過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
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38:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:38:59.79 ID:A45p+aH70
納得いかなそうに爪が頷いた時、丁度エレベーターが停止した。師の手を、まるで恋人のように引いて、無邪気に微笑みながら彼は外に足を踏み出した。
義足を引きずりながら愛寡が出たところは、丁度ショッピングモールになっていた。
このドームは貧富の差が激しい。
否……激しすぎると言ってもいい。
いわゆる裕福層は五階に分類される。
以下略



39:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:40:01.75 ID:A45p+aH70
義足を引きずりながら、舗装された合成アスファルトの通りを大魔法使いが歩く。
道を行く人間達は、彼女が愛寡であるとは気づかないらしい。それどころか、各自忙しそうにせかせかと歩き回っているのが常だった。
そして、歩き回っている者達。
市でテントを開いて行商を行っている者達。
四階層の人間達。
以下略



40:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:40:36.06 ID:A45p+aH70
親と手を繋いではしゃいでいる、五歳ほどの小さな子供にも。行商を行っている老女にも。全ての人間に皆等しく核が見て取れる。中には、それの周りに誇らしげに刺青で装飾を施している男性までもいる。
魔法使いの群れの中で爪は足早に歩き出そうとしたが、幼児ほどの補講速度しか師が出せないことに気づき、道路の脇に立ち止まった。そして路面タクシーを掴まえようと周りを見回す。生憎と大型バイク型のタクシーは、この時間には通りかかっていなかった。

「爪、どこに?」

以下略



41:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:41:07.45 ID:A45p+aH70
その通りは彼らから見て右側が路上市、そして少し離れた左側が、ビルの混在しているエリアになっていた。ビル街の方に行きたいらしく、彼は周囲の視線を集めながら師を胸の前で抱え、そして丸まっていた背を伸ばした。
自分よりもはるかに逞しい弟子に抱きかかえられ、愛寡は頬を赤くしながらもガチガチに緊張していた。彼女が義足を庇うように体を丸めた時、爪はビル街の一方向を見据えて、そちらに向かって体を動かした。そして前髪で隠れた中にある目が、獲物を狙う鷹の目のように収縮する。
電動鋸で鉄を削るような、軽い金属音がした。それと同時に、爪の首筋にある片方……黒い方の核が、淡い光を発する。
次の瞬間、師を抱えた彼の姿が。
まるでテレビのチャンネルを変えたように、フッと掻き消えた。
以下略



42:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:41:56.56 ID:A45p+aH70
弟子の首に抱きつきながら、愛寡が目を閉じて小さな悲鳴を上げる。
頬で風を切りながら、髪で隠れていた爪の顔が露わになる。
年の頃は十七、八ほど。馬面というほどではないが、顎が伸びている特徴的な顔。
彼は面白そうに喉を鳴らしながら、一瞬で上空二十メートルほどまで飛び上がった。そして一旦空中で制止した……それから間髪をいれずに、自由落下を始める。

以下略



43:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:42:30.46 ID:A45p+aH70
愛寡は、既に気絶しそうなほど真っ青な顔色になっていた。下を見る勇気が出ないのか、弟子の胸に顔を押し付けている。
そんな師の様子に気づかないのか、こともあろうことに爪は、彼女を支えている一本の腕を外して振り上げた。その拍子に愛寡のからだがぐらりと揺れ、驚いて目を開けた愛寡の眼前に、上空二十メートル以上の高さから自由落下している、その圧倒的高所の光景が飛び込んでくる。
肌を刺す冷風と、風圧ではっきりと目を開けていられないのが、彼女の恐怖を倍増させた。
悲鳴を上げることも出来ずに、愛寡は目を閉じ……その意識がどこかに引っ張っていかれるようにブラックアウトする。
爪は師が手の中でぐったりしたのを見て、慌てて振り上げた手で頭上、その空中をノックした。今度は下降を始め。
以下略



44:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:43:12.66 ID:A45p+aH70


 怒っていた。
明らかに、師は怒っていた。
呆れたように肩を落とし、愛寡は真っ青な顔でレストランの大きなソファー。その隅に小さくなっていた。伺うようにチラチラと彼女の方を見ながら、控えめに目の前のおびただしい数の料理をかっ込んでいる弟子の方を見ようともしない。
以下略



45:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:43:48.89 ID:A45p+aH70
五十席はゆうにある店内には、自分達のほかには客がいない。厨房の人間以外は、全ての従業員がぐるりとテーブルを取り囲んで愛寡の一挙手一同に視線を注いでいた。泣いているウェイトレスもいる。
無論、誰も彼もが魔法使いの核を持っている。
一番広いテーブルの上には、ありとあらゆる料理が次々と運ばれてきていた。
愛寡はテーブルについて程なく目を覚ましたが、自分がウェイトレスやウェイター。そして店の周りに洪水のように取り巻いてこちらを見ている数百の視線を確認するや否や、一言も発さず小さくなってしまったのだ。
顔色は、先ほど爪の魔法で宙を舞った時とは比較に鳴らないほど真っ青になっていた。
以下略



46:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:44:28.78 ID:A45p+aH70
一通り炒め飯を食い終わり、水差しから直接水を口に流しこんでから、爪は呼吸を整えて愛寡の顔を覗き込もうとした。

「師匠?」

問いかけられ、愛寡は僅かに視線を彼に向けた。
以下略



47:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:45:40.82 ID:A45p+aH70
「聖上様。お電話でございます」

まさに土下座だった。床にためらいもなく膝を突き、店長は平たく頭を下げながら、愛寡に両手で携帯端末を差し出した。
師の言葉を遮られ、爪の目が険しくなった。それは憤慨や侮蔑と言える感情で一くくりに出来るほど単純なサインではなかった。
殺意。
以下略



48:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:46:12.22 ID:A45p+aH70
次いで投射装置から光が発せられ、携帯端末の前方十センチ四方ほどに光スクリーンを形成する。そこに、七十代ほどの壮年男性が映し出された。びっしりとした、爪の着ているような黒色のスーツに身を固め、筋骨隆々とした体格が盛り上がっている。白髪はオールバックに固められ、顔に刻み込まれた皺とはアンバランスな若々しさを放っていた。右目が白濁していて、視力がないらしい。オッドアイのような瞳で愛寡を見止め、彼は深々と頭を下げた。
『聖上、お早う御座います』

「お早う、浮屋」

以下略



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