘をつく位置も上がるので、背中が少し伸びた。こっちの方がスタイリッシュだと思った。ならば、次はと肘を膝から離して、左の手のひらで右肘を支えるようにする。姿勢がピンとした。これだ。これこそ考える人だと思った。芋っぽさがなく、洗練された都会的な知性を感じさせる姿勢だ。
以下略



5:名無しNIPPER[sage]
2015/08/01(土) 20:28:46.73 ID:e9mrciL50
よし!安価だな!


6:名無しNIPPER[saga]
2015/08/01(土) 20:28:48.65 ID:WOfLjiaL0
夕立は提督の姿にすぐ気づいて「あ! 提督さんも雨宿りっぽい?」と笑いながら近づいてきた。夕立には提督がただ雨宿りをしているようにしか見えなかったようだ。提督の思慮深い努力は水泡に帰した。

提督は立ち上がり、ハンカチを手渡した。それでどうにかなるとも思えないが、髪から滴る水滴ぐらいは無くせるはずだ。「どうしてここに?」「雨宿りっぽい!」。すでに雨を宿し雨そのものと化している夕立に今更雨宿りが必要なのかわからなかった。

そのまま鎮守府に帰った方がいいと提案してみたら、「提督さんがここにいるなら、夕立もここにいるよ」と返された。夕立は黒のセーラー服を脱いで雑巾を絞るように捻っていた。バケツの底を開いたように水が流れ出て、その後両肩部分を持って振り上げてシワ伸ばしをした。重たい音が響く。
以下略



7:名無しNIPPER[sage]
2015/08/01(土) 20:29:00.21 ID:Z+qyyuhjo
この前前書き云々を書いたくっせえ作者だろお前


8:名無しNIPPER[saga]
2015/08/01(土) 20:29:58.38 ID:WOfLjiaL0
提督はまた立ち上がって夕立に向こう行けと手で追い払う仕草をした。夕立はしょんぼりしたようにのそのそと移動していく。その緩慢な動きが妙にいじらしかったので、提督は何か悪いことをした気分になった。

男なら我慢してでも受け入れろとどこからか聞こえたような気がした。でも、提督は濡れるのが嫌だった。なので、次善策として夕立に全部脱げと指示した。夕立が裸ならば濡れる心配はない。

「え? え? 夕立がここで裸になるの?」。そうだ。「ちょっと流石に夕立でも恥ずかしいっぽい」。頑張れ。そう言って提督は上着を脱いで渡した。少し厚い生地の上着をそのまま羽織れば夕立も裸になる必要はなかったが、提督は内側が濡れると乾かすのが大変だと思ったので、夕立が裸になるように説得した。
以下略



9:名無しNIPPER[saga]
2015/08/01(土) 20:31:30.16 ID:WOfLjiaL0
夕立はストンとまた提督の足の間に挟まるように座った。階段に座っているので提督の一段下に夕立は座った。ロダンの姿勢をとるとちょうど夕立の頭が顎に当たるぐらいだった。

提督は顎を開いて、夕立の頭に重心を傾けると顎の力を抜いた。カツンと歯が噛み合う音がした。何度かそれを繰り返す。その度にその衝撃が夕立の頭に伝わり犬耳のような跳ね毛を揺らした。

提督と夕立の関係はそんな感じであった。何の前触れもなく顎で頭を揺らす関係であった。それがどんな関係なのかと聞かれると提督も夕立もよく答えることは出来ない。提督も夕立もそんな関係を理解できていないのだ。しかし、まあそんな関係であった。
以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2015/08/01(土) 20:32:56.97 ID:WOfLjiaL0
提督にとって香りの原因は植物の油分でも地中のバクテリアでもなく、透明の雨だった。夕立の香りは無臭の香りであった。

夕立がどうしてここにやってきたのか気になったので聞いてみた。鎮守府はド田舎にあって、この神社はその鎮守府の裏に位置していた。普通ならこんな所に来る道理もない。

「わからないっぽい」と返された。なるほど夕立は考えなしに行動を起こすからなと納得した。
以下略



11:名無しNIPPER[saga]
2015/08/01(土) 20:34:28.48 ID:WOfLjiaL0
偶然的運命。事前には偶然だったかもしれないが、事後に運命にされてしまうこと。提督にはよくよく馴染みのある表現だった。反対の運命的偶然もあるはずだが、起こりうるべくして起こった偶然というのは余り好きな考えではなかった。

運命的偶然を主張するときにはもっぱら「あなたがたの認識論の範疇ではただの偶然かもしれませんが、存在論的には見えざる意図があるのですよ。ええ。それは神のか、秘密結社のか、アメリカのかは知りませんが。ええ」といった厚かましい陰謀論的語調になってしまうのを嫌うからだろう。

かたや偶然的運命を言うときは、何となく愛らしい人間性を垣間見る気がするのだった。「なあ、夕立。もし男女が運命の出会いを果たしたとすると、そいつらはどうなるべきなのだろうか」「愛によって結ばれるっぽい」「そうか。ならば、夕立、俺たちは付き合うべきではないのか」「そうなるっぽい」
以下略



12:名無しNIPPER[saga]
2015/08/01(土) 20:36:27.93 ID:WOfLjiaL0
提督と夕立は紛れもない恋人であったが、また真実恋人ではなかった。彼らの関係は非恋人的恋人であったのだ。事前には他人であったが、事後には恋人であった。認識論的には恋人であり、存在論的には非恋人であった。

このことは提督と夕立が本当に愛し合っていないということを示すものではない。彼らは確かに内面を愛で充実させていたわけではなかったかもしれないが、双方が関係し合う、その関係のうちには愛が充実していた。

提督は夕立の愛を、夕立は提督の愛を現実的にまざまざと実感できた。しかし、提督は夕立への提督の愛を、夕立は提督への夕立の愛を理解せず実感できなかった。二人共自分の感情を相手によって初めて知った。自分の顔を鏡で見る必要があるように、自分の愛も相手の瞳を通して見る必要があった。
以下略



26Res/17.31 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice