過去ログ - 男「だったら俺が悪いのかよ!」
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2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 17:07:29.44 ID:vDKXf2v5o

 彼は取り上げられた記事を見て、笑ったり、腹を立てたり、ときどき泣いたりもする。さまざまな情報を目に入れることに、ただ没頭する。
 長時間ネットサーフィンを続けていると、奇妙な感覚に陥ることがある。ネットの中に埋没している、という感覚だ。
 夢中になってさまざまな情報を取り込んでいくと、現実に存在している自分とは違う自分が生まれたような錯覚がする。
 実際、彼はネットをやっている最中だけ、ひどく快活であり、あるいは気が強く、物怖じせず、さまざまな意見を発露することができた。
以下略



3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 17:10:40.89 ID:vDKXf2v5o

 そして怯えながら眠れない夜を過ごす。半分開いたカーテンが、窓の外の月の姿を曝している。そのことに彼は気付かない。
 もう大丈夫だ、と自分に言い聞かせながら、ゆっくりと目を開く。コンピュータの駆動音が部屋から消え失せていた。
 モニターの光がなくなると部屋の中は真っ暗になる。目を開けても閉じても、彼には同じような景色しか見えなかった。

以下略



4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2011/08/28(日) 17:15:11.52 ID:vDKXf2v5o

 どうすれば他の道があったのか? 自分はどうしてこんなことをしているのだろう?
 いつからおかしくなったのだ? そんな問いを何度も繰り返し、そのたびに言いようのない不安感に悩まされた。 

 問いの形は変わったけれど、今でもその不安感だけは変わらない。
以下略



5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 17:18:54.72 ID:vDKXf2v5o

 しばらくしてから、寝起きの口の中や髪が不快になり起き上がる。誰もいない家には、ただ安心だけが充満していた。
 彼は太陽に照らされて明るくなった部屋を見渡す。いくつかの本棚にぎっしりと詰まった小説。パソコンデスク。
 部屋の隅に置かれたギタースタンドと安いエレキギター。何もない部屋だと彼は思った。
 
以下略



6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 17:24:32.63 ID:vDKXf2v5o

 部屋に戻ってからコーヒーをデスクの上に置く。パソコンの電源を入れずに、まだ呼んでいない小説を本棚から取り出した。

 もっぱら、昼間の暇な時間を、彼は睡眠と読書に当てていた。インターネットは没頭しはじめると果てがなく、大抵の場合得るものがない。
 その点小説ならば、と彼は考えたのだ。とはいえ、それによって生活の何かが変化したかと言えば、そういうわけでもないのだが。
以下略



7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 17:28:43.51 ID:vDKXf2v5o

 もし本当に可能ならば、このまま毎日、ずっと小さな部屋にこもり、本を読み、ネットをして、眠る、それだけの生活を送りたい。
 そしてそれが不可能ならば、自分が何か変わらなければいけないことは明白だ。
 どう変わればいいのだろう、と、近頃彼は思い悩んでいた。
 
以下略



8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 17:35:00.31 ID:vDKXf2v5o

 父親が帰ってくるのはいつも八時頃だった。彼はそれを避けて、七時の食事を終えてから、すぐに部屋に戻る。
 母や姉にはやりたいことがあると言って誤魔化しているが、二人がそれを快く思っていないのは明白だった。

 とにかく彼は、またコーヒーを入れて部屋に戻り、鍵をかけてからパソコンの電源を入れた。待機時間中もじっとモニターを眺める。
以下略



9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 17:39:34.49 ID:vDKXf2v5o

 今年の春、彼は十八になった。十八。そして愕然とする。自分はもう、そんなにも長い時間を、この無為にしか思えない時間に使っていたのだ。
 それを思うと、もはや取り返しのつかないような気持ちになる。何をしても手遅れだと感じてしまう。

 十八。今年で、同級生たちも高校を卒業する。みんなそれぞれを道を歩き出すし、そのうちにいろいろなことを知っていく。
以下略



10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 17:45:11.57 ID:vDKXf2v5o

 彼が引き籠もりを始めたのは高一の春だった。入学式から一週間、まだ誰にも名前を覚えられていないような時期に、彼は本棚をドアノブに噛ませた。
 そうなったのにはさまざまな要因があったが、結局のところ、彼は新しい環境というものに上手く親和できなかったのだ。
 また、溶け込む努力をしなかった、という見方もできるかもしれない。それも的を射ている、と彼自身も思っていた。

以下略



11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 17:51:23.58 ID:vDKXf2v5o

 たとえば少し暇になって、コンビニに行くか、ということができない。
 自分を見る他人の目が気になって仕方なく、自分がおかしくないだろうか、何か変ではないかと、不安に思い、緊張してしまう。

 そのことに気付いてからはどうしようもなかった。明確に、自分が外に出ることをおそれていることに気付いたのだ。
以下略



12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/08/28(日) 17:57:31.85 ID:vDKXf2v5o

 表面的には、彼は毎日、自堕落に、好き勝手に生きているようにも思えた。事実、大半の時間はそうやって消化されていた。
 けれどふとしたとき、たとえばネット上のニュースサイトで、学歴や無職などの記事を見つけると、そのたびに暗い思いがわき出してくる。 
 それらは日常のさまざまな時間を浸食しては、彼を責め立てた。

以下略



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