19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 18:47:57.39 ID:vDKXf2v5o
そんな屈折した思考にとらわれながら、彼はそれでも死のうとは思っていなかった。それどころか、どうすればいいかをひたすらに考え続けていた。
思考が何ももたらさないと知っている人々は、まず行動を起こすことが肝要だと口々に言うが、彼はそう気付くには若く、幼すぎた。
姉はバイトをすることを勧めた。とにかくなにかをはじめて見てはどうかと言うのだ。
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 18:55:03.60 ID:vDKXf2v5o
このままではいけない、と彼は考えている。
日々の中でその考えを思い出すことはほとんどなかった。それは不意に現れては、彼の心に小さな傷をつくって消えていく。
彼は堂々巡りの思考をやめて、何も考えないことにした。そうすると今度は、時間が流れていくことを不安に思った。
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 18:58:50.39 ID:vDKXf2v5o
季節の変化に疎くなった。日々の中で楽しいと思えることがなくなった。実感できるような自分の成長がなくなった。
感情を表現することが難しく感じるようになった。窓の外の景色を、風景画か何かのように認識することになった。
昼間、外に出ることが怖くなった。他人からどう見られているかが異常に気になるようになった。コンビニのレジに並ぶことすら億劫だ。
22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 19:05:25.54 ID:vDKXf2v5o
姉や母が、そういった張り紙をしている店を教えてくれることもあった。何の文句も言わず、穀潰しでしかない自分を認めてくれていたことを、改めてありがたく思った。
その感謝の気持ちに、彼は最初、ひどく戸惑った。中学時代は親などは所詮他人でしかないと考えていたが、今では自然と、感謝を向けることができる。
家族をつくり、働くことで守っている父にも、それまでにないような偉大さを感じた。同じことをしろと言われても、自分には絶対にできないだろう。
23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 19:11:56.45 ID:vDKXf2v5o
よせばいいのに、彼はふたたび堂々巡りの思考に舞い戻った。落胆と達成感、安堵と軽蔑が、それぞれ彼の心を責め立てた。
ここにきて、また自分のことを考え始めた。自分はどうすればいいのだろう。どこに向かえばいいのだろう。
何かひとつでも目標があれば違ったのかもしれない。熱中できることを持っている人は、生きる意味など考えないのかもしれない。
24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 19:20:03.91 ID:vDKXf2v5o
バイトを探し、電話をした。三度。季節は夏から秋へと映り、もう冬が近づいていた。
彼は以前として堂々巡りから抜け出せていなかった。連絡した店は、いずれも彼が働こうとするのを受け入れなかった。
身だしなみも整え、なるべく真摯な態度を取ったつもりだった。
25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 19:26:57.16 ID:vDKXf2v5o
夕方頃、車に乗り帰路についた。姉と母は車内で眠っていたけれど、彼は考え事を続けていた。
何かを変えよう、と思う。毎日のように、そう考えている。
けれど結果は何も変えることができていない。本当は自分は、このままの生活を続けたいのだから。
26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 19:36:42.67 ID:vDKXf2v5o
秋が終わり、冬がやってきた頃、彼は何もかもをやめてしまおうかと思った。このまま引き籠もりの生活を続けるのも悪くない。半ば開き直るようにそう思った。
彼の心がどう動こうと、客観的に見れば、二年前も今も変わらない。同じような行動しかしていない。ただ無為に日々を過ごしているだけだ。
それを変えようとするのにも疲れてしまった。一度立ち止まってから、再び歩き出すのには、ただ歩き続けるよりも強い勇気が必要だった。
27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 19:50:48.12 ID:vDKXf2v5o
学科、受講、教習券、予約、みきわめ、仮免許。それらの単語は、彼の心に暗い影を差した。わずらわしいシステムが、彼は何よりも苦手だからだ。
それでも、元来は真面目な性分だからか、彼はそれらを必死にこなした。平日は毎日空いていたので、あまり日数はかからない計算だった。
毎日の学科講習と、空いた時間に入れた教習。彼はマニュアル自動車の免許取得を目指した。
28:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 19:52:34.11 ID:vDKXf2v5o
ここらへんが限界かな
続く
29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2011/08/29(月) 11:41:50.91 ID:PjuOVipoo
待合室の長椅子に座る。増え始めた人々にまぎれて、横目で彼女の様子を見た。
どうにかして手の中の文庫本に集中しようとしていたが、周囲が騒がしく読書が捗らないらしい。
だんだん苛々してきたようで、見ているこっちが落ち着かない気持ちにさせられる。
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