過去ログ - 茄子「にんじんびーむ♪」
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2:名無しNIPPER[saga]
2016/12/31(土) 13:41:58.29 ID:tFwGSLOi0

   ◆   ◆   ◆

 ――第18次定期報告。対象の死亡を確認。ログを送信後、既定時間座標12.02.22へ移動を開始。

以下略



3:名無しNIPPER[saga]
2016/12/31(土) 13:42:32.58 ID:tFwGSLOi0
 それは昨日のお昼のことでございました。私、鷺沢文香が昼食を終え、事務所でゆっくりと読書に耽っていた時です。

 ここにいらっしゃる皆様はご存知のことかと思いますが、書に没入しているときの私は極端に視野が狭くなります。

 目は手元しか見えていませんし、耳もほとんど聞こえません。いえ、聞こえてはいるのでしょうが、頭に入ってきた音は処理されることなく、そのまま反対の耳から出ていってしまうのです。
以下略



4:名無しNIPPER[saga]
2016/12/31(土) 13:43:21.95 ID:tFwGSLOi0
 ――事の起こりは、そんなところでしょう。あのとき事務所にいた彼女たち以外にも、同じようなことを願った子が多くいたのだと聞かされました。

 そうです、聞かされたのです。

 プロデューサーさんと、結婚したい。
以下略



5:名無しNIPPER[saga]
2016/12/31(土) 13:43:56.99 ID:tFwGSLOi0
   ◆   ◆   ◆

 逃れ得ぬ破滅。繰り返す惨劇。響き渡る慟哭。

 悲劇と憎悪と血涙が輪を成して、無限に、永久に、繰り返す。
以下略



6:名無しNIPPER[saga]
2016/12/31(土) 13:45:08.94 ID:tFwGSLOi0
 ――ひ、非常にマズイことになりました。

 プロデューサーさんが10歳になっちゃったなんて……これは、マズイです。本当の本当に大ピンチです。

奈々
以下略



7:名無しNIPPER[saga]
2016/12/31(土) 13:45:45.78 ID:tFwGSLOi0
 ミトンをはめてダッチオーブンを持ち上げます。おっとこれは重い。腰に来ますね。ちょっとウサミンパワーを出さないと辛いです。

 えっちらおっちらと、鶏肉の塊が入った鉄の塊を運びます。いや、開けてのお楽しみとは言われましても、クリスマスにダッチオーブンを引っ張り出してきてまで作る料理と言ったらローストチキンしかありませんし。あ、なるほど。子供たちに聞かれても答えないで、ということですか。蓋を開けるときのワクワク感も、料理のだいご味ですからね。

 そんなわけで事務所に戻ってきました。奈々が運ぶダッチオーブンに気づいた人は自然と道を譲ってくれます。お気遣いいただきありがとうございます。ありがとうございます。いえ、ですが、あの、皆さん。もっと自分の作業に集中していただいてもいいんですよ? でないとほら、ね? いい匂いがしてきて、大きな鉄鍋を持った人がドアから入ってきて、モーセさんみたく人込みを割っちゃうとですね? ほら、やっぱり子供たちはガン見するわけですよ。ええ、ええ!
以下略



8:名無しNIPPER[saga]
2016/12/31(土) 13:46:25.41 ID:tFwGSLOi0
   ◆   ◆   ◆

 私は飽きることを知らなかった。疑うことを知らなかった。そのような機能は持っていなかった。

 感情を持たなかった。怒りも憎しみも悲しみも喜びもなかった。私は魅力的な外装人格を備えた完璧な観測機だった。
以下略



9:名無しNIPPER[saga]
2016/12/31(土) 13:47:00.48 ID:tFwGSLOi0
 奈々さんの説明というか、釈明によると、以前、プロデューサーさんとは同じアパートのお隣さん同士だったということでして。

 しかもプロデューサーさんが母子家庭だったこともあって、小学校に上がるまでの間は、お母さんに代わってプロデューサーさんの面倒を見ていたようなのです。ごはんはもちろん、一緒にお散歩したり、お昼寝したり、絵本を読んだり、お風呂に入ったり。ほかにも、いろいろ。けしからん。

 そういうわけで、プロデューサーさんは奈々さんにべったりでした。知っている人が奈々さんだけ、というのもあるかもしれませんが、それにしても甘えすぎのような気もします。というか仲良すぎですよね。ああ、ほら、あんまりにもべたべたしてるから……みんな殺気立ってますよ? 奈々さんもそれとなくプロデューサーさんを引き離そうとしてますけど、プロデューサーさんはじゃれ合いとしか思ってないようですし……これじゃあ子供たちの夢を叶えた意味がありません。
以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2016/12/31(土) 13:48:25.27 ID:tFwGSLOi0
 身体を震わせるほどの歓声と、スポットライトが照らし出す汗。

 輝かんばかりの笑顔に、心に響き渡るメロディ。

 ステップは軽やかに。リリックは情熱的に。指先に、つま先に、精一杯の心を込めて。
以下略



11:名無しNIPPER[saga]
2016/12/31(土) 13:49:22.58 ID:tFwGSLOi0
 私は三つ目のケーキに手を伸ばそうとして、事務所の片隅にいたその子に気づきました。

 彼女はケーキを食べるわけでもなく、プロデューサーさんのところに行くわけでもなく、ただじっと手元を見つめていました。

 わいのわいのと盛り上がる事務所の中で、そこだけ空気が違っていました。
以下略



12:名無しNIPPER[saga]
2016/12/31(土) 13:49:50.21 ID:tFwGSLOi0
 私は答えられませんでした。正解のない答えです。その恐怖に対して解答を出せるのは舞ちゃん自身であって、私ではありませんでした。

 他人ができるのは背中を押してあげることくらいでしょう。でも、どうやって押せばいいのかはわかりません。踏み出すことを恐れて立ち止まっているなら、突き飛ばすくらいの勢いで押してもいいでしょう。しかし今の舞ちゃんが、もし立っているのもやっとの状態なら、押しただけで倒れてしまうくらい疲れ切っているなら、それはできません。

 倒れたら、起き上がる。それだけのことですが、たったそれだけのことが、難しいのです。
以下略



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