67: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:28:03.41 ID:zJUkddjZ0
※ ※ ※
雨が降る中で、街の衛兵はその顔を大きくしかめていた。
68: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:28:36.78 ID:zJUkddjZ0
深い知性と憂いがたゆたう藍色の瞳。その髪もまた黒に近い藍色で緩いウェーブがかかっており、落ち着きとともに悲しみを感じさせる妖しい色香がある。外套をつけていてはっきりとはわからないが、その髪は肩より下まであるようだ。
一八〇を超える背丈は均整がとれていて、その足運びも隙が無いというより、美しいという印象を抱かせる。腰に差した剣が男が戦いを嗜んでいることを示すが、この男が血と泥にまみれて戦っている姿が衛兵にはどうにも想像できなかった。どこかの貴族様だろうか。年齢は二十代後半のように見える。
「三人……か」
69: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:29:11.91 ID:zJUkddjZ0
疑問は代わりに青年が口にしてくれた。まるでそこで何か起きたかを読み取るように、彼はそっと腰ほどの高さがある宿の残がいを指でなぞる。
「力、速さ、そして技。どれをとっても大したものはない。それなのに、この二人を相手に真っ向から戦い、そして――勝利? そう、勝利した」
自分の考えをまとめながら言葉にするその姿は、まるで詩人が歌を唄うように見えた。
70: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:29:45.04 ID:zJUkddjZ0
※ ※ ※
冷たい水が頬をうつ。左目はつぶれ右目はかすみ、何が起きているか視界で捉えることはできない。耳朶を打つ振動と独特の匂いが、雨が本降りになったことを教えてくれた。
71: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:30:19.52 ID:zJUkddjZ0
本当は覚えているはずがない光景だった。俺は当時まだ乳飲み子だったはず。その時の記憶が残っているはずがない。だからこれは、この時から数年ほどして少しは物を考えられるようになった頃に、知っていた情報を組み合わせた妄想の産物を、本当にあった出来事だと思い込んでいただけ。そのことに気づけるようになるのは、さらにもう数年ほどしてからだったが。
死がかつてないほど近づいているせいか、妄想を本当だと信じていた頃よりも鮮明に偽りの記憶が想起される。
ああ、父であった人。そして母であった人。なぜ私を産み落とした。必要で無かったのなら、なぜ――
72: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:30:58.79 ID:zJUkddjZ0
口にしながら自分でも助からないことに気づいたのか。言葉から力が抜けていくが、それでも彼女は手当を止めようとはしなかった。そして俺ももう止めようとはしなかった。きっと何を言っても彼女は止まらないだろう。なら、残された時間で伝えなければならないことは別にある。
そう、残された時間。俺はもう死ぬ。結局何のために生まれてきたわからぬまま、誰に愛されることもないままに、見るも無残な姿で死ぬ。
せめてもの救いは、ひょっとしたらという儚い可能性ではあったが、俺にとって何か大切な存在かもしれないマリアと出会えたこと。そしてこの想いが錯覚であったと気づく前に[ピーーー]ることか。
73: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:31:29.76 ID:zJUkddjZ0
「俺は……オマエが不思議な力があるから……それを利用しようとして、それに……邪魔だったから、アイツ等を始末した……だけ!」
血と熱を失い、毒がまわりきったこの体。これがつむげる最期の言葉だと、静かに確信する。一文字一文字口から出こぼれるたびに、水にゆっくりとつかっていくかのような冷たい奇妙な感覚。
「オマエを助けるのは……俺が死んだのに、俺ができなかったオマエの利用を……他の奴らにされるのが、気に食わないから――」
74: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:32:36.14 ID:zJUkddjZ0
「……?」
何があったのか。目はもう使い物にならないのに、反射的に目を凝らそうとする。すると少しずつ色を認識できるようになってきた。
「これは……いったい」
75: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:33:25.38 ID:zJUkddjZ0
何百何千という魔に心を呑まれたモノが跋扈し、その中から異界侵食を行うモノたちが次々と現れた。
侵食された場所は人が住める場所ではなく、日に日に人類の生存圏が削られていった。だがそれはしょせん、悪夢の始まりにすぎなかった。
異界侵食は基本的に、魔に心を呑まれたモノが住処と定めた地域で発生する。侵食を終えたら広がらないのが基本なのだ。
76: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:34:14.89 ID:zJUkddjZ0
※ ※ ※
「アハハハハハヒャヒャヒャヒャヒャハヒハヒャヒャヒャヒャッヒャッ!!!」
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