過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
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20:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:22:45.68 ID:A45p+aH70
普通は横に広がるのが定石だ。つまり一つドームを建造して、そこの人口が飽和状態になれば別の場所にもう一つ建造する。
しかし……ここ、サバルカンダのドームは、その定石をとこなる建築法をしていた。つまり、横ではなく下……縦に伸びているのだ。
一階層が最も巨大で、その直径はゆうに五十キロは越える。そしてそのドームの下に、直径三十キロほどの二階層。
全体で五階層までがある。
ドームの中心にはバベルタワーと呼ばれる、三百メートル頂点に達するほどの長い、メインシャフトが存在していた。そこが全ての階層の統括機であり、空調管理などは全てタワーが行っている。
以下略



21:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:23:25.11 ID:A45p+aH70
木や芝生……花壇などがいたるところに設けられており、天井のスクリーンには暖かい光を投げ落とす人工太陽が投影されている。
この時代、植物はかなりの貴重物だ。それどころか、一つ育て方を間違えばあっさりとお釈迦になってしまう贅沢な嗜好品。
しかしそれが……このサバルカンダの最上階には、掃いて捨てるほど存在している。
愛寡はその光景を憂鬱に見つめながら、自室のドアがノックされたのを聞き、振り返った。
小ぢんまりとした部屋だった。
以下略



22:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:24:00.42 ID:A45p+aH70
入ってきたのは、愛寡と同じくらいの背をした、猫背の青年だった。体がひょろ長く、しかし骨格がしっかりとしているのが、ピッシリとした黒いスーツの上からでも分かる。髪は鮮やかな茶。前髪で目が完全に隠れてしまっていた。
猫背や、おどおどした歩き方が癖になっているのか。首を前に突き出しながら部屋の中に入り込む。
左手でドアを閉め、猫背の青年は愛寡を見てニッ、と不恰好に微笑んだ。

「おはようございませ、師匠」
以下略



23:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:24:37.81 ID:A45p+aH70
そっと近づいて、そして愛寡は猫背の青年の頭を胸に抱いた。
そこで初めて、青年は愛寡が薄い寝巻き一つであることを自覚したらしい。耳まで顔が赤くなり、硬直した青年の頭を、愛寡はその豊満な胸に押し付けた。
彼の首筋の髪を掻き分けると、丁度右頚動脈の部分にビー球程のガラス質の球がうずもれていた。
二つ。
左頚動脈の方にもある。白と黒に光るそれを指先で撫で、愛寡は彼の頭を離した。
以下略



24:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:25:12.68 ID:A45p+aH70
訳のわからない発音の言語を呟いた後、彼は必死に書簡を差し出したまま、その手を振ってゼスチャーを始めた。

「エキエ、サキルケ……テレスタン、ヤ」

「……」
以下略



25:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:26:01.82 ID:A45p+aH70
また頭を撫で、書簡を受け取る。蓋を開けてメモ帳ほどの髪を取り出し、愛寡はそれに目を通した。そして小さくため息をつく。
彼女の部屋の片隅には、小さな暖炉があった。木炭がパチパチと爆ぜる音を立てながら、かすかに火を発している。それを覆う金網を手でどかし、彼女は書簡を放り込んだ。
たちまちのうちに紙に火が伝染し、煙を上げて燃えていく。
憂鬱な瞳でそれを見下ろし、愛寡は額を抑えた。青年はその様子を心配そうに見ていたが、やがてまたスーツのポケットに手を入れ、中から金属製のピルケースを取り出した。そして、ラムネ菓子ほどの大きさの、乳白色のタブレットを器用に左手だけで摘み出す

以下略



26:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:26:35.91 ID:A45p+aH70
「俺、作った」

「え? ああ……うん」

また微笑んで、愛寡はそれを受け取り、口に入れた。噛み砕いて飲み込む。
以下略



27:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:27:19.50 ID:A45p+aH70
「じゃ、行きましょ……爪(そう) 今日も、みんな、待ってる……」

一言一言を区切りながら、ゆっくりと愛寡が言う。爪と呼ばれた青年は振り返ってコクリと頷いた。愛寡はそんな彼に近づくと、軽く自分の方に抱き寄せた。そして背中をポンポンと叩く。

「効いた。頭……ありがとう、ね」
以下略



28:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:27:51.98 ID:A45p+aH70
歩き出した青年に引かれながら、愛寡は右足をずるずると引きずって歩き出した。
それは、義足だった。
膝下から先が、マネキン人形のような、精巧な作り物の足になっている。一応は神経感応で動くようで、膝が曲がったりはしているが……やはり歩きづらいらしい。重心が右側にかかると、体が横にぶれた。それをかいがいしく、しかしさりげなく爪という青年が支え、入り口までゆっくりと誘導する。
途中で、愛寡は憂鬱そうにため息を漏らした。
そこで足を止め、爪は少し考え込んだ後、師に向かって言葉を発した。
以下略



29:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:28:21.85 ID:A45p+aH70
「ご……は、や? ええと……ご、はん。ごはん。師匠、食べに、行く。俺と」

「え? でも、早く……礼拝に、出ないと」

「いい、俺、連絡……しておせ。いい、店。行く」
以下略



30:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:28:53.74 ID:A45p+aH70
第 二 章  踊 ろ う よ ラ プ ソ デ ィ


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