7:名無しNIPPER[saga]
2017/03/07(火) 23:17:51.17 ID:2xfEaWy9O
「それやっぱりやりたくなっちゃうわよねえ」
早苗は自身に付いている水滴を拭き取り、着替えを始めた。疲れから動作が遅く、思うように手足が動かない。頭の中ではもっと早く動かそうとしているのだが、どこかで動かすのが億劫だという早苗がいた。それでも何とか手足を動かし続ける。
「やあっと着替え終わった。疲れた……」
8:名無しNIPPER[saga]
2017/03/07(火) 23:18:31.79 ID:2xfEaWy9O
「あ、おつかれさん」
外にはワゴン車が停車しており、運転席には我らが事務所一腕利きのプロデューサーがいた。
「お疲れ様ですー」
9:名無しNIPPER[saga]
2017/03/07(火) 23:19:15.45 ID:2xfEaWy9O
「どうだった? 追い込みきつかっただろ?」
だけど、プロデューサーは辛さを決して面には出さない。そんな顔をしている暇があればアイドルたちのために仕事をもっと持って来ようとする。そんなプロデューサーだった。
「ほんとよー。身体中ガッタガタ。歩くのも億劫だったわよ」
10:名無しNIPPER[saga]
2017/03/07(火) 23:19:42.56 ID:2xfEaWy9O
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「はーい、そこの車両止まりなさーい」
11:名無しNIPPER[saga]
2017/03/07(火) 23:20:10.60 ID:2xfEaWy9O
「何でしょうか? じゃないでしょう。あなた、ここ一通なのに逆走してるんだから捕まえるの当たり前でしょ」
「うぇえ? そうなんですか! すすす、すみません! すぐに移動します!!」
まあ、ここは住宅街に入るところで、平日昼間である今はほとんど車通りの無い道だし、緊急性があるわけでもなかった。とりあえず運転手には落ち着いて現状を把握してもらい、速やかに移動してもらえれば良かった。
12:名無しNIPPER[saga]
2017/03/07(火) 23:20:46.17 ID:2xfEaWy9O
免許を提示してもらうと、軽く驚きの声が漏れてしまった。アラフォーだと思っていた相手が実は自分より年下だったのだ。人は見た目に寄らないとは真実なのだと早苗は思った。
それはそれとして、交通違反の手続きやらを行っていると、男が早苗へ熱心に視線を向けていることに気付いた。
「あ、あの、なんでしょうか?」
13:名無しNIPPER[saga]
2017/03/07(火) 23:21:17.90 ID:2xfEaWy9O
馬鹿にしてるのだろうか。それともドッキリ? 早苗は周りを見渡したがそれらしい雰囲気はない。そもそも違反させてまでドッキリというのは考えられない。私が困惑していると男は、プロデューサーはなおも問いかけてきた。
「あなたならトップを取るのも夢じゃないです! 私と東京に来てアイドルをやりましょう!」
先程の気弱そうな男はおらず、そこにいたのは情熱に燃えた大男だった。横にも縦にも大きいプロデューサーに迫られ、早苗は後ずさりをしてしまった。そこでプロデューサーは我に返り、さっきまであった気迫はどこ吹く風と霧散してしまった。
14:名無しNIPPER[saga]
2017/03/07(火) 23:21:43.81 ID:2xfEaWy9O
「その、とても素敵な笑顔ですね」
「ちょちょっと! ナンパ?」
唐突に褒められ、早苗は少し慌ててしまった。そんな自分に少し腹が立った。常に自分は相手より優位にいたいという思いからだったが、すぐさまそんな思いは消し去った。
15:名無しNIPPER[saga]
2017/03/07(火) 23:22:13.53 ID:2xfEaWy9O
(熱意に負けたってところかしらね……)
あの後しばらく早苗は警察という職務に従事していた。不満はなかったが、満足はしていなかった。慣れてしまいルーチンと化してしまったのか。ただただ警察というものに情熱を抱けなくなったのか。わからないが、そう感じた時、早苗は名刺の番号を押していた。
そこからはトントン拍子だった。もうあのスカウトの時から早苗の心はアイドルというものに傾いていたのだ。最初は不安しかなかった。本当に自分の選択は間違っていなかったのか。年齢も年齢だ。まだ若いという意識はあっても、世間はそう見てくれない可能性の方が高い。
だけど、そんな不安をプロデューサーが全て吹き飛ばしてくれた。デビュー前、それは二人三脚と言っても過言ではないほどいつも一緒に頑張ってくれた。差し入れやメンタルケア、時にはレッスンの指導までしてくれた。
16:名無しNIPPER[saga]
2017/03/07(火) 23:22:56.43 ID:2xfEaWy9O
「ふわぁ〜」
車内に大きな欠伸が響いた。欠伸の主はサイキックアイドル堀裕子だった。
「眠いなら寝ていいぞー」
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