過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
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31:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:30:13.84 ID:A45p+aH70


 カランは言った。
私は大丈夫だと。
私のことは心配しなくてもいいんだよと。
以下略



32:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:30:52.08 ID:A45p+aH70
そう……彼女は言った。
手と手を、取り合って欲しいと。
取り合って……そしてかつてのように微笑みあって欲しいと。
そう、彼女は言った。
彼女は願った。
以下略



33:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:31:24.21 ID:A45p+aH70
分かっちゃいない。
分かっちゃいないんだ。
やつれたお前の顔。
微笑み枯れたお前の顔。
そして、涙ももう出てこない……かつてのお前の、瑞々しい元気はつらつとした。
以下略



34:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:32:50.40 ID:A45p+aH70


 サバルカンダドームの下層には、メインシャフトのエレベーターで行くようになっていた。そもそも愛寡が住んでいる最上階は、数百室ほどのホテルレベルの広さしかない。
部屋を出たところで、待ち構えていたのか、おびただしい数のメイドが、通路の両脇に勢ぞろいして頭を下げた。
一人一人に丁寧に頭を下げ返しながら愛寡が進む。彼女の歩みに準じて、メイド達は波のように次々に会釈をしていく。
以下略



35:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:34:22.60 ID:A45p+aH70
告げられた音声にきょとんとして愛寡が弟子の顔を覗きこむ。爪はIDカードを抜き取ると、それを指の間でくるくると回してニヤ、と笑った。

「便利」

一単語を口にして、師匠の手を引く。横に並ぶと、愛寡の背丈はひょろ長い爪の三分の二程しかなかった。極端な猫背になっているために、同じくらいに見えるのだ。
以下略



36:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:35:02.58 ID:A45p+aH70
「どした? 師匠」

奇妙な訛りと共に問いかけられ、彼女は軽く首をかしげて見せた。

「ん?」
以下略



37:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:36:50.32 ID:A45p+aH70
数秒間彼女の言葉を理解しようと努力し、爪は困ったようにポリポリと頭を掻いて、そして口を開いた。

「じゃあか、べ……捕まる?」

「?」
以下略



38:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:38:59.79 ID:A45p+aH70
納得いかなそうに爪が頷いた時、丁度エレベーターが停止した。師の手を、まるで恋人のように引いて、無邪気に微笑みながら彼は外に足を踏み出した。
義足を引きずりながら愛寡が出たところは、丁度ショッピングモールになっていた。
このドームは貧富の差が激しい。
否……激しすぎると言ってもいい。
いわゆる裕福層は五階に分類される。
以下略



39:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:40:01.75 ID:A45p+aH70
義足を引きずりながら、舗装された合成アスファルトの通りを大魔法使いが歩く。
道を行く人間達は、彼女が愛寡であるとは気づかないらしい。それどころか、各自忙しそうにせかせかと歩き回っているのが常だった。
そして、歩き回っている者達。
市でテントを開いて行商を行っている者達。
四階層の人間達。
以下略



40:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:40:36.06 ID:A45p+aH70
親と手を繋いではしゃいでいる、五歳ほどの小さな子供にも。行商を行っている老女にも。全ての人間に皆等しく核が見て取れる。中には、それの周りに誇らしげに刺青で装飾を施している男性までもいる。
魔法使いの群れの中で爪は足早に歩き出そうとしたが、幼児ほどの補講速度しか師が出せないことに気づき、道路の脇に立ち止まった。そして路面タクシーを掴まえようと周りを見回す。生憎と大型バイク型のタクシーは、この時間には通りかかっていなかった。

「爪、どこに?」

以下略



41:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:41:07.45 ID:A45p+aH70
その通りは彼らから見て右側が路上市、そして少し離れた左側が、ビルの混在しているエリアになっていた。ビル街の方に行きたいらしく、彼は周囲の視線を集めながら師を胸の前で抱え、そして丸まっていた背を伸ばした。
自分よりもはるかに逞しい弟子に抱きかかえられ、愛寡は頬を赤くしながらもガチガチに緊張していた。彼女が義足を庇うように体を丸めた時、爪はビル街の一方向を見据えて、そちらに向かって体を動かした。そして前髪で隠れた中にある目が、獲物を狙う鷹の目のように収縮する。
電動鋸で鉄を削るような、軽い金属音がした。それと同時に、爪の首筋にある片方……黒い方の核が、淡い光を発する。
次の瞬間、師を抱えた彼の姿が。
まるでテレビのチャンネルを変えたように、フッと掻き消えた。
以下略



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