13: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 23:15:13.28 ID:7ab73rSh0
「でも、自分でも何でかわからないんですよ。時子様を疎かにしてるつもりなんてないですし」
「アァン?」
「い、いえ、あの、もしかすると、あれかもしれないです。法子はほら、まだ13歳ですし、頼りないところがあるじゃないですか。だから俺がちゃんとしてなきゃいけないっていうか。でも時子様は――」
14: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 23:19:06.10 ID:7ab73rSh0
オーディションは上々に終わった。
一切のミスはなく、演技も概ね審査員から高評価だったかと思う。私なんだから、当然ね。
オーディション参加者は俳優が多かったけれど、私と同じようなアイドルも混じっていた。
映画のオーディションは不慣れなのか、みな緊張した様子だったのを覚えている。
15: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 23:22:22.35 ID:7ab73rSh0
「時子様っ! オーディションどうでしたか!」
オーディション参加者用の待合室を出ると、廊下の奥から豚が小走りで駆けてきた。
私をずっと待っていたのだろう。こういうところは家畜らしくて可愛いわね。
16: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 23:24:42.68 ID:7ab73rSh0
車に戻ったら、話の続きをしてあげなければならない。
もちろん、私もあの豚に何かを期待してるわけじゃないわ。
私一人でどうにかならないことなんてないし、だからプロデューサーも必要ないと言える。
でも、この世界で上を目指すには、まだまだ足りない。
17: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 23:33:11.75 ID:7ab73rSh0
「おうこら、さっさと帰りやがって」
ふいに、そんな声が背後から聞こえた。
「……?」
18: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 23:34:36.75 ID:7ab73rSh0
私が殺気を放ったせいで、全力が出せなかった?
……思い起こしてみれば、なるほどね、確かにぶるぶると体を震わせていたあれは、緊張じゃなくて私を恐れていただけだったのかもしれないわね。
「はぁー」
19: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 23:36:24.94 ID:7ab73rSh0
――他人の邪魔、ね。
アイドル活動なんて、他人を押しのけなくちゃやっていけないと思うんだけど、それをこの女に言ってもどうせ通じないわね。
……ここは、甚だ不本意だけど私が折れるしかない。
「ふう」
20: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 23:38:19.15 ID:7ab73rSh0
――さて。
嵐は去ったことだし、そろそろ豚のところへ行ってやろうかしら。
ここで待っていても現れないようだし。本当に気が利かない――、
「あら」
21: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 23:40:25.63 ID:7ab73rSh0
帰りの車では会話なし。
豚の言葉が、腹立たしいことに気になって、話の続きをする気になれなかった。
事務所に着き、車を降りると、私は事務所の一室へ、豚は慌てて会議室の方へ向かっていった。
そうして半刻ほどソファで寛いでいると(そして物思いに耽っていると)、法子から声がかかった。
22: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 23:42:07.07 ID:7ab73rSh0
「時子さん。もしかして、何か悩みとかありますか?」
ふいにそう言って法子は私の隣へと座り、残ったモチモチリングを頬張る。
「何よ急に」
23: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 23:43:31.14 ID:7ab73rSh0
「――あはは、なんとなく悩み、わかりました」
「そんなものないって言ってるんだけど?」
「時子さん。こういう時は、喋るしかないんです、きっと。プロデューサーさんと。とことん喋りましょう!」
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