過去ログ - 古風な愛 【原著:星新一 ・ ごちうさ訳】
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:34:25.04 ID:MgkQzc3L0
香風智乃は美しい少女だった。
少女といっても、初夏の樹のようにはつらつとした感じではなかった。
月の光で虹ができるものなら、それに似ているといえよう。
どことなくすがすがしく上品で、そして清らかだった。
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◆n0ZM40SC3M
[sage saga]
2016/10/29(土) 18:34:57.89 ID:MgkQzc3L0
私がはじめてチノちゃんに会ったのは、まだ少し寒い春のころ、彼女の実家であり喫茶店のラビットハウスでだった。
家の玄関ではなく喫茶店に入ると、出迎えてくれたのが彼女だった。
「いらっしゃいませ」
以下略
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:35:25.23 ID:MgkQzc3L0
わたしは、今日から居候になることを話した。
名前くらいしか聞かされていなかったらしく、少し戸惑いながらも飼っている兎と一緒に自己紹介をしてくれた。
その後、アルバイトをしているリゼちゃんに加えて、私も喫茶店で働くことにした。
以下略
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:35:52.30 ID:MgkQzc3L0
その日は一緒に晩御飯を作った。
そのあいまに、チノちゃんは父について話した。
今は喫茶店とバーのマスターで、そとではクールな顔をしているけれど、家ではとてもやさしいんですと言った。
以下略
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◆n0ZM40SC3M
[sage saga]
2016/10/29(土) 18:36:21.02 ID:MgkQzc3L0
ある休日の朝に、わたしはチノちゃんを散歩に誘った。
彼女は休日はもっぱら、喫茶店で働くか、ボトルシップを作るなど一人で過ごすことが多いようだった。
散歩しながら、この街のことを教えてもらった。
昔は職業ごとに家の色が違っていたと言うので、わたしが将来はピンク色の家のパン屋さんになるのかと話すと、チノちゃんは少し驚き、また嬉しそうな顔をしていた。
買い物をしているリゼちゃんとすれ違い、アルバイト中のシャロちゃんからクレープを買った。
以下略
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:36:50.07 ID:MgkQzc3L0
こうして、チノちゃんの周りにはいつしか人が増え始めていた。
わたしに友達ができれば、積極的にチノちゃんに紹介した。
また、わたしは一人のときには本を読んだ。
ふさわしい話題の種を補充しておかねばならないのだ。
また、物置で手品の道具を見つければ、早速説明書を読んで披露したりもした。
以下略
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:37:23.90 ID:MgkQzc3L0
それから私が高校三年になった春のある日、いつもの公園を散歩しているとき、チノちゃんは何度もためらったあげく、わたしにささやいた。
「愛しています」
以下略
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:37:49.42 ID:MgkQzc3L0
「なにか困ったことでもあるんですか?」
「問題と言えるかどうかはわからないけど、故郷にいるわたしの両親のことなんだ。
理解はあるし、だからこそ実家を離れることもみとめてくれたんだけど、やっぱり芯は古風なんだと思う。
ひとつだけ約束をさせられてしまったの。
以下略
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:38:16.61 ID:MgkQzc3L0
わたしの説明の途中から、チノちゃんははればれとした表情になった。
「おかしくありません。
そんなことなら古風な方がいいじゃないですか。
私、もっと難問題なのかと思ってしまいました。
以下略
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:38:43.93 ID:MgkQzc3L0
それからしばらくすると、彼女の顔はやつれ、見違えるように変わっていった。
わたしが聞くと、彼女はため息とともに言った。
「父に何度か話したんですけど、いけないと……」
以下略
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:39:11.24 ID:MgkQzc3L0
チノちゃんのお父さんは、わたしが話し始めると、気難しく顔をしかめて言った。
「言い分はわかっている。そのことについて話し合うことはない」
とりつくしまがない口調だった。
以下略
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:39:38.58 ID:MgkQzc3L0
チノちゃんは父とわたしの板挟みになって、ますます悲しそうに、苦しそうになっていった。
やけを起こすような性質ではなく、まじめに考え、何とか方法を見つけようとしていた。
しかし、方法は無かった。
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:40:14.65 ID:MgkQzc3L0
父親にたのみ、そのたびに拒絶されているせいか、チノちゃんは痛々しいまでに弱ってきた。
悩みつづけ、気力も弱ってきたようだった。
「私、死にたいです」
以下略
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:40:43.77 ID:MgkQzc3L0
それからは、二人で話すときは死の話ばかりをした。
わたしといっしょに死ぬことを考えると、彼女は楽しくなるらしく、動作もいきいきとしてきた。
それがいかにすばらしく、美しく、幸福なことかを、くりかえして口にするのだった。
以下略
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:41:15.32 ID:MgkQzc3L0
景色のいいホテルだった。
部屋の窓からは、湖だの、森だの、遠い雲だの、すがすがしいものばかり見えた。
わたしは一日のばそうかと言ったが、チノちゃんはすぐのほうがいいと言った。
以下略
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:41:41.09 ID:MgkQzc3L0
チノちゃんはビンから錠剤を出し、手のひらにのせた。また、わたしの手のひらにも半分をのせてくれた。
彼女はためらうことなく薬を口にいれ、目をつぶってコップの水を飲んだ。
そのあいだに、わたしは薬をポケットに移し、水だけを飲んだ。
以下略
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:42:08.73 ID:MgkQzc3L0
「眠くなってきました……」
と彼女が言った。わたしの頭はさえきっていたが、やはり同じように言った。
以下略
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:42:36.33 ID:MgkQzc3L0
薬が効いてきたのか、彼女の声はかすかになり、目を閉じた。
「……わたしをしっかりと抱いていてください」
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:43:03.58 ID:MgkQzc3L0
しかし、わたしはなすべきことに気づき、ポケットの薬をビンに戻し、ドアから飛び出して大声をあげた。
かけつけてきたホテルの係に、ちょっと外出したあいだに薬を飲んだらしい、と告げた。
ホテルじゅうにざわめきが波紋のようにひろがっていった。
以下略
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:43:30.53 ID:MgkQzc3L0
わたしはチノちゃんの家に帰り、自分の部屋に閉じこもり、コーヒーを自分で淹れて飲んだ。
ほかに何もする気になれなかった。
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◆n0ZM40SC3M
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2016/10/29(土) 18:43:57.98 ID:MgkQzc3L0
ドアの方で訪問者のけはいがした。
わたしが応答しないでいると、客は勝手に入って来た。
チノちゃんの父親だった。彼は沈痛な表情と絞り出すような声で言った。
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