23:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:13:06.33 ID:CGXDMCHp0
  * 
   
   汀は目を開いた。 
   彼女は、先ほどまでと同じ病院服にヘッドセットの姿で、自分の足で立っていた。 
   動かないはずの、下半身不随の体で、足を踏み出す。 
24:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:13:54.48 ID:CGXDMCHp0
   黒い服を着た修道女のような女の子が二人、ギシ、ギシ、と階段をきしませながら、昇って来るところだった。 
   何かを話しているが、聞こえない。 
   顔も確認は出来ないが、マネキンではないようだ。 
    
   「トラウマだ」 
25:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:14:48.52 ID:CGXDMCHp0
   「でね、国語の小山田、美紀ともヤッたらしいよ」 
    
   「えぇ? 本当? 何で美紀なの?」 
    
   同じ会話だったが、違う声だった。 
26:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:15:23.51 ID:CGXDMCHp0
   「ゆぶユブユブユブゆぶユブユブゆぶ」 
    
   上を見た汀が、一瞬停止した。 
   今まで昇った女の子達が、全員一塊になって汀のことを見下ろしていたのだ。 
   そして「ユブユブ」と全員が呟いている。 
27:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:16:02.23 ID:CGXDMCHp0
  * 
  
   彼女は、映画館に立っていた。 
   薄暗い劇場は狭く、百人も入れないほどの小さな映画館だ。 
   そこに、全員同じ髪型をしたマネキン人形が、同じ姿勢で背筋を伸ばし座っていた。 
28:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:16:36.19 ID:CGXDMCHp0
   『汀、今回は危険だ。遊ぶんじゃない!』 
    
   「あは、あはは!」 
    
   汀は笑った。 
29:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:17:15.57 ID:CGXDMCHp0
  * 
  
   気づいた時、汀はマネキン人形が所狭しと、果てしなく投棄された、その山のような場所にうつぶせに倒れていた。 
   映画館のマネキン人形と同じように、全て同じ髪型をしている。 
   それらは腕をもがれたり、顔面を破壊されたり、全てがどこかしらを欠損していた。 
30:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:18:12.64 ID:CGXDMCHp0
   「全てを嘘にして、全てを否定して、一番下で這い蹲ってたほうが、幸せかもしれないよ」 
    
   女の子の存在しない眼窟から、涙が一筋垂れた。 
    
   「私がそれを許してあげる」 
31:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:18:54.20 ID:CGXDMCHp0
  * 
   
   診察室で硬直している母親を尻目に、圭介は黙々とカルテに何事かを書き込んでいた。 
    
   「お話の意味が……分からなかったんですが……」 
32:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/22(土) 00:19:30.92 ID:CGXDMCHp0
   「娘さんは、小山田という教師に暴行を受け、彼の子供を孕んだ状態だったようです。私どもは、自殺病を快癒させるために、その原因のトラウマとなっていた子供を、記憶ごと堕胎させました」 
  
   「ひ……人殺し!」 
    
   立ったまま母親が悲鳴を上げる。 
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