過去ログ - 提督「荒潮がセックスと言うのだから、朝潮もセックスと言うのだ」
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2:名無しNIPPER[saga]
2016/06/06(月) 04:26:47.77 ID:iz0HsH6m0
「セックス」は「セックス」以上でも以下でもなく純粋に「セックス」だった。そして朝潮にとって、その水晶玉の如く透明で滑らかで捉えどころのない「セックス」は馴染みのないものだった。

朝潮は荒潮がどうしてそんな言葉を口にしたのか真意を確かめたい気持ちになったが、恐らく探りを入れても「セックス」と返ってくるだけだろうと確信した。

それにその「セックス」は朝潮にとって不可解な出来事であるのは事実であったが、未知に遭遇したときに感じる特有の畏怖の念を持つこともなかったので、朝潮は直接深く追究する衝動に駆られることもなかったのだ。
以下略



3:名無しNIPPER[saga]
2016/06/06(月) 04:28:17.34 ID:iz0HsH6m0
世界から断絶され、いかなる意志も存在せず行為にも繋がることがない、ただ言葉として放り出されて究極的に物象化された「セックス」。機械的とも言える音の集合体。

朝潮はそれを無視することも出来たはずだった。実際、駅前の広場にて巨大な「セックス」がオブジェとして置かれていたとしても、朝潮はその「セックス」を認識することさえ無く虚しく通り過ぎ去ってゆくだろう。

しかし、今そのナンセンスな前衛芸術じみた「セックス」を行為したのは朝潮の妹である荒潮であった。荒潮はただ「セックス」と言うためだけに生まれてきた装置ではない。一つの主体的意志を持つ人格として存在が許されている朝潮の妹だ。
以下略



4:名無しNIPPER[saga]
2016/06/06(月) 04:29:34.04 ID:iz0HsH6m0
荒潮が精神的に圧殺され単純に物質として「セックス」と言うのだと思うと朝潮は少し哀しくもあった。

荒潮の「セックス」が朝潮の心を捉えたのは、生きている妹が死体も同然に「セックス」と言うことのその落差にあった。

しかし、朝潮にはどうすることもできない。いったい死体となり絶望的な断絶にある荒潮に対し外部から何をしろというのだ。今の朝潮にできることと言えば、荒潮の分までトーストにピーナッツクリームを塗りつけることだけである。
以下略



5:名無しNIPPER[saga]
2016/06/06(月) 04:31:00.26 ID:iz0HsH6m0
しかし、仮に朝潮が今ピーナッツクリームではなくイチゴジャムをトーストに塗っていたとして、それが朝潮の世界にとって何の意味があるというのか。余りに些末すぎる境界は無きに等しい。

「セックス」。荒潮の言葉によって朝潮は己を省みた。これでは荒潮と同じではないか。運命への諦めを伴って、世界の透明なガラス越しに「セックス」と言い続ける荒潮と何が違うのか。

朝潮にとってピーナッツクリームかイチゴジャムかが重要な選択区別にならないのと同様、荒潮にとっては「セックス」と言うことと「セックス」と言わないことの差異こそ無力だったのではないか。
以下略



6:名無しNIPPER[saga]
2016/06/06(月) 04:33:02.53 ID:iz0HsH6m0
朝潮は机上のキキョウを一輪手にとった。ゆりの花に見紛うほど清廉な白い花びらは五芒星の形に分かれていた。

朝潮はピーナッツクリームかイチゴジャムかに関して花占いを行うつもりになった。といっても、手でつまむべき箇所は五箇所と明確。最初の選択へ回帰することが分かりきった賭けである。

それで良い。朝潮にとって重要なのは今ピーナッツクリームを塗っているということの否定がありえたということだった。イチゴジャムを否定することによって初めてピーナッツクリームを朝潮の意志で肯定したということになる。
以下略



7:名無しNIPPER[saga]
2016/06/06(月) 04:34:59.85 ID:iz0HsH6m0
ただしこの占いで朝潮の期待を裏切るものが一つあった。キキョウは一枚の花びらからなっていた。つまり、最初のピーナッツで占いは早くも終止したのだった。

中央が空洞となった白い星の花びらに朝潮は動揺した。朝潮にとってはどう見ても五枚の花びらだったそれが実は先端だけ枝分かれし根元付近ではひと繋がりとなっているとは思いもよらないことだった。

手元の花びらを見るとどうしてこれを五枚だと思ったのか不思議なほどである。しかし、机上に飾られるまだ手つかずのキキョウを今一度眺めると、やはり五枚の花びらが境界線をつけているように見える。
以下略



8:名無しNIPPER[saga]
2016/06/06(月) 04:37:48.71 ID:iz0HsH6m0
朝潮は二枚のトーストに対してピーナッツクリームをすっかり塗り終わってしまっていた。片方を荒潮に差しだすと「セックス」と感謝された。「セ」を「サン」にすればいいのにと朝潮は何だか面白くなった。

朝潮は椅子に座る己の足元に気配を感じた。確認すると白猫が朝潮の足周りをぐるぐるしている。

そもそもこの白猫はなんだ。この部屋で猫を飼った覚えはない。朝潮は白猫の両脇を持って掲げ、その姿を眺めた。胸から腹にかけて暖色系の大きな丸い模様があった。このような猫は鎮守府内でも見かけた記憶はなかった。
以下略



9:名無しNIPPER[saga]
2016/06/06(月) 04:40:39.64 ID:iz0HsH6m0
朝潮は束の間逡巡すると、思い出したように机上に残されたキキョウの花びらを持ってきて、ピーナッツクリームを糊にして貼り付けた。白い五芒星がワンポイントになり、とりとめのない印象が抑えられ、少し洗練された感じになった。

朝潮は荒潮に対しピーナッツクリームの運命と白猫の運命のどちらが勝利すると考えるかと尋ねる。「セックス」。言下の解答は予想できたものだったので、朝潮は特に気にかけることもなかった。

それに朝潮にしてみれば、結果は分かりきったものだった。かたや単なる物体としてのトースト、かたや意識ある生命としての白猫。運命に強度というものがあるとするなら、当然生命の運命の方が強度はあり、物体の運命に勝利するだろう。いったい猫がピーナッツクリームに遠慮して自分の背中を犠牲にするなんてことがありうるものだろうか。
以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2016/06/06(月) 04:44:10.81 ID:iz0HsH6m0
標高一メートル以下の空中でぐるぐる回転してそれは留まったかと思うと、さらに驚くべきことに落下するどころか徐々に上昇してさえゆくではないか。ぐるんぐるんとハンマー投げのような激しい重心回転で上昇していくさまは、プロペラが一枚にも関わらず遠心力によって飛ぶモノコプター型のドローンを彷彿とさせた。

猫とトースト、生と死は螺旋を描いて不規則に明けた夜の方角へ向かう。両者は互いに相手を上におとしめようと激しく離反を試みるが、その上昇の根拠がまさにその離反運動である限り、完全に離れ去ることもできないはずだった。

「セックス」。荒潮が言う。言われてみればそうかもしれない。その飛びざまはトンボやチョウに見られる空中で行われる愛の営みに近いものがあった。現状、猫とトーストは憎悪的な戦争状態にあるとも言えたが、同時に友愛的な和解状態にあるとも言えた。
以下略



11:名無しNIPPER[sage]
2016/06/06(月) 04:50:07.59 ID:fFeXJ53tO
3行でたのむわ


12:名無しNIPPER[sage]
2016/06/06(月) 04:58:22.88 ID:UNUobbydo
オナホと見分けがつかなくなったのかと思ったよ


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