315:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:26:20.61 ID:3SORN3Q00
「それなんだが……」
そこでゼマルディが言いにくそうに口を挟んだ。
「ん?」
316:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:27:01.71 ID:3SORN3Q00
「なあ俺の心臓を使ってくれよ。ちょっとくらいならいいんじゃ……」
食いつくように身を乗り出した彼を見て、困ったようにドクは息をついた。そして空になったコップを上げて、ウェイトレスに追加注文の意思を伝える。
「話ィ聞いてくれ!」
317:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:27:29.93 ID:3SORN3Q00
冷静に諭され、ゼマルディは口をつぐんだ。
ウェイトレスがジロジロとフードを被りピエロのマスクをした彼を見ながら、ドクの前にお代わりの酒を置いて去っていく。
白衣の青年は二杯目に口をつけながら、少し考えて口を開いた。
「まーでも、キミは俺の命の恩人なわけだし、友人なわけだし。考えてみるよ。ちょっと待っててくれな」
318:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:28:27.29 ID:3SORN3Q00
「で、腕の調子はどう?」
「俺のこたぁどーでもいーよ」
「そういうわけにはいかないな。医者として患者を途中で投げ出しはしないよ」
319:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:31:48.95 ID:3SORN3Q00
ドクの手術は、神経系に操作系統を接続して、脳波、発汗具合、体温、そして動悸の割合により体の各部の動きを制御するというシステムを確立させるものだった。
多少動きは鈍いが、普通の腕とほぼ差しさわりのない動作が可能になっている。
いわば、アンドロイドではない。これは人間のほぼ完璧な一部サイボーグ化といっても良かった。
それぞれの関節部などを丹念に見て、一部にポケットから出した油を差し、そしてものの数十秒でドクはまた手袋を嵌めた。
腕を戻しながらゼマルディが口を開く。
320:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:34:13.34 ID:3SORN3Q00
「俺なんかよりカランを見てやってくれよ」
「あの子は君みたいに動き回らないから、そもそも動作不良は起きないよ。俺のマシンドパーツはナノシステムを組み込んでるから、大概なら組成修復はするからね」
「用が済んだなら、帰りたいんだけど……」
321:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:34:50.31 ID:3SORN3Q00
少し迷った後に、青年はマスクを直し巨体をソファーに沈み込ませた。
「早く戻らねぇとカランが……」
「大事な事なんだ。とりあえず、これを見て欲しい」
322:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:35:20.31 ID:3SORN3Q00
聞き返し、視線をスライドさせる。ドクは切抜きを裏にしていたらしく、ゼマルディはそれを手にとってだらしなくソファーに腰をかけたまま、無造作に裏返して。
腰を抜かしそうになった。
思わずその新聞の写真を見たままの姿勢で硬直する。
「やっぱりそうか。もしかしたらと思ったけど……」
323:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:35:51.57 ID:3SORN3Q00
そしてくしゃくしゃに丸められた記事をまた広げて、チラリと見る。
それにはここから離れた区画のドームで起こった無差別殺人の記事が記載されていた。スラムでは一概に、特に風俗と報道に関する規制が甘い。加えてドクが買ってきたのは、スナッフ系統(殺しなどの死体愛好)を愛用する異常嗜好者のための機関紙だった。どこでどうそのような写真を入手するのか、本当なら規制がかかるべき人間の惨殺死骸があられもなく載っている。
一見しただけでは訳が分からない。
良く見れば……いや、本当ならば良く見てはいけないのだろうが、理解してみれば単純だ。
頭部が爆薬で飛ばされたように千切れ切れている大量の人間が、川に浮かんでいる。大人も子供も全く関係がない。淀み腐った川に、その地獄のような光景が展開していた。一部の人間は胴体が千切れて内臓がばら撒かれている。
324:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:36:27.62 ID:3SORN3Q00
「……魔法使いのせいってことになってる。だけど不思議でね。このドームはここから三百キロほど離れているけれど、スラムに至るまでに狂信教が根っこまで浸透してる。かなり有名なドームだから。魔法使いも表立ってこんな惨殺を行うとは思えなかったんだ」
「右上」
「ん?」
979Res/589.08 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。