過去ログ - 北条加蓮「カフェに1人で来た日の話」
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名無しNIPPER
[saga]
2017/01/20(金) 18:49:44.53 ID:8rfcpivt0
――おしゃれなカフェ――
1人で、カフェに来てみた。
――まえがき――
レンアイカフェテラスシリーズ第43.5話(その1)です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
〜中略〜
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「瑞雪の聖夜で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で よんかいめ」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「手がかじかむ日のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「寒暖のカフェで」
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名無しNIPPER
[saga]
2017/01/20(金) 18:50:28.24 ID:8rfcpivt0
藍子はカフェにすごく詳しい。
あと、知識の使い方がすごく上手い。
例えばふと食べたい物を口にしてみたとしよう。少しの間だけ温かみの感じられる白色の天井を眺めてから、こんなカフェがあるんですよ、と教えてくれる。何のメモも見ずに、どこそこにこういうカフェがあって玄関前にこういう置物があって……とすらすら並べて興味を惹かせて、これから行ってみますか? と聞いてくるまでがいつもの流れ。
その誘いはすごく魅力的だ。藍子の話を聞いているだけでも好奇心が疼くし、辿り着くまでの道中を想像すると今すぐにでも腰を上げたくなる。会話が弾んで……弾むというよりあちこちに飛ぶように話題が広がって、退屈な筈の移動時間が華やかに彩られる。
以下略
3
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名無しNIPPER
[saga]
2017/01/20(金) 18:51:06.24 ID:8rfcpivt0
だから私はウソをつく。ちょっと疲れちゃったから、と。わざとらしいため息と一緒に。ウソをつくことが嫌いだって、言った後でいつも思い出して、今度は作っていないため息をついてしまう。
最初の頃、言う度に藍子は慌てて気遣いの言葉をかけてきていた。
それで、お互いにあまりいい気持ちにならないって分かった。
藍子の前ではこの類のウソをつかないようにしよう、って決めた。
以下略
4
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名無しNIPPER
[saga]
2017/01/20(金) 18:51:36.07 ID:8rfcpivt0
ゆるやかな声とやわらかい口調は、絵本の文字みたい。
時に脱線して、全く違う話になったりもする。以前のことだ。入り口に竹飾りの置いてあった話を聞いていたのに、気付けば自作のヘアアレンジの話になって、いつの間にか私が藍子の髪型を整えてあげる約束が出来上がってしまった。たぶん、竹飾りから門松現象(片方を切ったらバランスが悪くなってもう片方を切ったらまた不釣り合いになって、が延々ループするアレ)の話にでもなったのだと思う。
あの時はどんなヘアアレンジにしたんだっけ。あざといくらいのツインテールにして思いっきり幼い感じにしたんだったかな? それともストレートにして物足りないからってちょこっとアレンジを加えたらものすごく大人っぽい感じになって、なんだか悔しいからくしゃくしゃにしてやった時だっけ? あのね、同い年でも精神年齢は私の方が上なんだから。絶対。そこは譲れない。
読み聞かせの傍観者になった気分を味わったり、単なるおしゃべりのように話題がころころ変わったり。
以下略
5
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/01/20(金) 18:52:05.92 ID:8rfcpivt0
あのぉ、と。
思い出し笑いをしているところに、恐縮そうな声が左側から聞こえた。
……もしかしたら私、結構危ない人っぽくなってる?
