過去ログ - 開かない扉の前で
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2:名無しNIPPER[saga]
2016/07/04(月) 00:13:54.88 ID:BFmKl9Djo

 彼女の顔つきも、ここ二、三週間でかなり変わった。というかやつれた。
 溺愛していた息子が二十代前半にして死んでしまったんだから、無理もないだろう。

 叔父が亡くなったのはつい先月のこと。
以下略



3:名無しNIPPER[saga]
2016/07/04(月) 00:15:46.59 ID:BFmKl9Djo

 こんな想像をするからと言って、べつに叔父のことが嫌いだったり、叔父が死んだことを悲しく思っていなかったりするわけじゃない。

 素直に悲しんで見せるよりも、皮肉っぽい想像のなかに彼の死を閉じ込めてしまう方が、
 韜晦に満ちた叔父の生涯の締めくくりに捧げるものとしては、なかなかにふさわしい弔いのように、わたしには思えるのだ。
以下略



4:名無しNIPPER[saga]
2016/07/04(月) 00:16:30.76 ID:BFmKl9Djo

 叔父が死んで以来、溜め息の数と暗い顔をしている時間が増えた祖母だったけど、今はどことなくうれしそうに見える。
 悲しいのを通り越したら呆れが、呆れを通り越したら笑いが湧き出てきたんだろう。

 祖母のそういう表情を見るのはひさしぶりだから、わたしはなんだかうれしくて、
以下略



5:名無しNIPPER[saga]
2016/07/04(月) 00:17:38.77 ID:BFmKl9Djo

 わたしは通帳の数字から目を離して、自分の湯のみに口をつけて、ずずっと緑茶をすする。

「どうして、わたし名義でこんなお金が?」

以下略



6:名無しNIPPER[saga]
2016/07/04(月) 00:18:11.75 ID:BFmKl9Djo

 そんな生活でどうやったら金がない状態になるのか、と、
 わたしはちょっと呆れていたんだけど、蓋を開けてみたらこういうことだ。

 どういうことだ。
以下略



7:名無しNIPPER[saga]
2016/07/04(月) 00:19:28.35 ID:BFmKl9Djo



 そういうわけで、自由にできる七桁の財を大いなる驚きとともに得て、
 そのお金で最初にわたしが最初にしたことはといえば、高校の屋上でサボり仲間に缶コーヒーをおごることだった。
以下略



8:名無しNIPPER[saga]
2016/07/04(月) 00:21:29.48 ID:BFmKl9Djo

「声に出さないとわかりません」

「感情表現が苦手なんだよね」

以下略



9:名無しNIPPER[saga]
2016/07/04(月) 00:22:26.92 ID:BFmKl9Djo

 ケイくんはまたバカにするみたいに笑った。

 べつにわたしだって、どうしても彼にお礼を言ってほしいわけではなかった。
 ただどうでもいい思いつきをぺらぺらと並べてみただけだ。
以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2016/07/04(月) 00:24:35.96 ID:BFmKl9Djo

 うちの学校の屋上は開放されていない。
 生徒はもちろん教師でさえ必要に駆られたときにしか出入りできない。

 というのも、開放してしまうと当然危ないし、くわえて人目につかないのをいいことに、
以下略



11:名無しNIPPER[saga]
2016/07/04(月) 00:25:23.39 ID:BFmKl9Djo

 咎めはするものの、彼に喫煙癖があろうと飲酒癖があろうと本心ではどうでもいいし、
 彼の肺が何色をしていようとわたしの肺とは関係ない。

 むしろ彼が煙草に火をつけて、その煙をたっぷりと吸い込んで、
以下略



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