69: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/04(木) 01:54:09.88 ID:pTgjkfxw0
スタッフがやってきた。そろそろ出番が近いらしい。
俺たちは控え室をあとにしてスタジオに向かう。
「ふふ、ふたりのおかげでリラックスできたみたい。奏さん見ていてね、私頑張るから」
70: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/04(木) 02:05:09.16 ID:pTgjkfxw0
曲がかかると、空気が引き締まった。
息を呑む。集中している様子の新田さんは目を閉じ、微動だにしまないまま。
イントロの終わりが近づく。ゆっくりと目を開いた新田さんは、緩慢な動作で手に持ったマイクを口元へ近づけた。
71: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/04(木) 02:06:56.72 ID:pTgjkfxw0
新田さんの着替えを待ってから控え室に入る。
ステージとは打って変わって、新田さんは柔和な笑みをたたえた。
「ふう、上手くいったかな! どうでした?」
72: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/04(木) 02:10:22.35 ID:pTgjkfxw0
「美波はすごいね。私にはまだ具体的に掴めていなくて、今も迷ってる」
速水さんは弱音を吐き出すみたいに、苦しそうに言った。力不足を痛感する。
「私は奏さんもすごいと思うよ。ダンスも歌ももう追いつかれそうだし、あと一歩踏み出すだけなんだよ。たぶん、奏さんの答はプロデューサーさんが持ってるんじゃないかな」
73: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/04(木) 02:12:08.23 ID:pTgjkfxw0
新田さんを送り届けたあと、速水さんを乗せた社用車は会社に向けて走っていた。
ライブ直前に速水さんが口にした言葉。
「これが終わったらレッスン室使わせてくれない?」
74: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/04(木) 02:33:04.09 ID:pTgjkfxw0
「ありがとね」
「なんの話?」
「前もって話をしてくれていたんでしょ」
75: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/04(木) 02:35:55.55 ID:pTgjkfxw0
些細な仕草も喜怒哀楽も、何気ない一言も。ひとつひとつが速水さんの魅力だ。しかし、彼女はそういうものを押し殺して、技術を追求してしまった。
「速水さんに足りないのは自分を表現することだ。ファンが求めるのはアイドル速水奏であって、速水さんの歌とダンスなんだ。アイドルはファンに応えてこそのアイドルなんだと、俺は思う」
当然、人気のあるアイドルならば、好きなことをやってもファンはついてくるだろう。ファンは知っているのだ。そのアイドルは自分たちを楽しませてくれると。
76: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/04(木) 02:38:22.45 ID:pTgjkfxw0
レッスン室の隅にトレーナーさんと並ぶ。
ウェアに着替えた速水さんはストレッチをしていた。
「急に呼ばれてびっくりしました。どうしたんですか?」
77: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/04(木) 02:40:34.62 ID:pTgjkfxw0
曲が終わっても、誰も言葉を発せなかった。レッスン室には速水さんの息切れだけが聞こえる。
「どうだった?」
ゆっくりと息を整えながら歩み寄ってきた速水さんは、からかうような声音で言った。
78: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/04(木) 02:43:17.74 ID:pTgjkfxw0
速水さんとレッスン室をあとにする。彼女は歩きながら掌を眺めていた。手応えを確認しているのだろう。
「今日はもう終わりだな。送ろうか?」
「ううん、大丈夫よ」
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