コーヒーをお願いします、と口早に告げた。口の右側が引きつっているのを見せたくない。
以下略
6
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/01/20(金) 18:52:35.95 ID:8rfcpivt0
さて。これにてまた、1人の時間。藍子の話を続けよっか。
藍子はすごくカフェに詳しい。
ほんの一瞬だけ、それに何かを思った。
それが私の知らないことを藍子だけが知っている事実に対する反発なのか、藍子の知っている物なら私も知りたいという従順な好奇心なのか、私だってここでダラダラするようになってからはそれなりにカフェに詳しくなったハズだという自負なのか、あるいはそれらを建前にしているだけの言語化できない"なんとなく"なのか、私にもよく分からない。嫌な気持ちだったような気もする――妬みとか、ずるい、とか。そうじゃなかったような気もする。そっか、ってだけの感想。どっちとも言えないけれど、ただ、何かを思った。
以下略
7
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/01/20(金) 18:53:05.92 ID:8rfcpivt0
とくとくとく、と、柔らかな白色を注ぐ。音を立てないように混ぜる。いつもの黒色が、あっという間に塗り替えられていく。
あれはいつのことだったか。
初めてコーヒーを見た時、その黒色にびっくりした。
一口啜ってみて、底なしの苦さに思わず噎せてしまった。それから世の中にはこんな物もあるんだと、1つ世界を知った。
それほどに衝撃的だった黒色も、こうして少しかき混ぜるだけで乳白色に変化する。当たり前のことがちょっとだけ面白くて、くすっ、と笑ってしまった。それから顔を上げて――いつものように顔を上げて、あぁ、そっか、と気付く。今日は藍子はいないんだった。
以下略
8
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/01/20(金) 18:53:36.27 ID:8rfcpivt0
初めてのコーヒーに噎せた私に、お母さんは苦笑いしてミルクを混ぜてくれた。みるみるうちに別の飲み物に変貌していく様に目をまんまるにして、それから、神秘さを感じるほどに真っ黒だった物が一瞬にして消えてしまった寂しさを覚えた。その出来事が悪い意味で印象的で、コーヒーが苦いならミルクを淹れて中和すればいい、って発想が生まれなくなったんだよね。この前藍子に「コーヒーが苦ければ素直にミルクを入れればいい」って言われてびっくりしたっていうか、急に記憶が引き戻されたっていうか。
きっと、それと同じ。
10分も経たずに、藍子に会いたいという気持ちでいっぱいになりました。
以下略
9
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名無しNIPPER
[saga]
2017/01/20(金) 18:54:06.26 ID:8rfcpivt0
そんなに私に誘われることが嬉しかったかと尋ねてみたことがある。
はい、と即答された。
連絡が来た瞬間に、ぜんぶ書き換えられるんです。他のことが目に入らなくなっちゃうくらいに。あなたとここで会う光景を思い描いて、何のお話をしようかな、って、想像したら心が弾んじゃって、つい駆け足になっちゃうんですよ――
なんて極上の笑顔で言われて、惚れかけた。
以下略
10
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/01/20(金) 18:54:36.64 ID:8rfcpivt0
いよいよもって世界から消えてしまいたくなった。そうしたら今度は、もしそうなったら藍子は泣いてしまうんだろうなぁ、と想像してしまうものだから、どこまでも私にとってこの場は「藍子がいる場所」なのだと認識させられてしまう。
いや、もしかしたらここがカフェじゃなくても――
はいはい、分かりました、私。
ちっぽけなプライドなんてもう粉々です。
以下略
11
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/01/20(金) 18:55:05.93 ID:8rfcpivt0
"いつもの場所?"
うん、と打とうとして、癪なので、さあ? と打ち直す。
苦笑いのスタンプが返ってきた。それから、ほとんど直後に。
以下略
12
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/01/20(金) 18:55:36.30 ID:8rfcpivt0
目の端を拭いながら、泣きマネでもやってみようか? と思いついた。
もし藍子が到着した時に私が泣きはらしていた(フリをしていた)らどんな反応を見せ――
うん。却下。本当に大泣きしたくなる展開になるのはヤダ。
年末年始に思い知ったことがある。藍子の家には気力を削いでいく猛毒が漂っている。毒沼だと分かってなお浸りたくなるように甘ったるいのもまたタチが悪い。帰れない道を転がり落ちる訳にはいかないのだ。私にだってプライドくらいある。
……まあ……机に突っ伏せた状態で主張しても説得力がアレなんだけど……。
以下略
13
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/01/20(金) 18:56:05.93 ID:8rfcpivt0
最後に、もう一度だけ。
1人でカフェに来てみました。
10分も経たず、藍子に会いたくなりました。
以下略
14
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/01/20(金) 18:57:30.73 ID:8rfcpivt0
おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。
以下略
15
:
名無しNIPPER
2017/01/20(金) 22:08:33.13 ID:MKiEIrYi0
おつおつ。
加蓮が、完全に藍子にデレデレでついニヤニヤしながら読んでる自分がいます。
16
:
名無しNIPPER
[sage]
2017/01/22(日) 19:44:55.96 ID:GS6pCF9a0
おつです。
ここの2人の間の空気感というか、間の開き方大好きです。
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