308:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:22:41.77 ID:3SORN3Q00
「トイレ行きたくなったら言えよ」
「うん」
そこまで言って、ゼマルディは彼女に見えないように深くため息をついて背中を向けた。
309:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:23:10.65 ID:3SORN3Q00
ボロボロで繋ぎだらけの白衣を方に羽織り、中はやはり繋ぎとコーヒーの染みだらけのスーツ姿だった。
彼は玄関に足を踏み入れると、きょとんとしているカランを見て嬉しそうに片手を振ってみせた。
「やほ。元気かいカランちゃん」
310:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:23:41.96 ID:3SORN3Q00
「ちょっとマルディ、三十分くらい借りていっていいかな? すぐに返してあげるからさ」
「うん、いいよ。マルディ、ドクって人が呼んでるよ」
頷いてゼマルディは水道を止め、白衣の青年に近づいた。
311:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:24:23.17 ID:3SORN3Q00
「いや、俺は酒は……」
あくまで断ろうとするゼマルディを、しかしドクは一瞬だけ鋭い視線でチラリと見た。それを見て言葉を止め、ボリボリと頭を掻いてからゼマルディは肩をすくめた。
「ほいほい」
312:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:24:49.96 ID:3SORN3Q00
「ああ」
「どのボタンを押せばいいの?」
「赤いボタンだ。一個しかねーだろ?」
313:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:25:18.38 ID:3SORN3Q00
食い入るように見ている。
画面から流れてくる音は、彼女の知らない言語だ。意味なんて分かっていないのだろう。
いや、どうせ。
覚えてもすぐ忘れてしまう。
彼女が集中しているのを見て、ゼマルディはそっと扉に鍵をかけた。そして外から何重にもロックをかけ、最後に開かないかを確認する。
314:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:25:47.01 ID:3SORN3Q00
*
「ずっとあの調子なのかい?」
ドクにそう聞かれ、ゼマルディは目の前のテーブルに置かれた酒に手をつけようとはせずに、ソファーに寄りかかった。そしてマントにつけてあるフードを目深に被る。
315:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:26:20.61 ID:3SORN3Q00
「それなんだが……」
そこでゼマルディが言いにくそうに口を挟んだ。
「ん?」
316:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:27:01.71 ID:3SORN3Q00
「なあ俺の心臓を使ってくれよ。ちょっとくらいならいいんじゃ……」
食いつくように身を乗り出した彼を見て、困ったようにドクは息をついた。そして空になったコップを上げて、ウェイトレスに追加注文の意思を伝える。
「話ィ聞いてくれ!」
317:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:27:29.93 ID:3SORN3Q00
冷静に諭され、ゼマルディは口をつぐんだ。
ウェイトレスがジロジロとフードを被りピエロのマスクをした彼を見ながら、ドクの前にお代わりの酒を置いて去っていく。
白衣の青年は二杯目に口をつけながら、少し考えて口を開いた。
「まーでも、キミは俺の命の恩人なわけだし、友人なわけだし。考えてみるよ。ちょっと待っててくれな」
318:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:28:27.29 ID:3SORN3Q00
「で、腕の調子はどう?」
「俺のこたぁどーでもいーよ」
「そういうわけにはいかないな。医者として患者を途中で投げ出しはしないよ」
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